第137話 アンビシャス! 名門女子高ラーメン部(第三部)
連合王国随一の名門校・聖竜女子高のラーメン部から要請を受けてコーチとなったおれ。インスタントラーメン開発に勤しんでいたところ部室に乱入してきたのは謎のフードコーディネイター・デリシャスM。彼女を顧問とする闘将学館の料理部はラーメン部に対し花見祭でのインスタント食品勝負を挑んできたのだった。
花見祭当日。会場であるハクサーン公園は桜が満開。5000本の桜が咲き誇り大変な賑わいを見せている。なにしろこのガターニアの桜は地球のソメイヨシノと違って3ヶ月に渡って咲き続けるのだ。われわれ聖竜女子高ラーメン部と、闘将学館料理部の屋台は向かい同士に配置された。女子高生たちが制服の上にエプロンを付けて売り子をやっておりまるで文化祭の模擬店のようだ。
モモロー「スタジオのみなさーん、見てますかー!? レポーターのモモロー・アイスです! 今日はこちら、お花見客で賑わうハクサーン公園に来ております! 今日ははなんと、2日間限定で聖竜女子高、闘将学館の2校の料理部さんがお店を出して販売数を競うとのことです!」
たびたび顔を合わせる連合王国の人気タレント、モモロー・アイスさんが魔法配信番組のレポーターとして来ている。この人の年齢は知っているが、今日もそれを感じさせない若々しいミニスカートの衣装だ。
モモロー「というわけでお話をうかがいたいと思います! 聖竜女子高のコーチはおなじみハイエストサモナー、ツジムラ伯爵です! なんですか今日は、女子高生に囲まれちゃって!」
ミキオ「いや、まあ成り行きというやつで」
モモロー「もー鼻の下伸ばさないでくださいよ! 今日はどうしてこういう流れになったんですか?」
ミキオ「たまたま聖竜が農家連合と、闘将学館が水産組合とコラボ商品を出すことになって、それならば勝負しましょうというあちらからの申し出を受けた形だ」
モモロー「なるほどっ! 聖竜女子高ラーメン部さんは何を発売されるんですか?」
サラ「インスタントラーメン言いまして、こうやって玉子を載せてお湯かけて3分待つだけでちゃんとしたお料理になるんです〜。食べてみてください〜」
モモローさんの前にできたてのラーメンが供された。味の調整に手こずって一昨日完成したばかりの“異世界麺”だ。
モモロー「えっこれでもう出来上がりなんですか、麺料理なんですね…不思議な匂い…わあ、美味しい! 味わったことのない感覚ですよぉ!」
サラ「味噌と魚醤に鶏ガラを加えて味付けしました〜」
完成バージョンはおれとしてはやや好みから外れる味付けとなったが、これは現地人の好みに寄せた形だ。魚醤が入るのでどうしてもエスニック風なフレーバーになる。ラーメン部の子たちに言わせると100点の出来だそうだ。
モモロー「素晴らしいっ! ごちそうさまでした! さすが名門、聖竜女子高さんです! 続きまして、こちらの闘将学館さんにお話聞いてみたいと思います! 闘将学館さん、こちらはどういうお料理なのでしょう?」
マーガリー「ええとー、私たち料理部はー、水産組合さんとー、コラボ商品を開発することになりましてー」
あのマーガリーとかいう闘将学館の子、こないだ聖竜女子高に乱入してきた時は悪役令嬢みたいな感じだったのにいざカメラ(魔法配信用水晶球)の前に立つと急に高校球児みたいな口調になるな。緊張しているのだろうか。
マーガリー「組合さんからー、イカ、ホタテ、キンメダイなどの様々な海産物をー、提供して頂きましたー」
モモロー「え、何ですかこの匂いっ! 海鮮の香りと複雑なスパイスが絡み合ったゴージャスな香りがします!」
その時、あちらのブースから漂ってくる匂いに気付きおれは後頭部を殴られたような衝撃を受けた。なんだこれは! 明らかに地球のカレーの匂いではないか!
