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マダラな鳩と蒸気の空  作者: 楠井飾人
Episode I:ブレッド・オア・ブラッドの赤い旗
31/49

第26話‐小鳩たちの巣立ち③・前編

※今回は一話で掲載すると少し長すぎるので、前後編にします。

 アスマ達がケインへ尋問を行っている頃。


 ジャン達の胃袋が満足し始め、次第に給仕をするルースの足取りは緩やかになっていた。最近はこんな事ばっかりだな——と一息を吐きながら、その表情に濃い疲労の色を滲ませた彼は現在、レンガで出来た店の外壁に寄り掛かっている。


 給仕の仕事は落ち着き始めたものの、安息日が近い今日この頃は、客足に備えた準備で夜まで忙しい。あのまま店内にいれば明日の開店準備を手伝わせていただろう。


 そんなの冗談じゃないと、隠れている訳だ。つまるところ、サボりである。


 こっそりと店を外に出て来たルースは、今まさに「どこ行ったのよルゥ~~スゥゥゥゥ!!?」と、アスカに店の仕事を手伝わされているキキの怒声を右から左に聞き流し、溜息を吐いた。


 「……はぁ~、やってらんないよホント……」


 髪をガシガシと掻きながら夜空を見上げたルースは、今日の事を思い出していた。


 「……」


 ——『関係ねェ奴らを巻き込む復讐は、やっぱダメさ……』。


 蒸気バスでのアスマの一言である。あの言葉が何故か、妙に頭の中に残っている。あの時アスマはこうも言っていた——『誰も巻き込まねェ復讐っつゥのはな、案外ムズかしいもンなンだぜ?』と。


 その言葉を聞いてルースは悩んでいた。


 ——自分の復讐はどうだろうか、と。


 元々ルースは、両親をギルドから追放した仇たちを探し出し、復讐を遂げる為にこのリベルタスに来たのである。だが、仇達が所属していた冒険者ギルドは経営不振で解散し、肝心の仇達の消息は途絶えてしまっている。


 だからこそ、仇達を探し出す為に冒険者になったのだ。


 冒険者をやっていれば、仇の冒険者たちに出会えるのではないかと思ったから。


 しかし——今回の一件で理解してしまった。【UNSAME】の冒険者達がそうであったように、多くの冒険者はもはや『どん底の人々』なのである。もしかしたら、【GLORIA】という居場所を失った仇の冒険者たちも同様に——。


 気付いてしまったのだ。


 ——仇の冒険者達が(・・・・・・・)今も冒険者を(・・・・・・)やっているとは(・・・・・・・)限らないのだと(・・・・・・・)


 「……もう三年かぁ……」 


 そして、ルースは薄々気づいてはいる。


 自分の中の復讐心が(・・・・・・・・・)もう消え(・・・・)始めている事に(・・・・・・・)、だ。


 既に三年経った。三年も経ってしまったのである。この都市に来た当時こそ、仇を探し出す為に四苦八苦したものだったが、現在では仇達の痕跡を探す事すらもしなくなっている。


 そろそろ自分の中で答えを出すべきだろう。


 この復讐をどうするのか? そして——。


 「——何が三年なのだ?」

 「ひぇあ……っ!?」


 思わず素っ頓狂な声が出る。思考に耽っていたルースの意識に介入してきた声の主は、骨付き肉を骨ごと頬張りながら、いつの間にか気配も無くルースの隣に立っていた。


 咄嗟にルースが飛び退き視線を向けると、そこに立っていたのは昼間ルースと死闘を演じた淆原種(ベオルヘジン)——ジャン・ルーベだった。


 「ジャ、ジャンさん……? な、何でここにいるんですか……?」

 「貴様がいくら呼んでも俺様の骨付き肉を持って来ないからであろうが? 何故、客がわざわざ厨房まで料理を取りにいかねばならんのだ」

 「……いや、キキさんがいるじゃないですか」

 「今さっき逃げたぞ」

 「え?」


 店内を指差すジャンに促され、こっそりと店内を見ると、「あばばばば~!」と目をグルグルと回しながら給仕をする新人給仕の姿があった。そのどこにも、キキの姿は見当たらない。


 「……あの人逃げたのかよ」と、一言。すぐに「貴様が言うのか」とジャンから突っ込みが返って来るが、ルースはそれを無視した。


 「それで何が三年なのだ? 話してみろ」

 「え?」


 すると、話題を戻すようにジャンがそう言って来る。何故か話す流れになっている事に不思議がるルースが固まっていると、話を促すようにジャンが、骨付き肉を軽く振った。


◆◇——◆◇——◆◇——◆◇——◆◇


 「——ほう。つまり貴様は自分の復讐に区切りをつけようと思っている、と?」

 「まぁ……端的に言うとそうですね」


 数分後。ルースは勢いに流され自らの心境を吐露していた。


 ほんの数日前までは話し辛い身の上話ではあったが、きっと一度キキに話した事がハードルを下げたのだろう。つい流れで話してしまったルースだったが、あまり後悔はなかった。


