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第100話 大邪神大戦【第一章・邪魂覚醒】

 どおん! どおん! 異世界80日め。今日はここ中央大陸連合王国の建国三千年記念式典の日とのことで、朝から花火が上がり王宮前広場はたいへんな賑わいだ。我々この国の貴族はみな正装帯刀でケンチオン宮殿に参内させられており、貴賓席にはおなじみオーガ=ナーガ帝国皇太女エリーザやジオエーツ連邦女王クインシー、シンハッタ大公国のムーンオーカー大公やカッシャーザ王国タイチャー国王など諸外国の王侯貴族の顔も見える。


国王「始祖たる英雄ウィタリア・ケンが大邪神を打ち倒して本朝を開闢し三千年、以来175代に渡り当家がこの国の社稷を預かってきた。朕ミカズ・ウィタリアン8世は中央大陸連合王国の益々の弥栄(いやさか)を祈念し、ここに建国三千年記念式典の開催を宣言する!」


民衆「うおーーー!!!!」


 宮殿の正門前ベランダに立った国王が参列者に高々と宣言すると歓声と拍手が巻き起こった。


ヒッシー「国王さん、気合い入ってるニャ〜」


 おれの横にいるのは友人でこっちの貴族の娘と結婚したヒッシーこと菱川悠平だ。今日は義父であるナンバンビー伯爵が風邪で欠席したのでその名代として参内している。


バッカウケス「ヒッシー君、国王陛下と呼ばないか。気やすいぞ」


 その横にいるのは知人のバッカウケス侯爵。このところやたらに会う機会が多いが、やけにおれにライバル心を燃やす若い熱血貴族だ。


ミキオ「まあいいだろ。おれたちは転生者、王に臣下の礼を取ったわけでもなし」


バッカウケス「爵位を賜るということは臣下になるということだ! わきまえたまえ、君たちももうこの国の貴族だぞ!」


宰相「バッカウケス侯爵、静かになさい!」


バッカウケス「す、すいません…」


 バッカウケスは肩をすぼめなんとも情けない顔になっていたが、まあおれたちをこの国の貴族と認めたところは良かった。考えてみれば転生してからまだ2ヶ月半あまり、それでもうおれが子爵、ヒッシーが伯爵家世継になっているんだから凄いことだ。聴衆の拍手に合わせるように色とりどりの小鳥が飛び交い、王宮軍楽隊の喇叭(らっぱ)が高らかに吹鳴される。貴族も民衆もみな笑顔だ。なんと平和な光景だろう。いろいろあったがこの国に転生して良かったのかもしれない。




 地上が式典で賑わいを見せている頃、宮殿の地下では枯れ木のような老人と筋骨隆々たる大男が回廊を歩んでいた。齢500歳を越える高齢のノーム、邪神教団開祖グジル・ジルズと教団司祭長オコワである。グジルは実子に教祖の座を譲り隠居していたが、第三代教祖ノッペンと第四代教祖イゴネルの消失を受けて復権し第五代教祖となったのだ。

挿絵(By みてみん)

グジル「ほっひゃっひゃ、王国の阿呆どもめ、地下でいま何が起ころうとしているかもわからず浮かれとるわい」

挿絵(By みてみん)

オコワ「しかしさすが大御所様ですな。ここまで難無くたどり着けるとは」


グジル「伊達にこの日を選んだわけやない。上は式典で地下の警備は手薄、そこにおまはんの武力とワシの解呪魔法“万能鍵(マスターキー)”があればこそ成立した計略っちゅうわけや。この何重にも施錠され、異様に曲がりくねった地下道はすべて王家が大邪神を封じ込めた場所なんや。ほれ、あの奥に見えるやろ、十字の長剣が」


