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第197話 免許皆伝?ハイエストサモナー新たなる試練(前編)

 異世界208日め。今日は朝からVIPが来ていた。連合王国の現職魔法大臣カシマーヤ・サクチャーズ氏である。まあ王女だの皇子だの皇太女だのがしょっちゅう来て入り浸っているこの事務所では今更かもしれないが。


魔法大臣「どうもどうも、よろしくお願いします!」

挿絵(By みてみん)

ミキオ「いやこちらこそ」


 サクチャーズ魔法大臣はエルフ族の出身であり、500歳の高齢とのことだ。この眉毛の長さは村山富市元首相を思い出す。いかに長命のエルフと言えど500歳にもなれば老人の容姿となるということか。


魔法大臣「今日はですな、高名なハイエストサモナー・ツジムラ先生にわが魔法省とコラボして頂こうという企画が上がりまして、その打診に伺ったと、まあこういうわけです」


ミキオ「高名というか、悪名ばかりが轟いているが」


魔法大臣「いやいや! 何をおっしゃる、ツジムラ先生のご活躍はこの連合王国のみならず中央大陸、果ては3大大陸すべてに鳴り響いておりますぞ!」


 妙に持ち上げてくるな。まあ政治家ってのは洋の東西を問わずこういう感じに言葉を盛る生き物ではあるが。


ミキオ「で、コラボというのは具体的には…」


魔法大臣「ああ、昨今問題になっとります違法魔法の危険性について国民に啓発するポスターやステッカー、教材こういったものにツジムラ先生のお名前と肖像画を使用させて頂きたいのです。先生は知名度があるし男前なのでご婦人がたへのウケもいいでしょうから」


 魔法省の高官みたいなのも4人連れてきてるのに一人でベラベラ喋ってる。これはなかなかのワンマン大臣だな。


ミキオ「いやまあなるほど。企画自体はいいことだとは思うが、おれとしてはあんまり顔を売りたくないのだが」


魔法大臣「いや先生、そうおっしゃらず! 最近はこの違法魔法というのが増加しとるんですよ。我々としてもなかなか頭の痛いところでありまして」


永瀬「違法魔法というのはどういうものがあるんですか? わたしたち転生者なもので、その方面には明るくなくて…」


 横から秘書の永瀬が口を挟んできた。婉曲に断りたいおれの心境を察して場の流れを変えてくれたのだろう。


魔法大臣「まーなんと言っても近年とみに増えておるのが酒気帯び魔法ないし飲酒魔法。酒を飲んで酩酊した状態で魔法を行なうわけです。これは死亡事故にも繋がるので非常に危険ですな」


 なるほど。まあ自動車運転と同じだな。禁止されているとは知らなかったが、これはおれはやっていない筈だ。


魔法大臣「それからこれは若い人に多いんですが、威力超過。パワー違反ですな。決められた法定威力を超えて火魔法や水魔法を使う。大変危険な行為です」


 え、それ違反なのか。というか法定威力なんてものがあったのか。まずいな、過去に違反してたかもしれないぞ。


魔法大臣「そしていちばん悪質なのが無免許魔法。国の免許を取得せずに魔法を使う輩がおるわけです。これは非常にたちが悪い」


ミキオ「えっ」


魔法大臣「? どうされました?」


ミキオ「免…許…?」


魔法大臣「もちろんツジムラ先生は免許はお持ちでしょう?」


ミキオ「…」


 おれは目の前が真っ暗になった。魔法免許。そんなものが存在するとは。5ヶ月ほど前にこの世界に転生してきたばかりのおれはそんなものがあること自体知らなかった。


ミキオ「…大臣、申し訳ない。おれはその魔法免許というやつを持っていない」


魔法大臣「えっ!?」


 おれのカミングアウトを受けて大臣のうしろの高官たちが互いの顔を見合わせザワザワし始めた。マズいマズい。これは大いにマズい。うちの事務所の連中もマジかという顔でおれを見ている。冷や汗が出てきた。そんな顔されても知らなかったんだから仕方ないじゃないか。


