第12話 刷り込み
焦げ茶色の雛鳥みたいな生き物が二匹、コトネの腕に抱かれていた。
キュルルルル――
キュルルル――
首をキヨヒラの方に向けて嘴で威嚇しながら、しきりに警戒の鳴き声を出している。
「それって...」
「うん。そこの先で“かるかどどんさうる ”に殺された、でっかい翼竜の子どもなの」
「カルカロドントサウルスだ」
「そう、その“かるかどどんさうるす ”に巣を襲われて、親が命をかけて戦っている間に逃げ出したみたいなの」
コトネが頭をなでると
クルルル―― クルルル――
甘えた鳴き声で頭をすり寄せる。
「なんだか、メチャ懐いているな」
そう言って、キヨヒラが撫でようとしたら、思いっきり嘴で突かれた。
「イテっ!」
「こら、キヨ君を突いたらダメだよ?」
クルルル―― クルルル――
「とにかく、その二匹、ここに置いて帰ろう」
「えっ? ダメよ―――! この子たち、ひとりにしたら、すぐにエオラプトルなんかに食べられてしまうわ!」
「翼竜の子なんか連れて帰ってどうするんだよ? 餌は? ウンチの始末は? 大きくなって言うことを聞かなくなったらどうするんだよ?」
結局―
ケツァルコアトルス の子どもは小屋に連れて帰ることになった。
コトネが、「全部、わたしが責任をとるわ!」と言い張ったからだ。
子どもは、どうやらオスとメスで、コトネは早速「ダイリュウ君」「リュウコちゃん」と名前を付けた。
どうしてそんな名前にしたのか訊いてみたら、大翼竜からとったのだそうだ。
大翼竜からとったのであれば、ダイヨクとか、ヨクリュウとかにすればにすればいいのにとキヨヒラは思ったが、母親が決めたことなので口出しはしなかった。
コトネの話によると、どうやらケツァルコアトルス の子どもたちは、親たちがカルカロドントサウルスと巣から離れたところで戦っているうちに孵化したらしく、頭や身体に卵の殻をつけて走って来たのだそうだ。
「インプリンティングだな」
「なあに、そのインプリンティングってのは?」
「刷り込みっと言ってね。孵化した直後の雛に人や動物,あるいは物体を見せると,その鳥は一生それを追尾するようになるという習性のことなんだ」
「へえ...」
「つまり、この子たちは、コトネをお母さんって思っているんだよ」
“わたしがお母さん?ヤダア!”とか反応するかと思ったが...
「よしよし。コトネお母さんが、あなたたちが立派に成長するまで、責任をもって育ててあげるからね!」と喜んでいた。
翌日―
クァクァクァクァクァ
クァクァクァクァクァクァ
うるさい鳴き声で目が覚めた。
窓から外を見ると、東の空がうっすらと明るくなりつつある。
鳴き声の方を見ると、コトネがベッド代わりにしているエアマットの上に、灰色と焦げ茶色がまだら模様の、2メートルほどの大きさの翼竜が二匹、コトネに身体を寄せて、嘴を開けてクァクァうるさく鳴いている。
コトネは、キヨヒラと結婚の約束をしてからテントの中で寝ずに、床にエアマットを敷いて寝ていた。
テントは、着替えの時使うだけだ。
「う... うう―ん... 重いよ――!」
コトネが目を覚ました。
「コトネ、その翼竜たち...」
「なに、この鳥...?」
コトネが目を覚ましたのを見て、二匹はクァクァクァ クァクァと甘えた声で鳴きだした。
「ええっ? おまえたち、ダイリュウとリュウコなの?」
クァクァクァ!
クァクァ!
ひとしきり、ダイリュウとリュウコの声が高くなる。
「夜のうちに、こんなに大きくなったの?」
クァクァ!
クァクァ!
「よしよし。お腹が減ったのね? じゃあ、朝ごはんに行こうね!」
半袖短パン姿だったコトネは、テントの中に入り、着替えをはじめた。
ダイリュウとリュウコがコトネに続いてテントの中に入る。
「こらっ、ダイリュウ、リュウコ、おとなしくしなさいってば!」
コトネが、二匹に言っている言葉が聞こえる。
キヨヒラはいつも起きる時間より早く起こされたが、二匹の子どもが気になったので、文句も言わずにTシャツを着て、ストレッチパンツを穿こうとしていた。
「ダイリュウ、リュウコ、中で暴れちゃダメっ!きゃ―――っ!」
コトネが大きな声で叫んだと思ったら悲鳴が聞こえ
テントが潰れて、パンツ一枚のコトネの身体がもろに顕れた!
どうやら、ダイリュウがテントの中を走り回って、勢いあまってテントの壁にぶつかり、テントの四隅を固定していたペグが外れてテントがダイリュウに絡まってしまい、着替え中だったコトネが丸見えになったらしい。
「キヨ、あっち向いて!見ちゃダメだよっ!」
コトネが腕で胸を隠しながら命令した。
「お、おう!」
すぐに窓からの景色に目をやったが
しっかりと婚約者のおムネを網膜に焼き付けていた。
Bカップの白いOPPAIは、とても魅力的だった。
キヨヒラは、窓から見える夜明けの景色を見ていたが...
朝焼けの景色など、全然見えてなかった。
思春期真っ盛りのキヨヒラの脳の中は、婚約者の白いOPPAIの残像でいっぱいだった。
おかげで、キヨヒラのムスコは、ケツァルコアトルスの子どもに負けないくらい元気になってしまった?
