表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/223

第139話 大巨竜!異世界最大の決戦(第一部)

 異世界133日め。おれは王国議会議員として王国議会に出席していた。議会の開催中は毎日2時間近く時間を取られてしまうのだが、これも貴族の仕事なので仕方がない。議会が終わり旧知のバッカウケス侯爵と共に議事堂を出ようとしたその時、近衛兵たちともめている女の子がいるのが目に入った。


近衛兵A「とにかくダメなの! 急に直訴なんかできないから!」


ペギー「お願いなのです、すっごく大事な話なのです!」


バッカウケス「なんだアレは」


 バッカウケスは訝しんでいたが、おれは構わず割って入った。


ミキオ「まあまあ、いったい何事だ」


近衛兵A「あ、これはツジムラ伯爵」


近衛兵B「この娘が国王陛下に奏上したき事があると申しておりまして…」


 近衛兵ともめていたその薄汚れた娘はオレンジ色の髪に眼鏡をかけており、只人(ヒューマン)なら高校生くらいに見えるが耳の形状からしてどうやらエルフだ。155cmくらいの華奢で小柄な体を黒いマントで腰まで覆っている。


ペギー「ほんとにほんとに大事な話なのです!」


近衛兵B「そう言われてもねえ」


ミキオ「なんだかわからないが、急に来て国王が会ってくれる筈がないだろう。話ならおれが聞こう」


バッカウケス「伯爵! こんな怪しげな子供の話を真に受けてどうする!」


ペギー「あっ怪しくないのですっ!」


ミキオ「ま、いいから。うちの事務所がすぐだからそっちで聞こう。それで納得したらおれが国王に取り次いでやる」


ペギー「お願いするのです」


バッカウケス「まったく君は警戒心がないな! もしこれが子供に化けたモンスターだったらどうするんだ!」


ミキオ「なに、その時は召喚魔法で片付けるだけだ」


 こうしておれはこの見知らぬ少女を“逆召喚”で事務所に連れて行った。




ミキオ「というわけで、何か可哀想だったから連れてきた。君、名前は」


ペギー「ペギー・ソーヴァ。タートルダ地方オギソーニェ村の大預言者フノリー・ソーヴァのひ孫娘で預言者見習いなのです」


 はぁ、預言者か。『預言』とは予言と異なり、神からの託宣を“預かる”能力のことだ。古代日本の卑弥呼もそうだが、かつてはシャーマン(祈祷師)がトランス状態に陥ることで神の言葉を話すと信じられ、その神託によって政治が左右されていた。現在も北朝鮮ではシャーマンが特別書記となり金正恩総書記に助言を与えているという。言うまでもないが東大理工学部を卒業したおれはまったくの唯物論者であり、この異世界に来る前は預言や祈祷などという非科学的なものには一顧だにしなかったが、転生しておれ自身が神の子であるとわかり実際にゼウスやパシリスなどのオリンポスの神々と会ってからは一切無価値だと決めつけるわけにもいかなくなった。


ミキオ「フノリー・ソーヴァ…」


永瀬「ザザ、知らないの? あなたの同族でしょ」


ザザ「聞いたことねえなー」


 秘書の永瀬一香から訊かれ、事務員のザザがぱんぱんと2回柏手を打って神棚に尋ねた。


ザザ「BBの爺さん、知らねえか? フノリー・ソーヴァだってよ」


 柏手に応え、神棚に上げてあるBBこと万物分断剣がカタカタと揺れて喋りだした。普段は寝ているが、この剣には2千歳で死んだ大魔導師ジョー・コクーの魂が入っているのだ。


