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第160話 ツッコミ千本ノック! 映画キン肉マン観賞会(第三部)

 いつものように朝から事務所に来訪した帝国のバカ姉弟エリーザとアルフォード、今回の彼らの依頼は病弱な皇子レズンザンドに健康的な筋肉への興味をもたせることだった。おれは大学時代の先輩である針毛園美貴さんの家にブルボニア兄弟を連れて行き、キン肉マンの映画を見せてもらっていた。


針毛園「これがかの有名なアイドル超人だ。左からテリーマン、ロビンマスク、ブロッケンJr.、ウォーズマン、ラーメンマン、リキシマン。正義超人と呼ばれる戦いびとの中でも特に英雄的な存在だ」


 またも親切にホワイトボードにキャラ絵を貼って説明してくれる先輩。どれも親の顔よりよく見たキャラばかりだ。


レズンザンド「ふうむ、確かに強そうな連中だ」


エリーザ「こいつら妙にゆったりと現れたが、もう少し早く来ていればあの宇宙地下プロレスの連中倒せたんじゃないのか?」


針毛園「まあそういう意見もある。これがテリーマン。ガッツ溢れるファイターでキン肉マンの良き相棒だ」


アルフォード「なんでこんなに肌がピンク色なんだ」


ミキオ「旧アニメ版のテリーマンは尋常じゃないくらいピンク色なんだよな」


針毛園「これがロビンマスク。正義超人のリーダー的存在。全身にヨロイを纏っている。ヨロイは磁石にくっつく鉄製だったり硬度9のサファイア製だったりする」


アルフォード「そんなもん着てプロレスをやるのか…」


エリーザ「確認なんだが、あのヨロイは反則ではないのだよな?」


針毛園「劇中では反則を取られたことはない。次がブロッケンJr.。炎のように燃える手刀を得意技とする。そして次はウォーズマン。ファイティングコンピューターの異名を取るロボ超人で手の甲から生える鋭利な爪・ベアークローが武器だ」


アルフォード「こ、怖いな…」


エリーザ「さすがにこれは反則だろう? あんなもん試合で振り回したら死人が出るぞ」


針毛園「まあ実際に対戦相手のティーパックマンは死んでるからね。後に生き返るけど」


永瀬「あ!」


ミキオ「どうした永瀬」


永瀬「わたし、小学校の時に勉強できない男子たちに“ウォーズマン”て呼ばれてたんですけど、やっと今その理由がわかりました! こんな髪型にしてたからだ」


 永瀬はストレートのショートボブだったのだろう。かつては日本中のショートボブの女子がウォーズマンと呼ばれていた時代があった。


針毛園「次がラーメンマン。拳法の使い手」


アルフォード「またシンプルな顔だな…」


針毛園「こう見えてかつては残虐超人と言われ、リング上で相手を惨殺していた」


永瀬「えっ(引く)」


レズンザンド「惨殺とは…」


針毛園「まあ対戦相手を細く伸ばして麺のようにして喰っちまったりとかだな」


永瀬「え…(ドン引き)」


ミキオ「アニメ版ではそうですね。原作ではブロッケンマンの体を真っ二つに引き裂いてました」


レズンザンド「こ、この人ら、よくそんな凶暴なのと普通に一緒にいますね…」


針毛園「まあこの頃には聖人君子のようなキャラになっているからね。そしてリキシマン。日本古来の武術・相撲のチャンピオンだ。原作ではウルフマンという。これがいわゆるアイドル超人だな。7人の悪魔超人編以降はバッファローマンがここに加わり、逆にリキシマンは2軍落ちした感が否めない」


 先輩の解説に熱が入っていたが、映画の中ではアイドル超人たちがキン肉マンと行動を共にし宇宙地下プロレス連盟と対決すると宣言していた。


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ロビンマスク「メトロ星は宇宙の果てにある。ワープしてもかなりの時間がかかるぞ、急ごう!」