魔法大臣「ご冗談をおっしゃられているので?」


ミキオ「いや…」


 あまりのことに口が開いたままの大臣。数秒の沈黙が続き、重い空気のなか大臣の背後にいる高官のひとりが切り出してきた。


高官A「あのですねツジムラ先生、それでは無免許魔法で魔法事業を行なっていたということになります。これはちょっと…」


ザザ「待て待て! あたしは普通魔法免許持ってるぞ。問題ねーだろ」


ペギー「わたしも持っているのです!」


高官A「まあ、魔法関連事業所の開設については社内にひとり免許取得者がいれば魔法法上の問題はありませんが、それにしても無免許状態で魔法事業を行なっていたことについては見過ごせません」


高官B「これはもう営業停止…」


高官C「いや刑事処分でしょもう」


 どんどん怖いワードを出してくる高官たち。うちの事務所の人間たちは全員顔面蒼白となっている。


魔法大臣「だまらっしゃい!」


 老齢の魔法大臣が高官たちを一喝した。


魔法大臣「諸君、この御仁は国王陛下や王女殿下からの信頼も厚い貴族にして王国議会議員。それも邪神教団や大邪神からこの国を救ってくれた英雄であり魔導十指のひとりに数えられる我が中央大陸連合王国の至宝ですぞ。その御仁に今更つまらん書類上のことで手縄をかけようというのかね」


高官A「いやそれは…」


魔法大臣「ツジムラ先生、御安心くだされ。過去のことについては不問とします。それはもう大臣権限で約束させて頂く。だが先生、さすがに今後は無免許状態で営業してもらうのは無理がありますぞ」


ミキオ「わ、わかった。どうすればいいんですか」


魔法大臣「ただちに教習所に行き、試験を受けて魔法免許を取得してくだされ。わしが昵懇(じっこん)にしている教習所に話を通しておきます。なに、先生ほどの魔導師ならば取り立てて苦労はせんでしょう。コラボの話はそれからということで」


ミキオ「は、はい」


 なかなかの恩を売られてしまった。これはこのコラボ企画、断れなくなったな…。




ミキオ「魔法って免許がいるんだな…」


 大臣一行が帰ったあと、おれは誰に言うとなくぽつりと呟いた。


ザザ「いや、あたしもうっかりしてた。会社作る時に言うべきだった。簡単な生活魔法なら免許なんていらねーんだけどな」


永瀬「よく今まで普通に召喚士事務所なんてやってたね…」


ペギー「と、とにかく大臣がこれまでのことは不問にすると言ってくれたのは不幸中の幸いなのです!」


ガーラ「おれが生まれた古代エッゴ文明ではそんな制度はなかったのだがな」


 おとなしく玄関掃除をやっていた魔人ガーラが言う。こいつはおれと対立する破滅結社が蘇らせた古代文明のロボットで、かつて無法な魔導師狩りをやっていたのだがおれとの対決で敗れ、うちの事務所の書生として雇い入れたのだ。


ミキオ「お前も無免許か…となるとミキオⅡもだな。ヒッシーは…」


ヒッシー「おれは魔法の才能ないからいいニャ」


 おれの大学時代の同期でこの事務所の副所長ヒッシーが答える。彼は以前に何度かザザに生活魔法を習っていたが、未だ何も習得できてないようだ。


ザザ「まあお前らなら簡単だ。合宿免許なら学科で1日、実地と路上で1日ありゃ仮免は取れる。その後は免許センターで試験だけど、これもちゃんと過去問を勉強しときゃ大丈夫だ」


 合宿免許とは。いよいよ自動車免許みたいになってきたな。だがまあ2日くらいで済むならまだマシだ。




 翌朝。おれと魔人ガーラ、そしてコストー地方ヤシュロダ村の代官所から呼び寄せたおれの分身ミキオⅡの3人は王都魔法教習所に来ていた。生徒たちにおれたちのことがバレて騒がれると面倒なので一応変装している。おれは色付きの眼鏡にダークグレーのセットアップ、ミキオⅡは魔導師風のモスグリーンのマント姿だ。ガーラは黄色いシャツを着てキャップを被って変装しているがやはりこの巨躯は隠せず、異様な迫力がある。おれたちは教習所に着くなり校長室に通された。


