表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/223

第116話 ロシアVSハイエストサモナー(第三部)

 たまの里帰りでおれが東京に来ると、私服警官たちに任意同行させられ向かった先はなんと首相官邸。おれはそこで串田総理大臣から直々にロシアの対日工作機関“ヴイイ”の始末を頼まれ、千葉にある陸自の別班分署で情報を得ていた。だが既にこの建物はヴイイの特殊部隊に囲まれていたのだった。


山形隊長「“鵺”の巣を狙うとは命知らずな…野郎ども、総力戦だ! 火器の使用を許可する」


隊員A「やったぜ、発砲許可だ!」


隊員B「腕が鳴るな!」


 そう言いながら隊員たちはガンロッカーから20式自動小銃やライフル、サブマシンガンなどの銃火器を取り出し始めた。意気盛んだが、ここにいる全員が戦っても8対60、いくら別班と言えど撃ち合ったら無傷では済むまい。


ミキオ「その前に敵の武装を解除しておこう。エル・ビドォ・シン・レグレム、ここに出でよ、今ここに近付いている特殊部隊の兵器すべて」


 おれが赤のサモンカードを床に置いてそう詠唱すると紫色の炎が噴きあがり、中からガチャガチャと音を立ててカラシニコフAK-47(自動小銃)やトカレフ(拳銃)、コンバットナイフ、手榴弾、RPG(対戦車擲弾発射器)などが多数出現しあっという間に銃器の山を築いた。おれの召喚魔法は命ある者しか召喚できないが、その半径5m以内で接触しているものは対象の附属物と見なされ部分召喚が可能なのだ。


山形隊長「お、おお…」


女性隊員「こんな事まで出来るのかい?!」


隊員C「なんかもう凄すぎてよくわかんねえな」


隊員A「やっぱりロシア製の兵器ばかりだ。ヴイイで間違いねえ」


巌「三樹夫、なぜ銃器だけを召喚した。お前なら部隊全員を幼児の知能にすることもできるだろ」


ミキオ「彼らは単なる将棋の駒、そこまでしたら可哀想じゃない? さあこれでヴイイ特殊部隊は丸腰だ、話をつけに行こう」


 おれたちは工務店の詰所にしか見えない建屋、その実は陸上自衛隊別班関東分署の扉を開けて外に出た。少し歩くと、丸腰にされたためそこらに落ちていた木の枝や石ころなどで間に合わせの武装をしたヴイイ特殊部隊の兵士たちが見える。彼らにしたら一手も交えず武装解除させられたのだから屈辱もいいところだろう。距離はあるのに射抜くような視線でこちらを見ている。


山形隊長「うちの工務店に何の用かね?」


 今更白々しくも山形隊長が言うと、ヴイイ特殊部隊たちをかき分けてゴリラのようないかつい顔に似合わぬ黒いストレートロングヘアの中年男が出てきた。彼が指揮官らしい。


アパッシュ「クヒ! クヒ! クヒヒヒヒ! ごきげんようハイエストサモナー! そして内調、別班の諸君!」


 流暢な日本語で語りかけてきたその男、大きな顔とは不釣り合いな細身のダークスーツに身を包んでおり軍人ではなさそうだ。


巌「誰かと思えばよく知った顔じゃねーか」


山形隊長「モスクワ大学教授にしてロシア対外情報庁北東アジア戦略部局顧問グレゴリー・レフチェンコだな。通称“アパッシュ(ならず者)”。超頭脳怪人、殺人教授とも呼ばれている」


アパッシュ「素晴らしい! さすが別班! そんなに私のことをよく知ってくれているとは!」


 褒めているわけでもないのになぜかアパッシュは嬉しそうに笑う。条理の合わない人物であることがよくわかる。


ミキオ「しかし殺人教授とはまた」


山形隊長「彼の専門は戦場行動学。ロシアの軍や警察でいかに効率良く人間を殺せるかを教えている人物なのだ。その分野では権威だ」


巌「今のロシアはこんなのが出世する国ってこった。そうか、アパッシュ、あんたがヴイイの指揮官なのか」


 巌おじはアパッシュを睨みつけ、銃口を向けた。冬馬刑事や別班のメンバーも一斉に火器をアパッシュに向けている。


アパッシュ「いやいやいや、私はハイエストサモナー氏と交渉に来たのだよ? 交渉の第1の原則、それは人と問題を分離することだ。立場を主張しあっていてもその立場とエゴが一体化して交渉は難航してしまう。我々とて多くの仲間を君たち内調や別班にやられているんだ、お互い様だ」


冬馬「勝手に日本に来ておいて何を言う!」


 怒りに燃える瞳でアパッシュに銃口を構える冬馬刑事。射線はヘッドショットを狙う位置にあり、この中でヴイイに一番敵意を持っているのは冬馬刑事のようだ。もしかしたら殺された同僚に友人か恋人でもいたのかもしれない。


巌「対外情報庁の顧問が武装した特殊部隊連れて交渉たあ、どういう真似ですかこりゃあ。アパッシュ先生、外交ルート通じて正式に抗議させて貰いますぜ」


ミキオ「言っておくが、銃器だけを奪ったのはたとえ敵であれ人命を尊重したからだ。おれはその気になればお前たちの心臓だけ、あるいは生命そのものを召喚することもできるぞ」


アパッシュ「…なるほど、さすがはハイエストサモナー。噂に聞く以上の能力だな。クヒヒヒヒ、まるで全能の神のようではないか」


ミキオ「おれを理解してくれたようで何よりだ。で、そのおれとどういう交渉をしたいと?」


アパッシュ「過日、私は中国の生物兵器研究者と協力し最新型のコロナウイルス、COVID-X14の開発に成功した。非常に感染力が強く、ウイルスキャリアが呼吸するだけで周囲に空気感染する。免疫自体を破壊する能力があるため誰でも発病し、何週間も身体を衰弱させる。病弱な者は次々と死亡する」


巌「何だと…」


冬馬「貴様、何ということを!」


アパッシュ「そのウイルスキャリアとなった私の教え子たちに日本海の沿岸からこっそりと上陸させ、先週から日本海側の都市で生活させている。潜伏期間が長いのでそろそろ発症する頃かな。来週くらいには日本中がまたロックダウンとなるだろう。クヒヒヒヒ、ワクチンが開発されるまで何年かかるだろうか、その間日本だけが経済も社会システムもすべて停滞し悪夢の日々を送ることになる。毎日死者が何百、何千人と出るだろうね。無論、私はそのワクチンも同時に作っているわけだが」


ミキオ「…」


山形隊長「悪魔め…」


アパッシュ「ハッキリ言おう。1億2千万の日本人が人質だ。ハイエストサモナー、君が我が祖国に来てくれればこのCOVID-X14ワクチンの製法を公開しよう。一生とは言わん、3年間だけロシア政府に忠誠を誓ってくれればいい。その間に我がロシアは敵対国をすべて排除できる。君には温暖な黒海沿岸の豪勢なリゾートマンションと一生かかっても使い切れないルーブルが与えられることになるだろう。君が望むならロシア美人の秘書やメイドも付けるし、連邦議会議員の地位をあげてもいい」


巌「み、三樹夫」


 巌おじ、冬馬静音刑事、別班関東分署チーム、ヴイイ特殊部隊、その全員が見つめるなか、おれはつかつかとアパッシュの元に歩み寄って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