表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/223

第172話 過酷!TV版機動戦士ガンダム全話視聴マラソン(中編)

 おれが特別講師を務めるシンハッタ漫画家育成学院の生徒たちが事務所に訪ねてきた。彼らはガンダムというものが日本人にとってどんな存在か教えてくれと言うのだ。おれは日本のホテルを借り、彼らを連れてTV版ガンダムの全話視聴マラソンを敢行するのだった。


 近年なかなか無いタイプのアニソンであるオープニングが終わり、永井一郎さんのナレーションでこの世界の状況が簡潔に説明される。デニム小隊のザク3機がサイド7に侵入する冒頭のシーンからもう生徒たちは口開きっぱなしで画面を食い入るように観ている。



●第1話 ガンダム大地に立つ!!

ミキオⅡ「1話から情報量が多過ぎて処理しきれないまま物語が進んで行く…油断してると振り落とされそうだ…」


ムーンオーカー「凄いスピード感だ。圧倒的に引き込まれる。これは本当に四半世紀前の作品なのですか」


ミキオ「足すところも引くところもない完璧な第1話だ。安彦良和の作画もノリにノリまくってる」



●第2話 ガンダム破壊命令

ミキオⅡ「これも密度の濃い回だ。前半でレギュラーメンバーをサラッと紹介していく構成も凄い。もしかしたらこれはものすごい名作なのでは…」


ミキオ「だから言ったろう」


生徒A「『軟弱者』『通常の3倍のスピード』『見せてもらおう』『相手がザクなら』僕らでも知ってる名台詞が目白押しで興奮します!」


永瀬「えっ!? このシャアとかいう昆虫みたいな男、もしかしてイケメンなんですか?」



●第3話 敵の補給艦を叩け!

生徒A「えーと、ミノフスキー粒子ってのは本当にあるんですか?」


箕不好「いや、今のところ見つかってないね」


ムーンオーカー「そういう重要な設定をなんの説明もなくサラッと入れてくる。なんと恐ろしいアニメだ」


ミキオⅡ「難民だらけでずっと逃げ回っていたホワイトベースがここで先制攻撃に転じる展開も痺れるな」



●第4話 ルナツー脱出計画

ミキオ「この回からちょっと作画が荒れてくるな」


生徒A「えー! ここでパオロ艦長死んじゃうんですか?」


ミキオⅡ「地球連邦軍の硬直ぶりがヒドい」


箕不好「軍人というかお役人という感じだね」



●第5話 大気圏突入

生徒B「うおおおお! めちゃくちゃ手に汗握る回ですね!」


ミキオ「タイムリミットバトルだが、実に構成が上手い」


ブリス「このシャアって男、ここまで負け続けなのになんでこんなカッコつけてるの?」



●第6話 ガルマ出撃す

ミキオ「前回とはうってかわって終始アムロがイライラしていて何のカタルシスもない回だ」


箕不好「アムロと皆、ブライトとリード中尉、シャアとガルマと関係性の不協和音が続くね。BGMも暗い曲ばかりでこの回は子供が観ても楽しくなかっただろうな」



●第7話 コアファイター脱出せよ

箕不好「前回に引き続きホワイトベース内の不和は続くね。アムロは逆ギレ、ブライトはカイを殴り、そして避難民までフラウボゥたちを人質に取り反乱を起こす」


ミキオ「もう7話だというのにまったく安心させてくれませんね。さすがファーストガンダム」


ミキオ「こんな陰鬱な展開が続いたらそりゃスポンサーの玩具メーカーはハラハラするわな」



●第8話 戦場は荒野

箕不好「この回はなんと言ってもジオン兵バムロとコム、そして避難民ペルシア親子だね」


ミキオ「敵の兵士が避難民に救難物資を与え、逆にその避難民が敵兵の傷を手当てする、実に印象深い展開だ。このペルシアとコーリー親子の名前は覚えておくように、試験に出るぞ!」


ミキオⅡ「しかしそのセントアンジェをコロニー落としで消滅させたのもジオン軍だろうに、何を他人事みたいに『ここがそのセントアンジェのあった所です』とか言ってるんだあのジオン兵は」



