第144話 大巨竜!異世界最大の決戦(第六部・完結編)
預言者見習いペギー・ソーヴァに降りた預言、それは北の果てアヴァ島の大巨竜と西の霊峰ジャビコ山の大巨竜がよみがえり、互いを求めて激突するというものだった。預言通り覚醒した2体の大巨竜は魔人ガーラとミキオⅡの活躍でそれぞれ活動停止に陥るも、海の大巨竜アヴァは翼を持った第二形態に進化し山の大巨竜に呼号するように飛来したのだった。
ミキオⅡ「海の大巨竜が進化した姿だというのか…く、ならば今度はヤツの体内に入るぞ!」
万物分断剣「待て! ジャビコの方を見よ!」
ミキオⅡ「む」
ミキオⅡが振り返ると活動を停止していた大巨竜ジャビコの背中の山が割れ、何かが出現しようとしていた。いくぶん小振りで後肢が長く俊敏そうな青い巨竜である。
ミキオⅡ「これは…」
万物分断剣「海の大巨竜アヴァに呼応して進化しているのだろう。さしづめ大巨竜ジャビコ・第二形態といったところか」
大巨竜ジャビコ「グォオオオオーーーーン!!!」
殻を脱ぎ捨て咆哮する第二形態の大巨竜ジャビコ。その後肢は強健に発達しており、俊敏な形態であることがわかる。顎には牙が立ち並び第一形態よりも戦闘に適しているようだ。空中で旋回していた大巨竜アヴァは、大巨竜ジャビコの脱皮が終わるのを待ち構えていたかのように爛々と眼を光らせ、ジャビコへ真っ直ぐに向かっていった。
大巨竜アヴァ「キシャアアアッッ!!!」
大巨竜ジャビコ「グォオオオオーーーーン!!!」
海と山、ふたつの大巨竜はためらいなく激突し、何度も噛み合った。互いを喰らおうとしているのだ。あまりの迫力にミキオⅡも万物分断剣も呆気に取られていた。
万物分断剣「なんとおぞましい…所詮は機械仕掛けの獣ということか」
ミキオⅡ「このまま潰し合いということなら楽でいいのだがな」
バシッ、ガツッと地を揺るがすような轟音を立てて2体の大巨竜は何度も激突し、やがて喰らい合ったまま固まり動かなくなった。
ガーラ「ミキオⅡ!」
その時、東北の空から飛行モードの魔人ガーラが飛来した。大巨竜アヴァを追って来たのだ。
ミキオⅡ「おおガーラ、とするとあの飛竜はやはり」
ガーラ「うむ、おれが戦っていた大巨竜アヴァが変貌したものだ。しかしこれは…」
ミキオⅡと魔人ガーラが見下ろすふたつの大巨竜はもはや微動だにせずひとつの金属塊となって荒野にどかりと鎮座していた。
万物分断剣「このままでは終わるまい」
ミキオⅡ「うむ。預言とやらも気になる」
ガーラ「ならばおれたちで片付けてしまおう。宇宙に放り投げてもいい」
ミキオⅡ「なるほど、いいアイデアかもしれない…しかしこの重量を持ち上げて大気圏突破とは…ぐふっ!!」
ガーラ「ミキオⅡ!」
不意に大巨竜塊に接近したミキオⅡがいきなり吐血した。彼の心臓の位置を狙った衝撃波が直撃したのだ。衝撃波を放ったのはかつて大巨竜であった金属塊を内側から破りその身を浮かび上がらせた、人間大で尾のある人型タイプの人造生物であった。
ミキオⅡ「…す、すまない、油断した…」
ガーラがミキオⅡに飛び寄るが見た目にも重傷なのがわかる。バケツをひっくり返したような出血量だ。
ガーラ「クリスタライザー!」
ガーラの得意技であるクリスタライザーを放ち、ミキオⅡは水晶化した。これによって少なくとも出血は止まる。
ガーラ「しばし眠れ、ミキオⅡ。貴様、何者だ!」
大巨竜「余は万年の時を経て過去世より蘇りし大巨竜、その完成体である。いわば真・大巨竜。太古に失った半身を得てようやくこの形態に進化することができた」
万物分断剣「…完成体だと?!」
大巨竜「余は外宇宙の高度な文明圏が作り上げた宇宙移民船にして民族守護ロボット。だがこの惑星に不時着し、体をふたつに分かたれて機能停止していたのだ。復活と最適化に1万年かかったがようやく完成体となった。この惑星を我が民の住みよき環境に変えるため、全生物の粛清を行なう」
2本の角、緑色の体、長く鞭打つ尻尾と異様な風体の大巨竜は空中で浮遊したまま敢然と言い放った。
ガーラ「…いま貴様が撃ったのはおれの仲間、おれを修羅の道から救ってくれたミキオの分身とも言える存在だ。そのうえ全生物の粛清とは聞き捨てならない、そんな所業をこの魔人ガーラが見逃すと思うか!」
