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第192話 列島震撼!国内最大級アイドルフェス爆破予告(第四部・完結編)

 1週間限定で地球デビューしたイセカイ☆ベリーキュート。だが参加を予定している国内最大級のアイドルフェスに爆破予告があり、しかもその犯人はどうやら神与能力者(ギフテッド)だ。犯人の捜索を行なう1万人のアイドルオタクの前でイセキューたちは深夜のゲリラライブを敢行、その会場に犯人が出現したのだった。




爆弾魔「離せ! くそ!」


アイドルファンA「こいつ、ふてぇ野郎だ」


アイドルファンB「おれたちのイセキューをよくも狙いやがったな!」


爆弾魔「時間がないんだって、偶像祭は中止させないと!」

挿絵(By みてみん)

 アイドルファンたちに羽交い締めにされ抵抗する爆弾魔。30歳前後の中肉中背の男だ。神与能力(ギフト)というものは往々にしてモーションなりキーワードなりをトリガーとして発動するものなのだが、どうやらこいつの能力は人差し指で大きく指差しするモーションを取らないとその位置を爆破できないようだ。大した威力ではないようだが、人体の急所に直接当てられたら危険だ。


巌「いい加減にしやがれ! てめえのせいで真夜中にこんな大勢の人間が騒いでるんだぞ!」


爆弾魔「もうダメだ、間に合わない…みんなあいつのフィギュアにされちまう…」


 羽交い締めにされながらもぼろぼろと涙を流す爆弾魔。何を言っているのか。


冬馬「フィギュア?」


ミキオ「落ち着け。お前、どうしてそんなに偶像祭を中止させたいんだ? 何か理由があるのか?」


爆弾魔「おれの能力なんて実際大したことはない、精度も低いし威力も全然だ。だけどヤツは違う、このまま偶像祭が開催されたらヤツの狙ったアイドルはみんなヤツに魂を奪われちまう…」


ミキオ「なんだって? お前、そいつの犯行を防ぐために偶像祭を中止させようとしてたっていうのか」


巌「話は取調室で聞こう。1時35分、激発物破裂罪の容疑で逮捕する」


 激発物破裂罪は重罪であり、現住建造物を損壊した場合には最高で死刑となっている。もっとも“非現実的能力”による犯行なので現行法で立件できるかどうかはわからない。だから現行犯ではなく“容疑”なのだろう。巌おじが爆弾魔に手錠をかけパトカーに乗せようとした時、客席にいた一人の男が右腕を高く掲げてこう言った。


比丘間「人形職人(ドールメイカー)…!」


 カッ!!! その刹那、一瞬の閃光が駐車場全体を包み、真昼のような明るさとなった。すぐに暗闇が戻ると、客席にいた一人の男を中心に正円の形でその場にいた人間がすべて消失していた。爆弾魔も、イセカイ☆ベリーキュートの4人も、客席のアイドルファンもだ。円の内側にいたヒッシーや巌おじも消失している。信じられない出来事におれは唖然とした。


比丘間「ぎゃはははは! 残念だったね幕場! お前の目論見は叶わなかったよ!」

挿絵(By みてみん)

 円の中心で狂ったように笑う男。年齢は20代後半くらいか。化粧をしており中性的で妖しげな容貌だ。幕場というのがさっきの爆弾魔の名前なのだろう。つまりあいつは爆弾魔の知りあいか。やつの周囲半径30mほどにはよく見ると14〜15cm程度のフィギュアがあちこちに散乱していた。


ミキオ「神与能力者(ギフテッド)か」


冬馬「も、も、もしかしてあいつがここにいた人たちを全部フィギュアに変えちゃったんですか?!?! 辻村警視正も、菱川さんも、イセキューのみんなも、ここにいたアイドルファンたちも全部?!」


ミキオ「みんな、できるだけ遠くに逃げろ!」


比丘間「人形職人(ドールメイカー)…!」


 再びヤツは接近しながら右腕を掲げ、ヤツの周囲半径30mは閃光に包まれた。その光を浴びて冬馬刑事もフィギュア化してしまった。なんという凶悪な能力だ。こいつはこれを偶像祭で使い、様々なアイドルをフィギュア化しとうとしているのか。


