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第103話 大邪神大戦【第四章・復活のハイエストサモナー】

 中央大陸連合王国の建国三千年記念式典がテロに襲われた。犯人には太古のエッゴ文明を三夜で滅ぼした伝説の大邪神ノグドロの魂が憑依していたのだ。おれとガーラは奮戦したが破れ、敵を完全に倒せぬまま大地に伏した。そこに使者の神パシリスが現れ、連れていかれたのは神々の世界オリンポス。ゼウスはおれの傷を癒しあらたに黒のサモンカードをくれたのだった。


 古代人が描いた太陽のような形の宇宙船が惑星ガターニアの大気圏に突入し、王都フルマティに降りてみるとケンチオン宮殿ほか多くの建物は破壊され、宮殿前広場は瓦礫の山だ。おそらくは大邪神ノグドロが荒らし回ったのだろう。なんという恐ろしい怪物だ。これでは古代エッゴ文明を三夜で滅ぼしたというのもあながち嘘でも無さそうだ。


ミキオ「妖精、いるか」


 おれはおれにしか見えない異世界ガイド妖精クロロンを呼び出した。


クロロン「いるよ〜。ミキオ、 無事で良かったよ」


ミキオ「なんとかな。状況を説明してくれ」


クロロン「ミキオがオリンポスに行ってから半刻間(1時間)後に魔導騎士ガーラが息絶え、クリスタライザーの呪法が解けて大邪神が復活し暴れ回ったんだ。でもすぐに魔導十指が来て今はヴァンディーの街でメンバー総出で戦っている。戦いは既に1刻間経過してるね」


 つまりおれがオリンポスに行ってから3時間か。そんなものか、オリンポスにはまる1日くらいいたような気がするが。どうもあの世界の地に足のつかない感覚には慣れない。


フレンダ「ミキオ!?!」


 王女フレンダがさっそく見つけて駆け寄ってきて泣きながら抱きつこうとしたのでおれは素早く避けた。


フレンダ「避けないでくださいの!!」


ミキオ「こんなところをかわら版屋のパパラッチどもに見つかったらたまったもんじゃないからな」


ザザ「かわら版屋はさっき号外配ってお前の死を伝えてたぜ」


 歩いてきたのはザザ、ヒッシー、永瀬の3人だ。無人に見えた宮殿前広場だが誰かが隠れていて事務所の連中に知らせてくれたのだろう。


ヒッシー「信じられないニャ〜…」


永瀬「辻村クン、おかえり」


 ザザも永瀬も涙ぐんでいる。すがってきたヒッシーはもう涙と鼻水でぐしょぐしょだ。彼らには今日一日で結構泣かせてしまった、申し訳ないことだ。


ミキオ「父親のゼウスに会ってきた。噂通りのイケオジだったよ」


ヒッシー「ゼウスに命を貰ったってわけだニャ」


ザザ「ホントに神の子だったんだな…」


ミキオ「ガーラは、BBはどこにある」


永瀬「彼らの破片は全部集めて事務所に保管してあります」


ミキオ「ありがとう。じゃすぐに戻ろう」




 おれたちは徒歩で事務所に移動した。街のあちこちが破壊されていたが、騎士たちの避難誘導が完璧で幸いにして死傷者は極めて少数らしい。だからといってノグドロを放置していてはこの文明が維持できなくなる。


 うちの事務所はほとんど無傷だった。事務所クルーたちが必死で集めてくれたガーラとBBの破片はノグドロのレーザーアイビームを受けて痛ましくも鏡面のように綺麗な断面で切断されていた。


ミキオ「ガーラは命を懸けてノグドロと戦ってくれた。BBもおれの無謀な戦いに従ってくれた。この二人は絶対に甦らせる」


 おれはゼウスに貰った黒のハイエストサモンカードを取り出した。詠唱呪文は親切にも英語でカード表面に書いてある。


ヒッシー「黒いカードだニャ!」


ザザ「あれを親父さんから貰ってきたってわけか…」


ミキオ「ダ・ガイ・ヴァーマ・ヒース…我が意に応え此の者の時を巻き戻せ。魔導騎士ガーラ、万物分断剣、マイナス2刻間!」


 ひゅばあっっ! ブラックカードの魔法陣から白い炎が渦を巻いて噴き上がり、その中から同色の光弾が飛び出してガーラとBBの破片に直撃、破片は強烈に発光しやがて2刻間(4時間)前の傷ひとつない姿となって甦った。