大巨竜「良かろう。ではこの星の粛清は君から始めよう」
ふたつの大巨竜の完成体、真・大巨竜はゆっくりと右手を天に掲げガーラに近づいてきた。ガーラは身じろぎせず傍らの万物分断剣を手に取り正眼に構えた。
ナイヴァー「そこまでだガーラ。君も先程ダイガーラとなってマッハマー沖で戦ったばかり。ベストコンディションではないだろう」
ガーラと大巨竜の間合いを遮り、幻影をまとって魔導十指の貴公子ナイヴァーが現れた。続いて“聖賢”カグラム、“月光卿”ナスパ、“医療神君”ニノッグス、絢爛たるマイコスノゥ、嵐のフュードリゴ、鉄壁のアルゲンブリッツ、“怪腕坊”カンダーツ、“マスター・エクソシスト”シャルマンすなわちミキオを除く魔導十指全員がそれぞれの移動魔法で登場した。
ガーラ「魔導十指!」
万物分断剣「 来てくれたか」
ニノッグス「ミキオの2号が私の工房にハイパーポーションを求めて来たから事態の深刻さは伝わった」
シャルマン「大巨竜なる存在、フノリー・ソーヴァならびにその曾孫ペギーの預言を信じるならばこのガターニアに災厄をもたらすもの」
ナスパ「我ら魔導十指、このガターニアを守護する者として看過できない。この場できみを処罰する」
魔導十指たちは瞬時に大巨竜神を取り囲み、それぞれが呪文を詠唱しながら攻撃魔法の準備に入った。
カンダーツ「怒気来臨溟溟霊形、八臂怪腕衝!!」
どががががが! 怪腕坊カンダーツの背中からエネルギー体の巨大な腕が左右4対、千手観音のように生えて大巨竜に連続パンチを喰らわせた。
ナスパ「月光突棘!!」
ばしゅうううっっ! ナスパの全身が満月の如く白銀色に輝き、伸ばした右腕の指からレーザー状の細い光線が大巨竜の塊に向けて放たれた。
ナイヴァー「幻影破壊光破!!」
シュピーーーッ! ナイヴァーはオッドアイである両目から幾重にも絡み合った赤と青の光線を発射した。最高位の魔道師3人の波状攻撃により大巨竜は爆煙にまみれ見えなくなった。
ガーラ「やったか…!」
だがその刹那、爆煙の中から二条の衝撃波が放たれ、円陣を張っていた“嵐の”フュードリゴと“医療神君”ニノッグスの体を直撃した。
フュードリゴ「うぐっ?!」
ニノッグス「くぬうっ?!」
シャルマン「フュードリゴ、ニノ!!」
大巨竜「くふふっ…!」
爆煙が晴れるとその中から出現したのはまったくの無傷の大巨竜であった。防御力と回避力、そして攻撃力と全てにおいて大巨竜神は魔導十指たちの力を上回っていた。
大巨竜「やれやれ、これがこの星で最強最高位の魔導師とは。余の大粛清のプロローグとしてはいささか物足りぬではないか」
シャルマン「おのれ、やすやすと…」
カグラム「かくなる上は我らの魂そのものを弾丸と変え、彼奴にぶつけてくれようぞ」
ナイヴァー「良かろう。覚悟は決まった!」
魔導十指たちがそれぞれの必殺技のモーションに入ったその時、時空の壁を越えて紫色の炎とともにハイエストサモナー、すなわちこのおれが逆召喚によって出現した。
ミキオ「お待たせした」
ナスパ「ミキオ!」
ガーラ「ミキオ、MPは…」
ミキオ「王都に未開封のハイパーポーションを持っている人がいて譲ってもらった。急を要するようなのでな」
アルゲンブリッツ「どうやってそんな人を探し当てたのだ?」
ミキオ「簡単なことだ。ハイパーポーションを持っている者を、と召喚しただけだ」
おれはゆっくりとあたりを見渡し、状況を確認した。ミキオⅡは水晶化し、嵐のフュードリゴと医療神君ニノッグスは重傷を負って倒れている。
ミキオ「やはり戦わなければならないか…」
大巨竜「ほう? そなた先程倒した魔導師と同じ顔だな。では期待できそうにないが」
ミキオ「待っていろ。お前には話がある。ダ・ガイ・ヴァーマ・ヒース…我が意に応え此の者の時を巻き戻せ。聖賢カグラム、絢爛たるマイコスノゥ、ミキオⅡ、マイナス20分間!」
ひゅばあっっ! ブラックカードの魔法陣から白い炎が渦を巻いて噴き上がり、その中から同色の光弾が飛び出してフュードリゴ、ニノッグス、ミキオⅡに直撃、彼らの肉体は強烈に発光しやがて20分前の傷ひとつない姿となって甦った。これでおれのMPは3分の1以下となってしまった。