比丘間「…あれ、なんでお前はフィギュア化しねえの? もしかしてお前がハイエスト何ちゃらとか言うやつ? ケッ! まじウゼェーな!」


 文句を言いながらステージに上がり、フィギュアと化したイセキューの4人を拾い上げる人形野郎。


ミキオ「お前と同様、魔法障壁(シールド)を張っている。だがたぶんフィジカルの戦いはこっちの方が上だ。下手な真似をしたらおれは一瞬でお前の命を奪うぞ」


比丘間「バーカ。こっちにゃ人質がいるんだよ。イセカイ☆ベリーキュート、なかなか可愛いじゃんか。オレがこいつの細っこい首をもぎ取るのとお前がここまで来るの、どっちが早いと思う?」


ミキオ「…」


 たぶんおれの方が早いと思うが、万が一のこともある。おれは躊躇した。


鬼畜の犬「辻村、そいつの名は比丘間(びくま)リオン。絵本作家だ。目立つ容姿なのでアイドルのライブ会場で何度か見かけたことがある」


ミキオ「鬼畜先輩!?」


 人形野郎こと比丘間リオンの“人形職人(ドールメイカー)”の射程範囲内にいたのになぜかフィギュア化せずおれの背後に立っている鬼畜先輩。どういうことだ、彼はだいぶイカれてはいるが普通の人間の筈だが…。


比丘間「…おかしいだろ…なんでお前までフィギュア化してねーんだよ」


 問われて決然と答える鬼畜先輩。その眼は愛するアイドルや同志であるアイドルファンたちの魂を奪われた怒りのためぎらぎらと燃えていた。


鬼畜の犬「私にもよくわからんが、非現実的能力だったかギフトだったか、私もそれに目覚めたらしい。さっき突然啓示らしきものがあった。おそらく天が授けてくれたのだろう、お前を倒せとな」


比丘間「…何…だと…」


 おお、これは意外だった。この人に神与能力(ギフト)を授けるとはどんな神だろう。人選合っているのだろうか。ともあれ今はとても頼もしいのは確かだ。


鬼畜の犬「アイドルとは名も無き民衆たちの太陽、それを人形に変えて独り占めしようとは鬼畜にも劣る行為! 報いを受けて貰うぞ、比丘間!」


 鬼畜先輩が両腕をS字に組み、腰を落として叫んだ。あんまりかっこいいポーズではないが今日の鬼畜先輩は実にかっこいい。


鬼畜の犬「“執念の(ザ・ストーカー)”!」


 ずみゅうううぅぅっ! 鬼畜先輩の体は泥のように溶け瞬時に地面と一体化し、次の瞬間には比丘間の背後に出現していた。つまり泥と化して地面の中を移動する能力ということか。まさしくストーカー。先輩にこれほど相応しく、また不適切な能力もない。


比丘間「なっ?!」


鬼畜の犬「今だ! 早くやれ、辻村!!」


 がしっと比丘間を羽交い締めにする鬼畜先輩。両者とも細身で非力だがじゃっかん鬼畜先輩の方が腕力で勝っているようだ。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、万物分断剣!」


 しゅぼおおっ!! おれが赤のサモンカードをかざし呪文を詠唱すると、紫色の炎をまといひと振りの聖剣が出現した。おれの召喚魔法は魂なき物には通用しないが、この剣は魔導十指OBである不死竜ジョー・コクーの魂を宿しているため異世界から召喚できるのだ。物体のみならず光や炎、魔力などのエネルギーまでぶった切る聖剣である。おれは万物分断剣を斜めに構え、腰をためて一気に跳躍して比丘間に踊りかかった。


比丘間「ひっ、ひいいっっ?!?!」


ミキオ「おれは人は斬らない。その魔力を斬る」


 ざぶんっ! 万物分断剣によって袈裟懸けにされ、比丘間の魔法障壁は切り裂かれた。比丘間は恐怖により冷や汗だらけになっているが肉体そのものは皮一枚たりとも斬られていない。おれはすかさず剣を空中に待機させ、再び赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ。汝、比丘間リオンの神与能力“人形職人(ドールメイカー)”」


 しゅぼっ! サモンカードの魔法陣から紫色の光球が出現した。これは比丘間リオンの能力を具現化したものなのだ。おれはマジックボックスを開き、その光球をためらわずに投げ入れた。自らの敗北を知り、がくりとうなだれる比丘間リオン。