ヒッシー「ガーラ! BB!」


ガーラ「こ、これは…!」


ミキオ「なるほど、こういう仕組みか。これは近距離じゃないと発動しなそうだな」


万物分断剣「…ミキオよ、我らは君の奇跡で甦ったのだな」


ミキオ「奇跡ではない。おれの新しき召喚魔法だ。だがこの時間召喚は赤のカードの1万倍のMPを消費するのでやたらに使えない」


 実際、眼を凝らすと視界の右上に見えるおれのMPの表示は既に3分の2近く消費してしまった。


フレンダ「す、すごいですの…!」


ザザ「お前、神の子っつーより神そのものになってきてんな」


ガーラ「よし、行こうミキオ。魔導十指たちが戦ってくれているのだろう」


ミキオ「待て。さっきの戦闘はあまりに無策過ぎた。地上最強のガーラと万物分断剣があればどうにかなると油断していたんだ」


ザザ「何か策があんのか」


ミキオ「最初からもっとシンプルに考えるべきだった。この国には歴史上、既に大邪神退治に成功した人物がいるのだから」


フレンダ「なるほどですの!」


 おれは胸ポケットから赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、ウィタリア・ケン!」


 カードの魔法陣から紫色の炎が噴き上がり、中から建国の英雄ウィタリア・ケンが出現した。ただし話に聞く英雄像とはだいぶ違い、腰の曲がった野良仕事中のおじいさんといった印象だ。手ぬぐいでほっかむりをして無精髭、そのうえ鼻毛もまあまあ出ている。


ケン「んはぁ、ここはどごだ?」


フレンダ「ミキオ、違う人を呼んでますわ」


ミキオ「いや、そんな筈は…爺さん、あんた名前は」


ケン「オラぁエッゴ国カンバル郡のウィタリア・ケンだわの」


ザザ「やべぇ、本物じゃねーか」


ガーラ「間違いないな、例の邪魂封印剣を下げている」


永瀬「王宮前広場の銅像と全然違うけど」


フレンダ「これがわたくしのご先祖…」


ケン「んでオラに何用だ? どうやらオメェさの魔法で召喚したみてだども、オラぁこれから建国の式典があるすけ忙しいんだてばの」


ミキオ「失礼した。ここはあなたの時代から3千年後、あなたが作った連合王国だ。あなたの施した封印が破れ、再び大邪神ノグドロが暴れている」


ケン「んはぁ〜、ひゃんでことになってんな。まあ3千年だば無理ねえか」


 古代語なのか、やたら訛ってはいるが意味はわかる。ウィタリア・ケンはことのほか理解が早い、やはりこう見えても英雄であり王なのだろう。


ミキオ「どうやってあの大邪神を封印したのか、詳しく教えて欲しい」


ケン「いや、どうやっても何も若い衆のほとんどが大邪神にやられてしまったすけのぅ、オラたち年寄りが行くしかねえろと言って錬金術師たちにこの邪魂封印剣を鍛えて貰ったんだて。国の文明のほとんどを破壊してエネルギー切れを起こしてるところをこいつでブッ刺したこっさ」


ミキオ「エネルギー切れ…つまりヤツのエネルギーは無限ではないということか」


ガーラ「だがその戦法は最後の手段だな、犠牲が大き過ぎる」


フレンダ「その剣を貸してもらうわけにはいきませんの?」


ケン「これにはもうオラの時代の大邪神が封印してあるすけ、2体分は入らねわの」


ミキオ「いや、いいヒントを頂いた。ありがとうウィタリア・ケン。なんとか頑張ってみる」


ケン「お。オメェらの時代はオメェら自身で切り拓いていかねばの。じゃの」


 そう言ってウィタリア・ケンはタイムアップで消えていった。容姿はあれだが伝承通りなかなかに英邁な人物だ。フレンダはまだ微妙な顔をしているが。


ミキオ「よし、ガーラ、BB、行くぞ、反撃だ!」


 おれは青のアンチサモンカードを取り出し、逆召喚のための呪文を詠唱した。




 王都に隣接する王国最大の商業都市ヴァンディー。おれたちが青のアンチサモンカードで転移すると既に街に人はおらず、都市のあちこちがノグドロによって破壊されていた。ヴァンディーの商業施設バシュセントラではおれを除く魔導十指9人が空中でノグドロを追いつ囲みつしながら攻撃を加えていた。ノグドロは明らかに疲弊しているようだ。


