第196話 脳天にビーム!ウルトラマン一般教養講座(後編)
エリーザ姉弟のいとこで喧嘩ばかりしている双子の姉妹を仲直りさせるために地球の先輩の家でウルトラ兄弟の映画を観せることとなった。映画の前にウルトラ兄弟についてレクチャーを受ける異世界人たちだったが、初代マンの上に長男が存在すると言われ困惑するのだった。
手話地「これがウルトラ兄弟の長男、ゾフィーだ」
そう言いながらソフビ人形を出してくる手話地先輩。
永瀬「…え? これもさっきのウルトラマン・ウルトラマンですよね?」
エリーザ「お、同じだ…センパイ! 貴公、このオーガ=ナーガ帝国皇太女エリーザ・ド・ブルボニアを愚弄しておるのか!!」
興奮のあまり腰のものを抜刀し剣先を手話地先輩の喉元に突きつけるエリーザ。
手話地「ひいっ?!」
ミキオ「いやいや…落ち着けエリーザ」
エリーザ「兄弟とは似ているものだが、これではキャラクターとしての区別が付かぬではないか!」
アルフォード「いやよく見ろ姉上、胸や二の腕にイボイボがある」
エリーザ「アルフ! 口を出すでない! お前は兄弟をイボイボの有る無しで区別しようというのか!」
弟アルフォードを叱責するエリーザ。双子の姉妹を仲良くさせようとして来たのにお前ら姉弟が仲悪くなってるじゃないか。
手話地「いや、あの、ゾフィーの胸にある突起はスターマークという勲章なので…」
エリーザ「なんと、イボイボが勲章とは。それでは蕁麻疹が出たら勲章だらけになってしまうではないか!」
ミキオ「お前、もうそれは言いがかりのレベルだぞ」
手話地「この長男ゾフィーはウルトラ兄弟でも最強クラスと言われる実力者なのだ」
アルフォード「なるほどな。この宇宙人には二系統あるわけだな。眼が丸くて体に銀色が多い系統と、目が六角形で体が赤い系統…」
エリーザ「待て! このうるとらまん太郎とかいう者はさっきの父の実の息子と申したではないか!」
アルフォード「本当だ、両親とは全く似ていない。両方ともツノはあるがこの太郎という者のツノはカクカクしている」
手話地「ウルトラの母のお姉さんはウルトラセブンの母親の妹と言われる。つまりセブンとタロウはいとこ同士ということだ」
アルフォード「なるほど、確かにこの二人はよく似ている」
手話地「さらにこのウルトラの母の妹は帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンジャックと結婚しているという説がある」
ミキオ「そうなんですか、初めて聞いた…じゃあジャックはセブンやタロウの義理の叔父ということですね」
アルフォード「『ウルトラの叔父』と言うことか…」
エリーザ「この太郎とやら、両親には似ておらぬがいとこに瓜ふたつというのは問題がある! この目の丸い4人が父の実の子と言われた方がまだ納得がいくぞ!」
しかしこの女、知らん宇宙人の家庭の話でよくもまあこんなに興奮できるものだ。
手話地「まあその辺りは宇宙よりもウルトラ広大な謎があると思って欲しい。そしてこの6兄弟以外にもウルトラ兄弟は存在するのだ」
永瀬「え、そうなんですか?」
エリーザ「兄弟以外に兄弟?!?! まさか妾の子か!?」
アルフォード「いや姉上、さすがにそんなややこしい設定にはしないだろう…」
手話地「まずはこの人、ウルトラマンレオ。ウルトラセブンの弟子で宇宙拳法の使い手だ」
エリーザ「さっきの頭に包丁載っけてる男だな」
アルフォード「また違う系統が出てきたぞ!? 今度のは体に銀色のラインが無く、顔にしっかりとした鼻がある! そして頭の形状がなんとも形容しがたい!」
エリーザ「むう、確かにこれは具体的にどうと言えぬ髪型だな。美容院でどう注文したらいいのかわからぬぞ」
手話地「レオはこれまでのウルトラマンのようにM78星雲光の国の出身ではなく、獅子座L77星の出身なのだ。そしてこれがアストラ。レオの実の弟だ」
エリーザ「ここへ来て初めて実の兄弟が!」
アルフォード「こっちの髪型はスッキリしているな。短く刈り込んだ職人風というか」
永瀬「脚にシルバーアクセみたいなの付けてますね。財布繋げとくやつかな」
手話地「そんないいものじゃない。これはマグマ星人に捕まった時に付けられたものだ」
エリーザ「なんで捕虜の太ももに枷を付けるのだ! 相場は手首か足首であろう!」
手話地「この兄弟はとても仲がいい。アストラはいつも兄のピンチの時に現れて助けてくれる」
