第142話 大巨竜!異世界最大の決戦(第四部)
大預言者フノリー・ソーヴァの預言、それは北の果てアヴァ島の大巨竜がよみがえりガターニアに大いなる災厄をもたらすというものだった。おれは王命により調査団を結成しアヴァ島に赴くが、なんとその島は海面上に露出した大巨竜の背の上そのものだったのだ。
ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、アヴァ島に棲む両生類と爬虫類、哺乳類すべて!」
こんな分類学的な召喚をしたのは初めてだが、サモンカードは無事に反応し、紫色の炎がかつてないほど広大にひろがりその中から島にいた人間を含む哺乳類と爬虫類、両生類すべてがこの地に召喚された。翼を持つ鳥はさておき、地を這う昆虫やミミズ等は救えなかったが、召喚できる数にも限界があるのでやむを得ない判断だった。それでも島のネズミや兎、鹿なども含め何十万もの動物をすべて召喚したのでおれのMPはもう空っぽになってしまった。
ワッパーニ「こ、ここは…!」
長老「なんと温暖な地…!」
ミキオ「はあっ、はあっ…も、もう安心だ、ここはあの海域から遠く離れたマギ地方ツジムラ伯爵領…今後はここで暮らしてくれ…」
MPを使い切ったおれはHPの方もほとんど残っておらず、芝生の上にばたりと崩れ落ちた。
ペギー「召喚士様っ!」
ミキオⅡ「オリジナルよ、倒れている場合ではないぞ。王国に災厄をもたらすという大巨竜は目覚め、今まさにこの中央大陸に向かっているのだからな」
確かにそうだが、全力を尽くして何十万もの生命を救った直後のおれに対してもうちょっと言い方というものがあるだろう。本当にこの男は思いやりがないな、まあおれの分身なのだが。
ミキオ「ミキオⅡ、お前の転移魔法で国王に報告してきてくれ…重魔法兵団を出動させ、北方海沿岸部の住民を避難させろと」
ミキオⅡ「うむ」
ミキオ「それと、魔導十指の医療神君ニノッグスに言ってハイパーポーションを貰ってきてくれ…あれがあれば一気にフルチャージできる…」
ミキオⅡ「わかった。おとなしく待っていろ」
ミキオⅡは相変わらず無愛想に答え、首から下げたチェーンネックレス型の魔法装具を持ち上げて呪文を詠唱し始めた。
ミキオⅡ「ほとばしれΛ(ラムダ)! いにしえの契約にのっとり、我をかの地に転移せよ! 王都フルマティ、ケンチオン宮殿!」
ミキオⅡは王に会うため転移した。対するおれの方はもう限界だ。かつてない規模の召喚魔法にMPのすべてを捧げたため疲労感と空腹で足腰が立たない。つくづく因果な体だ。
ミキオ「教授、あとは頼みます…」
おれは猛烈な睡魔に襲われ、その場で眠り込んだ。
その頃、惑星ガターニアの北半球を覆う大洋である北方海のマッハマー沖では完全に覚醒した大巨竜が中央大陸に向けて進攻していた。首と尾の長いドラゴン体型で、短い四肢はあるが海蛇のように全身をくねらせて泳ぎ進んでいる。鼻先から尾の先端までの長さは4〜5kmもあろうか。飛行形態の魔人ガーラと万物分断剣は海抜7000mほどの位置で滞空し眼下に大巨竜を見下ろしていた。
ガーラ「なんという巨大さだ、まるで陸地が動いているようではないか」
万物分断剣「預言通り、真っ直ぐに中央大陸を目指している。このスピードならばあと半刻間(1時間)もあれば大陸沿岸に到達するであろう」
ガーラ「いったい何物なのだこいつは。竜と言うがこんなにも巨大な生物が何を喰ってこの巨体を維持しているというのか…調べてみよう。BB、君は待機していてくれ」
ガーラは第四の形態、魚竜のような水中形態に変形し海中に潜航した。
ガーラ「パッシブソナー開始!」
水中形態の背びれを展開しソナーアンテナのように変え、海中音波を拾うガーラ。これによって大巨竜の心臓の鼓動音を感知し、生体データを得ようという算段だ。だが一向に心臓の鼓動音が聴こえてこない。そんなわけはない、どんな生物であれ心臓は備っている筈、でなければ全身に血液を巡らすことができない。ましてやこれだけの超巨体、心臓の大きさだけでも並のドラゴンほどもあるだろうに…。
そこまで考えてガーラはハッと気づき、水中からざばりと浮上し空中で魔人モードとなった。
ガーラ「そうか! わかったぞ! この大巨竜はおれと同じ人造機械なのだ!!」
