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第145話 異世界おにぎり地獄変(前編)

 異世界135日め。今日は朝からおれの複製人間であるミキオⅡと預言者見習いペギー・ソーヴァが事務所に挨拶に来ている。二人とも昨日の大巨竜との戦いで活躍してくれたのだが、うちの社員たちはペギーはそっちのけでミキオⅡに興味津々なようだ。


永瀬「本当にそっくりだ…」


ザザ「サングラス取ったら親でも見分けつかねえな!」


ヒッシー「格闘ゲームの2Pキャラみたいだニャ」


ミキオⅡ「もういいか? もう5分くらいおれをイジってるぞ」


ミキオ「君たちは知らないだろうが、昨日は大巨竜との戦いで大変だったんだ。おれの戦歴の中でも大邪神大戦と並ぶ決死の戦いだった。この二人も活躍してくれたのだ」


永瀬「その話はニュース配信で聞いたような気がするんですが…」


 この場合のニュース配信というのは水晶玉に映る魔法配信のニュースチャンネルのことだ。


ヒッシー「思い出そうとすると頭にモヤがかかったようになるニャ」


ミキオ「それが歴史改変の影響だ。おれたちは直接関わったからしっかり覚えているが、無関係な者たちの記憶はどんどん薄れていく。まあこのガターニアが救われたからいいのだがな…ミキオⅡやガーラもだが、ペギーにはずいぶん助けられたよ。また何か預言が出たら教えて欲しい」


ペギー「はっはいなのです!」


ミキオ「…で、君はいつ帰るんだ? もしだったら逆召喚で送ってやるぞ」


 昨日はうちの事務所の客間に泊めてあげたが、さすがにこんな成人前の女の子にいつまでも泊まられると変な噂が立ちそうなのでハッキリそう言うと、ペギーはソファーから立ち上がって床に座して頭を下げた。なんだなんだ、なんで土下座なんてしてるんだこの娘は。


ペギー「わたしは昨日の戦いでミキオ先生の人柄に感じ入ったのです! 先生の門下に加えて欲しいのです!」


 またこの娘は何を言い出すやら…


ミキオ「いや、あのな、門下というが別におれは一門を構えているわけじゃないし、弟子も取ってない」


ペギー「魔人ガーラさんがいるのです」


 ガーラは太古の錬金術師が生み出したロボットだが今はうちの書生として玄関の掃き掃除をしている。


ミキオ「いやあれは書生として置いてるだけで…だいたい君は歳いくつだ。親御さんに無断で年頃の娘さんを預かるなんてできないぞ」


ペギー「24歳なのです! 子供ではないのです!」


永瀬「えっ!? 年上なの?」


ヒッシー「ていうかこの事務所にいる人間で最年長だニャ」


ザザ「エルフはこれがあるからなー」


 ちょっと驚いたが、別に日本でもこれくらいの童顔の人はいる。かつてAKB48に市川美織という人がいたが、この人は30歳過ぎても小学生くらいに見えていた。高校生に見える24歳なんて大して驚きはしない。むしろエルフとしては中途半端だ。100歳越えとかならもっといいリアクションが取れたのに。


ペギー「年齢なんてどうでもいいのです! わたしはミキオ先生の元で修行したいのです!」


ヒッシー「どうするニャ?」


ミキオ「うーん、まあ実際に彼女の預言は確かで、有用なのは間違いないんだよな…じゃとりあえずうちの事務所が経営してる“寿司つじむら”って店でホールのバイト募集してるから、そこで働く? 空いてる時間はこの事務所に来て仕事見てたらいい」


ペギー「はっはい! お願いするのです!」


 床に何度も頭をつけて頼み込むペギー。やれやれ、また面倒なのをしょい込んじまった。見渡してみればうちの事務所はギャルエルフに美人秘書にアイドルオタクに魔人、そしておれの複製人間に眼鏡エルフか、本当に何かの一門みたいになってきたじゃないか。




 ペギーは“寿司つじむら”預かりとし、おれはミキオⅡと秘書永瀬を連れておれの領地であるコストー地方ヤシュロダ村に“逆召喚”で来ていた。ここの村長であり神官のゾフト・ザラッダ氏はもうかなりの高齢なので神官仕事に専念してもらい、今後はミキオⅡを代官兼村長として任官し、同時に最上級召喚士事務所のコストー営業所を開設しその所長に就任させることにしたのだ。ひとり三役ではあるがのどかな村だし、神の子であるおれと同じ遺伝子を持っているので何とかなるだろう。