 「……自分でも少し薄情だとは思うんですけどね。でも、バスでマスター達の話を聞いて、思ってしまったんですよ……もしかして今の俺は、ただの義務感で復讐復讐言ってるんじゃないかって……。そう思ったら、何か急に冷めちゃって……あはは……」


 それに……と、ルースは言葉を続けた。


 「三年間……冒険者をやって、最近は思うようになったんです。もしかしたら仇の冒険者たちも、今頃どこかで『どん底の人々』をやってるんじゃないかって」

 「……、……否定は出来んな。どん底で生きる冒険者なら、今はどこにでもいるだろう」

 「はい。だからこそです——ちっぽけに(・・・・・)見えました(・・・・・)。勿論、仇の冒険者達がそうなっている確証なんてないですけど……それでも、あんなに大きな存在に思えてた仇たちが、急に小さく見えたんです」

 「……」

 「ははは……何て言うんですかね。こう……三年も探している奴らが、もしかしたらどこかで野垂れ死んでるかもしれないって思っちゃったら、どうにも気が抜けちゃって……」


 そう言ったルースの横顔は、隠してはいるもののどこかショックを受けているようだった。彼の心情を完全に伺い知る事はできないが……ジャンには少しだけ分かった。


 ——きっと、拍子抜けしてしまったんだろう。


 長年探し続けている仇が、もしかしたら自分が天罰を下すまでもない程に落ちぶれ、どん底の人々として辛い目に遭っているのではないのか——。


 もしかしたら自分の復讐は、もうとっくに終わっているのではないのか?


 そんな疑念が、彼の胸中にあった残り僅かな復讐の炎を吹き消してしまったのだ。


 「ならば、もう仇を探すのは止めるのか?」


 重い沈黙の気まずさを破るように、ジャンは口を開いた。


 「……いえ、探します。まだ一つだけ知りたい事がありますから」

 「その仇とやらが貴様の両親を追放した理由か?」

 「……はい。理由に心当たりはあるんですけどね……でも、知らないままではいられませんから」


 ただ——。と、言葉を区切ったルースは溜息交じりに言った。


 「——もう、冒険者として仇を探す理由は無くなってしまいました」


 誤魔化すように笑顔を浮かべるルースの顔を見て、ジャンは察した。


 そう。彼が今、一番悩んでいる一点は『そこ(・・)』なのだろう。


 ——仇を探す為に冒険者で在り続ける理由はなくなった。ならば、自分はこれからも冒険者を続けるべきだろうか? と。


 「……なるほど(・・・・)下らんな(・・・・)

 「……え?」


 フンっ、と。ルースの悩みを鼻で一笑したルースは、残りの骨付き肉を頬張った。


 「何を悩む必要がある? 仇を探す為に冒険者で在り続ける理由がなくなったのであれば、止めてしまえばいいのではないか!」

 「……! そんなに簡単に決められるわけないだろ!」

 「何故だ?」

 「な、何故って……それは……」


 そこで言葉に詰まったルースは訝しんだように言葉を止めた。しかし、すぐに何かに気付いたようにハッとなった彼の表情を見て、ジャンは「フハハハハ!」と、豪快に笑う。


 「小僧。貴様はどうしたいのだ(・・・・・・・)? 悩んでいるという事実そのものがその問いに対する答えのハズだ」

 「……」

 「仮にも冒険者を名乗ったのであれば、もっと自由に生きろ(・・・・・・・・・)。考え過ぎだ、貴様は!」

 「……う、うっス」

 「だが、いいものだな……若いというのは(・・・・・・・)? そんなつまらん事でも、まるで人の生き死にに関わるような事のように悩む事が出来る」


 ジャンの言葉の意味を理解したのだろう。自分の心情を見透かされた事への気恥ずかしさ故か、ルースの表情は少しだけ赤かった。


 「牢獄生活の前に、笑える話を感謝するぞ、小僧?」

 「……俺、やっぱアンタのこと好きになれないっス」

 「フハハハハ! 俺様は気に入ったぞ! 礼に牢獄の中から貴様の復讐劇を応援してやろう。せいぜい陽気に復讐を遂げるがいい!」

 「こんのやろぉ~~~……っ!」


 真面目な話はここで終わり——。そう言わんばかりに笑いあった二人は、他愛のない馬鹿話で盛り上がり始めるのであった。

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