ガーラは古代エッゴ文明の錬金術師が作り出した人造魔人、すなわちロボットである。しかも体内に永久機関という貴重なエンジンを搭載しているためにエネルギー切れを起こすことがない。おそらくはこの大巨竜も同様、体内に永久機関かそれに近いエンジンを搭載しているのだろう。
万物分断剣「なるほど…それならばあの大巨竜がミキオの召喚魔法に応じなかったのも納得がいく。ミキオの召喚魔法は魂無き者を召喚することはできぬからな」
ガーラ「その通りだ。おれがミキオの召喚魔法に応じることができるようになったのは魂の代替品である魔石を内蔵しているからだ」
眼下の大巨竜は移動しつつもこちらを警戒し、時おり牽制のレーザービームを触手から放ってくる。
ガーラ「同じ人造機械ならば戦いようがある。BBよ、君はミキオのところに戻り、このことを伝えてくれ。おれの肚は決まった。この魔人ガーラの第五形態をお見せしよう。対巨敵形態、ダイ・ガーラ!!!」
ガーラがそう叫ぶと近くにあった岩礁や海底の遺跡などが次々と浮上し、空中でガーラの体にガシャガシャと張り付いていき、やがてそのボディは巨大化したガーラそのままの形態となった。大きさは500mほどもあろうか、直立しているため大巨竜に見劣りしないサイズである。
万物分断剣「おお、おぬしにこのような技が…!」
ガーラ「大巨竜、上陸だけはさせん! ウォオオーーーーーッッ!!!」
ガッシャァァァン! 大海を揺るがすような轟音と波しぶきを立てて大巨竜と巨大魔人が真正面からぶつかった。
一方、ミキオⅡは転移用の魔法装具を使い連合王国の国王に事態を報告、そしてシンハッタ大公国に住む魔導十指のひとり“医療神君”ニノッグスと会いウルッシャマー村に帰還していた。出発から帰還までわずかに30分、ミキオⅡの名に恥じない迅速な活躍ぶりである。その間、おれは仮眠と食事によってゲージ10分の1くらいにはMPを回復させていた。
ミキオ「ご苦労だった。ハイパーポーションは?」
ミキオⅡ「ちょうど在庫切れらしい。ニノッグスの弟子たちが総出で作っているが完成するのは週明けになるとのことだ」
医療神君ニノッグスは魔導十指のひとりで、多くの弟子を持つ心霊医師兼薬師である。彼の作るハイパーポーションは日本円にして1本4万円ほどと高価だが、おれの膨大なMP容量を一気に満たす効能があるのだ。
ミキオ「ではブラックカードは使えないな。あれが使えればだいたいの敵は倒せるんだがな」
ブラックカードこと黒のハイエストサモンカードはおれがオリンポスに行った時にゼウスから授かった“神々の装具”である。おれの持つアイテムの中でも最強の切り札であり、どんな対象でも時間を早送りしたり巻き戻ししたりできるのだが、赤のサモンカードの1万倍のMPを召喚するため、MPがフル状態の時しか使用できないのだ。
ミキオⅡ「ノウ博士から聞いたことがある。大邪神ノグドロの時間を6兆年分召喚して滅ぼしたそうだな。ならばお前は明朝まで王都に帰って食事と休息、あと風呂にでも入ってMPを回復させていろ。おれはマッハマー沿岸に趣きガーラたちとともに大巨竜上陸阻止作戦に加わる」
ミキオ「それがいちばん合理的なようだな」
ダイク教授「ツジムラ伯爵、お力になれず申し訳ない」
ミキオ「いえ、島民たちと友好的に接触できたのは教授のおかげです。彼らにはここでの生活に慣れてもらうしかないが、教授はおれと一緒に王都に戻りましょう。ペギー、君もだ。次の神託が降ったらすぐに鳩で知らせてくれ」
ペギー「わ、わかったのです」
しかしその刹那、再びペギーの体が空中に浮遊し、眼が赤く発光した。2度目だがこの唐突さにはなかなか慣れない。
ペギー「…我はガターニアの守護祖神アール・ビル・レクス…預言者見習いペギー・ソーヴァの口を借り、みたびここに託宣する」
ダイク教授「き、来ましたぞ!」
ミキオ「まとめて言ってくれればいいのに…」
ミキオⅡ「オリジナル、失礼だぞ」
ペギー「ジャビコ聖国にてもうひとつの大巨竜が目覚めたり。数多の国境を越えアヴァとジャビコ、ふたつの大巨竜が互いを求め激突す。勝者が敗者を喰らい、その暴悪なる力によりて人類と敵対せん」
ダイク教授「も、もうひとつの大巨竜だと?!」
ミキオ「なんだと…」