ミキオⅡ「ここがそのヤシュロダ村か…静かな村だな」


ミキオ「お前は東京で2週間暮らしていたからな。あっちと較べたら時間が止まってるような所だろう。これが代官所だ。以前はヤシュロダ神殿が村役場を兼ねていたのだが、ゾフト神官の勇退とともに政治機能は全部こちらに移管させた」


 おれたちが田舎の役所にしてはまあまあ立派な建物に入っていくと、中では20人ほどの役人たちが仕事をしていた。この人数でこの人口2万人ほどの村を回しているのか。感心しながら見ているとおれたちに気付いた役人たちがぞろぞろと席を立って挨拶に来た。


オッカー「御領主様、ようこそヤシュロダ村へ! 私はこの村の助役、オッカー・メガシーです」


 そう言って率先して肘突き(肘と肘を合わせるガターニアの挨拶)を求めてきたのはなんともニヤケた感じの背の高い青年だ。年齢はおれと同年代に見えるがこの若さで助役とは。


ミキオ「ずいぶんお若いようだが」


オッカー「いやっ、はは。24歳です。若輩ながら神官様に御推挙いただきまして」


 24歳。えらく若いが大丈夫なのか。まあ23歳で領主のおれが言うのも何だが。


ミキオ「そうか。よろしく。こちらは今日付けで代官として任命したミキオⅡだ。引き継ぎが終わり次第村長としても就任することになっている」


ミキオⅡ「よろしく。何もわからないので色々教えて欲しい」


オッカー「え? ああ、双子の弟さんがいてはったんですか…」


ミキオⅡ「まあそんなところだ」


オッカー「代官様、よろしくお願いします。裏の別棟が陣屋(代官屋敷)になっております。ご案内しましょう」


 おれたちは別棟に移動し、中に入った。王都にある召喚士事務所の2階にあるおれとガーラの生活空間よりも広くて立派だ。


ミキオⅡ「うむ、なかなか豪勢な屋敷だ。清潔なのもいい」


ミキオ「だな。じゃ明日から勤務してくれ。頼んだぞ」


ミキオⅡ「了解した。まあ週末は母さんたちも待ってるし、清瀬の実家に帰ることになると思うが」


 なにが実家だ。そこはおれの実家で、お前が生まれたのは南方大陸の錬金術師ノウ博士のホムンクルス研究施設だろうが。だいたい母さんたちがこいつを甘やかすから調子に乗って…と思っていると道路向かいから不機嫌そうな女がこっちに近づいてきた。


オッカー「ウララちゃん!」


ウララ「オッカー、その人が噂に聞く召喚士の御領主さん?」


ミキオⅡ「いや、領主はあっちだ。おれは代官」


ウララ「おっ同じ顔?! …双子? まあええけど、御領主とお代官が揃てるんやったら話聞いて欲しいわ」


ミキオ「あんたは?」


ウララ「うちはウララ・コースド。この商店街で飲食店をやっとるもんや」


 ウララと名乗ったその女はおれと同年代と言ったところか。可愛い名前に似合わずキツそうな目つき、ショートカットで身長が高い。エプロンをつけているが口調は荒く、いかにも世に物申したそうな顔つきをしている。


永瀬「あの、仕事中ですので簡潔に…」


 秘書の永瀬が止めてくれたが、女は構わず話を続けた。結構強引な性格のようだ。


ウララ「御領主! あんたマギ地方のウルッシャマー村ではギョウザとかいう名物料理を開発したらしいな! あっちもあんたの領地か知らんけど、贔屓はやめてや!」


 初対面だというのにフルスロットル。どこかの野党の女性議員みたいな猛々しさだ。正直言って苦手なタイプだが領主という立場上、無下に扱うわけにもいかない。


ミキオ「わかったわかった。君の言わんとすることはだいたいわかった。店が不景気なんだな?」


ウララ「…その通りや。うちとこに限らずここの商店街の飲食店は昔ながらの店ばかりでな、せっかく神殿がリニューアルして観光客が来はるようになったのにどこも全然客が入らへん。村外の人にアピールできる魅力ある料理がないんやろな。けっ!」


 なるほど、見れば確かに神殿は盛況なようで、それに繋がるこの商店街の人通りは少なくない。機会損失というやつで、この観光客が本来消費していくチャンスを逃しているのだとすれば相当もったいないことだ。


ミキオ「いいだろう。確かにここもおれの領地、領民の声には応えねばなるまい。ヤシュロダ村の名物料理、考えてみよう」


永瀬「また食べ物絡みの回になるのね」


 秘書の永瀬がなぜか面倒くさそうにつぶやいたところで次回へ続く。



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