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 旧アニメのロビンマスクの声優はミスターサタンでおなじみ郷里大輔さんで、妙に野太い。どこから調達したのかアイドル超人たちは青い宇宙船に乗ってメトロ星を目指していた。それを追ってアデランスの中野さんや五分刈刑事らの宇宙船も何の伏線もなく宇宙を航行しているが、五分刈刑事がワープする際に宇宙戦艦ヤマトの古代進の顔になるのが時代を感じる。これもどうせ許可は取ってないだろう。


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テリーマン「ワープ完了! あと2時間しかないぞ、急ぐんだブロッケンJr.!」


ブロッケンJr.「おう!」

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 そう言いながらメトロ星に到達するアイドル超人の宇宙船。テリーマンもブロッケンJr.も超人レスラーがいつ宇宙船の操縦なんか覚えたのだろう。


エリーザ「召喚士、ワープとは何だ」


ミキオ「説明すると長くなるが、まあおれの使う逆召喚みたいなものだ」


アルフォード「宇宙の果てと言っていたが、なんか一瞬で着いたな…」


 ロケットノズルの逆噴射や明滅する着陸灯、シリンダー状に伸縮する着陸脚など、メカ好きのアニメーターが担当したであろうそこそこ気合いの入った宇宙船の着陸シークエンスのあとアイドル超人たちはメトロ星に降り立った。


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ウォーズマン「12時まであと50分だ!」


ラーメンマン「中国4千年の歴史が語るには、北北西、あっちだ!」


テリーマン「行くぞ、急げ!」

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 方角を見定めてザッザッと歩いて行くアイドル超人たち。


エリーザ「??? なぜ歩く? 時間が無いのだろう? 飛んで行けばいいではないか、さっきオープニングで屁を垂れながら飛んでいたろう!」


アルフォード「そもそも宇宙船で直接基地まで行けばいいのに、なんでこんな適当な場所に降りて歩いてるんだ?」


針毛園「まあその、なんだ、正直そこを突っ込まれるとこの映画が成立しなくなるんで、申し訳ないがここだけ目を瞑って欲しい」


ミキオ「こんな重要な部分を目を瞑るんですか…」


 この期に及んで及んでもキン肉マンは巨大な蛇を見つけて驚き「みんな〜後を頼む、ボク帰るから」などと言って小便を漏らしている。


エリーザ「この主人公の下品さ、情けなさにはイライラしてくるな…」


アルフォード「彼は自分の恋人を救いに来たんだよな?」


ミキオ「そうだが、この人は臆病で人間臭いのが味なのだ」


 その様子を物陰からオクトパスドラゴンの部下ふたりが見て笑っていた。が、これが異様なまでにセリフ棒読みなのだ。とてもプロの声優が声を当てているとは思えない。


ミキオ「急に素人みたいな演技のキャラが出てきましたな」


針毛園「そのキャラ、ゆでたまごのお二人が声を当てているんだよ」


ミキオ「…なるほど!」


針毛園「実はお二人は劇場版キン肉マン全7作品すべてに出演されている。最後まで棒読みだったが」


 まあ原作者ならこれだけ棒読みでも仕方ない。宇宙地下プロレス連盟の基地ではギラザウルスという拘束された巨大怪獣の鼻の先にマリが吊るされ、今にも喰われそうになっていた。さっきの原作者が声優を担当した棒読みキャラがキン肉マン一行がこの星に来たことを棒読みで告げると、首領オクトパスドラゴンは刺客を差し向ける。第1の刺客は怪力レスラー・ハリゴラスだ。


エリーザ「ん? こいつらはこの星にわざわざあの筋肉マンを呼んでおいて刺客を送るのか? だったらさっき地球でボコボコにした時にそのままトドメを刺しておけば良かったんじゃないのか?」


アルフォード「基地に来てほしいのか来てほしくないのか、よくわからんな…」


ハリゴラスは高い崖に架けられた橋代わりの丸太の上で勝負しろと言ってくる。リキシマンが相手をするが相手は手強く、リキシマンはハリゴラスもろとも崖の下に落ちていった。


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キン肉マン「リキシマーン!」

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 谷底に落ちていった友の名を泣きながら叫ぶもロビンマスクたちに促されその場を後にするキン肉マン。


