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第150話 絶体絶命!狙われたハイエストサモナー(第三部)

 ガターニア最大のヤクザ組織イオボアファミリーの総長、ドン・イオボアがこの世を去りその跡目を争うことになった若頭補佐3人はハイエストサモナーを倒した者がドンになるという密約を交わした。おれは次々にヒットマンを送り込まれる羽目となり、遂に巨大モンスターによって事務所を破壊されてしまった。


ザザ「な、何だこりゃ!」


ペギー「はわ、はわ、はわわわ〜!」


 人間、(うろ)が来るというやつで、あまりに意外なことが起こると思考回路が動かず次の挙動に時間がかかるものだ。異論がある人は自分の家に双頭の巨象が突然現れて壁をぶち抜かれた状況を想定してみて欲しい。おれは口を半開きにして固まっていたが体感で3秒ほど経過してようやく思考回路が動き出した。


ミキオ「詠唱略、我とこの化物とこのヤクザ者、意の侭にそこに顕現せよ、ザド島国の無人の荒野!」


 おれは青のアンチサモンカードを取り出し、“逆召喚”でこの双頭の巨象とこいつを連れてきたヤクザ者を北の果てザド島国の無人の荒野に連行した。ザドはこのガターニアで唯一冬のある国で今も雪が降っている。


双頭象「パオオオオオーーーン!!」


象使い「ど、どこじゃここは!?!? こらハイエストサモナー、ワシらをこんな寒いところに置いて行くな!」


ミキオ「知るか。こんな化物連れてきやがって、速攻で魂を召喚されなかっただけでもありがたいと思え。詠唱略、我、意の侭にそこに顕現せよ、王都のおれの事務所!」


 おれは皆が心配なので即座に事務所に戻った。建物はすっかり玄関口の壁一面をぶち抜かれ、二階から天井まで崩れ落ちていた。表通りの通行人たちがみんな何があったのかとのぞき込んでいる。


ヒッシー「ミキティ〜」


 どっかの芸人みたいに泣きながらおれにすがってくるヒッシー。女子たちは泣いていないというのに。


永瀬「あいつ、どこからあんな化物連れてきたのかな…」


ザザ「知らねえ。どっかの魔導師に依頼したんじゃねーか…」


ペギー「これからどうなっちゃうんですか、わたしたち…」


 女子3人は呆然と立ちつくしていた。無理もない、たったいま籠城を決め込んだばかりなのにこれでは生活できない。


ミキオ「まあ建物はブラックカードで復旧できる。心配ない」


永瀬「というかペギー! あなたの預言、もうちょっと早めに出せないの?!」


ザザ「そうだぞ、こんなタイムラグ無しで預言されても何も対応できねえだろーが!」


ペギー「わたしに言われてもなのです!」


ガーラ「しかし思ったよりも厄介な相手だな。破滅結社の連中と違ってヤクザは手段を選ばない」


ヒズ「そう言うことじゃ。利口な人間はヤクザとは喧嘩せんのよ」


 すっかり崩落した壁の向こうから先程とは別なヤクザがやってきて魔人ガーラの言葉に繋いだ。角があって筋骨隆々のオーガという人種で、大柄な隻眼の赤鬼とその子分どもだ。


ミキオ「お前は」


ヒズ「イオボアファミリー系ナマス一家を構えとるヒズ・ナマスちゅうもんじゃ。こんな(お前)がハイエストサモナーけぇ?」


 ヒズ・ナマス。さっきブラッカが言っていたイオボアファミリーの若頭補佐、ドンの跡目候補のひとりというわけだ。さすが二次団体とは言え組長クラス、今まで見てきたチンピラとは風格が違う。


ナマス一家組員A「お、オヤっさん、同じ顔がふたりおりやすぜ?!」


ナマス一家組員B「お、おんどりゃ、どっちがハイエストサモナーじゃ!!」


ヒズ「おたえるなや。両方殺ったらええ。あいつの(タマ)取ったらしまいじゃけえ」


ミキオ「なるほど、おれを殺った者がファミリーのドンになれると言う噂は本当らしいな」


ヒズ「こんなはそがいなこと気にせんでええ。おとなしゅう死んどかんかい」


 赤鬼の指示で子分がおれにボウガンを向けて構えると、突如その背後から現れてそのボウガンの射手を鉄管で殴り付ける者がいた。


ナマス一家組員B「ぎゃあーーーっ!」


ナマス一家組員C「おんどりゃ、何しよんなら!」


ブラッカ「この旦那に手を出したら俺が潰すぞ」


 迫力のある低い声で言い現れたのはかつてイオボアファミリーで若頭を務めていた牛人(ミノタウロス)、現在は私立探偵のブラッカ・ミギューだ。


ミキオ「お前、来るなと言ったのに」


ブラッカ「すまねえ。どうもキナ臭ぇなと思ったもんでね」


ナマス一家組員C「あ…あれは…」


ナマス一家組員D「“悪夢のブラッカ”じゃ…」


ヒズ「…ブラッカの兄貴、久しぶりじゃのう。ワシャあ牛のステーキ食うたびにあんたの顔を思い出しとったんじゃ(笑)」


ブラッカ「ヒズ、何だこのザマは。カタギ衆に手ェ出しやがって。極道が仁義守らねえでどうすんだ」


ヒズ「たいぎいわ。オヤジに盃返したこんなに極道語る資格ないじゃろが」


ブラッカ「なんだとこの野郎…!」


サキ「おやおや、久しぶりだねぇ兄弟分。お前さん、いつからハイエストサモナーの金魚のフンに成り下がったんだい」


メフン「懐かしいメンツが勢揃いじゃのう。どうせならブラッカの兄ィもゲームに参加しんされや。そこの眼鏡の若造を殺ったもんが一等賞じゃけえ(笑)」


 子分をともなって30過ぎの妖艶な美女と大柄なリザードマンが現れた。どうやらこの二人が話に聞いていたイオボアファミリーの二次団体組長サキとメフンらしい。これでドンの跡目候補が全員揃ったことになる。半壊した事務所がある大通りは既に大勢のヤクザでひしめいていた。


