第140話 大巨竜!異世界最大の決戦(第二部)
王宮で国王への直訴を求めていた少女、それは大預言者フノリー・ソーヴァのひ孫で預言者見習いのペギーだった。北の果てアヴァ島の大巨竜がよみがえり連合王国に災厄をもたらすとの預言を聞いた国王はおれに調査団の結成を依頼するのだった。
ミキオ「…と、言うわけで諸君に集まって貰った。ハーヴィー・ターン将軍やその部下も参加したいと言ってきたが彼らは魔法が使えないので遠慮して頂いた。まずはおれ、最上級召喚士ことミキオ・ツジムラ。芸能かわら版に書かれていることはすべてデタラメなので信用しないように」
おれは出陣前にメンバーを事務所に集めて訓示を垂れていた。長旅になる可能性もあるので大量の食料をマジックボックスに入れておいた。なに、足りなければおれが“逆召喚”で取りに来ればいいだけだ。
ミキオ「次に、魔人ガーラ。うちの事務所の書生で先史エッゴ文明が生んだ地上最強の魔導師だ。6つのモードに変形できるので空と海を探索してもらう」
ガーラ「任せておけ!」
ガーラは本来戦うために作られたロボットなのでこういう状況になるとがぜん燃える。今日は朝から気合を入れて全身の装甲を磨いていた。
ミキオ「そしてミキオⅡ。おれの複製人間でハイエストサモナー2号だ。おれに近い能力が使えるので空からの探索を分担してもらいたい」
ミキオⅡ「うむ」
ミキオⅡは日本での楽しい実家暮らしから呼び戻され、やれWi-Fiが来てないだのネトフリが観れないだのと文句ばかり言っていたが、切り替えて覚悟を決めたようだ。しかしこの男はなんというか、正直もうちょっと愛想良くてもいいんじゃないのか。偉そうでスカした男だなと思うが実際にはほとんど自分自身なので何とも歯がゆい。
ミキオ「そして今回特別に参加してもらった王立王都大学の文化人類学教授、ヴァン・ダイ・ダイク先生。アヴァ島には過去にフィールドワークで行かれているそうで、あの島に行ったことのある数少ない人間のひとりだ。現地を巡るに当たって必要不可欠な人材なのでお越し頂いた」
ダイク教授「いやぁ、この齢になってまたアヴァ島に行くことになるとは思いもよらんことでしたわい」
ダイク教授は70歳すぎの爺さんで、学問に生涯を捧げたような実直そうな人物だ。高齢だが足腰は丈夫だとのこと。
ミキオ「最後に、預言者見習いペギー・ソーヴァ。いつまた神託が降りるかわからないということで参加してもらった。ダイク教授とこの娘はまったくの非戦闘員だが、いざとなればおれが全力で守るので安心して欲しい」
ペギー「よろしくなのです」
長命種のエルフなので実際の年齢はわからないが、高校生くらいに見えるこの娘が健気なことにおれたちに同行したいと言っている。使命感の強い娘なのだろう。
ダイク教授「いやぁ、最上級召喚士とその複製人間、それに古代文明の人造魔人が仲間とは、心強いことですのう」
ミキオ「おれからしたら教授こそ心強い存在です。準備が整ったら行きましょう」
ダイク教授「して、船はどちらに」
ペギー「わたしは船酔いするので心配なのです…」
ミキオ「いや、このハイエストサモナーに船など必要ない」
おれは青のアンチサモンカードを取り出し、逆召喚の呪文を詠唱した。
ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我ら5人、意の侭にそこに顕現せよ、アヴァ島!」
おれたちはおれの秘術、“逆召喚”と呼ばれる転移魔法によってこの惑星の北方の果て、アヴァ島と呼ばれる絶海の孤島に出現した。尖った小さい山がギザギザに並び、地面には短い芝が生え、潮風がひゅうひゅうと吹きすさぶ荒涼たる大地である。
ペギー「ほえ〜!」
ダイク教授「あの山々の稜線の形、特徴的な針葉樹林、そして海原に広がる恐るべき波濤、おそらく、いや間違いなくここはアヴァ島…! 巨大な魔法陣も生贄の子羊も用いず一瞬にして転移とは、さすが最上級召喚士という他ないわい…!」
ミキオ「時間がない、さっそく調査を始めよう。ガーラとミキオⅡは空中から調べてくれ」
ガーラ「心得た、ジェーット!」
ガーラは飛行モードに変形しすぐ飛び立っていった。
ミキオⅡ「讃えよΣ(シグマ)、ネルフェリスの架空台座!」
ミキオⅡが聞いたこともない呪文を詠唱しポケットから金貨を取り出すと、その金貨が中心となって空中でビーム状の魔法陣を発生させ、ミキオⅡがそれに乗ってそのまま飛んでいった。ミキオⅡはおれに及ばぬ能力を補うために様々な魔法装具で武装しているのだ。
ペギー「ほぇ〜…」
ミキオ「さて、我々は地上を調査しましょう。原住民との接触はなるべく避けたいところだが…」
ダイク教授「いや、それは難しそうですわい」
刹那、草むらからズサッと立ち上がる異様の戦士たち。全員が半裸だが緑色にボディペインティングし、槍や石斧、ブーメランなどで武装している。50人はいようか、おれたちはいつの間にか取り囲まれていた。
ダイク教授「この島の原住民、アヴァ・シマーラ族。いわゆる“非接触部族”で、外界との接触を極端に避けている部族です」
ペギー「へにゃああ〜!」
これは良くないな。彼らの緊張感が伝わる。下手な動きをしたらすぐに槍が飛んできそうだ。現代の地球に於いてもペルーのマヌー国立公園に住むマシコ・ピロ族やアンダマン諸島北センチネル島に住むセンチネル族などの“非接触部族”が存在し、外界との接触を拒み孤立した生活を送っている。2018年に北センチネル島住民に接触を試みた無謀なアメリカ人宣教師は上陸後すぐにセンチネル族に殺害され、遺体の回収に向かったヘリコプターまでも矢で攻撃されるため未だに回収できていないという。
ダイク教授「大声を出してはなりませんぞ」
息詰まるような沈黙が続く。四方からの尋常ならぬ殺気。この島に来て数分しか経っていないのに最悪の“最初の接触”になってしまったのか。何の罪もない未開部族との戦闘などやりたくないが、多少はこちらの力を見せつけてやらなければならない。おれは心ならずも胸ポケットから赤のサモンカードを取り出した。