特別編#01 カオス!画像生成魔法
※作中の絵はAI画像生成ソフト「マイクロソフトデザイナー」を使って作画したものです
異世界166日め。うちの事務所には大商人ターレ・カッドンが来ていた。カッドンはガターニアの三大大陸を股にかけて商売を行なっている豪壮な男だ。今日は念写によって写真のような超リアル肖像画を生成するという超能力絵師の絵を売り込みに来ていた。
カッドン「とにかくね、ホンマに凄いんですわ! ここのセンセやったらその価値がわかってくれるやろと思てお話持ってきたんです」
ミキオ「念写ねえ」
おれは東大理工学部の出身なので、地球で超能力だの念写だのと非科学的なことを言ってるやつは蔑みの目で見ていたが、ここは剣と魔法の世界ガターニアなのでそうも言っていられない。実際におれも魔法を使っているわけだし。
カッドン「でね、事後承諾になって申し訳ないんですがセンセらの絵も生成してもろてるんですわ」
永瀬「えっえっ、その念写とかで遠く離れた場所からわたしたちの肖像画を描いたってことですか」
カッドン「そういうことです。もちろんその絵師はセンセらには1回も会うたことありまへん」
ザザ「興味出てきた! 早く見てーぞ!」
カッドン「でっしゃろ? ほな見てもらいまひょ。お気に召したらお代を頂くちゅうことで。まずはそこの副所長さんの絵ですわ」
そう言ってカッドン氏は風呂敷から一枚の絵を取り出した。おれと同じ日本からの転生者で東大の同期で召喚士事務所の副所長菱川悠平ことヒッシーの絵だ。
ザザ「おー! リアル!」
ミキオ「似てるじゃないか」
ヒッシー「おれこんなモサッとしてるニャ?」
カッドン「そっくりでっせ。次はそこのエルフの事務員さん」
ザザ「お、あたしのもあんのか」
ザザ・ダーゴンは連合王国シローネ地方出身のエルフだ。もともと冒険者ギルドの職員だったがうちの事務所を立ち上げる時にそっちを辞めて参加してくれた。
ザザ「濃いな…」
永瀬「似てる。耳こんな尖ってないけど」
カッドン「魔法画像生成にも限界がありますのや。お次はそちらの魔人さん」
ガーラ「おお! おれの絵もあるのだな!」
魔人ガーラは古代文明が生み出した人造魔導騎士だ。無限のエネルギーを有し、魔法と武器と怪力を使い分ける6段変形のスーパーロボットである。かつて敵対したがおれと戦い敗れ今はこの事務所の書生となっている。
ミキオ「あー、雰囲気は掴んでるんだがな」
ガーラ「なかなか良いがそもそものデザインが違う。惜しいな。しかし迫力あるぞ!」
カッドン「お次はそちらの新人エルフはん」
ペギー・ソーヴァは大預言者フノリー・ソーヴァのひ孫で自らも預言者見習いだ。どうしてもというので寿司屋のホール担当と兼任でうちの事務所に入り新人研修をしてもらっている。
ペギー「ちょっと幼な過ぎるのです!」
ミキオ「でもなかなか可愛いぞ」
カッドン「で、これはそちらの秘書はん」
永瀬一香はおれの東大時代の同期。日本にいた頃は外資系企業のOLをやっていたがこのガターニアを自分の居場所と決めて移住しおれの秘書となった。
永瀬「えー! 似てますか?」
ミキオ「似てるんじゃないか?」
ザザ「いい女過ぎるだろ」
カッドン「こちらはフレンダ王女はんですわ」
フレンダ・ウィタリアンはこの中央大陸連合王国の王女でおれとは友人関係だ。芸能かわら版におれとのありもしないスキャンダルを報じられたり、おれがプロデュースしたアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”の限定メンバーだったりとおれとは何かと因縁がある。
フレンダ「きゃー! 似てますの!」
永瀬「コスプレじゃん」
ザザ「内面のキツさが出てねーな」
カッドン「まあまあ、いろいろとご不満もありまひょうけど、念写でこれだけ描けてるってところを評価してもらいたいでんな。最後はこちら、ミキオセンセ」
ミキオ「いや…」
ザザ「誰だよ」
フレンダ「おじさんですの」
カッドン「これはねえ、なんでこんな感じになってしもうたのか私もようわかりまへんのですわ。なんで他にも描いてもらいました」
ミキオ「急にイラスト調だな」
ザザ「眼鏡どうなってるんだ」
カッドン「その超能力絵師が言うには、もしかしたらこのセンセは魔法障壁みたいなんを貼ってて、それが念写を拒んでるんやないかと」
ミキオ「まあその可能性は無きにしもあらずだが」
カッドン「こんなんとかね」
永瀬「これは若い頃の金城武だ」
カッドン「こんなんとか」
ザザ「髪型が違うんだよな」
カッドン「こんなんとか」
フレンダ「離れましたの」
ミキオ「なんでカップ麺食ってるんだ」
カッドン「こんなんとか」
永瀬「似てない」
ミキオ「なんでおばあさんを泣かせてるんだ」
カッドン「ほなこちら」
ペギー「もはや性別もわからないのです!」
ヒッシー「タイのレディーボーイだニャ」
ミキオ「わかった、ありがとう。もういい。いずれにしても我々の故郷には写真というもっと精度のいいものがあるし、自分の肖像画を部屋に飾る趣味もないので今回はちょっと縁がなかったということで」
カッドン「そ、そんな! ミキオセンセ! 皆さんも?! 誰も買うてくれまへんの?」
ザザ「ま、そりゃそーだな」
永瀬「実際、知り合いが自分の絵を部屋に飾ってたら引くしね」
ヒッシー「仕事に戻るニャ」
フレンダ「最後のミキオの絵だけ買いますの♡ ケンチオン宮殿に届けてくださいの♡」
苦労して描かせたであろう絵は1枚だけ売れ、大商人カッドンはとぼとぼと去っていった。しかし念写にしろAIにしろこれだけ描けるとは、恐ろしい時代になったものだ。