万物分断剣「ふむ、その名は聞いたことがある。タートルダ地方の山奥に住んでいたホーリーエルフの隠者で、ときおり神託を受けて預言していたとか」


ペギー「ですです。わたしはそのひ孫で直属の後継者。今朝ひいおばあ様に神託が降りたのです。早く王様に伝えないと大変なことになるのです!」


ヒッシー「語尾が気になる子だニャ」


ザザ「お前が言うな」


ミキオ「大変大変て、一体何があると言うんだ」


 若き預言者見習いペギーは居を正し、眼鏡を持ち上げて曾祖母の預言を口にした。


ペギー「えとえと、アヴァ島の大巨竜が復活してこの連合王国に大いなる災厄をもたらすのです!」




 数分後、おれは再びペギーを伴って王宮に戻り謁見の間で国王および宰相、侍従長と会っていた。


ミキオ「…というわけで、内容的に放置もできんようなので奏上させてもらいたい」


ペギー「ひいおばあ様は足が悪いのでわたしが代理として参りました。世紀の大預言者フノリー・ソーヴァの預言なのです、疑う余地はないのです!」


国王「預言のう…」


宰相「偉大なる預言者フノリー・ソーヴァの名は私も幼い頃に聞いたことがあります。いにしえのホーリーエルフの末裔で、大火災や大水害をことごとく預言したとか」


 この中央大陸連合王国の宰相であるヨノーズア・ クモガーク氏は長命種のノームであり180歳を越える年齢だ。その豊富な知識を活かして王家3代に仕えている。


ペギー「ですです!」


国王「しかしのう。そんな大層な預言者がおるのならなんで先の大邪神大戦を言い当ててくれんかったのだ」


 国王がもっともな疑問を呈した。


ペギー「預言は予言と違い神様から言葉を預かるものなのです。その神託は突然降りてくるもので、わたしたち人間に都合のいいものではないのです」


国王「ふぅむ…」


宰相「アヴァ島とは海の果て、ザド島国よりももっと北、このガターニアの最北端にある島です。統治する政府も君臨する王もなく、500人ほどの未開部族が住んでいるとか」


国王「なれど巨竜ならぬ大巨竜、それもこの王国に大いなる災厄をもたらすとあっては看過できぬ。海軍から調査船団を編成し派遣せよ…と言うべきところだが、我が王国には幸いにしてハイエストサモナー、ツジムラ伯爵がおるでな」


 ここぞとばかりにニヤリと笑う国王。


ミキオ「ああ、まあ確かにこの世界の最北端と言えどおれなら一瞬で行けるし、大巨竜と言えど召喚魔法を使えば造作なく始末できるがな…」


 どうせ言われると思ったのでおれは素直にそう答えた。面倒事が起きる前におれが片付けるのがどう考えても最適解だ。厄介だが仕方がない。おれは白い召喚士コートの胸ポケットから青のアンチサモンカードを取り出した。


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我、意の侭にそこに顕現せよ、アヴァ島に棲む大巨竜の近く!」


 だがカードの魔法陣は何も反応しない。この無反応さは魔法障壁の類でもない。


ミキオ「…つまり、アヴァ島の大巨竜なるものはとっくに死んでいるか、まだ生まれていないか、あるいはもっとシンプルに大巨竜なんてものは最初から存在しないかのどれかということだ。おれの召喚魔法は魂無き者には適用されないからな」


ペギー「存在するのです! 預言は絶対なのです!」


ミキオ「…となると、現地まで原因を探りにいかなければならないが…」


国王「伯爵、どうか頼まれてくれぬか。派遣調査隊のメンバーは伯爵が自由に選んでくれていい。民間人を徴発しても構わない。全員に特別褒賞を取らす。そしておぬしは侯爵に昇進だ」


ミキオ「いやもう陞爵はいい。侯爵なんて、大貴族じゃないか」




 未開部族しかいない島になんて全然行きたくないが、客観的に考えてこの任務をこなせそうな人間がおれしかいない。不承不承ながら北の果てアヴァ島に行く決意をしたおれだが、行くに当たって調査団のメンバーを選定しなければならない。何せ過酷な任務だ。行ける人材は限られている。おれは青のアンチサモンカードを使い、実家のある地球の東京都清瀬市の市街地に“逆召喚”した。