エリーザ「うむ。いいではないか。そういう話が聞きたかったのだ。ワイロリータもフェトチーナも互いの危機の時は助け合うのだぞ」
双子「は、はい」
手話地「ウルトラマンレオ第38話『決闘!ウルトラ兄弟対レオ兄弟』、同第39話『レオ兄弟 ウルトラ兄弟 勝利の時』でウルトラ兄弟と争った時はレオもアストラ側について戦ったのだ」
ミキオ「知ってます。あの回はいろいろカオスで、初代マンが『おれたちはアストラをコロす!』と息巻いて…」
おれも子供の頃にBSやレンタルビデオなどでウルトラシリーズを観ているのでこれくらいは知ってるのだ。
エリーザ「な、な、なんと恐ろしいことを! うるとらの兄弟とはそんなにも残忍で粗暴なのか!」
ミキオ「あ、いや…」
手話地「まあ、だがそれをきっかけにウルトラマンキングというウルトラ族の聖者が仲介に立って和解し、レオ兄弟もウルトラ兄弟の仲間入りしたのだ」
先輩がウルトラマンキングのソフビ人形を持ち出してきた。
アルフォード「おお。父母や弟子に続いて今度はお爺さんか」
エリーザ「あの銀色の硬そうな顔面にもヒゲ生えるのだな」
永瀬「この人は明らかに服着てますね。手袋とブーツにフサフサのボアが付いてる」
なんで永瀬はウルトラマン全裸説にそこまで拘るんだ…
手話地「キングはウルトラ族の伝説の超人で、全宇宙に匹敵するエネルギーを備えているのだ」
アルフォード「全宇宙!?」
永瀬「そうなってくると言ったもん勝ちですね」
エリーザ「制作サイドのさじ加減ひとつではないか!」
手話地「そして次のウルトラ兄弟、80(エイティ)。職業は教師だ」
エリーザ「これはまたなんというか、親しみやすい顔立ちだ」
アルフォード「なんとなくだが苦労の多そうな顔だ」
手話地「これにてウルトラ兄弟の紹介は以上になる。本当はもう二人いるのだがキリがないので…ではさっそく映画を見てもらおう。この映画は…」
ワンダバダワンダバタ、ワンダバダワン…。先輩がプレイヤーにDVDをセットしようとした瞬間、先輩の持つスマホが鳴った。着信音は『ワンダバ』こと『帰ってきたウルトラマン』BGM M-3だ。
手話地「む、む!」
スマホの画面を見るなり唸る先輩。
手話地「ああもしもし。なんだお前! なにっいま来ているのか?! 仕方ない、入ってこい!」
“基地”に入ってきたのは短く切った髪の右半分を赤く、左半分を紫色に染めた男だ。
低組「どうもどうも。手話地さんが外国の人にウルトラシリーズの講義をしていると聞いたもので」
手話地「紹介しよう。私の友人、低組拝矢だ。私がiモードの『魔法のiらんど』でウルトラマン研究サイトをやっていた頃からの知り合いでね」
低組「僕が10000人目のキリ番踏みましたからね」
ワイロリータ「?」
フェトチーナ「どういう意味ですか?」
ミキオ「ああ、君たちは知らなくていい。携帯サイト草創期の話だ」
低組「手話地さん、あんたどうせまた昭和ウルトラ一辺倒の話をしていたんでしょう。僕は不安になって駆けつけてきたんですよ」
手話地「大きなお世話だ!」
低組「皆さん、ウルトラシリーズの中でも昭和ウルトラはもはや半世紀以上前の作品です。価値がないとは言わないが、我々若い世代はもっと近年の作品を知っておかないと」
手話地「ぐぬぬぬ…」
低組という男は別なソフビ人形を出してきた。
低組「これがいわゆる平成ウルトラシリーズの元祖、ウルトラマンティガです」
エリーザ「おお、赤と銀に加え紫と金色が混じってなんともカラフルではないか」
アルフォード「頭にツノや飾りではなく、凹みがあるというのも斬新だ」
低組「そうでしょう。古臭い昭和勢とは違いますよ」
手話地「ぐぬぬぬぬぬ…」
エリーザ「この者はうるとら兄弟では無いのか?」
低組「『大決戦!超ウルトラ8兄弟』という映画では初代ウルトラマンとは舅と娘婿という関係でした」
アルフォード「もはや兄弟でも何でもないな…」
エリーザ「入り組み過ぎだ! 誰か相関図を書いてくれ!」
低組「そしてこの顔が赤いのがウルトラマンゼアス。青が入ってるのがウルトラマンダイナ。黒が入ってるのがウルトラマンガイア。そしてこの全身真っ青なのがウルトラマンアグル」
エリーザ「青いのもいるのか!」
アルフォード「ちょっと待ってくれ。さすがにもう覚えられん…」
低組「そしてこっちの青いのがウルトラマンコスモス」
永瀬「ちょ、ちょっと! なんてこと言うんですか!」
エリーザ「秘書殿、何を言っておるのだ?」
低組「いやこれはこういう名前なんで…」
