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マダラな鳩と蒸気の空  作者: 楠井飾人
Episode I:ブレッド・オア・ブラッドの赤い旗
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第16話‐DANGEROUS SPEEED③・後編

※今回は一話で掲載すると少し長すぎるので、前後編にします。

 「「……っ!?」」

 「よくも追い回してくれたなァ? コイツは礼だ……受け取れ!」


 ハっとした二人の目の前に現れたのは、大剣を振り被ったアスマである。一瞬の隙を突き先手を打ってきた襲撃者を認識して、ジャンとミーシャの怒りは、すぐに驚きへと変わった。


 「ぐぬぅぉお……っ!?」


 横薙ぎに振り抜かれた一撃。その斬撃の標的となったのは、ジャンである。


 彼は咄嗟に背中から引き抜いたソードオフ・ライフルを盾にした。しかし、いざ大剣が衝突するとその凄まじい衝撃に呻き声を上げる。そのまま力任せに振り抜かれた大剣によって、ジャンは数メートルの距離を吹っ飛ばされた。


 「脇がガラ空き……っ!」


 丁度その大剣を振り抜いた隙を狙い澄ましたかのように、ミーシャが撃鉄を上げる。アスマの脳天へ向けられた銃口から、弾丸が放たれようとした——()


 「ガラ空きなのは——」

 「——アンタの方でしょ、チビ助?」


 その隙を待っていたと言わんばかりに——。


 今の今まで銃撃戦で圧倒されていたことがストレスだったのか、好戦的な笑みを浮かべたキキとルースが、既に引き金に指をかけた状態のリボルバーでミーシャを狙っていた。


 しまった——。脳裏を過ったその思考。


 「ちっ!」と、舌打ちしたミーシャは咄嗟に銃口の先をキキとルースに変え、引金を引き絞りながら全力で後ろへと飛んだ。同時に、四発分の銃撃音が鳴り響く。


 「ぐ……っ!」と、ミーシャの苦しそうな声。


 やはり一瞬の遅れが早撃ちの勝敗を決した。ミーシャとルースの撃った弾丸は外れたものの、キキの弾丸がミーシャの脇腹を掠める。


 空中に跳躍した彼女は痛みで体勢を崩すも、根性で何とか着地。逃がさないとばかりに撃って来たキキとルースの銃弾から逃れる為、転がるようにして物陰の後ろに退避する。


 「オラオラァ、どうしたどうした~? そんなもんかよ若造共ォ~? その程度じゃオレら【RASCAL HAUNT】にゃァ勝てねェぞォ~?」

 「そうだそうだー、ノびてる暇はないぞ犬っころー! ビーフジャーキーはここにあるぞー!」

 「そこに隠れてるチビ助も出てきなさいよー! チビは度胸も小さいのかしらー?」

 「「~~~~……っっ!!」」


 分かりやすい挑発である。何かを企んでいるのは明らかだが、ニタニタと腹の立つにやけ顔で煽ってくる三人がジャンとミーシャの冒険者としてのプライドを刺激する。


 ——あんな奴らに舐められてもいいのか? と。


 煽るだけ煽った三人は、再び車に乗り込んで行く。アスマがハンドルコックを回すと、先ほどの衝突で少し車体がひしゃげた緑色のベルモンドが、排気蒸気を吐き出しながら曲がり角へと曲がって行く。


 「……あの小僧めッ、誰が犬っころだ! 誰が産まれて来た事を後悔させてやるッ!」

 「……あのクソガキぶち殺す……!」


 額に青筋を浮かべた二人は、物騒な言葉と共に車に乗り込み急発進させる。


 正に殺る気まんまんといった風にミーシャが二丁の蒸気銃を、ジャンはソードオフ・ライフルを握り締め、曲がり角を曲がった。


 「「……んな!?」」


 そして、驚きのあまり目を丸くした二人。ジャンが思わず急ブレーキを踏む。


 しかし、それもその筈。二人の視界に入ったのは、曲がった先の直線五メートルの先で停車し、わざわざジャン達を待ち構えていた緑色のベルモンドである。


 より正確に言うのであれば——後部座席に(・・・・・)ガトリングガンの砲身(・・・・・・・・・・)を乗っけて(・・・・・)してやったりと(・・・・・・)言わんばかりの笑みを(・・・・・・・・・・)浮かべた(・・・・)三人を見つけた(・・・・・・・)