オコワ「おお、あれが王家の秘宝、邪魂封印剣!」


 グジルが指差す奥には鎖によって幾重にも縛られた十字型の剣があった。


グジル「左様、あれぞこの国の建国の英雄ウィタリア・ケンが大邪神ノグドロの肉体から魂を分かち3千年に渡り封印した魔法剣よ」


 老魔導師グジルが鎖ごとその神剣を持ち上げるが、鎖も剣もすでに錆び切っており、触れると同時にぼろぼろと崩れ落ちた。


グジル「ほひゃひゃひゃひゃ、ワシの“万能鍵(マスターキー)”を使うまでもあれへんがな。さしもの神剣も3千年の刻を経て錆び果てよったわ!」


オコワ「お、おお…」


 グジルは手の錆を払って深呼吸し、あらん限りの声量で大絶叫した。


グジル「天道霊瞑、地道霊瞑! 目醒めよ大邪神! 革命の濫觴(らんしょう)、動乱の嚆矢(こうし)!! エッゴ文明を三夜で滅ぼしながらも敵の刃に斃れ無念を呑んだ荒ぶる凄神(すさがみ)よ、既にそなたを縛る神剣は無い! この邪神教団教祖グジル・ジルズの声に応じ今こそその威容をあらわにするが良いィ!!!」


 バチッ! バチバチッ!! 神剣の破片からスパークがほとばしり、やがて禍々しい真紅の光がまたたき輝きを増していった。


オコワ「お、大御所様、これは…!」


グジル「ほひゃひゃひゃひゃ、我ら邪神教団百年の悲願がついに成就する! まるで恋が叶ったような気分や! 会いたかったでェ、大邪神!! もうお前を離さへんからな!」


 真紅の光は心臓の鼓動のように明滅し、やがて見定めたかのようにオコワの身体に入り込んでいった。


オコワ「お、わ、うおおーっ!?!?」




どおおーーーん!!! 式典の最中、突如として爆発音が鳴り響いた。王宮の地下堂の方だ。


国王「な、何だ今の音は」


侍従長「陛下! 危のうございます、お下がりくだされ!」


 爆発音のすぐ後、地下堂の瓦礫から両腕を拡げたポーズで浮かび上がるひとりの男。その眼は黄金色に輝きぎらぎらと光を放っている。


バッカウケス「おのれ、白昼堂々大胆な!」


ミキオ「なんだ、賊か?」


 ザザッ! 貴族たちはみな剣を構え、参列者の前方をふさぎ人間の壁を作った。この国では貴族は真っ先に国民の盾となることになっている。


オコワ「ギル…ギル…ゲル…」


ミキオ「妖精、いるか」


 おれがおれにしか見えない空中の妖精を呼ぶとすぐにヤツは出現した。


クロロン「いるよ〜」


ミキオ「あいつ何者だ」


クロロン「邪神教団司祭長、ソユ・オコワ。ミキオが倒したノッペン、イゴネルのジルズ兄弟に仕えた教団最高幹部だね」


ミキオ「邪神教団の残党か、まだそんなのがいたのか。まあなら敵で間違いなさそうだな」


 おれは取り急ぎコートの胸ポケットから赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「詠唱略、我が意に応えここに出でよ、汝、邪神教団司祭長オコワの血液20%!」


 これは相手を貧血に追いやり昏倒させるおれのフェイバリットアタックだ。だがカードは何の反応も示さない。馬鹿な、敵は目の前にいるのに。


ヒッシー「ミキティ、どうしたニャ?」


ミキオ「やり直しだ。エル・ビドォ・シン・レグレム。我が意に応えここに出でよ、汝、邪神教団司祭長オコワの周囲10mの酸素」


 一応、再び呪文を詠唱してみたがやはり何の反応もない。そんな筈はない、命あるものならばどこからでも召喚できる筈だ。対象が魔法障壁を張っている時は召喚魔法をはじかれることがあるが、その場合は魔法陣に魔法干渉のスパークが飛び散る。


ミキオ「つまりこれは、死者か、幻影か、或いはおれより格上の神仏…」


 おれが思案していると破壊された城壁からボロボロの老魔導師が這い出してきた。


グジル「だ、大邪神! 何をしとんのや! お前こそこの欺瞞だらけの世界に破壊と絶望をもたらす伝説の大邪神ノグドロやないけ! そのまま進め! 歩みを止めるな! 秩序を砕き条理を嗤い常識を死に導いた怪物よ、この世のすべてを粉砕するんや、3千年前のように!」


近衛兵A「大邪神だと?!」


近衛兵B「貴様、何を言っている!」


オコワ「ギル…グル…ギル…ジュウ!!」


 ばしゅうううっ!! 空中に浮遊したオコワの金色の眼から2条のビームが放たれると、その照射域が大爆発を起こした。

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