●第9話 翔べ!ガンダム

ミキオⅡ「アムロがブライトに殴られてやっと奮い立ったな」


ミキオ「後半はロボットアニメらしい展開になって観ていて気持ちいい。シャアとガルマが不穏ではあるが」


生徒A「親父にもぶたれたこと云々ってのはこの回だったんですね!」



●第10話 ガルマ散る

ムーンオーカー「タイトルで盛大にネタバレしてますが…」


ミキオⅡ「面白い。ガルマとイセリナは可哀想だがアムロとシャアの作戦が当たって痛快だ」


生徒J「僕もあんな綺麗な女の人に様付けで呼ばれたいものです!」



●第11話 イセリナ、恋のあと

ミキオ「うーん?! ちょっとこれはハズレ回かな。作画も良くないし、いくらガルマの恋人でも民間人のイセリナがガウ攻撃空母に乗り込むのも無理がある」


生徒L「ガンダムがビームジャベリンでガウを両断する時のすり足で笑ってしまいます」



●第12話 ジオンの脅威

ミキオ「有名なランバ・ラルと、ザク以外のモビルスーツが初めて登場する回だ」


生徒A「モビルスーツ3機を吊り上げるあのロープはどれだけ頑丈なんでしょうね…」


ミキオⅡ「ガルマの葬儀でジーク・ジオンと連呼するジオン国民の声が声優3人くらいでやってるように聞こえる」


箕不好「当時このシャアの『坊やだからさ』の台詞がどれだけの腐女子を生み出したことか」



●第13話 再会、母よ

ムーンオーカー「どうにもこの母親が理不尽で…」


ミキオ「アムロとの別れの時も全然悲しそうじゃないしな」


箕不好「母との再会話で普通に感動させずビターに終わるからファーストガンダムは油断できない」



●第14話 時間よ、止まれ

ミキオ「じゃ今のうちに風呂行きたい者は行って。これと次の回はそんな重要な話じゃないから」


箕不好「僕はこの回、大好きなんだけどね」



●第15話 ククルス・ドアンの島

ミキオⅡ「作画が酷い。話自体は悪くないが」


箕不好「この回はなんと40年後に映画化されたのだ」



●第16話 セイラ出撃

箕不好「人間にとっていかに塩が大事かわかる回だね」


ミキオ「セイラさん、シャアを探したいからって何もガンダムで出ていかなくても…」



●第17話 アムロ脱走

ミキオⅡ「ミライさんはなんであんな入り口にブラジャーぶら下げてたんだ…」


ミキオ「ここからの2~3話はアムロの増長ぶりが酷い。見ていて痛々しくなる」



●第18話 灼熱のアッザム・リーダー

箕不好「この回、キシリアはたまたま鉱山基地の視察に来ていただけなんで、アッザムでアムロのガンダムと交戦するのに無理のない話運びになってるね」


ミキオ「従来のロボットアニメなら敵幹部がガンダムを追って来てたでしょうね」


ミキオⅡ「ガンダムが昔の宇宙人みたいな声で喋るのが衝撃的だ」



●第19話 ランバ・ラル特攻!

生徒A「アムロのガンダムとラルのグフ、剣豪同士の一騎討ちのようで実に見応えあります」


ミキオⅡ「ラル隊の雰囲気がプロの戦争屋集団という感じでいい。子供っぽいアムロとフラウボゥとの対比が効いている」



●第20話 死闘!ホワイトベース

箕不好「地球を放浪していた少年少女たちが初めて経験する本格的な白兵戦回だね」


ミキオⅡ「キッカに逃げろと叫ぶクランプ、フラウボゥにどこかに隠れていろと言うラル。ラル隊は本当にカッコイイ」


ブリス「あのランバラルとかいうおじさん、何も死ななくても捕虜にしてもらえば良かったんじゃないの?」



●第21話 激闘は憎しみ深く

箕不好「リュウとハモン、ふたりが特攻で果てる回だね。構造としては『イセリナ、恋のあと』に似てるが出来は全然違う」


生徒I「リュウの死を受けてのブライトの動揺ぶりが凄い。このひとこんなに人間臭かったんですね」



●第22話 マ・クベ包囲網を破れ!

