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第102話 大邪神大戦【第三章・これがオリンポスの世界だ!】

 中央大陸連合王国の建国三千年記念式典がテロに襲われた。犯人には太古のエッゴ文明を三夜で滅ぼした伝説の大邪神ノグドロの魂が憑依していたのだ。おれとガーラは奮戦したが破れ、敵を完全に倒せぬまま大地に伏した。そこに現れたのは神々の王ゼウスの眷属、使者の神パシリスだった。


 目覚めると、そこは柔らかな青芝があたり一面を覆い、どこまでも蒼空が拡がり、涼やかな風が吹き渡り、木々が果実をみのらせ生い茂る理想郷のような世界だった。


ミキオ「…ここはどこだ」


パシリス「久しぶりぢゃな、わが同胞(はらから)よ」


 傍らに立っていたのは長い白ひげに木の杖、これぞ神様という感じの容貌の老人だ。おれと同じくゼウスの眷属である使者の神パシリスである。


ミキオ「…やはりあんたか、おれを救ってくれたのは」


パシリス「父祖ゼウスより申し付けられておるゆえな。おぬしが死んだら天に召し、陞神させよと」


ミキオ「ではやはりおれは死んだのか」


 異世界ガターニアの連合王国にて、大邪神ノグドロによっておれは心臓をビームで貫かれた。確かにあのあとパシリスに抱かれて宇宙船のようなものに載せられたような気がする。


リームー「生と死は下位レイヤーの概念、ここオリンポスでは意味の無い区別だよ」


 急に横から話しかけてきたのはキトン(古代ギリシャの服装)姿の少女だ。アシッドブルーのサイドテールでやや小柄。瞳は大きく表情豊かだが東アジア人、白人、東南アジア系、アフリカ系それにガターニア系とどれとも似てるようで似ていない。体が華奢で中学生くらいに見える。


ミキオ「…君は誰だ。そして下位レイヤーとは人間界のことか」


リームー「あたしはこのオリンポスで修行中の準神リームー、愛の女神アフロディーテの眷属だよ! “人間界”ってめちゃ驕った言葉じゃね? 宇宙にはあまたの生物がいるんだよ。人間だけのものじゃないっしょ」


 まあ、確かにそうだ。迂闊なことは言えないな。そしてここはオリンポスか。地球ではオリンポスとはギリシャのテッサリア地方に実在する山だが、ギリシャ神話では神々の居処ということになっている。かつて地球にゼウスが降りた時に伝わったオリンポスという名称が神話とともに山の名前になったのかもしれない。


ミキオ「ならばこのオリンポスは下位に対する上位レイヤーというわけか」


パシリス「その通り。このオリンポスは我らオリンポス八十八神が住む最上位の階層(レイヤー)。物理と虚の境界無く、生と死が混淆し、時間の流れが混濁する神々の世界ぢゃ」


ミキオ「…」


 天才と言われたおれだが、理解が追いつかない。地球の既存の物理学を当て嵌める方が無理があるのかもしれない。


パシリス「そしておぬしは今より陞神しオリンポス八十九番目の神となる。下位レイヤーを守護し善き世界に導く仕事をして貰いたい」


ミキオ「…とにかくまずはゼウスに会いたい。ひとこと言わなきゃ気がすまない」


リームー「えっこいつマジ危険人物じゃね? ゼウス様のことナメない方がいいって!」


パシリス「まあ良かろうよ。いずれにしてもおぬしはこのオリンポスに到着次第早めに拝謁させよと言われておるでな」




 おれたちは徒歩でゼウス神殿に向かった。暇なのか、修行中の準神リームーもついて来る。先程の理想郷のような高原エリアとは違って道中はなんとも表現のし難い光景だ。強いて言うなら地球のあちこちの風景を撮影してそのフィルム数十枚を重ねて見ている感じと言えばいいだろうか。と言うか眼球の網膜を通して見ているわけでもないのだろう。この感覚はなかなかに慣れない。少し歩くとちゃんと実在感のあるゼウス神殿に辿り着いたが、これも実際に2本の脚で歩いたのか、或いはそういう夢を見ているのかよくわからない。神殿はやはりギリシャ調の造りで、暗くて荘厳でこれぞ神殿といった風格の建物だ。




ゼウス「我はゼウスなり」


 神殿でのゼウスは昔ながらの神託スタイルで、広くて何も無い拝謁の間に姿を見せず低くて通る声だけがエコーを伴って聴こえてくる。“プレバト”のナレーション銀河万丈さんみたいな腹に響くイケボの低音だ。