校長「ようこそお越し頂きました。魔法大臣から話はうかがっております。ツジムラさんともあろう方が無免許とは…」


ミキオ「それに関しては本当に返す言葉がない…」


 教習所の校長は50代くらいか。小太りで小柄な実直そうな男性。錦鯉の渡辺さんに似ている。


校長「ま、ツジムラさんらの力量のほどは言うまでもないと思いますので、実地教習と路上教習は免除ということにしましょう。今日一日みっちり魔法についての座学を学んで頂いたら明日はここで仮免試験、合格したら卒業です。その後は近くにある免許センターで本免許試験を受けて頂くということですね。大丈夫、ツジムラさんなら必ず合格します」


ミキオ「助かります。ほら、お前たちも頭下げて」


ミキオⅡ「よろしく頼む」


ガーラ「お願いする」


校長「あ、いえそんな」


 戦うために生まれたクローン人間と古代文明のスーパーロボットがぎこちなく腰を折る。こいつら生まれて初めて人に頭下げたんじゃないか。




 ということで、おれたち3人は荷物を置くために合宿所に来ていた。教習所の裏にあるユースホステルみたいなところなのだが、これが狭い上に2段ベッドふたつの4人部屋だ。これじゃ身長2m50cmのガーラは寝ることもできないだろう。逆召喚で自宅に帰ってゆっくり寝たいところだが、今のおれは無免許状態なので魔法はご法度だ。せっかくこれから免許を取るのに無免許魔法で処罰されてはたまらない。


 部屋を出るとひとりの男が挨拶してきた。


スルテン「お、あんたらが同室か。よろしくな。俺はスルテンだ」

挿絵(By みてみん)

 スルテンはおそらく20代前半。アウトローファッションで髪をオールバックにした妙にイキった男だ。


ミキオ「ああ。ミキ…ミキタローだ」


 バレたら面倒なことになりそうなので一応偽名を名乗っておいた。


ミキオⅡ「ミキジローだ」


スルテン「…双子か。珍しいな…そっちの古代魔神像みたいなのは…」


ガーラ「その通り。おれは匿名希望の魔人だ。太古の人造魔人だから免許なんかいいだろうと言ったのだがやはり必要らしい」


 スルテンの頭はガーラの腹のあたりの高さだ。


スルテン「…お、おう。よろしくな」


 荷物を起き、教科書を持って4人で教室へ行く。校長に言われた通り今日は朝から晩まで学科教習だ。ここでは魔法の運用に必要なルールやマナー、安全魔法のための基本的な知識を学ぶことになる。


教官「エー、この言葉を覚えておいてください。『だろう魔法』と『かもしれない魔法』。魔法事故を未然に防ぐための安全魔法の心掛けですね。魔法発動の前にしっかりと周囲を確認し、間違えずに呪文詠唱を行なう。これが基本です」


 つまらん授業だ。ほとんどが一般常識の範疇だ。だが魔法に関する法体系が意外と細かく規定されていたのがわかる。これは王国議会議員として汗顔の至りだな。ミキオⅡはもちろん魔人ガーラも真剣な表情で授業を受けている。やはりロボットだから集中力が高いのだろう。


 4刻間(=8時間)に及ぶ学科教習が終わり、夕食のために食堂に移動となった。大きい食堂では40〜50人ほどの教習生たちが既に夕食をとっていた。おれとミキオⅡ、ガーラとスルテンはひとつのテーブルに座った。体内に永久機関を搭載しており食事の必要がないガーラはいつものように食べたフリをしていたが、それをスルテンが不思議そうな顔で眺めていた。