ミキオ「さすが魔導十指だ、大邪神の猛攻の前に誰一人倒れていないとは」


 おれの声に反応し、攻撃しながら応える魔導十指たち。


ナイヴァー「やはり戻ってきたな、ハイエストサモナー!」


ナスパ「君が死ぬわけはないと言っていたんだ!」


アルゲンブリッツ「だが、正直言って大邪神は手強い! 我らとても被害が拡がらぬよう防ぐのが精一杯だ!」


マイコスノゥ「私の精神攻撃も効かない、シャルマンの悪霊祓いも効果無し、こうして距離を取って牽制することくらいしかできないわ!」


ミキオ「おれに策がある。ガーラ! BB! 陽動を頼む!」


万物分断剣「応!」


ガーラ「心得た!」


 ガーラは飛来したBBを両手でがっしりと携え、中段に構えた。地上最強の魔導師+エネルギーをも断ち切る神剣、正しく最強コンボだ。


ミキオ「頼んだぞ、このカードは対象のある程度近くにいないと発動しないんだ。しかもMP残量からしてチャンスは一度きり!」


 おれは黒のハイエストサモンカードを取り出した。


万物分断剣「距離をとりビームを避けつつノグドロをこの場に留める、やれるな魔導騎士!」


ガーラ「任せておけBB! ふんっ!」


びしゅうっ! びしゅうっ! 次々に放たれるノグドロのアイビームを万物分断剣で薙ぎ払うガーラ。1体で魔導十指と対等に戦っていたノグドロに焦りが見えた。


ノグドロ「ギル、グル、グノゥ、ギス…」


 ノグドロの正体は神などではない、他天体から来たエネルギー生命体だ。先の戦闘でおれの召喚魔法が効かなかったのはヤツが上位の神格だからなどではなく、召喚の際にヤツが憑依していたオコワの名前を呼んだからだ。死者は召喚できない。あの時点でオコワは死んでいたのだ。首を180度回して振り向いたことからもそれは明らかだ。つまり、ノグドロには召喚魔法が使える! おれは黒のハイエストサモンカードを地面に置き、呪文を詠唱した。


ミキオ「勝負はついた! さらばだ大邪神! ジ・ガイ・ヴァーマ・ゲール、我が意に応え此の者の時を早送れ! 大邪神ノグドロと呼ばれるエネルギー生命体、プラス6000000000000年!」


 ぶおおぉっっ!!!! カードの魔法陣から真っ白な炎が燃え上がりその中から光弾が飛び出してノグドロが憑依していた邪神教団司祭長オコワの体に直撃、オコワは一瞬で風化し塵となって風に舞って消失した。ちょっと可哀想だが既に死人なので遠慮はしない。


ノグドロ「ヒギイイイィッ!?!?」


 憑依していた肉体が滅び去ったあとエネルギー生命体は真紅の光となって明滅を繰り返し、やがて消えていった。いかに強力なエネルギー生命体と言えど6兆年も生き永らえる筈は無い。数十秒で6兆年分の時を経たノグドロは跡形もなく消失した。


ニノッグス「勝った…!」


フュードリゴ「さすがだな、ハイエストサモナー」


ミキオ「いや、これは十指のみんなが1刻間(2時間)にも渡ってノグドロと戦い、疲弊させてくれたからこそ成功した作戦だ」


 これは本当だ。万全のノグドロだったらカードを使う隙を作らせてくれなかっただろう。おれは赤のカードの1万倍MPを消費するという高コストのブラックカードの使用によってMPもHPもすべて使い果たしばったりその場に倒れた。


ミキオ「すまない、おれを事務所に運んでくれ…もう動けない…」


ガーラ「ゆっくり眠れ。君が新しい英雄だ」


 おれがガーラに抱きかかえられると、街のあちこちから歓喜と賞賛の声が聞こえてきた。大邪神が滅びたことがわかったのだろう。こうして王国建国以来最大の危機は去った。犠牲者も少し出たらしいのでMPが回復したらこのブラックカードで救っていくことになるだろう。大邪神ノグドロ、おれにとって間違いなく最強の敵だった。

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