箕不好「これはそんな重要な回じゃないね。まあブライトの有能ぶりがわかるというか」


ミキオⅡ「『襟を直したまえ、連邦軍のカラーが見えているぞ』マ・クベのこの台詞が素晴らしい。これだけでこのジュダックという男はスパイなんだなとわかる」


永瀬「ヤだ! この女の子、裸じゃないですか! 子供にこんなの見せてたんですか?!」



●第23話 マチルダ救出作戦

ブリス「マチルダっていうの、この女。すごい富士額(ふじびたい)ね」


ミキオ「正直、マチルダさんは制帽かぶってる方がいいな」



●第24話 追撃!トリプル・ドム

ミキオⅡ「マチルダ中尉、意外とあっさり死んだな…」


ミキオ「何も輸送機で出撃しなくてもいいだろうに…」


箕不好「後半は正直、尺が足りない感はあるね。黒い三連星やレビルとエルランも描かなきゃならないし」



●第25話 オデッサの激戦

箕不好「マ・クベ役の塩沢兼人さんの怪演が光る回だね」


ミキオⅡ「しかしエルラン中将のスパイ行為を暴いたり黒い三連星を全滅させたり核ミサイルの弾頭を切ったりと本当にアムロは大活躍だな」



●第26話 復活のシャア

箕不好「タイトル通りシャアの復活、ミハル登場そしてゴッグとの対決と見所の多い回だね」


ミキオ「まあ毎回見所は多いんですが」


生徒G「ガンダムハンマーだけでゴッグと戦うことになるアムロが泣けます」



●第27話 女スパイ潜入!

箕不好「カイがミハルと出逢う回だね」


ムーンオーカー「『姉ちゃん、母ちゃんの匂いがする』この台詞だけで涙だくだくです」


ミキオⅡ「もうビンビンに死亡フラグ立ってるじゃないか…」



●第28話 大西洋、血に染めて

生徒A「なっなんですかこの神回…涙がとまらない…」


ミキオ「この回のフラナガンブーンの『さっぱりしたァ〜!』っていう永井一郎さんの芝居がいいんだよ」


ミキオⅡ「この回でそこ語ってるのお前だけだぞ」



●第29話 ジャブローに散る!

生徒B「えっ! 散るのってこの人なんですか?」


ミキオⅡ「ウッディ大尉がすごく良い人ってわけでもないからどうにも素直に悲しめないな」



●第30話 小さな防衛線

ミキオⅡ「これが噂に聞くアッガイか。話に聞くほど可愛くないな」


生徒D「シャアがあんな真っ赤な目立つ服で連邦の基地に潜入してるのが信じられません」



●第31話 ザンジバル、迫撃!

ミキオⅡ「スレッガー中尉、いいな。クセはあるが大人の男だ」


ブリス「そう? 私は苦手なタイプだわ」



●第32話 強行突破作戦

生徒E「うおおお! ものすごく変なモビルアーマーが出てきました!」


ミキオ「ザクレロとガンタンクの一騎討ちは今作最大の珍勝負だな」



●第33話 コンスコン強襲

箕不好「ミライとその婚約者とスレッガー、アムロとその父親、シャアとコンスコンらのやり合い、そしてシリアルキラーと化したガンダムの無双バトルとたった20数分間なのにめちゃくちゃ濃厚な回だね」


ミキオ「子供の頃見た時はカムランしょーもなとしか思わなかったが、今見るとなかなか味わい深い人物だ」



●第34話 宿命の出会い

ムーンオーカー「なんと、第34話にしてようやく主人公とライバルが顔合わせか」


永瀬「え! 女を殴るんですか?! なんで?! 意味わからない。クズでしょこの男!」


ミキオ「それでスレッガーになびくミライさんもよくわからない。ここら辺は昭和世代の作ったアニメだよなあ」



●第35話 ソロモン攻略戦

ミキオⅡ「戦いの中でも妻子を気遣うドズル中将がカッコイイ。連邦軍にはいないタイプの武将だな」


ミキオ「お前は普通に見てるが、それまでのロボットアニメの敵キャラって顔の左右が男と女に分かれてる奴(※注:あしゅら男爵のこと)とか、自分の首を小脇に抱えてる奴(※注:ブロッケン伯爵のこと)みたいなのばっかだったからな。敵の幹部にこんな繊細な人物造形が描かれたのはとんでもなく革命的なことだ」