ミキオⅡ「どうだオリジナル、学科教習は」


ミキオ「どうということもない。知ってて当たり前のことばかりだ。これは確かにザザの言ってた通り簡単だな」


スルテン「珍しい兄弟だな…兄貴のことをオリジナルと呼んでるのか…」


 ミキオⅡはおれのクローンなので奴からはオリジナルと呼ばれているのだが、確かにちょっと迂闊だったかもしれない。こういう場のために別な呼び方を考えておくべきだな。


ミキオⅡ「単なるあだ名だ。気にするな」


スルテン「気にするだろ…ところでおたくらはどんな職業を希望してるんだ?」


ミキオ「いや、まあ、召喚魔法を」


スルテン「おお、俺と一緒だな。となると大型特殊だな。合格率は高くないというが、まあ頑張ろうぜ」


 学科教習で学んだが、召喚魔法は大量のMPを消費するため大型特殊という最高クラスの免許が必要となるのだ。この男も召喚士希望とは知らなかったが、こんなチャラい男でも召喚士を志すのだな。




 翌日、合宿所でマズめの朝食を摂ったあと教室に行く。今日は午前はここで仮免許試験、それを通過した者は教習所を卒業となり、午後に近くの免許センターに移動し本免許試験を受けるのだ。


教官「えーそれではこれより仮免許試験を行ないますが、その前に魔力量測定というものをやって頂きます。魔力量というのは平たく言うとMPですね。ご自身のMPにあった安全魔法をして頂くためのクラス分けです。こちらを見てください」


 この大きな教室には壁面いっぱいに床から天井まで届く巨大なマシンが置いてあった。中央には透明なクリスタルが嵌め込まれている。


教官「こちらが当校自慢の魔力量測定機になります。こちらの測定棒を握って頂くとその方のMPの大きさがわかるというわけです。MPの大きい方はこのクリスタルがピカッと強く光り、それなりの方はそれなりに光りまして、その時のMP数値がこちらのカウンターに表示されます」


 なるほど、自分たちにはゲージは見えているが自己申告だと虚偽の申告をするやつがいるからな。どういう仕組みなのかは知らんがこれなら客観的だ。


教官「はいでは1番の方、前に出てこちらの棒を握ってください」


 1番の若い女性が言われた通りコードのついた測定棒を握ると、測定機中央のクリスタルがぼんやりと光る。昔の20W形電球くらいの明るさだ。MPカウンターには850と出ている。あらためて思うが、このくらいがこの世界では普通のMPなのだなぁ…。


教官「ハイお疲れ様。850MPということで、1番さんは軽魔法コースということになりますね。この書類を持って①と書かれた窓口で受付してください。次、2番の方」


2番の男「俺だ俺だ、俺は大型魔法クラスだと思うぜ。お先に失礼」


 おれと同年代の、顔も体もごつい男はそう言いながら手刀を切って前に出て測定棒を握った。


2番の男「へむうぅぅぅっ!」


 男が壊れるほど力んで測定棒を握ると測定機のクリスタルにぼっと光が灯る。1番の女性よりはやや強い光。60W電球くらいの光の強さはありそうだ。


教官「1200MP。普通魔法クラスですね。②の窓口へ進んでください」


2番の男「ちょっ! もう一回やらせてくれ! 調子悪くて、今日!」


教官「お兄さんねえ、そういう人いっぱいいるのよ。後つまってるから。ハイ行って行って」


 2番の男は大きな肩をすぼめて②の受付にとぼとぼと歩いて行った。


スルテン「ふん、見掛け倒しなやつだぜ」


ミキオⅡ「オリジナル、ガーラ、ちょっと…」


 ミキオⅡがおれたちを手招きしてきたので彼の元に行くと小声で話しかけてきた。


ミキオⅡ「…どうする? このままおれたちも魔力量測定に参加していいのか?」


 彼はなにしろおれの細胞から作られたおれの分身なので何が言いたいのかは以心伝心で理解できる。このまま普通に測定したらおれたちが高魔力量の魔導師だということがバレて、さらには芸能かわら版でおなじみハイエストサモナーのミキオとその仲間たちであることもバレるだろうということだ。呼ばれる順番は近づいている。果たしておれたちはこのハードルを越えることができるのか。後編へ続く。


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