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第129話 悶絶!映画スーパーヒーロー大戦観賞会(第四部・完結編)

 エリーザ、アルフォード姉弟の末の妹プティに英雄譚の素晴らしさを教えるためという理由でなぜか日本に来て皆で一緒に映画“スーパーヒーロー大戦”を鑑賞することになったおれたち。映画はヒーロー同士の潰し合いという異常事態となっていたが、すべてはゴーカイレッドと仮面ライダーディケイドによる策略だということが明かされ、映画はいよいよクライマックスに突入するのだった。




 ヒーローたちに真相を告げられ怒りに燃える悪の組織は全組織から怪人たちを集結させる。倉庫の着ぐるみをかき集めてきたのかななどと考えてはいけない。採石場が急に曇り空となり、地面には水たまりが見える。おそらくロケ地の天候が荒れたが、大人数のスーツアクターを集めているためこの日撮影するしかなかったのだろう。これに対抗するためヒーロー側も不思議なオーロラをくぐって当時の全仮面ライダーと全スーパー戦隊が登場する。この映画のハイライトだ。総勢223人のヒーローが画面せましと登場しており、壮観としか言い様がない。いろんな意味でもうこんな映像は観れないだろう。


ミキオ「おお…」


エリーザ「異常映像だ」


アルフォード「いや何ともカラフルな」


永瀬「運動会感がすごい」


雷田菊「噂によるとこの日、日本中のスーツアクターが集められたらしい。地方のヒーローショー専門の人やすでに引退して還暦近い人まで参加したという」


ミキオ「そう言えば仮面ライダーブラックRXはやたら腹が出てますね」


 ドクトルGの号令とともに怪人側もヒーローも曇天の下、水たまりを踏んでバチャバチャさせながら田舎やくざの出入りのように突撃していく。もうちょっと作戦とか陣形とか無いんだろうか。もっともどう見てもヒーロー側より怪人側の方が人数が少なく、分が悪いのは見てわかる。ライダーと戦隊を全員登場させるという売り文句があったため、怪人側のスーツアクターが足りなかったのだろう。


エリーザ「戦闘シーン長いな。プティ、飽きてないか?」


プティ「ううん大丈夫、おもしろい!」


 長い長い大乱戦が続き、“ライダーキー”などのなんの伏線もなく唐突に出してきた映画限定アイテムで敵は蹴散らされ、勝敗の趨勢はほぼ決したかに見えた。しかしそこに先程の泥棒ライダー、ディエンドが現れる。彼は自分の気持ちをディケイドにないがしろにされたことに腹を立てており、盗んだ大ショッカーと大ザンギャックの割符を使ってビッグマシン計画の根幹、超巨大ロボ・ビッグマシンを起動させる。


アルフォード「なぜこんな展開に…」


永瀬「すっきり終わらないなあ」


エリーザ「なんでこいつは今日知ったこのロボをいきなり操縦できるんだ?」


雷田菊「お姉さん、この映画でそういうことを言い出したらキリないよ」




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ディエンド「敵を騙すなら味方から。敵を倒すのも味方から。そして最後には大逆転。見事だよ。でも見事過ぎて気に入らないな…僕を傷つけたぶん、今度は君が傷つきたまえ」

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 超巨大ロボ“ビッグマシン”を駆り無差別に暴れ回る泥棒ライダー。もはや何をしたいのかわからない。錯乱しているとしか言い様がない。戦隊ロボは何の伏線もなく唐突に出してきたアイテムでロボの脚をドリルに変形させて突っ込む“戦隊ライダー宇宙キック”という取ってつけたような必殺技でビッグマシンを破壊させた。歓喜に湧くヒーローたち。ラブソングっぽい曲がBGMとなり、お互いを称え合うライダーと戦隊たち。泥棒ライダーはドリフのコントのようにボロボロになって地球に落ちていたが、ディケイドと何やらツンデレブロマンスっぽいことを言い合いながら不思議なオーロラに包まれて消えていった。




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ゴーカイレッド「仮面ライダーとスーパー戦隊の友情、それこそが宇宙最高のお宝かもしれねえな」

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 さんざっぱらライダーたちを騙し討ちしておいて空々しいことをゴーカイレッドが言いつつ映画はエンディングとなった。




雷田菊「ということで、どうだったろう、感想を聞きたい」


ミキオ「画面も賑やかだし、登場人物の感情の上下動も激しいので見応えはあるが脚本のせいでスッキリしない。ハイカロリーだが栄養価の低い、ケーキバイキングみたいな映画でした」


