表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/223

第181話 激戦サバイバル!パーティーは最悪のメンバー(中編)

 神の子の肉体を持つ筈のおれに突然おとずれた頭痛と倦怠感。絶不調のまま召喚魔法は入力ミスをおこしザザとふたり地球の東京に転移してしまった。そこで出会ったおれの大学の先輩・大鯔宇佐右衛門とその彼女である女優の深井カンヌを引き連れ、またも誤入力でガターニアの草原に転移してしまうのだった。




ザザ「間違いない。サーベルタイガーだ」


 ザザの視線の先には確かに四足動物らしきシルエットが動いている。サーベルタイガーとは剣歯虎(けんしこ、Saber-toothed cat)とも呼ばれ、地球では漸新世後期から更新世にかけて栄えたネコ科に属する食肉獣の中で、上顎犬歯が巨大なサーベル状となったグループである。タイガーとは呼ばれるが別に虎の近縁種ではない。


大鯔「なっ、何っ?!」


ザザ「サーベルタイガーは本来、群れで獲物を狩る動物なんだけど1頭だけだ。何かの理由で群れとはぐれた個体か。この4人程度なら1頭で狩れると踏んだんだろうね」


 サーベルタイガーの生態は初めて聞いた。確かまだそこまで細かくは解明されていない筈だ。生きて帰れたら古生物好きのヒッシーに聞かせてやろう。


大鯔「なんでそんなもんがいるんだよ、オイ! あれって古代の生物だろ!」


ザザ「るっせーな。だからここはチキュウじゃねえっつってんだろ」


 そんなことを言い合っている間にもゆっくりサーベルタイガーは近付いて来ている。体色は灰褐色、大きさは化石資料等で明らかな通りシベリア虎よりもやや小柄。つまりそれだけ敏捷だということだ。いかにサーベルタイガーと言えど神の子の肉体を持つおれなら簡単に絞め落とすことができると思うが、コンディション最悪の今は噛み殺されるかもしれない。


大鯔「ひいいっ?!」


カンヌ「ねえ! ヤだ! 何あれ?!」


 怯える先輩と深井カンヌ。まあ彼らはサーベルタイガーどころか野犬にも出逢ったことはないだろうから当然の反応と言える。


ミキオ「ザザ、頼む」


ザザ「ああ」


 ザザがそう答えて腰紐についたチャームを外し息を吹きかけると、手のひらの上で大きな弓と(えびら)に変形した。この弓は神弓キューピッド・ヴァレイと言い、彼女の家に代々伝わる戦闘用の魔法弓とのことである。箙は矢を入れる筒のことだ。


ザザ「お前らは岩陰にでも隠れてな」


大鯔「わわわっ!」


 箙を背負い、矢をつがえて水平にサーベルタイガーを狙うザザ。矢先には小さな魔法石が埋め込まれており、これで矢を加速させるとともに当たると爆裂させる効果がある。矢先はまっすぐにサーベルタイガーの脳天を捉えていた。


大鯔「あ、あの弓矢であんなのを倒せるのか…?」


ミキオ「静かに」


 ザザがハンターの形相で弦をぎりぎりと引くと、その殺気に気押されたのか、サーベルタイガーはぷいっと向こうに行ってしまった。


ザザ「腹がすいてなかったようだね」


 弓をおろすザザ。大鯔先輩と深井カンヌは安堵しへとへとと座り込んだ。


大鯔「た、確かにあの牙はサーベルタイガー…現代の地球にいるわけがねえ…」


カンヌ「ねえ! マジでこれ何なの?! いったいここどこ? サファリパーク?」


 狼狽する女優の深井カンヌ。この女、まだ原状が把握できてないのか。


ミキオ「だから言ったろう。惑星ガターニアの西方大陸、テンデイズ国だ」


カンヌ「だからそれ何なの? もういい加減にして! 大鯔サン、責任とってよね!」


大鯔「お、俺に言われても…なあ辻村、お前いったい何なんだ、何でも知ってそうだけど」


 この男になんでも喋ると後で面倒なことになりそうだが、まあいいか。どうせ記憶は消すんだから。この際だからハッキリ言ってやろう。


ミキオ「おれは父ゼウスに導かれてこのガターニアに転生した神の子であり最上級召喚士(ハイエストサモナー)です。ただし今はなぜか絶不調で各種魔法が使えない。治れば先輩たちくらい一瞬で東京に戻せるんですが」


 ぽかんとする先輩と深井カンヌ。まあそりゃそうか。余計なこと言わなきゃ良かったかな。


大鯔「…お前、何か新興宗教の教祖でも始めたのか…? 」


カンヌ「この人、ヤバいんじゃない? 大鯔サン、別行動取ろうよ」


ミキオ「好きにしたらいい。ただしこの草原にはサーベルタイガーなどの野生動物やモンスターが棲息している。命の保証はできない」


カンヌ「ひ、ひいっ!」


大鯔「な、何がなんだかわかんねえ…こんなこと現実にあるのかよ…」


ミキオ「この世にはあなたの理解を超える出来事なんていくらでもあるということです。さて、おれは風邪か何か知らないがいま猛烈な頭痛と倦怠感に悩まされており、正直言ってもう限界に近い。ここで休んでいるので救援が来るまでおとなしくしていてください」


大鯔「わ、わかった」


 状況は最悪だが気候が温暖で晴れているのは幸いだ。おれは近くにあった大きな木にもたれ、体を休めた。




 それから30分ほど経過しただろうか。ゲージを見るとMPもHPも僅かながら回復している。頭痛も倦怠感も少し軽くなっており、やはり体を休めることによって無敵免疫とやらがフルパワーで活動してくれたようだ。この程度のMPがあれば逆召喚は無理でもザザが言ってた神霊治療師(ウイッチドクター)くらいは召喚できそうだ。そう思いあたりを見渡したが誰もいない。あいつら、おとなしくしてろと言ったのに…。