ミキオ「こっこれは…」
ヒッシー「カレーだニャ、間違いない。しかも美味そげな欧風シーフードカレーの香りだニャ」
バッカウケス「なんだこのかぐわしき芳香は! 鼻腔に入ってきた瞬間に猛烈に食欲を刺激されるぞ!」
永瀬「えっ何これ、ガターニアにもカレーに似た料理があったってこと?」
ミキオ「いや、少なくともおれの知る限りそんな料理は聞いたことがないんだが…」
モモロー「めちゃくちゃ食欲をそそられます! 嗅いだことのない香りですが、これは?」
デリシャスM「スープカレーと言いまして、ニホンからの転生者、シンハッタ大公妃から伝授して頂きました。クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、シナモンなどを調合してシーフードと煮込んだスープに乾燥魔法をかけたものにお湯を注いで3分待ってサフランで炒めた白麦飯にかけて出来上がりです」
なんと、シンハッタ大公国のムーンオーカー大公と日本のお見合いパーティーで結ばれた佐和子さんから聞いたのか! そう言えば彼女の料理はプロ並みだとムーンオーカー大公からのろけられたことがあるが、まさかスパイスを調合してカレーを作るレベルとは。マルコめ、相変わらず謀略にかけては天才的だ。
永瀬「これヤバくないですか? カレーの香りってめっちゃ人を呼びますよ」
ヒッシー「カレーなんて反則だニャ。ラーメンはまだ好き嫌いがあるけど、カレーを嫌いって言う人見たことないニャ」
その通りだ。体験型旅行ガイドサイト『テイスト・アトラス』が発表した「テイスト・アトラス賞2022」の「世界で最もおいしい料理」のトップ100で1位を獲得したのはなんと『日本のカレー』なのだ。
モモロー「え! ヤバ! 何この味! 何がなんだかわかんないけどめちゃめちゃ美味しい! 初体験! 今まで食べたお料理の中で一番かも!」
モモローさんの大絶賛が出てしまった。マズイなこれは。これ放送に乗っちまってるんだから客は全部あっちに行くぞ。
デリシャスM「ありがとうございます」
モモロー「ということでですね、両校のお料理は両方ともお値段1000ジェンですので買って頂いた方はこのガラスの大杯に1000ジェン硬貨を入れて頂きます! そして明日、花見祭の最終日にその額で勝敗を決めるというわけです! 部長、負けちゃった方はどうなるんですか?」
マーガリー「廃部、ということになっております」
モモロー「えーっ、カワイソー!! 勝負の世界は残酷ってわけですね! では勝負の行方はどうなるのか、明日の配信をお楽しみにっ!」
中継はここで終わり、モモローさんもこっちにきて素になった。この人はスイッチをオフにすると声のトーンが2つくらい下がる。
モモロー「ミキオ先生、ヤバいですよ。闘将学館の方のお料理、マジでめちゃめちゃ美味しい。較べるとこっちのは美味しいけど好みが分かれる感じ」
ミキオ「でしょうな」
モモロー「え、呑気に構えてていいんですか? それこそ召喚魔法使ってお客を召喚するくらいやんないと勝てないかも」
ミキオ「いや、そこまでは…まあ頑張ります」
ここでプオーと角笛が鳴り花見祭の開催となった。同時に聖竜女子、闘将学館の両店舗も開店し、部存続を賭けたデスレースが開幕した。両店舗とも開始からすぐに大行列となるが若干やはりこちらの方が行列が短い気がする。
花見客A「なんだこれ! すげぇいい匂い!!」
花見客B「食べる前からワクワクするね!」
あちらの行列に並んでいる客たちも既に興奮状態だ。
ヒッシー「うーん、やっぱりちょっと劣勢だニャ」
ミキオ「カレーには勝てんよ、特にこういう形式だと香りが周囲に飛んでいくから」
永瀬「小学校の給食でもカレーの日はなんとなくみんなテンション上がってましたもんね」
ミキオ「まあ、それは個人によって違うと思うが…」
カレーという究極の料理を出され、窮地に立たされた聖竜女子高ラーメン部。ライバル側の長蛇の列を前に我々はこの苦境をどう打開していくのか。次回、いよいよ名門女子高ラーメン部編最終章!