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第138話 アンビシャス! 名門女子高ラーメン部(第四部・完結編)

 連合王国随一の名門校・聖竜女子高のラーメン部から要請を受けてコーチとなったおれ。謎のフードコーディネイター・デリシャスM率いる闘将学館料理部に料理勝負を挑まれ、花見祭で対決することとなったラーメン部だが、なんと敵が出してきたのはみんな大好き日本のカレーだったのだ。




バッカウケス「カレー…あの料理はカレーと言うのか…」


ヒッシー「気になるなら食べてきたらいいニャ」


バッカウケス「いっいや! まさか! 僕はみんなを裏切るようなことは絶対にしないよ!」


サラ「大袈裟やな〜」


永瀬「あ、あっちの行列見てください! あの人って大スターのトッツィーさんじゃなかったでしたっけ?」


サラ「ほんまや〜」


 永瀬が指差す方にはなるほど確かにこの世界の大スター、トッツィー・オブラーゲ氏が並んでいる。サングラスをしているがあのおっさん、プライベートで来てるのか?


ミキオ「トッツィーさん、あんた何やってんだ」


トッツィー「おお、ミキオ先生にヒッシー君。いや私この公園でこれから歌のリサイタルがあるんですがね、さっき配信で見て、こりゃ美味そうだと思って」


花見客C「おい、大スターのトッツィー・オブラーゲだぜ」


花見客D「すっげ、あんな大スターまでこのカレースープに並んでんのかよ。俺たちも早く並ぼうぜ」


 トッツィー・オブラーゲ、さすが当地の大スターだけあって宣伝効果は絶大のようだ。トッツィー氏が並んでるだけでますます行列に人間が増えていく。こっちの行列から外れてあっちに並び直す者までいる。


ヒッシー「トッツィーさん、そっち食べたらこっちにも並ばないニャ?」


トッツィー「いやぁ、私ゃこの魚醤の匂いが苦手でね…子供の頃は貧乏暮らしだったもんで毎日芋に魚醤つけて食ってたんですよ。おかげで今は見るのもイヤ。まあまた何かあったら」


 ヒッシーの勧誘はあっさり断られた。こっちの行列はもう途切れそうだがあちらの行列は公園の外まで並んでいる。完全にこれは水をあけられた。まさか異世界の女子高生がカレーを作るとは。やられた。完璧に油断していた。


女子高生D「コーチ! こうなったらわたしら水着になります!」


 突然ラーメン部のひとり、カンナと言う子が無茶なことを言い出した。


女子高生B「そ、そうやな! 女子高生が水着にエプロン着てたらお客さんも増えるで!」


バッカウケス「おお、それは名案だ! 素晴らしい! ファンタジック! 新しい伝説・水着ラーメンの誕生だよ!」


永瀬「侯爵、だまれ」


サラ「何あほなこと言うてんの〜? そんなことせんでもええよ、負けたらラーメン部解散して料理部に戻るだけやし」


ミキオ「そうだ、君たち冷静になれ。そこまでする必要はない。そうだ、明日はアイドルのイセカイ☆ベリーキュートに来てもらおう。トッツィー・オブラーゲどころじゃない、彼女らが並んでるだけで客がわんさか寄ってくるぞ」


ヒッシー「イセキューはいまワールドツアーで南方大陸にいるニャ」


ミキオ「そ、そうか…」


 第9刻半(19時)となり、両校で決めた閉店の時刻となった。結局この日の売り上げは聖竜女子高840杯、闘将学館2232杯という結果だ。ダブルスコアで惨敗である。あちらはインスタント食品としては昼過ぎには売り切れており、急遽寸胴でカレーを作って乾燥処理しないで供したそうだ。聖竜女子高の生徒たちがみんな重い表情で片付けを行なうなか、マルコことデリシャスMが重い身体をゆっさゆっさ揺らしながらこっちに歩いてきた。


