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第170話 ビッグプロジェクト!異世界テーマパーク(後編)

 大商人カッドンからの提案を強引に進められたおれはカッドンの娘のブリスらとともに“異世界ニホンランド”を建造することになった。だが相変わらず彼らの日本解釈はトンチンカンで奇っ怪なアトラクションばかり立案してくるのでおれは日本のテーマパークへの取材を提案、富士急ハイランドへ連れて行くのだった。




ミキオ「では手近なところで『トンデミーナ』から行こう。振り子の先端に直径8.5mの円盤が付いていて、その円盤に外向きに人間が座る。それが回転しながら振り子運動をし地上43mまで到達するアトラクションだ」


ブリス「なるほど、なかなかシンプルね」


ミキオ「まあ最初の体験にはちょうどいいだろう」


 おれとブリス以下3人の役員がそれぞれ席に着くと、和装っぽい制服の係員さんが丁寧にベルトを固定させ安全確認してくれた。ブリスも役員たちも初めての異世界テーマパークにうっきうきだ。


ブリス「秘書さんは乗らないの?」


永瀬「ええ、わたしは大丈夫です」


 こうして富士急ハイランドのアトラクション“トンデミーナ”はゆっくりと動き始めた。




 1分20秒間という程よい時間が経過し“トンデミーナ”は定位置に戻って停止した。


ミキオ「どうだった、諸君」


ブリス「い、いひっ、あぜっ! は、はぁ、はぁ…」


役員A「ちょっと…時間を…時間をくだしゃい…」


役員B「お、俺まだ生きてる…!」


 なんだこいつら。全員瞳孔開いてるじゃないか。息も絶え絶えだし情けない連中だな。これじゃ話にならんし次のお客にも迷惑がかかるのでおれは永瀬と乗らなかった他の役員たちを呼び出し、一旦向こうのベンチに移動させた。




 数分後、ようやくブリスたちの呼吸が整ってきたようなのでおれは質問した。


ミキオ「落ち着いたか? ならば感想を聞きたい」


ブリス「何がシンプルによ! 前後左右に好きなだけぶん回して、人間を何だと思ってんのよ!!」


役員A「肉体と魂がセパレートされるかと思いました! いやマジで!」


役員B「足元の先にあの美しいフジサンがひっくり返って見えた時は真剣に死を覚悟しました」


ミキオ「なんとまあ、トンデミーナでこれか。異世界人というのはこんなにも絶叫マシン耐性が無いのか」


永瀬「いや、ここのアトラクションは相当だと思います」


 初の絶叫マシン体験に髪乱れメイクも落ちつつもブリスがギアを上げて質問してきた。


ブリス「ミキオ社長、ここはいったい何なの? 装飾の少ない骨太の園内、女性ウケの悪そうなネーミングセンス全般、妥協の無いハードなアトラクション…」


ミキオ「理解して頂けて何よりだ。こここそが通好みのジャパンオリジナルテーマパーク、富士急ハイランドだ。千葉のあそこや大阪のあそこみたいに軽い気分でデートに来ると火傷しかねない。ここの絶叫マシンたちは妥協をいっさい許さない、男らしいハードモードアトラクションばかりなのだ」


ブリス「ふ、フジキュウハイランド…」


ミキオ「まだまだここのアトラクションはこんなものではない。次はFUJIYAMAに乗ろう。キング・オブ・コースターと称される世界最恐級の絶叫マシンだ」


役員A「せ、世界最恐級!?」


ブリス「い、いいわ。乗ってあげる。このブリス・カッドンの女の意地、見てもらおうじゃない! あんたたちも来なさい!」


役員たち「えー?!」


 おれたちが隕石を模したパールホワイトのコースターに乗ると、すぐに専任の職員さんが安全バーをチェックしてくれる。幸い我々は今回先頭車両に乗ることができた。


ブリス「美しい車体ね」


ミキオ「これも開始当時は赤・青・黒のカラーだったが2002年には金箔3kgを車両全体に貼り付けた“フジヤマ金太郎”、2003年には銀箔1kgを貼り付けた“フジヤマ銀次”、2006年には氣志團とのコラボによる“フジヤマ氣志團號”、2009年からは二代目金太郎・銀次が導入されている。そして2013年には全面鏡面加工を施した“フジヤマ鏡子”、2016年には先頭車両に鳳凰が掘られた“三代目金太郎 鳳凰号”が導入された。2017年からは真珠のような輝きを放つこの“フジヤマパールちゃん”が導入されている」