●第36話 恐怖!機動ビグ・ザム

女子生徒A「前半、めっちゃ恋愛ドラマですね。びっくりします。ガンダムってこんな話だったんですか」


ミキオ「スレッガー中尉に対する印象が180°変わるだろ?」


ミキオⅡ「後半は敵味方ともに命を賭けたギリギリのバトル。ガンダムを収納するGアーマーだからこそのアイデアだ。凄い回だ。とんでもない名作だ」



 この時点で日本は午前2時。男子たちの眼はまだ爛々としていたが女子生徒ひとりと永瀬、ブリスが完全に寝落ちしてしまったし、深夜まで騒いでホテルに迷惑かけてもいけないのでここでDVDを止め睡眠休憩に入った。なまじ神回“恐怖!機動ビグ・ザム”の直後だったため生徒たちは寝付けず、いつまでもガンダムについて熱く語り合っていたが、1時間もすると全員あくびを立てて眠っていた。


 午前8時。強制はしないがここで全員に起床を呼びかけ、視聴マラソンを再開した。ホテル側から食事が届いたのでそれを食べながらの第37話観賞である。朝食は炊きたての白米と焼き鮭、海苔、生卵と純和風のメニューだったが生徒たちは喜んで食べている。さすが漫画家育成学院の生徒たちだけあって日本文化を恐れない。お嬢様育ちのブリスは生卵かけご飯を見てこんな奇妙なもの食べられないわ、と憤っていたが。



●第37話 テキサスの攻防

箕不好「ゲルググ及びギャン初登場回だ。中盤以降はいろんなモビルスーツやモビルアーマーが登場して飽きないね」


ミキオ「マ・クベがわざわざモビルスーツに乗って戦う理由が小物過ぎて面白い。この人、最後までキシリアLOVEだったな」


ミキオⅡ「おっさんが24歳の女にラブラブだと考えるとちょっとキショいな」



●第38話 再会、シャアとセイラ

箕不好「タイトル通り、兄妹が再会する回だね」


生徒G「ふたりの会話にグッと来ます。これでまたシャアファン増えたと思う」


ミキオⅡ「あの金塊はなんだ? ジオン軍の将校ってそんなに儲かるのか」



●第39話 ニュータイプ、シャリア・ブル

ミキオⅡ「シャリア・ブルってソツもないけど華もない人だな。サラリーマン的と言うか」


生徒E「他のジオン軍人がみんなアクが強いだけに」


生徒F「前フリは長かったけど、やられたのは一瞬でしたね…」



●第40話 エルメスのララァ

永瀬「何かブランド物のバッグ持ってる女の人の話じゃないんですね」


ミキオ「永瀬、緊迫してるところだから黙ってて」


生徒H「ああ…ついにシャアがララァに『邪魔です!』と言われてしまった…」



 ここで午前9時半。全話視聴マラソンも残り3話となった。ホテル側から頂いたコーヒーなどを飲みながら第41話を観ていると、襖の向こうが突然にドヤドヤと騒がしくなった。なんだなんだ、こんな朝から。考えている間もなく襖がガラッと開けられた。40~50代のおじさんが6人だ。真ん中にいる男がリーダーだろうか、ドズル・ザビみたいな顔をしている。


ミキオ「何だ、あんたたち」


ムーンオーカー「この部屋は使用中ですが」


山越「この部屋でファーストガンダム全話視聴マラソンを敢行していると聞いた! あんだが箕不好隆二か」


箕不好「はぁ、まあそうですが」


ミキオ「待て。あんた、どこでそんなこと知ったんだ」


山越「彼のインスタのストーリーでだ。わしはフォロワーだからな。我々はガンダムの正道を征き真実を追い求める私立頑駄無塾のもの。わしは塾頭の山越伴馬(やまごえはんま)だ」


箕不好「え! 私立頑駄無塾?!」


ミキオ「先輩、知ってるんですか?」


箕不好「ああ。SNS上でガンダムを語っているものがいれば難癖をつけレスバトルに持ち込み、書籍等で雑にガンダムを扱っていればSNSで槍玉に挙げる、ハッキリ言って面倒くさい連中だ」


 なんだそんなくだらん連中か。先輩もここで全話視聴マラソンやってるなんていちいちインスタに上げなきゃいいのに。


山越「率直に言わせてもらおう。箕不好隆二、日頃のあんたの言動には目に余るものがある。大してガンダムを知らないくせに第一人者ぶるのはやめて貰いたい!」


 こいつら、そんな理由で新潟まで押しかけて来たというのか。ヤバい連中だな。箕不好先輩の身に危険が及ぶかもしれない。どうしたものか…次回、激動のガンダム全話視聴マラソン編完結編に続く!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