ミキオ「おれだ、入るよ」


 実家のチャイムを一応押して、おれは玄関の鍵を開けて入って行った。


由貴「あら、ミキ次郎ちゃん。今日は帰るの早かったのね」


ミキオ「…おれ三樹夫なんだけど」


 先の破滅結社メンバー、マレンドレム・ノウとの戦いでおれと対決したおれの複製人間、それがミキオⅡと名を変えてこの実家に預けてあったのだが、母親は勝手にミキ次郎と呼んでいるらしい。


由貴「えっ、三樹夫の方?! やだ早く言いなさいよ」


治八郎「おっミキ次郎、今日はもう図書館終わりか。今日は爺ちゃんが碁を教えてやるからな」


ミキオ「いや、おれは三樹夫! 爺ちゃんまでミキオⅡをミキ次郎って呼んでんのか」


治八郎「なんだ、三樹夫の方か…」


 なんだなんだ、何で本物のおれだと不満げなんだ。


ミキオ「ミキオⅡに用があって来たんだ。あいつは今どこ?」


由貴「いつも開館から閉館まで図書館にいて勉強してんのよ。本当に勉強熱心よ」


 なるほど、おれの言いつけを守ってくれているらしい。ミキオⅡはおれの遺伝子情報から作られたホムンクルスだが、誕生したばかりで圧倒的に知識が不足しているので図書館に通って勉強しろと言いつけてあったのだ。おれと同じ頭脳のあいつならさぞや知識を吸収してくれていることだろう。


ミキオ「時間がない、呼びつけよう。エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、ミキオⅡ!」


 もしかしたらミキ次郎と呼ばないと召喚されないんじゃないかと一瞬思ったが、当然そんなこともなく赤のサモンカードはミキオⅡを出現させた。


ミキオⅡ「オリジナルか、久しぶりだな」


 13日ぶりに会ったミキオⅡは実家に残したおれのカーゴパンツを勝手に履いて耳にAirPodsを付けており、すっかり日本に馴染んでいるようだ。見たこともないバンドTシャツを着ているが、こんなのどこで買ったんだ。魔法装具である炎の指輪や召喚腕輪などはそのまま付けているがこのカジュアルさだとヒップホップ系のゴールドアクセにしか見えない。


ミキオ「お前、この生活をエンジョイしているようだな…」


ミキオⅡ「うむ。日本は素晴らしい。やよい軒もあるし松屋もある。古着屋巡りも楽しいし80年代シティポップもエモい。漫画も最高に面白い。それに母さんの料理も美味い」


由貴「ま、ミキ次郎ちゃんたら♡」


 ヤバいなこいつ。すっかり弛緩しているじゃないか。つい2週間前まで破滅結社の手先としておれと戦ったが改心し、おれの分身となると誓ったことを忘れたのか。


ミキオ「ミキオⅡよ、時は来た。おれとともにガターニアに帰り本来の役割を果たすのだ」


ミキオⅡ「えっ! もうか? 早くないか?!」


ミキオ「早くない。当初は1週間ほどと言っていたのにもう13日も経ってしまった。研修期間としては充分過ぎる」


由貴「ちょっと三樹夫! ミキ次郎ちゃん嫌がってるじゃないの! ミキ次郎ちゃん、こっちにいなさい。三樹夫には私からよく言っておくから」


治八郎「三樹夫! 弟に無理強いするもんじゃない!」


ミキオ「いや、二人ともおかしい。研修として預けると言ってある筈だし、そいつは弟じゃない」


由貴「なんてこと言うの、三樹夫!」


 どうも親たちの勘違いが酷い。おれと遺伝子が同じというだけでこんなにも情が移るものなのか。というか既におれより可愛がられているじゃないか。嫌がるミキオⅡを説き伏せ、おれとミキオⅡは異世界ガターニアに戻った。彼にはアヴァ島に棲むという大巨竜の調査団に加わって貰わなければならないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