ミキオ「姿は見せてくれないんだな」


ゼウス「急くでない。我が子ミキオよ、ガターニアでの人間修行、大儀であった。これより汝はオリンポス八十九番目の神となる」


ミキオ「いや、その件だけど、まだおれにはあの世界でやり残したことがいろいろある。寿命までガターニアで過ごしたい」


リームー「ばかっ、ゼウス様に逆らうな!」


ゼウス「そなたにはこのオリンポスにて担うべき重責がある。いつまでも下位レイヤーの些事に構うな」


パシリス「恐れながら大神ゼウスよ、このミキオはまだ未熟者。おのれの使命すら理解できておらぬのがその証拠。当初の予定通り寿命尽きるまでガターニアで修行させるべきではありますまいか」


 パシリスが助け舟を出してくれた。この爺さん、下っ端かと思ってたがちゃんとゼウスに意見できるんだな。ゼウスはしばらく沈黙していたが、やがてフッと神殿奥から姿を現した。母親から「色気タップリのイケオジ」と聞いていたがなかなかどうして、ジョージ・クルーニーみたいな甘いマスクの若作りの壮年男性といった容貌だ。もっともこれもこの世界では本当にそういうビジュアルなのかどうかもわからない。


ゼウス「…我が子ミキオよ。下位レイヤーには地球やガターニアの如く、人類に相当する知的生命体が棲む惑星が256ある。そのどれもが未成熟な文明であり、われわれ神の助けを必要としている。ガターニアだけが世界ではない」


 サラッと重要なことを言う。ガターニアとは地球と同じく宇宙に存在する惑星だったのか。そしてこの宇宙に知的生命体のいる星が256か、多いのか少ないのか判断しかねる数字だ。


ミキオ「転生した当初から気になっていた。ガターニアとはどういう惑星なんだ。只人(ヒューマン)とエルフやドワーフ、獣人などがそこそこ平和に共存している。ドラゴンやワイバーンなどの幻獣がいるかと思えばモササウルスやアンモナイトなど地球では滅びた生物が生きていたりもする。まるでごった煮だ。あの多様性は尋常じゃない」


リームー「聞き返すなって! そんな神託があるかよ!」


ゼウス「ガターニアとは、言わば遺伝子のストック置き場である。我らが創造した惑星の中には既に生物の滅んだ星も多い。その生物たちの種を次の創造のために生体保存している“予備の世界”なのだ」


 そうか、それで納得がいった。つまり宇宙にはエルフやドワーフだけが支配する惑星もあるということか。ドラゴンなども元々は他の惑星の生物ということになるわけだ。


ミキオ「あなたがおれをガターニアに転生させてくれた理由がよくわかった。あの星こそあらゆる種族が平和に暮らす理想社会、黄金郷だ。だからこそおれはいま危機に瀕しているあの星を救いたい。未熟者と思われてもいい。大邪神ノグドロを倒し、すべての生命を助けたい」


ゼウス「…当地では大邪神と呼ばれてはいるが、ノグドロは強大な戦闘力を持つ他天体のエネルギー生命体に過ぎぬ。とても神などと呼べる代物ではない。が、お前の気持ちはよくわかった。これを授けよう」


 ゼウスがそう言うと何も無い中空からはらはらと1枚のカードが落ちてきた。見たこともない黒いサモンカードだ。


ミキオ「これは」


ゼウス「過去と未来を召喚する“ハイエストサモンカード”だ。赤のカードと違い魂無き無生物にも効果がある。存分に使い、ガターニアを救うがいい。ただし赤のカードの1万倍、青のカードの1千倍のMPを消費するぞ」


 過去と未来を召喚! 言葉の意味はわからないがとにかく凄そうなカードだ。


ミキオ「ありがとう、ガターニアで寿命まで生きたら必ずオリンポスで神の仕事をするよ。じゃあ行っていいんだね?」


ゼウス「行くが良い。傷は既に癒えている。パシリス、送ってやれ」


パシリス「は」


ミキオ「リームー、またな」


リームー「ちゃお〜」


 おれはパシリスとともにあの宇宙船に乗り、再び惑星ガターニアを目指した。船内で確認したが、ずたずたに刻まれた筈のおれの胸は傷ひとつ残らず治癒されていた。

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