人間の朝食は抜きで、コトネは餌を食べさせるためにダイリュウとリュウコを入り江まで連れて行くことになった。キヨヒラは、トイレに行ってから追いかけると言って遅れて行くことにした。
だが、トイレは口実で、ムスコがテントを張った状態で行くわけにはいかなかったのだ。そんな姿をコトネに見られたら、何を言われるかわからない。
昨日は、小屋に連れ帰ったあとでエオラプトルやサウロスクスの肉をあたえたがあまり食べなかったので、キヨヒラが、沼からカエルやサンショウウオみたいなヤツを捉まえて来てやるとパクパクと平らげた。
おかげでキヨヒラは、数回沼まで行ってカエルやサンショウウオ風の餌を獲るハメになったのだが、ダイリュウもリュウコも腹がパンパンになるまで食べ、幸せそうにコトネに抱かれて寝たのだが、コトネはキヨヒラに「ありがとう」とも言わずに寝てしまった。
“俺がケツァルコアトルスの子どもになりたいよ!”とキヨヒラは心の中でブツブツと言いながら、ダイリュウとリュウコを羨まし気に見ながら寝たのだった。
入江が近づくと、ダイリュウもリュウコも、まだ飛べもしないのに翼をバサバサと開いて走り出し、浅瀬に来ると、すごい速さで餌を見つけ食べ始めた。
その食べ方が凄まじすぎた。まあ、餌を獲るというのは生物にとって生き残るために不可欠だから上手じゃないとマズいのはキヨヒラにもわかるが、2匹のケツァルコアトルスの子どもの餌を狩るテクがすごかった。エビやカニ、魚、それにリソドゥスやメトパカンタスなどサメ類の幼魚なども、片っ端から長い嘴で捕えて飲みこむのだ。
ダイリュウとリュウコは、2時間ほど餌を漁った。
さすがに満足したようで、浜から動こうともしない二匹をコトネはお母さんらしく、励ましながら小屋の近くまで歩かせた。
が―
その途中で、川の河原を通りかかると、二匹は河原に降りて、小石をついばみ始めた。
「ちょ、ちょっと、ダイリュウもリュウコも石食べちゃダメよ。お腹痛くなっちゃうよ!」
コトネが必死に止めようとするが、二匹とも止まらない。
「コトネ、小石食べさせてあげな」
「え、どうして?消化不良で病気になっちゃうよ?」
「消化をするために小石を食べているんだよ。こいつら、ニワトリやハトみたいに砂嚢を持っているんだよ」
「さのう?それ、なに?」
「小石や砂粒を貯めておく袋みたいな器官で、そこで食べたものをすりつぶすんだ。いわばお腹の中にある歯みたいなものなんだよ」
「へえ... 便利なもの持っているのね。だから噛みもせずに、片っ端から餌を飲みこんでいたんだね」
約30分ほど小石をついばんだあとで、小屋のある場所にもどったダイリュウとリュウコは、近くの木陰で体を寄せ合って居眠りを始めた。
キヨヒラとコトネは、かなり遅い朝食をとることになった。
朝食のあと、キヨヒラは物置の仕上げにかかった。物置の壁の丸太の隙間を粘土と木灰、コケを混ぜたもので埋めていく作業だ。
「朝早くから、ダイリュウとリュウコの朝食に突き合わせて悪かったわ。そのつぐないに今日は一日お手伝いをするわ」
コトネが手伝いを申し出たので、キヨヒラは舞い上がるような気分になった。
キヨヒラが、粘土と木灰とコケを混ぜてペースト状にしたのを、コトネがコテ板みたいなのに乗せて枝で作ったコテを上手に使って丸太の隙間を埋めていくのだが、コトネは手先が器用らしく、きれいに仕上げていく。
「プロの左官みたいだな!」
「褒めたって、昼食はいつも通りよ。ご馳走はないわよ」
コトネも褒められて悪い気持ちはしないらしく、ペーストで汚れた顔でキヨヒラに微笑む。
「ところでさぁ」
「うん、なんだ?俺もコテで埋めるのを手伝おうか?」
「あ、それはいいよ。この作業楽しいから...」
「じゃあなんだい?」
「朝ね、ダイリュウがテントを壊しちゃった時、キヨはわたしのハダカ見たでしょう?」
「... ちらっとだけ」
「ちらっと、わたしの胸を見たでしょ?」
「ち、ちらっと ほんの少しだけ」
「そ、それで それで どう思ったのよ?」
コトネが顔を赤くしながら訊く。
「どう思うって... ちらっとしか見てないから」
「ウソ。凝視してたの見たんだから!」
「見られたのわかっていたのか?」
「あたりまえでしょ」
「きれいな胸だなぁって」
「ほかの女の人の胸、見たことあるの?」
「あるわけないじゃん!」
「触りたいと思った?」
「思わねえよ」
「... わたしって 魅力ない?」
「......」
「わたしの胸を見て触りたいとも思わないくらい...」
「コトネは、すっごく魅力的だよ」
「だって、キヨは触りたいと思わないって言ったじゃない?」
ここまで迫られたら、隠し通すのはヤバい。
キヨヒラは、白状することにした。
「朝、ダイリュウとリュウコを入江に連れて行った時に、俺遅れて行っただろ?」
「うん」
「あれは コトネのオッパ...胸を見て、興奮したから静まるのを待っていたんだ」
「ほんと?」
「本当だよ」
「なら、許してあげるわ。その代わり...」
そう言って、コトネは目をつぶった。
「?」
“朝早かったから、眠いのかな?”とキヨヒラは思った。
「なにをしているの? チューをして。お詫びのチューよ!」
コトネが目を開けると真っ赤になって言った。
「お、おう!」
キヨヒラはあわててコトネのそばに寄ると
いつもより長いチューをした。
ついでに、そっとBカップの胸を揉んでみた。
ムニュ ムニュ...
なかなかいい感じだ。
ムニュ ムニュ...
「バカっ、揉みすぎでしょ!」
真っ赤になったコトネから手をたたかれた。