デリシャスM「ぬっふっふっふ、もう勝負は決まったみたいですわね」


ミキオ「カレーとは、なかなかいいところに目を付けたな」


デリシャスM「ま、異世界はアナタの専売特許じゃないってことね。アナタには過去何度も苦汁を舐めさせられた。これでやっと雪辱が果たせるわ。今から残念会の準備をしておくことね」


 何を言うやら。イセカイ☆ベリーキュートはマルコのワガママが通らなくて勝手に辞めたんだし、黄金令嬢はメンバーに見捨てられて解散、プラチナガール何たらはそっちが引き抜いたワカナがスキャンダルで自滅しただけじゃないか。こっちが恨まれる覚えはない。


ミキオ「というか、じゃあやっぱりあんたマルコなんだな」


デリシャスM「…い、いや、まあそういう女がいたという話ですわ。ではごきげんよう」


 言いたいことだけ言ってデリシャスMはとっとと去っていった。なんだあいつは。




 翌朝、ハクサーン公園には再び多くの客が集まっていた。おれの方も今日は事務所総動員、体内に永久機関を宿し食事の必要のない魔人ガーラすら呼んでいる。国王に頼んで近衛騎士団でも来てもらおうかなとも思ったが、さすがにズルなのでやめておいた。バッカウケスは急に腹が痛くなったとのことで来ていない。


 昨日と同様、開店前だというのに向こうの店舗には大行列、こちらの方にはそこそこの行列ができている。やっぱり既に勝敗は決したのかな…などと思っていると、あっちの店の様子がおかしい。行列の先頭がザワザワしているし、役人らしき人間が数人、行列を遮って店に物申しているようだ。


ザザ「あっちの店、何かあったんじゃねーか?」


ヒッシー「様子見てくるニャ」


ミキオ「おれも行こう」


 闘将学館の出店に近づくと、役人らしき人間が衛兵数人を引き連れ、何か書かれた紙を突きつけている。顧問のデリシャスMと部長のマーガリーは青ざめた顔で立ちつくしていた。


ミキオ「何かあったのか」


役人A「食中毒です。昨日ここの料理を食べたひと500人以上が腹痛を訴えてまして」


 あっ、これはウェルシュ菌だ。自然界に広く分布している細菌だが、カレーなどを常温で保管していると活発に増殖し、食中毒を引き起こすのだ。昨日も今日も晴天で気温は体感30℃ほどあり、用意したインスタントカレーは売り切れてしまい急遽寸胴で作ったカレーを乾燥処理させずそのまま提供していたというからそれが原因だろう。


役人B「責任者はあなたですね。名前は?」


デリシャスM「…デリシャスMです」


役人B「ふざけないで。本名は?」


デリシャスM「…ま、マルコ・ダイズセンです…」


役人A「ダイズセンさんね。これから保健所に出頭して貰いますんで。お店は閉鎖で。生徒さんたちは全員帰して。料理も全部廃棄してください」


マーガリー「は、はい…」


役人B「じゃダイズセンさん、パト馬車乗って」


 こうしてマルコは手縄をつけられ、パト馬車と呼ばれる衛兵隊の白黒に塗られた馬車に乗せられて連行されていった。あとに残された闘将学館料理部の生徒たちは何が起こったかまだ受け止められないのか、呆然と立ちつくしている。


サラ「ミキオ先生…あの子らどうなるん…?」


ミキオ「わからんが、停学処分かな…」


レポーター「ええ、こちらは王都フルマティにあるハクサーン公園です。昨日こちらの屋台で顧問の女と某高校の生徒が販売した料理が大量の食中毒患者を出したということで保健所の捜査が入りました。女は逮捕され、現在までで被害者は500名を超えているとのことです」


 今日は陽気なモモローさんでなく、真面目な男のレポーターが沈痛な表情でレポートしていた。公園の外まで並んでいた行列はいつの間にか散り散りになって消えている。おそらく闘将学館料理部の水産組合とのコラボ企画はおじゃん、料理部自体も解散だろう。なんとも残念な幕引きとなってしまったが、この日の我々の“異世界麺”も食中毒事件報道の余波を受けてかあまり売れず、正式発売は延期になってしまったことは報告せねばなるまい。



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