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第135話 アンビシャス! 名門女子高ラーメン部(第一部)

 異世界121日め。今日はなぜか朝から事務所に女子高生が5人来ている。そのうちのひとりは知り合いの巫女サラ・ダホップだ。いつもの巫女装束ではなく高校の制服である。秘書の永瀬が差し出した日本のお菓子を珍しそうに眺めてきゃっきゃ言いながら食べている。


サラ「久しぶりです〜。これ、うちの同級生〜。みんな聖竜女子校高等部の生徒やねん〜」


女子高生A「よろしくお願いします!」


女子高生B「ニホンのお菓子美味しいです」


ザザ「えー、お前聖竜女子なのかよ。名門校じゃねーか」


 事務所の事務員のザザが横から口を挟んできた。


サラ「そやで〜」


永瀬「そんないい学校なの?」


ザザ「そ。中央大陸じゃ闘将学館と並ぶ名門だぜ。頭良いんだなお前」


 高校時代は男子高。その後も大学、大学院と研究ばかりでろくに青春と呼べるような日々を送ってこなかったおれにとって女子高生は妙に扱いにくい相手だ。別に照れているわけじゃないんだが不思議と目が泳ぐ。サラひとりなら何ということもないのだが。


ミキオ「まあ、それは結構だが…まさかお前、菓子をねだりにはるばる王都まで来たわけじゃないんだろう?」


サラ「せやねん。ミキオ先生に相談があってな〜。ハナちゃん、言うて〜」


女子高生A「わたしたち聖竜女子高の料理研究部なんですけど、こないだ農業連合さんからコラボ商品を出さへんかって打診があったんです」


ミキオ「コラボ商品」


女子高生B「そうなんです。資金は農連さんが出してくれはると。で、みんなで考えてたんですけど、なかなかいいアイデアが浮かばへんくて…で、部長のサラちゃんがここの先生は転生者やから変わった食べ物を知ってはるって言うんでご意見聞かしてもらお思て来たんです」


ミキオ「なんかそんな依頼ばっか来るな。ここ召喚士事務所なんだがな。うーん、料理と言っても日持ちする物の方が扱いやすいよな、となると…」


 おれが思考回路を起動させようとした時、事務所の共同経営者でおれと同じ転生者のヒッシーが外出から帰ってきた。


ヒッシー「ただいまだニャ〜」


 その声がいつもより弱々しい。妙にくたびれている。


永瀬「お疲れ様です」


ミキオ「なんか疲れてるな」


ヒッシー「いやー、なかなか面倒な案件で、調査で歩き回って…わ、女子高生!!」


 ヒッシーもほぼおれと同じ境遇のため女子高生には不慣れだ。


ミキオ「ああ、気にするな。もうお昼だろ、この子ら連れて寿司でも行こうと思うんだが君どうする?」


ヒッシー「いや〜おれはもう動きたくないからこれでいいニャ…」


 そう言いながらヒッシーは奥のパントリーから袋麺を持ってきた。おれが日本に行った時に買ってきた日清チキンラーメンである。


ザザ「たまにそれ食ってるよな、お前」


ヒッシー「お湯入れるだけでできるから…」


 そう言いながらヒッシーは魔法石を埋め込んだこの世界のポット、おれたちが『リアル魔法瓶』と呼んでいるものから丼にお湯を注いだ。これに水を入れておくとすぐにお湯になり、いつまでも温かいのだ。


ザザ「ちょっとひと口食わせてみろよ」


 ザザはそう言いながらヒッシーの丼を奪った。


ヒッシー「あっ」


ザザ「なんだこりゃ、うめえ! 全然味わったことのない味だ!」


 ズルッ! ズルルッ! ザザは興奮しながら食べている。もはや全然ひと口のレベルではない。


ヒッシー「もう1杯作るからそれ食べていいニャ…」


 ヒッシーがフテりながらパントリーに向かった時、一連の流れを眺めていたサラが口を開いた。


サラ「あれなに?」


ミキオ「あー、あれはインスタントラーメンと言う異世界日本の食品だ。お湯をかけて3分待つだけで出来上がる」


女子高生A「えっすごない?」


女子高生B「魔法や、魔法」


サラ「味はどうなん?」


永瀬「食べてみる? 全員の分あるよ」


女子高生C「食べたい!」


女子高生D「お願いします!」


ミキオ「おいおい…」


 おれはすっかり寿司の口になっていたのだが、永瀬がすぐにキッチンからチキンラーメン7人分と玉子7つを持ってきた。作り慣れているのだろうか、永瀬は手早く丼にチキンラーメンを置き、教科書通りにくぼみの部分に玉子を落とし湯を注いで蓋をした。


サラ「これで3分待てば麺になるんや…」


女子高生A「マジで魔法やな」


 すぐに3分が経ち、女子高生たちは食べ始めた。さすが名門校の生徒らしく食べ方にも気品が感じられる。


サラ「いただきまーす…なんやこれ〜」


女子高生A「めっちゃ美味しいで!」


女子高生B「いつもうちらが食べてる麦そばと全然ちゃうな!」


女子高生C「しょっぱ過ぎないのに味が濃い!」


女子高生D「麺自体に味があるんやな」


 まあチキンラーメンなんか美味いに決まってるから予想はしてたが、ここガターニアの女子高生たちにもおおむね好評なようだ。ひとりの子が言っていたようにこの世界にも麦そばという麺料理があるが、ダシという概念がなく、何種かのスパイスと塩で作ったスープに小麦粉で作った細麺を浸すだけであり、旨味の深いチキンラーメンとは大いに違う。


サラ「ミキオ先生、これうちらで作られへん〜?」


女子高生B「そうや! これやったら絶対みんな美味しいって言うで!」


 なるほど、インスタントラーメンというのは工業製品だが、これを発明した安藤百福という人は自宅の台所で作ったくらいで、特に難しい工程があるわけではない。


ミキオ「ああ、作れるんじゃないか? 製法だけなら小麦粉とかん水で打った麺に味を付けたあと油で揚げて冷し袋に詰めるだけだ」


 わーっと女子高生たちの間から歓声が上がった。


女子高生A「やろうで! みんな! うちら今から聖竜女子高ラーメン部や!」

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