ミキオ「ついでに菊池犬丸氏の神与能力“執念の(ザ・ストーカー)”」


 ぼしゅううっ! カードの魔法陣は再び唸り、同様の紫色の光球が出現した。これもおれは一切躊躇せずマジックボックスに投げ入れた。


鬼畜の犬「おい! 何をする、辻村!」


ミキオ「申し訳ないが鬼畜先輩にこんな危険な能力を持たせておくわけにはいかない。ご理解ください」


 比丘間の能力の喪失と共に駐車場に散らばったフィギュアはすぐに元の人間に戻った。




 戦いを終えたおれたちは現場を撤収し、ひとまずイセキューの4人を高田馬場のシェアハウスに送り届けた。この時点で午前3時だ。


ミキオ「とにかく無事で良かった。出番まであまり眠れないかもしれないが、栄さんが迎えに来るまでゆっくり休んでいてくれ」


チズル「ありがとうございます」


ミキオ「あ、ユキノ」


ユキノ「はい」


ミキオ「さっき言いかけた言葉だけど、もしかして自分たちを囮にしてあの犯人たちを釣り上げようとしたんじゃ?」


 そう問われて少し間を空けて答えるユキノ。


ユキノ「まさか。何も考えずにやっただけです。おやすみなさい」


 まあそういうことにしておこう。しかしだとすればなんという度胸だ。この1週間でこの4人は驚くほど成長したな。




 現場に戻り集まったアイドルファンたちを解散させ、深夜の3時半ではあったがおれたちは警視庁2階の爆破予告犯捜査本部に戻った。


巌「非現実的能力者“爆弾魔(ボマー)”幕場 (まくば・だん)と“人形職人(ドールメイカー)”比丘間リオンは東京拘置所に送致された。家宅捜索を行なった結果、比丘間リオンの自宅では数年前から何十人もの芸能人や女子アナ、一般の美女がフィギュアにされコレクションされていたことが判明した」


ヒッシー「恐ろしい男だニャ…」


巌「もちろん今は全員蘇生し、警察病院に運ばれている。これから検査だが精神状態も健康状態も良好とのことだ。幕場は比丘間の知人であり、やつがTOKYO偶像祭に清掃員として潜入し参加アイドルすべてをフィギュア化し持ち帰る計画を立てていることを知り、偶像祭を中止すべく爆破予告を行なったそうだ」


栄「爆弾魔、いいやつだったのね」


冬馬「幕場は立件できるかどうかわかりませんが、比丘間は逮捕監禁罪を免れません。数も尋常ではないので間違いなく実刑判決が下る筈です」


ミキオ「ともあれ、もう夜中の3時半だ。いくらおれでもさすがにもう眠い。一旦これで解散としない?」


 さっきまでは気を張っていたのでアドレナリンが出ていたがそれも終わり、今は眠くて仕方ない。これはいくら神の子だろうが関係ない。


巌「まったくだ。オッサンには徹夜はキツいぜ」


不朽田「しかし得るものの多い事件でした。辻村三樹夫君、また会いましょう」


 そう言いながらおれに握手を求めてくる不朽田氏。おれの爺ちゃんくらいの年齢なのに元気なものだ。


ミキオ「どうも…あ、先輩、家まで送りますよ」


鬼畜の犬「辻村、私の能力“執念の(ザ・ストーカー)”はいつ返してくれるんだ?」


ミキオ「いやもう先輩は絶対変なことに使うから無理です。忘れてください」


 その後、何かあったら面倒くさいので現場にいた1万人のアイドルファンからはおれに関する記憶と、写真や動画などのスマホのデータをすべて召喚して削除した。もちろん鬼畜先輩の記憶もだ。派手に召喚魔法を使ったのでMPがぐんと減ったが、どうせもう寝るだけなので構わない。


 明けて今日、TOKYO偶像祭は無事に開催された。10時からのライブは最高に盛り上がったが、ラスト曲前にリーダーのチズルよりイセキューの地球における活動終了が報告されるとファンたちから驚きと悲嘆の声があがり、この出来事はネットニュース等で大いに報じられた。こうしてイセカイ☆ベリーキュートの名は地球においてわずか1週間にしてブレイクし消えた伝説のアイドルとして後世まで永く語り継がれるのだった。


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