永瀬「イケメンがいっぱい出て来て眼福でした。ピンク色のライダーの人も最後は目張りとパーマが取れて普通にカッコ良かったです。最初からあれでやればいいのに」


アルフォード「ヒーローがあんなにも仲間を騙しまくっていいのか、また簡単に騙されるヒーローたちもどうなのだという基本的な部分での疑念がぬぐえない。もっと初期の段階から脚本を練れなかったのだろうか」


エリーザ「まあ鑑賞後の満腹感はあるが、唐突に出てくるタイムマシンとかアイテムとか設定改変とかでこれじゃ何でもアリだなと思ったな」


雷田菊「そうかそうか、うんうん」


 いろいろと批判されてるのに雷田菊先輩はニヤニヤ笑っている。どうも特撮オタクという人種のこういうところがわからない。作品のダメなところすら愛せるようになったら本物ということなのだろうか。


エリーザ「プティはどうだ」


 ぶわっ。エンディングから沈黙を守っていたプティが急に大粒の涙を流した。


アルフォード「ど、どうした」


エリーザ「落ち着けプティ、誰もお前を責めてはおらぬぞ、な?」


プティ「…すごい感動しました…! どんなことをしても人類を守るというヒーローたちの悲愴な決意、本当にすごいと思う…プティもこれからこんな風に生きていきたい…!」


エリーザ「お、おう」


アルフォード「そんな映画だったか?」


ミキオ「まあこの子の胸に刺さったのならいいだろう。わざわざ連れてきた甲斐があった。先輩、ありがとうございました」


雷田菊「え、もういいの? もっと観ていきなよ。続編の“スーパーヒーロー大戦Z”とか、“超スーパーヒーロー大戦”とか、あるよ?」


ミキオ「いや全部同じ…じゃなくて、もうプティには充分伝わったと思いますんで」


 名残惜しそうに手を振る雷田菊先輩を背に、おれたちは“逆召喚”で懐かしき異世界ガターニアに帰っていった。プティはまだ泣きじゃくっている。




 翌週、エリーザとアルフォードの姉弟が再び事務所を訪ねてきた。末妹のプティも一緒だ。プティは何か背筋も伸び、瞳にあかりが灯ったかのように見える。


プティ「召喚士様、こんにちはっ!」


ミキオ「あ、ああ」


 まさか向こうから挨拶されるとは。声も先週と違いハリがある。こうして見るとなかなかの美少女だ。


プティ「あの映画、すごく感動しましたッ! ヒーローって本当にいいですね! プティもヒーローになりたい!」


ミキオ「そうかそうか。ボードレールは言う、『英雄とは終始一貫して自己を集中した人間である』と。君も英雄を目指すのならば自己を集中して人生を歩みなさい」


アルフォード「いやミキオ、そういうことではないのだ…」


プティ「召喚士さんに見せたいものがあるんです! いいですか?」


 そう言いながらプティは着ていた学校の制服を脱ぎ始めた。ちょっと心配したが下には真っ赤なタイツのようなものを着ている。日本のヒーロー風コスチュームだ。持参のバッグから取り出したヘルメットを被ると完全にどこかで見たようなヒーロースタイルとなった。


プティ「正義人間カメンジャーレッド、スターティングフォーム!」


 ポーズを取るプティ。なかなかの共感性羞恥だ。事務員のザザや秘書の永瀬も唖然としている。


ミキオ「ほ、ほう…」


プティ「ご覧の通り、プティはスーパーヒーローに生まれ変わりました! 召喚士様、カメンジャーブルーとして人類の自由のために一緒に戦いましょう!」


 何を言い出すのかこの娘は。この娘の兄のルマンドンもそんな感じだったが、オーガ=ナーガ皇帝の血統は感化されやすいのだろうか。


ミキオ「いや、君な…」


アルフォード「あれからずっとこの調子なのだ」


エリーザ「召喚士、責任持って相手してくれ」


 好意で特撮オタクの先輩を紹介してやったおれがなぜ責任を問われなければならないのか。日本の特撮ヒーロー番組は世界中に多くのファンがいる。異世界の姫すらも虜にする魅力があるのだろう。おれは剣と光線銃を振り回すプティをなだめながらちょっと効き過ぎたかなと後悔するのだった。



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