ブラッカ「てめぇら、やっぱりそんな下らねえ競争してやがったのか…!」


ミキオ「ミキオⅡ、今のうちに事務所の皆を避難させろ。魔導十指マイコスノゥのいるウラッサー城がいい。あそこならおいそれと手は出せない」


ミキオⅡ「わかった。すぐに戻る。ほとばしれΛ(ラムダ)! いにしえの契約にのっとり、我とこの仲間とをかの地に転移せよ! 南ウォヌマー国、ウラッサー城!」


 ミキオⅡは“ピレトーの転移鎖”という魔法装具を使ってガーラ以外の事務所の者たち全員を転移させた。


ブラッカ「どうする旦那。ちと数が多いぜ」


 元ヤクザの血が騒いだのか、ブラッカの目に炎が宿っている。苦境の筈なのに口角が上がっている。


ミキオ「問題ない。ブラッカもガーラも下がってろ」


 おれは万物分断剣を手に取り、天に掲げてめったに出さない大声をあげた。


ミキオ「ヤクザどもよく聞け! おれがハイエストサモナー、ミキオ・ツジムラだ!! ぼやぼやするな、さっさとこの首を取りに来い!」


 おれの唐突な宣言にみな一瞬絶句したが、ヤクザたちはすぐに我に返って戦闘態勢に入った。

 

ヒズ「おどれら何しとるんじゃ、群がらんか!」


サキ「殺りな! あいつの首を取った者は幹部昇進に加え2 千万ジェンの賞金だよ!」


メフン「うちは3千万ジェンじゃ!」


ヤクザたち「うおおおおおぉぉーーーーっっっ!!!」


 天界から垂れ下がる蜘蛛の糸を掴もうとする亡者の如く一斉におれに躍りかかるヤクザども。ざっと1千人はいるだろうか。おれは少しも慌てず赤のサモンカードを起き定型の呪文を詠唱した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ。このヤクザどもの闘争本能!」


 しゅぼおおおぉっっ! カードの魔法陣が紫色の炎をあげて中から巨大な光球を出現させた。この光球がこのヤクザたち全員の闘争本能を具象化したものなのだ。おれはすぐにマジックボックスを開き、中の“無明空間”という漆黒の虚空にその光球を投げ入れた。この内部は時間の停止した世界でありおれ以外の人間が介入することはできない。ぎらぎらと眼を光らせおれに踊りかかったヤクザたちはすっかり顔の険が取れ、目の光がとぼっていた。彼らはやがてゆっくり立ち上がり、体の埃を払いおれに背を向け歩き始めた。


シオビッキー組組員A「…疲れたのう」


ナマス一家組員A「やめじゃやめじゃ、ヤクザなんぞやっとれんわい」


黒蜥蜴会組員A「かあちゃんに何か美味いもんでも買って行ってやるけぇのう」


メフン「な、な…」


サキ「お前たち! どうしたんだい、賞金首は目の前だよ!」


シオビッキー組組員B「いやぁ…ワシらもう何かそういうのが面倒くそうなってしもうて…」


黒蜥蜴会組員B「もう足洗いますわ。おつかれっした」


ナマス一家組員B「これからどうする? 野球でもやるか」


シオビッキー組組員C「いやぁ、もう人と争うのはたくさんじゃ」


サキ「あ…」


ヒズ「オメェら…」


メフン「ぬ、ぬ…」


 1千人のヤクザ、いや元ヤクザたちはすっかり温和な顔つきとなり、みな三々五々現場から離れていった。残されたのは狐につままれたような顔をした跡目候補の組長3人だけである。


ブラッカ「へ、やっぱりツジムラの旦那はとんでもねえお人だぜ。これじゃてめぇらの組は壊滅だな」


ミキオ「ドンを決めたいならジャンケンで決めろ。これ以上おれに関わるならお前たちの人生分の知識を召喚して知能を赤ん坊にまで退行させるぞ」


 おれがそう言って睨むと、跡目候補の3人は無念そうに目をそらした。ヤクザの喧嘩で目をそらしたら負けだ。やれやれ、これでやっと平和な生活が戻ってくるな…と思った刹那、突然に瓦礫の中からひとりの男がゆらりと現れた。先の尖った高い帽子をかぶり、体を長いマントで覆っている全身黒づくめの吸血鬼みたいな男だ。年齢はただの人間ならば30代くらいだろうか、帽子のつばでよく見えないが妖しい容貌だ。


ジャスダー「…走馬燈は見えるか…?」


 何だ、唐突に何を言ってるんだこいつは。こいつもヤクザなのか。突然現れ異様な迫力を放つその男と対峙しつつ物語はいよいよ最終章へと突入する。



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