ミキオ「永瀬、これはウルトラマン・コスモスと途中で一旦切って呼ぶからいいんだ。大丈夫だ」
永瀬「あ、まあそれなら…」
アルフォード「???」
低組「で、この兜かぶったみたいなのがウルトラマンネクサス、胸に鳥がいるみたいなのがウルトラマンマックス、胸のカラータイマーが菱形なのがウルトラマンメビウス、青くて耳が尖ってるのがウルトラマンヒカリと、こういう感じです」
エリーザ「覚えられるわけがなかろう! 何人紹介する気だ!」
低組「彼ら平成ウルトラマンの特徴は戦況に応じてタイプチェンジすることです。ご覧ください、ウルトラマンティガもこのようにスカイタイプとパワータイプに変化します」
アルフォード「なんと、色が変わるのか」
低組「そうです。こちらのウルトラマンコスモスは…」
永瀬「あっ」
低組「いや失礼、こちらのウルトラマン・コスモスは通常のルナモードからコロナモード、エクリプスモード、ミラクルナモード、スペースコロナモード、スケルトンコロナモード、フューチャーモード、クロスオーバーフォーメーションへと変化するのです」
エリーザ「わからん! いっそ私を殺せ!」
アルフォード「ニホンの子供たちはこれ全部覚えられていたのか?」
異世界人たちが困惑していると、また先輩のスマホが鳴った。
手話地「ヘアッ! アアッ! ヘンッ! ダアッ!」
アルフォード「あれで会話通じてるのか?」
エリーザ「センパイ、そろそろ映画にせぬか? まだ我々は一度もそのうるとら兄弟の姿を見ていないのだが!」
手話地「ああ、申し訳ない、友人がもう一人来るようで…」
ミキオ「また来るんですか!」
おれが諌めようとしたところ、“地下基地”のドアが開いて髪を水色に染めた男が入ってきた。
銀河「お疲れ様です。僕は銀河須破握と申します。手話地さんとはもともとmixiのウルトラマンコミュニティで知り合ったマイミクでして」
ミキオ「魔法のiらんどからちょっと新しくなったな」
銀河「いや低組さんから手話地さん宅でウルトラシリーズ一般講習会をやっていると聞きまして! ニュージェネレーションシリーズを無視されたらたまらんぞと思って僕が来たんです」
永瀬「ニュージェネレーションて何ですか? EXILE トライブの話?」
ミキオ「いや、おれも知らない」
銀河「何てことだ、ニュージェネレーションを知らないんですか?! ニュージェネレーションのトップバッターと言えばこの人、セブンの息子ウルトラマンゼロでしょう!」
エリーザ「まだいるのか! この宇宙人一族は!」
アルフォード「おお、頭に刃物をふたつ載せている…」
銀河「そう、ゼロと言えばウルトラシリーズを牽引する新しいスターです! ウルトラマンニュージェネレーションはこのゼロを筆頭としてギンガ、ビクトリー、エックス、オーブ、ジード、ロッソ、ブル、グリージョ、タイガ、タイタス、フーマ、ゼット、トリガー、デッカー、ブレーザー、アーク…と毎年新しいウルトラマンが誕生しているのです」
エリーザ「ムキーッ! 覚えられるわけがなかろう! いい加減にしろ!」
銀河「いやこれは現行のシリーズなんで、どうあっても覚えて頂かないと!」
銀河須破握が唾を飛ばして語っていると“地下基地”のドアが激しくノックされた。
ミキオ「先輩、また誰か来てますよ」
手話地「ええい、入ってこい!」
手話地先輩に促されて入室してきたのは星のマークの付いたスポーツサングラスをかけた男と、金髪モヒカンで頬のこけた男、それに天パで長身の男の3人だ。
遊宝亭「はじめまして! アニメウルトラシリーズ推し、遊宝亭じょに安です! ザ☆ウルトラマン、ウルトラマンUSAそれにネトフリ版ウルトラマンが今は熱いですよ!」
惹句「こんにちは! ウルトラマン海外作品推し、惹句神童です! グレート、パワード、リブットを是非見てください!」
闇野雲「なんだそんなもの! はじめまして、シン・ウルトラマン推しの闇之雲酷ェ明です! シンウル最高! リピアー最強!」
エリーザ「ええい黙れ、そのうるとらまんとやらの人形、全部一列に並べよ! このエリーザが一刀の元に切り捨ててくれる!」
アルフォード「姉上、落ち着け!」
ワイロリータ&フェトチーナ「怖いぃ…」
抱き合って怯える双子の姉妹。もうそこそこ仲良くなってるように見える。そしておれたちを放ったらかしで手話地先輩とその仲間たちはウルトラマン論争に明け暮れていた。
ミキオ「もう収拾がつかん。帰ろう」
アルフォード「だな」
永瀬「グダグダの回になったなぁ…」