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第161話 ツッコミ千本ノック! 映画キン肉マン観賞会(第四部・完結編)

 オーガ=ナーガ帝国の病弱な皇子レズンザンドに健康的な筋肉への興味をもたせるため、おれは大学時代の先輩である針毛園美貴さんの家にブルボニア兄弟を連れて行き、キン肉マンの映画を見せてもらっていた。映画はいよいよ佳境に入るのだった。


針毛園「キン肉マンたちに向けられた最後の刺客はその名も“反則超人”だ。反則超人はその名の通り鎖や刃物などの反則凶器を使う映画オリジナルの超人だ」


ミキオ「後半に行くに従ってどんどんネーミングが適当になりますな」


エリーザ「今更反則も何もないだろう。だったらこの魚津マンの鉄の爪も反則だ」


 ウォーズマンはあと3分しかないのでここは俺に任せて先に行けと言う。ここでのBGMはウォーズマンのテーマ曲『悲しみのベアークロー』である。ロシア民謡のような前奏から入る曲だが悲壮感がありこのシーンには合っている。ウォーズマンを残し洞窟を抜けるとそこにはついに宇宙地下プロレス連盟の基地があり、首領のオクトパスドラゴンが待ち構えていた。ロープに高圧電流を流したリングまで用意している。


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オクトパスドラゴン「12時半までにこの俺様に勝ったら娘とチャンピオンベルトは返そう。12時半を過ぎたらロープを切り、娘をギラザウルスのエサにしてくれる!」


キン肉マン「よおし、やったるで!」

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アルフォード「やっぱりこいつら、なんだかんだで最終的にはプロレスがしたかったのだな」


ミキオ「だったら刺客なんか差し向けず、普通に待っていれば良いのにな」


エリーザ「しかし相手もこんな卑怯者だし、おとなしく言うこと聞いてないでさっさとこの筋肉マンが娘を助けてしまえば良いのでは?」


針毛園「まあまあ、試合が始まるぞ」


 勇壮なBGMがかかり、リングインしたキン肉マン・テリーマン組とオクトパスドラゴン・猛虎星人組による変則タッグマッチが始まった。猛虎星人もオクトパスドラゴン同様、元は原作コミックの怪獣退治編に登場する悪役である(ただしデザインは変わっている)。試合に先立って実況席が作られ、アデランスの中野さんと解説の与作さんが座った。試合の模様は通信衛星を使って日本武道館にテレビ中継されるという。武道館には真弓大王、委員長ほかが集まってパブリックビューイングを行なっている。中野さんは奥さんの公子(きみこ)さんに「公子見てるか〜い?」などと呼びかけているが、これは実際に中野さんのモデルであるゆでたまごの担当編集者、中野和雄氏の奥様の名前だそうだ。


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公子「はぁ〜い、見てるわよ、あなた〜!」


委員長「与作さん、ゴングじゃ、ゴング!」

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 ゴングが鳴り、試合開始となる。オクトパスドラゴンの連発ニードロップを受け早くもピンチのキン肉マン。試合会場を運営する宇宙地下プロレス連盟はキン肉マン側がロープに触れると高圧電流が流れるのに、オクトパスドラゴン側が触れる時はスイッチを切るというせこい反則をやっていた。キン肉マンはオクトパスドラゴンを卍固めにかけるが、それを見ながら日本武道館では真弓が「いいぞ〜スグル〜」とか言いながら総理大臣の中曽根康弘っぽい人に卍固めをかけている。このアニメは本当に中曽根さんをイジってくるなあ。


 試合ではブレンバスターやバックドロップなど意外に普通のプロレス的な攻防が続くなか、リング外からガンマラーという右腕がライフルになった地下超人がキン肉マンに向け狙撃を行なう。テリーマンがそれに気付いて銃弾の盾となり倒れ、怒ったキン肉マンがキン肉族伝統の戦闘スタイルに変化し48の殺人技のひとつ“風林火山”を放つ。ふらついたオクトパスドラゴンについに伝家宝刀たる大技が炸裂する。


レズンザンド「おおっ、こ、これは?!」


針毛園「キン肉バスターという。相手の肩を自分の肩にかつぎ、相手の両足首を両手で持ってそのまま地面に尻から落ちるというキン肉マン最大の決め技だ。着地の衝撃で相手に首折り、背骨折り、股裂きのダメージを与える。あまりに危険なためアニメでは子供が真似しないように配慮され使用回数が制限されたが、映画は解禁されている」


エリーザ「あんな岩場に自分と敵の全体重ぶつけて、どう考えてもいちばん痛いのは自分の尻だと思うのだが…」


アルフォード「尾てい骨が粉砕されそうだ」


 だがキン肉バスターの効果は強烈で、オクトパスドラゴンはKO、試合はキン肉マンチームの勝利となる。しかしオクトパスドラゴンは最期の力を振り絞り、自分の玉座のスイッチを切ってギラザウルスを解放する。キン肉マンは高く飛んで間一髪でマリを助けるのだが、だったら最初にそれをやれよという気がしないでもない。


 解放されたギラザウルスは大暴れするがそこに現れるラーメンマンとリキシマン。彼らは生きていたのだ。ここで珍しくラーメンマンの横顔が見れるがちゃんと鼻があった。ふたりの協力もありギラザウルスは崖から落ち、なぜか爆発して粉々になっていった。


 エピローグ。神谷明さんの歌う甘いバラード曲『See you again,hero!』が流れ、やはり生きていたロビンマスク、ウォーズマン、ブロッケンJr.らと共にキン肉マンは沈む夕日を見つめていた。仲間たちの無事と熱い友情に涙するキン肉マン。横にはマリがいた。