フュードリゴ「む…!」
ニノッグス「ミキオ、感謝する」
ミキオⅡ「馬鹿め、おれの蘇生なんかに貴重なMPを使って…これでブラックカードはもう使えない。他に何か策があるのか…!」
おれは大巨竜に向き直り、決然として言った。
ミキオ「大巨竜よ、お前の目的はわかった。だがお前の守護すべき民たるアヴァ・シマーラ族は既に我がツジムラ伯爵領で暮らす決意をしたようだぞ」
大巨竜「なに、彼らが!? 貴様、勝手なことをするな!」
ミキオ「アヴァ・シマーラ族とて既にこの星の住民。お前の過度な守護などもはや必要ないのだ。エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、始祖アヴァ・アヴァ!」
おれの赤いサモンカードに描かれた魔法陣から紫色の炎が舞い、その中から異文明の科学者といった風貌の壮年男性が出現した。
始祖アヴァ・アヴァ「む、ここは?!」
始祖アヴァ・アヴァ、アヴァ・シマーラ族の神話に登場する一族の始祖である。1万年前から召喚された。
ミキオ「おれはあれから長老やダイク教授と話し合い、アヴァ・シマーラ族の神話を分析しある結論に至った。アヴァ・シマーラ族とは1万年前に外宇宙からやってきた高度文明圏の移住者の末裔、大巨竜とはその宇宙船であり自在に変形し進化する守護神のようなものなのだ。そして一族の始祖アヴァ・アヴァこそがこの人だ。ようこそ始祖アヴァ・アヴァよ、ここは1万年後のガターニアだ」
始祖アヴァ・アヴァ「なんと」
ミキオ「あなたが作り上げた大巨竜、民族の守護神は自己進化の果てにあのような姿となってこの惑星の生物を滅ぼそうとしている。これはあなたの望んだことなのか?」
始祖アヴァ・アヴァ「馬鹿な、私はこの星で我が一族が健やかに暮らせるようにと願いマシンの蘇生プログラムを組んだのだ」
ミキオ「1万年ののち、あなたの一族は細々とながらも連綿と子孫を残している。あのようなマシンは必要ない」
大巨竜「貴様、何を言っている!」
始祖アヴァ・アヴァ「おっしゃる通りだ。私は間違っていた。過去に戻ったらすぐにあのマシンの蘇生プログラムを消去しよう」
始祖アヴァ・アヴァがそう宣言した瞬間、大巨竜の体がすーっと消えていった。歴史が改変され、現代に影響が及んだのだ。大巨竜こと民族守護マシンの蘇生プログラムが1万年前の段階で消去され、大巨竜の進化の道は絶たれたことになる。
大巨竜「ば、馬鹿な! 余の野望が、こんな一瞬で…」
ミキオ「おれの召喚魔法にはこういう使い方もあるということだ。始祖が説得可能な相手で良かった。さらばだ大巨竜。安心しろ、お前の臣たるアヴァ・シマーラ族は必ずおれが末代まで保護する」
歴史が改変されたため、アヴァ島も霊峰ジャビコ山も元通りとなった。1万年前は宇宙船兼民族守護マシンだったが、蘇生プログラムが消されたためこのまま竜化せず島あるいは山として永きに渡ってガターニアに存在していくだろう。大巨竜をめぐるおれたちの戦いはこうして人知れず終わった。
アルフォード「ミキオ! 貴様、大巨乳と対決したらしいな!」
国王やペギー、魔導十指など深くかかわった者を除き、歴史が改変された影響で大巨竜のことは民衆の記憶から忘れられた。ただ、この男のようにかすかに残った記憶の断片を他の言葉に再構築する者もいたようだ。
ミキオ「知らん知らん。一切知らん」
アルフォード「またまた! 友達じゃないか、大巨乳と対決したとはどういうことなんだ、教えてくれよ!」
ニヤニヤしながらうちの事務所に入ってくるアルフォード。この男は皇族だというのになんでこんなにゲスいのか。本当の事を言ってもいいのだが長くなるし、どうせ途中から面倒くさくなって話を聞かなくなるだろうし。
バッカウケス「ツジムラ伯爵! 君はまた何かバストの大きな女性と問題を起こしたらしいな、うらやまけしからんじゃないか!」
バッカウケスも本音を漏らしながら眼を吊り上げて鼻息荒くして事務所に入ってくる。今回はこの異世界ガターニアにとってわりと重要な戦いだったと思うが、終わってみれば妙にスケールの小さな話に収まってしまった。まあ平和で何よりだ。