第101話 大邪神大戦【第二章・ミキオ壮絶なる最期】
中央大陸連合王国は建国三千年記念式典を開催、諸外国の賓客が居並ぶなか国王は高らかに王国の繁栄を宣言した。そんななか宮殿の地下では邪神教団の残党が潜入して封印されていた大邪神の魂を復活させていた!
ばしゅうううっ!! 空中に浮遊したオコワの金色の眼から2条のビームが放たれると、その照射域が大爆発を起こした。当たったのは石畳で、爆発するような物は無い筈なのでやつのビームには何か魔法的な化学反応を誘発する仕組みがあるのだろう。多くの騎士たちが爆風に巻き込まれ怪我をしている。残念ながら死者もいるようだ。
近衛兵A「う、うう…」
近衛兵B「く、く…」
近衛兵C「み、皆さん、避難してください!」
グジル「…そ、そうや! それでええんや…!!」
大邪神の名を叫んだ老魔導師も爆風に巻き込まれて絶命した。おそらくは彼も邪神教団の残党なのだろうが、遂に犠牲者が出た。放ってはおけない。腰に帯びたBBこと万物分断剣は勝手に腰から離れおれの手に収まった。
万物分断剣「大邪神と聞こえたぞ。もしやあの建国神話の大邪神のことか」
ミキオ「知っているのか、BB」
万物分断剣は物言う剣である。その前身はもと魔導十指メンバー“不死竜ジョー・コクー”であり、剣に転生した後も意思を宿しているのだ。
万物分断剣「太古のエッゴ文明をたった三夜で滅ぼした悪しき神だ。このケンチオン宮殿の地下に大邪神の魂を封じた英雄ウィタリア・ケンの神剣、邪魂封印剣が秘蔵されていると聞く」
ミキオ「ではその封印が」
おれは爆発のあったあたりに視線をやった。確かにあの破壊された城壁は地下へと続いているように見える。
万物分断剣「破られたのだろうな」
つまりあのオコワとかいう邪神教団の幹部は大邪神に肉体を支配されており、そのためおれの召喚魔法が効かなかったというわけか。おれより格上の神が敵か、大変なことになったな。これまで様々な強敵、怪物と戦ったが神と戦ったことは無かった。
万物分断剣「とすれば敵はかの大邪神ノグドロ。ミキオよ、これは汝にとって最大の戦いとなろう。気を引き締めていけ」
ミキオ「そのようだな。エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、魔導騎士ガーラ!」
おれは戦いに備え、“地上最強の魔導師”である事務所の書生ガーラを召喚した。
ミキオ「手伝ってくれ。強敵だ」
全身ガンメタルのフルアーマーに身を包んだガーラは早くも臨戦態勢だ。かつておれと戦った際に長槍は失われたが、その後に入手した“地吹雪”という幅広の豪剣を持参している。
ガーラ「強敵の方が燃える。おれは戦うために生まれてきたのだ」
痺れる台詞だ。思えばこいつは古代エッゴ文明が生んだ人造魔人、その文明を滅ぼしたという大邪神は仇も同然だろう。
ミキオ「ヤツのアイビームは発射の際に頭を軽く振りかぶるモーションがある。避けるのはそう難しくない。防御魔法をフルシールドで正面から剣で猛攻、その間隙をぬっておれが逆方向から斬りに行く。あらゆるエネルギーをも切り裂くこの万物分断剣なら大邪神とて無傷ではいられない筈だ」
ガーラ「心得た!」
ミキオ「貴族や近衛兵たちは民衆を守りながら避難しろ」
バッカウケス「わかった!」
フレンダ「ミキオ、必ず無事でいてくださいの!」
王女フレンダがそう言いながら退去していくのでおれはサムズアップで答えた。兵たちの誘導が功を奏し、すぐに宮殿前の広場はおれたち以外無人となった。
オコワ「フギル…ギル…グギュウ…」
ガーラ「おれが相手だ、大邪神!!」