 「ね? 持ってきといて良かったでしょ?」

 「運ぶの苦労しましたけどね」

 「……運んだのほぼオレだけどな」


 砲身の土台を左右から押さえたルースとアスマ。


 そして、手回し機関銃(ガトリングガン)のレバーを持った砲手のキキが、ニヤリと笑った次の瞬間——凄まじい銃撃音が鳴り響いた。


 「それ反則ぅ~!」

 「卑怯だぞ貴様らぁぁ~~ッ!」


 ジャンとミーシャの絶叫が響き渡る。全身を駆け抜けた恐怖心に突き動かされるままに車を乗り捨てた彼らは必殺の弾丸から逃れる為、その場から全力疾走した。


 そんな事などお構いなしに、狂ったようにグルグルとレバーを回すキキ。彼らが乗って来た黒いベルモンドごと、辺り一帯にある全てを破壊して行く。


 ものの数秒で穴の開いたチーズのようになった黒いベルモンド。おそらくタンクから水でも漏れたのだろう。水蒸気爆発を起こした四ストエンジンは、巨大な爆発音と共に大量の白い蒸気を吐き出し、すぐに周囲を青みがかった白に染め上げた。


 「ふぅ~……スッキリした!」

 「「……」」


 十数秒のあいだ続いた機関銃による乱射が終わると、熱を持った砲身がひしゃげていた。妙に気持ちよさそうなキキの言葉を合図に、表情を引き攣らせたルースとアスマが要らなくなったガトリングガンを車から投げ捨てる。


 「……キキさん、撃ち過ぎっスよ。爆発するまで撃ちますか、普通……。動かなくなるくらいでよかったのに……」

 「……アレ絶対死んだろ。たぶん死体グチャグチャになってるぞ? ひでェ死に方だぜ……」

 「な、何よ……その目は……! 何で私だけが悪い事になってんのよ! アンタ達も共犯でしょ!?」


 自分の事は棚に上げて淡々と座席にるルース。


 アスマも同様に手で十字を切りながらハンドルコックを回して行き、緑のベルモンドを発進させる。


 当のキキと言えば、何故か自分だけのせいになっている現状に納得がいかない様子。「ちょっと! なに無視してんのよ!」と、憤慨を露わにする。


 「……っ! キキさんっ、後ろ!!」

 「えっ……?」


 その時だった。


 ルースの慌てたような声が響くとほぼ同時、ロングコートの腰部分に何かが引っ掛かる感触をキキは感じた。慌てて視線を向けると、小さな(フック)付きのワイヤーが二本、自分のロングコートにしっかり絡みついていた。


 嫌な予感がして咄嗟にワイヤーの先を辿ると、二〇メートルほど後方——さきほど水蒸気爆発が起きた事故現場の近くで、青筋を浮かべて立っているジャンとミーシャを発見。


 おそらくは、あの蒸気銃から射出されたのだろう。


 ミーシャの手に持たれた二丁の蒸気銃の下のバレルから伸びているフック付きワイヤー。彼女が二丁の愛銃を無言でジャンへ渡すと、彼は思いっ切りそれを引っ張った。


 次の瞬間、ビィィィィン! と。


 ワイヤーが限界まで伸び切った事により、キキはそのまま慣性の法則に従って、空中へと放り出された。


 「キキさぁぁぁぁぁぁん!!」


 キキを助けようと、有らん限りの声を張り上げて手を伸ばしたルース。だがキキは宙の上。ワイヤーへ引っ張られるがままに、既に車上から飛び出している。


 ルースが伸ばした手が無情にも虚空を掴もうとした、その瞬間——。


 「……え?」


 ルースが間抜けな声を上げた。だが、それもその筈である。


 彼の視線の先、ガシッ! と、力強くルースの手をホールドしたキキ。絶対に離さないと言わんばかりに、自分へと伸びた手を両手で抱き締めたキキは、ついでと言わんばかりに両足でルースの首を四の字固めで締め上げた。


 意図の掴めない謎の行動に、目を丸くするルース。『……何やってんスか?』と視線だけで問い掛けてくる後輩に対し、キキは無慈悲に告げるのだった。


 「——アンタも来なさい」


 次の瞬間、キキに巻き込まれてルースは空中へと引っ張り上げられた。


 「そりゃないっスよぉぉぉぉぉ~~~!!?」と、涙目で悲痛を訴える彼の叫びが、辺り一帯に響き渡ったのは、もはや言うまでもない事である。


 「……何やってんだ、アイツら」


 そして自分以外だれもいなくなってしまった車上にて。


 アスマは独り、遠くなって行く部下の叫び声を聞き終えると、「はァ~……」と、どこか疲れたように溜め息を一つ。


 まぁ、アイツらなら大丈夫だろう——と。何事もなかったかのように運転に戻った彼は、少し離れた空に見えるルースの使い魔を目印に、ハンス達の追跡に戻るのだった。

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