エリーザ「何度も言うようだが、その力士マンとやらは空を飛んで助けに行けばいいと思うのだがな。と言うよりも力士マンとやらも飛べるんじゃないのか?」


針毛園「まったくその通りだが、ここは何か飛べない事情があるんだろうと考えて欲しい」


 キン肉マン一行が道を進むと森に入り、樹上から新たな刺客が現れた。


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「おれは忍者超人のボス、ウコンだ!」

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 第2の刺客は忍者超人ウコンとその軍団だ。キン肉マンは相変わらず「なに〜?超人ウンコ?」などと言っており、言うたびにエリーザと永瀬が眉をしかめている。


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ラーメンマン「中国4千年の歴史が語るには、お前たちは忍者超人だな」

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 いやさっき自分から忍者超人だと名乗ってたじゃないか。聞こえてなかったのかラーメンマン。


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ウコン「そうだ。お前たちを森の外に一歩も出さんのが俺たちの仕事よ」

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 こんな卑劣な連中なのにキン肉マンたちも銃器や刃物、光線技を使わず律儀にプロレススタイルで応戦する。オープニングで歌っていた「飛び散れキン肉ビーム」とは何だったのか。敵の数は多く、きりがないのでここはラーメンマンとブロッケンJr.という、ライバルにして師弟関係のような二人が残って忍者超人の相手をすることになる。ここでミート君から12時まであと30分しかないことが告げられる。どうでもいいがなんでミート君やナチグロンが付いてきてるんだろう。コメディリリーフの役もやらないし。


 ラーメンマンとブロッケンJr.を残し、急ぐと言ってるわりには走りもせず歩いている一行。既に時間はあと20分しかない。またもキン肉マンがもう行きたくないと駄々をこねるとロビンマスクが彼の頬を打ち、バカッとか言いながら涙ながらに叱咤し決意を促す。


ミキオ「過去いろんなドラマで百万回くらい見たやりとりですな」


針毛園「わかりやすくていいじゃないか」


 洞窟に入ると、その洞窟と同じ大きさの鉄球が転がってきて主人公たちを襲うという、これもインディ・ジョーンズ以降百万回くらい見たあのシチュエーションとなるも、鉄球がキン肉マンの直前で止まり、中から第3の刺客があらわれる。もっと具体的な名前つけてやれよと思うアメラグ超人たちである。


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アメラグ超人ボス「このまま潰しても構わんのだが、機械の手によって勝っても我ら地下プロレス組織の名が汚れるだけだわい。堂々と勝負をつけてやる!」

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 アメラグ超人はどう見ても数十人いて、これら全員でキン肉マンたちを襲うことを“堂々と勝負”とは言わないと思うのだが…さすがにエリーザもアルフォードもツッコミ疲れたのか、せっかくのツッコミじろをスルーして死んだ魚のような目で画面を見ている。アメラグ超人に対してはロビンマスクとウォーズマンの超人師弟コンビを残し、キン肉マンたちは悲愴な決意で前に進んで行く。やがてウォーズマンが追いつくがその目には涙が。話を聞くとロビンマスクはアメラグ超人5人を道連れに火山の火口に飛び込んで行ったという。このシーンで流れるロビンマスクのテーマ曲『虹色の騎士』が昔のチェッカーズみたいなポップな曲でどうにもマッチしていない。そうこうしているうちに残り時間はあと10分となり、やっと歩くのをやめて走っていく超人たち。


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キン肉マン「こうなったら何がなんでも12時までに着いてやるぜ」

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エリーザ「今更何を言っているのだ、この男は…そもそもお前の恋人とベルトを取り返すためにこんな宇宙の果てまで来たのだろうが。なんでこんな下品で臆病で情けない男のために仲間たちがこんなに一生懸命になるのか、理由がわからん」


 我らの世代のヒーロー・キン肉マンがこんな異世界から来た女にボロクソに言われ、残念な気持ちになりつつもいよいよ次回、映画キン肉マン観賞会完結編に続く。



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