ぶおん、ぶん! ガーラのとてつもない膂力で振るう豪剣“地吹雪”は刀身に凍気を帯びており、その斬撃は周囲を凍りつかせると言う魔力の剣だ。ひと振りごとに氷の結晶を飛び散らせながらガーラは大邪神ノグドロとなったオコワに肉迫していくが、アイビームを次々に浴びせてくる大邪神にはなかなか近寄れずにいる。やつのアイビームが当たるたびに周囲には爆発が起こる。なんというエネルギー量だ、あっという間に広場は破砕されあちこちに火と噴煙があがり始めた。これでは本当に文明が崩壊する。あまり時間をかけていられない。おれはBBを横に構えたままぐぐっと体をかがめ、一気に体を伸ばして跳躍した。神与特性の身体強化によってこれで20mほどジャンプすることができる。
ミキオ「決めるぞ、BB!」
オコワ「ギヒッ…!」
おれがノグドロ(オコワ)の死角から接近して万物分断剣を横一閃に薙ぎ払おうとした刹那、やつが首を180度回転させて振り返り、勝利を確信したかのように口角を上げて嗤い、その直後にその双眸からノーモーションで髪の毛ほどに細いビームを放ってきた。今までの広範囲爆破アイビームと違い、威力を点単位に集中させて対象を貫くレーザービームだ。おれが全身に纏っていた防御魔法は一瞬で貫通され、心臓あたりを何度も切り刻まれた。持っていた万物分断剣も刀身を真っ二つに両断された。しまった、完全にやられた。ヤツがこんな切り札を持っていたとは。
ミキオ「がはっ…!」
おれは多数の臓器や動脈を切断されて意識を失いかけ、すべての魔力を停止して背中から地上にどさりと堕ちた。苦しい。呼吸ができない。この大量の流血、おれは死ぬのか。
ガーラ「クリスタライザー!!!」
おれが斃された直後、その隙を利用してガーラは渾身の必殺技クリスタライザーを放った。当たれば相手を水晶塊に変える大技だ。
オコワ「ギハッ!!!」
だがノグドロも瞬時に反撃しクロスカウンターの様相を呈する。クリスタライザーは直撃しノグドロ(オコワ)の体を水晶塊に変えていったが、ほとんど同時に放たれたノグドロのレーザー型アイビームはガーラの全身を2本のビームでバラバラに切断していた。
オコワ「ギワ…ギワ…ギワ…」
がしゃん! ガーラの体の破片と、完全な水晶塊となったノグドロ(オコワ)の体が地上に墜落した。両断された万物分断剣は沈黙し、おれはもう視界がぼやけてきている。激痛で思考ができない。死とはこんなにも過酷なものか。
ガーラ「ミキオ、死ぬな! 君はこんなところで死ぬような男ではない筈だ!!」
頭部だけとなったガーラの絶叫で一斉に皆が駆け寄ってきた。
フレンダ「ミキオ!!」
ザザ「おい、ミキオ!」
永瀬「辻村クン!」
クインシー「ミキオお兄様!!」
エリーザ「召喚士、死ぬな!」
バッカウケス「早く衛生兵、いや治癒魔法を!!」
影騎士「しかし、この出血では…」
国王「つ、ツジムラ子爵!」
ヒッシー「ミキティ、しっかり!」
フレンダに抱かれながらおれは最期の言葉を絞り出した。
ミキオ「大事なことを言う…残念だがガーラもあと少しの命だ…あいつが息絶えると同時に水晶化の呪法も解ける…その前に対策を…魔導十指を…」
永瀬「わかった、わかったよ辻村クン」
フレンダ「お願い、神様、どうかミキオを…」
フレンダがぼろぼろと泣いている。いやエリーザやクインシーたちもだ。異世界から来た男の死にこんなにも多くの者が涙を流してくれるとは。おれは幸福なのかもしれないな…そう思って眼を閉じかけた瞬間、天空から叢雲の間をぬって銀色の球体が降りてきた。古代人が描いた太陽のような造形だ。中から降りてきたのはおれをこのガターニアに転生させたゼウスの眷属、使者の神パシリスだった。
パシリス「人間たちよ、退くがいい。これなる神の子ミキオを天に還す」