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マリ「キン肉マンさん、泣く時は思いっきり泣いて。その涙を吹く時はマリのハンカチを使ってください」


キン肉マン「マリさん…ではあなたにお願いがあります。口移しに愛情ください…」

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 そう言いながらキスしようとするキン肉マン。だがその時ふたりの立つ地面が割れ、何の伏線もなくコミカルな恐竜が現れてキスが邪魔される。それを笑うアイドル超人たち。エンディング曲はまたも神谷明さんの歌う『奇跡の逆転ファイター』だ。




 針毛園「さて、ここまで見てくれてありがとう。感想を聞かせて欲しい」


ミキオ「まあなんというか…この年齢で真面目に観るものではないということは大前提として、うん、まあ結構楽しかったです。声優さんも豪華だし」


永瀬「すみません、途中から観てなくて…でもわたしが小学校の時のあだ名がウォーズマンだった理由がわかって良かったです」


エリーザ「しょうもないし品がない。小学生男子の妄想を見せられてる気分だった。シナリオが穴だらけでツッコミ疲れたわ」


アルフォード「こないだのプリキュアと較べるとやはり絵のクオリティがな。特にヒロインはもう少し可愛く描けなかったものか」


レズンザンド「僕は感激しました! 特に最後の試合、盛り上がるだけ盛り上がりましたよ! 弾けるような筋肉! 強靭な肉体と肉体がぶつかり合う迫力! シビレます!」


 他の兄弟、ルマンドンやプティと同じパターンだな。この兄弟は意外と感化されやすいのだ。エリーザとアルフォードはやや冷めてるからそうはならないが。


針毛園「いいね、君! わかってるじゃないか! 握手だ握手!!」


 にこやかに微笑みながらレズンザンドと握手する針毛園美貴さん。


レズンザンド「センパイさん、キン肉マンの映画は他に無いんですか」


 意外なレズンザンドの発言に慌てるブルボニア兄弟。


アルフォード「い、いや兄上、我々も仕事があるし、あんまり長居してはこの方に申し訳ないだろう」


針毛園「構わんよ! 明日は店は休みだし、君たちこのまま泊まって観ていきたまえ! 映画はあと6作あるぞ!」


エリーザ「わ、我々は先に失礼するぞ!」


ミキオ「じゃ先輩、申し訳ありませんがこの人置いていきますので、明日の朝に迎えに来る感じでいいですか」


針毛園「いいぞ! 君、どうせなら飲みながら朝まで観よう。そして最後には『完璧超人始祖編』の第0話だ。飛ぶぞ!」


レズンザンド「おお! なんだかわからんが素晴らしい!」


エリーザ「召喚士、さっさとこいつ置いて帰ろう。私はこのノリには着いていけん」




 翌朝、おれは再び安中市の針毛園ジムを訪れ、レズンザンドを連れて行った。朝まで休み無しで披露や睡魔と戦いながらもキン肉マン劇場版残り6作+テレビスペシャルと完璧超人始祖編第0話を観切ったレズンザンドは、黄金のマスク編で悪魔将軍に地獄の断頭台をくらいながらもロープを掴んで立ち上がってきたキン肉マンのような燃える目をしていた。




 1ヶ月後、事務所に訪れた者の姿を見ておれは驚いた。あの病弱で痩せていたレズンザンドが筋肉もりもりのマッチョ体型となっているではないか。日焼けした肌に白い歯が眩しい。


レズンザンド「いよっ! 召喚士の先生、久しぶりじゃのう」

挿絵(By みてみん)

ミキオ「…ずいぶん変わったな…」


レズンザンド「あれから私も考え直してのう。やっぱり良き領主となるためにはたくましき体が無くてはならんと気付いたのだ」


 そう言いながら上腕二頭筋強調のポーズを取るレズンザンド。なんかちょっと口調も変っているが、たった1ヶ月でこんなにパンプアップするわけがない。怪しげな薬でも使っているんじゃないのか。


レズンザンド「これは先生にプレゼントじゃい」


 レズンザンドが袋から出してきたのは4cmほどの小さな人形だ。絶妙にディフォルメされておりまばゆいばかりの金色である。


ミキオ「こ、これは…黄金のキン消し…」


レズンザンド「そう。純金製だ。なかなかあの味を出せる職人がおらんでのう、苦労したわい」


 なるほど、本来のキン消しは塩化ビニール製だがガターニアにはプラスチックが存在しないので純金で作ったのか。貴族かつ皇族だからこそできる真似だ。


ミキオ「しかしこんな超人には見覚えが無いが…あっ、まさかこれは!」


レズンザンド「どわっはっは、それは私のキン消しなのだよ。これはエリーザ姉上、こっちはアルフォード、こっちは皇帝陛下と皇后陛下、それに内務卿に侍従長に元帥だ。つまりキン消しならぬ帝消し、帝国要人純金消しゴムだ。コストはかかったがなかなかの出来だろう」


 日本の本家キン消しもあの味を出せる原型師はひとりしかおらず、高齢になっため今はその息子さんが跡を継いでいるという。一子相伝の秘技なのだ。純金という素材もさることながらガターニアでこの味を出せる職人を探しこのクオリティで作らせるのにどれだけ手間をかけたことか。


ミキオ「無茶をしたな…」


レズンザンド「皇室の家宝にしますぞい。先生には世話になったからパート1を1セット贈ろう! あのセンパイ殿にも1セット渡してくれい! さらばじゃ!」


 もはや“消し”でも“ゴム”でもない純金のフィギュアを残し、お茶も飲まずレズンザンドは去って行った。健康になったのだから当初の目的は達したが、こんな人形を部屋に並べてるようじゃ嫁は来ないかもな…そう思いながらおれは大半が誰か知らない“帝消し”を見つめるのだった。



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