役員B「み、ミキオ社長はそれ全部知っておられたので?」


ミキオ「なに、来る前にちょっと調べただけだ」


ブリス「しかしネーミングセンスは相変わらずだわ」


 などと言っていると発進のサイレンとアナウンスが流れ出した。


アナウンス「走行中は前かがみにならないように注意してくれ! これから3分30秒間、絶叫の世界に案内しよう! それではいってらっしゃ〜い!」


 全長2045m,最高速度130km/h,最高部79m,最大加速度3.5G。銀色のコースターがゆっくり動き出しレールの上を走っていく。もうこのストロークだけで心臓がバクバクになる。頂上まで行くと急転直下。そこからのFUJIYAMAは急上昇、急旋回、横揺れ、急停止とありとあらゆる方法で人体を揺さぶり尽くす。


ブリス「ひいいいいいい~~っっ!!!」


役員B「おおおおおわおおお~~!!!」


役員C「し、し、し、死ぬううう~~!!!」


 FUJIYAMAは本当にシャレにならない、絶叫マシンに心を奪われた男たちが心血を注いで作った完璧なハードアトラクションだ。おれは神の子として神の肉体と胆力を与えられているため眉ひとつ動かさずに乗っていられるが、ブリスや役員たちはもう人間としての尊厳ギリギリの表情となっていた。




 こうして数時間後、おれとブリス、9人の役員は代わる代わるではありながらも富士急の絶叫マシンのほとんどを制覇した。平日でありあまり待たずに乗れたのも大きい。なお永瀬は興味がないということで最初から何にも乗らず涼しい顔で“リサとガスパールタウン”に行ったり土産物を見てたりしていたようだ。時間は既に夕刻となっており、おれたちは腹も減ってきたのでモスバーガー富士急ハイランド店のオープンテラスに移動した。永瀬に買ってきて貰ったのはもちろんこの店舗でしか買えない限定メニュー“フジヤマバーガー”だ。ミートソースがたっぷり、それにパティが2枚入っているいわゆるダブルバーガーである。


役員A「何ですかこれ、とんでもなく美味い!!」


ブリス「食べにくいわね! でも味はさすがだわ」


ミキオ「えーとこれでトンデミーナ、FUJIYAMA、高飛車、鉄骨番長、テンテコマイ、ええじゃないか、ZOKKON、ナガシマスカ、レッドタワー、FUJIYAMAスライダーと行ったわけか。ほとんど制覇したな」


 役員たち、特にブリスは髪ぐちゃぐちゃになりながらもちゃんとすべての絶叫マシンに乗ったのだから大したものだ。日本人でも初体験でここまでできる人間はなかなかだろう。


ブリス「恐ろしい…異世界のテーマパークとはこんなにも人間の心と体を揺さぶるものなのね…こんなになったのにまたFUJIYAMAに乗りたい自分がいるわ」


 ブリスのこの言葉が強がりか本気かわからないが、強がりだとしても相当なメンタリティだ。


ミキオ「大したものだな、ブリス・カッドン。最後の方は笑顔になってじゃないか。他の役員たちより根性あるぞ」


ブリス「あなた、さすがパパが見込んだ男ね。度胸もあるし頭も良い。何より神をも恐れぬ大胆さが気に入ったわ。ね、うちに来ない? 一生お金に困らない生活ができるわよ」


ミキオ「財団にってことか? 生憎だが金儲けには興味がなくてな」


ブリス「違うわよ。うちに。つまりカッドン家に。私の婿になりなさい。私の兄たちよりあなたの方がカッドン家を盛り立ててくれそうだわ」


ミキオ「…」


 突然何を言い出すのだこの女は。あまりに唐突な求婚におれはびっくりして絶句してしまった。


永瀬「えっえっ! 何ですか?! これってプロポーズしてないですか?!」


ブリス「ナガセさん! 聞いてんじゃないわよ、あっち行ってなさい!」


ミキオ「…ま、答えとしてはノーだな。おれは結婚など考えていないし、入婿なんて窮屈そうで御免だ。だいいちお前、いろんな有名人と浮き名を流しておいて今更おれを結婚相手にでもないだろ」


ブリス「ふふふ。まあそう言うと思ったわ。でも私は諦めが悪いのよ、覚悟なさい」


永瀬「きゃー! めちゃめちゃ告白じゃないですか! いいんですか侯爵、こんなお騒がせセレブに狙われたらまたパパラッチ増えますよ!」


ブリス「あっちに行ってなさいって! ムード読まない子ね!」




 こうしておれたちは懐かしき異世界ガターニアに帰り、カッドン財団本部で会議に会議を重ねた結果この世界の技術であんなアトラクションを作るのは不可能だろうという結論となり、テーマパーク“異世界ニホンランド”の建設はゼロベースからのリスタートとなった。まあ当然の結果と言えるが、それからブリスは打ち合わせだ何だと理由を付けてやたら毎日のように事務所に来るようになったこともあわせて申し述べておきたい。



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