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第119話 エルフにプロポーズ!異世界男前祭(中編)

 知人のバッカウケス侯爵が事務所に来訪し、おれの領地の神殿で買った護符(アミュレット)を持っていたのにフラレたから責任を取れと理不尽なことを言ってきたが、フラレた相手はなんとうちの事務員ザザの叔母。おれは流れでバッカウケスの男前修行を手伝うことになったのだった。


ミキオ「どうだバッカウケス。男前とはどういうものか理解できたか?」


バッカウケス「…確かに、フジオカヒロシは物凄い存在感だし、これ以上ないくらいのハンサムガイだ。だが僕とて同じくらいの身長だし体も鍛えている! 肉体的にはそこまで負けていないと思うぞ!」


 こいつはまだわかってないな。そういうことではないというのに。


ミキオ「お前はまだまだ修行が足りないようだな。仕方がない、二人目いっとくか」


 おれは再び赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、千葉真一!」


 ぶおうっ! カードに描かれた魔法陣から紫色の炎が噴き出し、その中から眼光きらめく短髪の若者が出現した。容姿からして20代後半くらいだろうか。こののちに数々のスタントマン・スーツアクター・殺陣師・俳優・アクション監督を輩出するジャパンアクションクラブ(JAC)を設立、日本映画界に多大の貢献をし、本人も米国で俳優として成功しSonny Chibaサニーチバの通称で名声を馳せることになる稀代の国際的アクションスターである。


千葉「いやぁ、千葉です! ここは?」


 肌が焼けて浅黒く、しかもテッカテカだが目が大きくて愛嬌のある笑顔だ。声も大きくて迫力がある。おれの生まれる前の話だが、確かこの年齢の頃には「キイハンター」の主役を演じて一躍大スターとなり、千葉ちゃんの愛称で国民的アイドルとして親しまれていた筈だ。太陽のようなまぶしい若者は急に召喚された中世西欧風の部屋の中であたりをキョロキョロと見回した。


ミキオ「ようこそ異世界ガターニアへ。千葉さん、申し訳ないが5分間だけ付き合ってください」


千葉「ほう! これは白昼夢かな? いいですよ、僕でよければ!」


ザザ「かっけえ! さっきとは違うタイプのピッカピカに明るいイケメンだ!」


永瀬「誰だっけ、えーと確か新田真剣佑の父親?」


ミキオ「そう」


千葉「千葉です、よろしく!」


 こんな異常な環境なのにすぐに順応し率先して女子ふたりに握手していく千葉ちゃん。両手で包み込むタイプの握手だ。古武士のような藤岡さんと違い千葉さんはかなりチャーミングで人懐っこい。


ザザ「手がぶ厚い! 暖かい!」


永瀬「すごい筋肉ですね!」


 あまりの男臭さに藤岡さんには引き気味だった永瀬も笑顔がチャーミングな千葉さんには目を輝かせている。


千葉「兄さん、いいガタイだね! 廣之(=真田広之)もこれくらいのガタイがあればなぁ! 」


 そう言ってバッカウケスの肩をがしっと握る千葉さんの身体はポロシャツの上からでもわかる鋼のような筋肉だ。以前相撲を取った時にはバッカウケスの体もなかなかだと思ったが所詮は乳母日傘(おんばひがさ)で育てられた貴族、千葉さんのような百戦錬磨のアクション俳優の体とは比較にならない。千葉さんの身長は170cmほどで推定177cmのバッカウケスより小柄な筈だが、体感で千葉さんの方が倍ほども大きいように見える。


ミキオ「千葉さん、実はこのモテない男に真の男というものを教えて欲しいんです」


バッカウケス「何度もモテない言うな!」


千葉「ほお、僕に男をね! いいかい兄さん、自分次第で身体というのは健康にもなるし不健康にもなる。筋肉をしっかりつけた人は、いつまでも若く、そして病気にかかりづらい。そういった学びがあったから、僕は役者になってからも身体を鍛えることを心がけたんだ!」


バッカウケス「は、はい…」


 そう言ってバッカウケスの肩をばしばしと叩く千葉さん。こうなってしまうといくら意気軒昂な熱血貴族バッカウケスと言えど獅子の前の子猫だ。おれも初めて生で見たが、若き日の千葉真一とはこんなにも圧倒的なオーラを放っているのか。というよりも、こんな真夏の太陽のようなまぶしい男が存在したのか。のちに真田広之、志穂美悦子らを始め多くの俳優や映画監督たちがこの男に惹かれ師と仰いだのもわかる気がする。


千葉「なあ兄さん、男は毎日が自分との戦いだよ! 身体が健康でなければ完璧な仕事はできないぜ!」


 ぶおん! そう言いながら得意の横蹴りを披露する千葉さん。打点が高くて脚が綺麗に真っ直ぐだ。片脚で立っているのに爪先が空中でビシッと止まって微動だにしない。千葉さんは極真カラテ大山道場の門弟であり、かつ体操のオリンピック選手候補だったのでこの程度の動きはお手の物といったところだ。


バッカウケス「は、はい!」


 ニカッと笑って千葉真一さんはタイムアップとなり消えていった。この後サニー・チバの名を世界に轟かせることになる偉大なる存在だが、若き日の彼は千葉ちゃんと呼びたくなる愛すべきナイスガイだ。


ミキオ「いい男とは容姿だけではない。心・技・体揃って初めて真の男前となる。藤岡弘、さんからは『心』を、千葉真一さんからは『体』の大切さを学ばせて頂いた。次に『技』を学んで貰おう」


ザザ「男前の『技』ねえ…ちょっと想像つかねえな」


永瀬「ね、辻村クン、今度こそ吉沢亮とか志尊淳みたいな令和イケメン呼ぼうよ!」


ミキオ「次に呼ぶのは石原裕次郎という人だ」


永瀬「えー!」


ミキオ「ぶーぶー言うんじゃない。永瀬のために呼んでるわけじゃないんだぞ。石原裕次郎と言えばかつては男前の代名詞として挙げられたほどの国民的人気俳優だ」


永瀬「わたしが生まれる前に亡くなってるんで…」


ザザ「御託はいいから呼んでみようぜ。誰だか知らねえけどそいつもニホンの男前なんだろ」


 ザザはいい男に会えるというので浮かれているがバッカウケスは藤岡、千葉という男前だが濃厚過ぎる男たちの圧にやられてがっくりとうなだれている。もはや本来の目的を見失っている気もするが、おれはみたび赤のサモンカードを取り出し召喚魔法の呪文を詠唱した。もう今日は昭和男前フルコースだ。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、ここに出でよ、汝、石原裕次郎!」



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