ザザ「このバカ! ウロウロすんなって言ったろ!」


大鯔「わひーっ、すみましぇ〜ん」


 ザザが大鯔先輩の尻を蹴りつけながらこっちに戻ってきた。なんだあの先輩。もうザザとあんな関係性になったのか。


ミキオ「どうかしたのか」


ザザ「お、起きた? いや目を放した隙にこいつが出歩きやがったからさ」


大鯔「辻村! ここはスゲェーな! 森に入ったら見たこともない植物がいっぱい自生してた! 未発見植物の種子てのはいいカネになるんだ、何種類か持って帰ったらそれだけで億万長者だぜ!」


 目を輝かせ鼻息を荒くしながら言う大鯔先輩。この人はカネカネばっかりだな。


ミキオ「ダメです。おれが許さない。そんなの持って帰ってどう説明するんです? 混乱を呼ぶだけだし、地球の生態系に悪い影響を与えるかもしれない」


大鯔「かてェなァ〜! そんな先々のことまで考えてどーすんだよ! もしかしたら最高にハッピーな気分になれる薬効成分を持つ植物があるかもしれないぜ?」


 この人の話は聞くだけ時間の無駄だ。調子に乗るといけないのでおれはキッと睨んで忠告した。


ミキオ「もしこの世界の植物の種子ひとつ、葉1枚でも持ち帰ろうとしたらおれが先輩の命そのものを召喚し異次元に葬り去ります」


大鯔「わ、わかったよ! わかったから睨むな!」


 まったく、同じ大学でたかたが3年くらい学年が上だというだけでなんでこんなヤツに敬語使ってやらなきゃならんのだ…と、呆れていると女優の深井カンヌがやはり森の中から歩いて戻ってきた。が、目はうつろで苦悶の表情を浮かべ歩くのがやっとという感じだ。


大鯔「どうした、カンヌ!?」


カンヌ「助けて…お腹痛い…苦しい…」


 こちらに来るなり倒れる深井カンヌ。両手で腹をおさえている。脂汗をかいて歯を食いしばっておりいかにも苦しそうだ。


大鯔「だ、大丈夫かよカンヌ。いったい何があった」


ザザ「おい、あんた何か食ったのか」


カンヌ「…そ、そこの果物が美味しそうだったから…」


 深井カンヌが指差す先を見ると、森の入り口に確かに果樹が植わっている。ピンク色の果実がなっておりいかにも美味しそうだ。


ザザ「バカか! あれはマッドアップルと言って毒性の強い果物なんだよ! 正体のわからねーもんやたらに口に入れるんじゃねーよ!」


 どうやら怪我ではなく食中毒ということらしい。


カンヌ「うう…」


ザザ「参ったな。これほっとくと体がもたねーぞ」


大鯔「ど、どうしたらいい、エルフの姉さん、そこらに薬草とか生えてないのか」


ザザ「ダメだ、この辺りの植物はまるでわからねー」


 仕方ないな、MP残量が気になるが人命には代えられない。おれは頭痛を堪えながらコートの胸ポケットから赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、深井カンヌの体内のマッドアップル」


 ばしゅっ! カードの魔法陣から紫色の炎が噴き上がり、その中から深井カンヌの体内のマッドアップルが破片となって出現した。良かった、今度は完璧な召喚だ。深井カンヌの表情から一瞬にして険が取れた。


カンヌ「…あ、あれ? 痛くない…」


大鯔「…辻村、お前魔法使いなのかよ…」


ミキオ「だからそう言ったでしょう…うっ」


 突然襲ってくるめまい。視界の端のゲージを見てみるともうMPはほとんどゼロ、HPも残り僅かだ。そんなバカな。転生してからすさまじい速度で成長し続けてきたこのおれがたった一度の魔法召喚でこんなにもMPを消費するなんてあり得ない。おれは地面に膝をついた。


ザザ「ミキオ! 大丈夫か?!」


ミキオ「おかしい…どう考えてもおかしい…」


 おれはたまらず横になった。重い頭痛と倦怠感と関節痛でまともに立っていられない。


ザザ「! ミキオ、お前もしかしてこれ、デバフをかけられてないか?」


ミキオ「デバフだと…?」


ザザ「つまり弱化魔法だ。相手をかたどった人形や相手の身に付けていた物などを使って呪いをかけ、死に至らしめる。ニホンにも似たようなものはあるんじゃないのか?」


ミキオ「…あるな」


 平安の昔、呪術は現実に存在するものとされ「蠱毒厭魅」「巫蟲」は処罰対象と規定された禁止・違法行為であった。井上内親王(光仁天皇の皇后)のように、他人や国家を呪ったとして罰せられたり、失脚させられたりした貴人や僧侶、呪術者もいる。また藁人形を呪う相手に見立て釘を打ち付ける「丑の刻参り」は現代に於いても行われているという。


ミキオ「しかし呪いだなんて…あまりに非科学的な…」


ザザ「今更だろ。とにかくお前は休んでろ。敵が弱化魔導師(デバッファー)なら戦いようがない。お前の2号か魔人ガーラにでも頼んで術者を探して倒すしかねーぞ」


大鯔「お、おい、呪いって、何の話してんだよ…」


ザザ「てめーは黙ってな」


ミキオ「…なるほどな、敵がそういうヤツなら戦い方がわかった」


 おれはむっくらと起き上がり、ニヤリと笑って言った。おれを呪う敵は何者なのか、そしておれはこの最悪の状況の中で勝利をつかめるのか。次回、いよいよ激戦サバイバル編最終章!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