第05話 怪物vsOL(?)
茂みの奥で騒いでしまったマルーと健を“OLのような女性”は横目で冷ややかに見ていた。
「あの子達何をやっているのかしら……まあいいわ。敵は幸い気付いていないみたい」
女性はすぐ敵に視線を変え、短く息を吐く。大振りの剣で敵に斬りかかるその人は、雷と風を意のままに操って戦う一方で、敵である植物の怪物はいくつもの太い根で重い打撃を放ち続けていた。
「(敵の動きは読めるから問題ないけど、弱っている様子が全く見られないわ――決定打が必要ね)」
一度怪物から距離を置いた女性は剣を握り直す。
「あれ? お姉さんの動きが止まったよ」
「一体どうした――あっ!」
「すごい! お姉さんの先で光が出てる! 大技炸裂かも!」
二人の期待が高まる……が、それはすぐに崩れ落ちる。
「わっ!?」
「なっ!?」
どごん! と大きく鈍い音がした。その音は地面に亀裂を走らせ、マルーと健の間を引き裂く!
「……健ーっ! ケガは無いー!?」
「俺は問題ない! そっちは!?」
言われてマルーが答えようとしたその時、彼女へ何かが無造作に転がり込んだ。その方向へ駆けたマルーが見つけたものは、無数の傷を負った女性だった。まさか、優位に立っていたはずの彼女が身も服もボロボロになって倒れているだなんて――マルーはその場で慌てふためくしかなかった。
「はぁ……油断したわ……」
「お姉さん! 大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫――つっ!」
「動いちゃダメです! そのケガを何とかしなくちゃ!」
「無理ね。回復している間にやられるわ。だからもう、戦うしかないの。攻撃こそが、最大の防御……」
膝から崩れそうになりながらも、両足でしかと立った女性。
だが、辺りや自身の身体を見回すのみでその場から動こうとしなかった。
「あの、どうしたんですか?」
「……おかしいわ! 私の、私の剣が見当たらない!」
「大変! 急いでお姉さんの武器を探さないと――」
と武器探しに乗り出そうとしたところ、マルーに聞き覚えのある声が張り上がる。
「おいこら! 二人を離、ぬわっ! やめろ! 離せえええっ!」
二人の目に、怪物の根に囚われてしまった健達が映る!
「――どうしよう! 皆が捕まっちゃってる!」
「あなたは私の剣を探して! 私が時間を稼ぐ!」
「でもケガが――!」
マルーに有無を言わせぬまま、女性は、三人を捕まえた怪物の元へ飛び込んだ。
「……とにかく探さなきゃ」
呟いたマルーはすくっと立ち上がる。
戦況はどう変化するのか分からない。とにかく早く見つけないと――慌てる心を深呼吸で抑え、マルーは辺りをくまなく見回した。するとある茂みからわずかに覗き見える柄を発見した。
「あれを抜いてお姉さんに渡せば――!」
茂みから茂みへ次々とかき分け、マルーはついに柄を掴んだ!
「よし! 後はこれを、引き上げて……あれ!? ぬ……抜けないっ! どうして!?」
力の限り引き抜こうとするのだがビクともしない。やがてマルーは勢いそのままにひっくり返ってしまう。それでもまた立ち上がり、マルーはもう一度柄を握る!
「お願い、抜けて! あなたの力が必要なの!」
「私の力が必要?」
「えっ?! ――眩しい!!」
聞きなれない声がした瞬間、つばが黄金色に輝いた!
「……今のは一体――!?」
マルーの目が光に慣れると、辺りが様変わりしていることに気付く。振り返っても、下を向いても、見上げても、この空間では洗練された無彩色のみが広がっていた。
「誰もいないみたい……どうなっているんだろう」
「貴女は――」
「 ? 」
「貴女は誰? いつもの人じゃない……」
こう話しかけてくるは、マルーより一回り大きい、黄金の羽毛に覆われた鳥。鮮やかな赤色の瞳でじっとマルーを見つめている。
「私マルー! あなたは?」
「私は、フェニックスソードを護るもの――フェニックス」
「フェニックス……ねえお願い力を貸して! 私、皆を助けたいの!」
「……なら、私の願いも、聞いてくれる?」
フェニックスの問いかけにマルーはしきりに頷いた。
「今、私が護っている世界が、影という存在に滅ぼされようとしている。その影に立ち向かう五人の戦士、すなわち五大戦士の一人として、私と一緒に戦ってほしいの」
「えっと……つまり、私が五大戦士の一人になって、あなたが護っている世界を救ってほしいってこと?」
「うん、そう」
穏やかに、かつ強く答えたフェニックス。
「世界を救うなんて、そんなすごいこと、こんな私に出来るのかな……」
「貴女は私と言葉を交わしている――これこそ、貴女が世界を救うことが出来る証」
とはいうものの。
世界が滅びるなんて大げさで、まるで漫画のような話を簡単に信じていいのだろうか。でもそれを嘘だと言い切ってしまえば説明のつかないことが山ほどある。
まずマルーが今いる真っ白な空間。次に目の前の黄金の鳥。さっきまで居たはずの女性に、その人をあっけなく弾き飛ばした植物の怪物。その怪物に凛とタッツーは襲われ、健も捕まってしまった。
怪物に立ち向かったときの緊張感も、襲われそうになったときの恐怖感も。そしてあの剣を手に取ったときの感触すらも、嘘で幻だと片付けることはマルーに出来なかった。