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第06話 体験入学準備/前編


「ボールさん。先ほどはご迷惑をおかけしました」


 道中、フロウ達に声をかけられたボールが振り向く。


「下手したら俺ら、とんでもねえ目に遭ってたからさ……すっげえ感謝だぜ!」

「まあ。見てたからな。お前らが学園長と話してるところ」

「そっか! だからケ……ボールは話し合いの内容を知ってたんだね! でもそれだったらどうして、嫌がったり、断ろうとしたりしたの? お助け屋としては良くないと思うな」


 マルーは眉間にしわを寄せ、ボールの仏頂面を覗き込む。


「学園長だって言ってただろ? 信じておらんって。俺もその時は信じられなかったんだよ。最悪、こいつらの嘘って可能性も拭えない――だから嫌がったし、断ろうと思った。まあ、今は裏付けを聞いてるからそうは思ってねえけど」


 そしてボールは三人に向かって指先を一つ向け、マルーの肩に手を置いた。


「今後は気を付けろよ? こいつがお人好しで馬鹿正直だったから良かったものの、頭の良い奴だったらめっちゃ怒ってると思うぜ――無理矢理事件に巻き込みやがって、ってな」


 言い切ったボールは三人組に背を向け、歩き出す。


「……もしかしてボール、私の事馬鹿にしたでしょ!?」


 その後ろを、怒り心頭なマルーが続く。

 リンゴとリュウがこの光景に苦笑する一方、レティとフロウは、互いの暗い顔を見合わせていた。


「あの男の子の言う通りね。私達は私達の都合しか考えていなかったんだから、怒られるのも無理ないわ」

「はい。学園長がお察ししていた通り、私、悪いことをしてしまいました……」

「大丈夫よ二人共。あいつだって、あいつの都合しか考えてないわ」

「……そうでしょうか?」

「だって知ってるのにあたし達に教えてくれなかったのよ? しかも情報の仕入れ方が盗み聞きって、どうなの!? って感じしない?」

「俺も同感! あとあいつの言い方、なーんかしゃくに障るんだよなー!」

「いけませんよラックさん……!」


 ぶっきらぼうに遠くへ投げるように言ったラックはフロウに口を抑えられた。それからリュウが、ごめんねー、と手で仕草する。


「ボールって、さっきのような言い方しか出来ないから……だから三人共、許してあげてー?」

「そ。あいつはいつもあんな感じなのよ――それよりもあたし、早く寮のお部屋を見てみたいわ!」

「おっと、そうだったぜ! 寮へ行くなら来た道を戻らねえとな――!」


 ラックがリンゴ達の前に出る。これを合図に全員が寮への道に一歩を踏み出した。昇降口が見える道まで戻ってきた一行は、それを背にして、少し先の大扉に向けて歩む。


「俺らの寮は、こっから先の中庭を通らねえと辿り着けないんだ。しっかりついて来てくれよ?」


 大扉を開けると、真っ先に花壇とベンチに囲まれた噴水が目に映った。色とりどりの小さな花がこちらに手をふるように風に揺れる中を、サイクロンズは通り過ぎる。そうして校舎同士の連絡通路の下をくぐって進んでゆくと、前方に、白塗りの壁と赤い屋根が特徴的な建物が見えてきた。


「あれがラック達の寮? 広そうだね!」

「いろんな教え子がいるからな。とにかく中に案内するぜ!」


 そうしてラックは建物の両扉を思い切り押し開ける。


「おばちゃーん! 戻ったぜー!」

「おかえりラック! レティもフロウも、試験お疲れさん!」


 ラックの後ろにいたレティとフロウにも言葉を投げたのは、大きな体つきの“おばちゃん”と呼ばれた女性。こちらに近付いてきた彼女は、マルー達を見るなり白い歯を向けて笑ってみせた。


「あんた達が体験入学の子ども達だね? ちょうどいいタイミングだよ!」


 とにかくついておいで! と、おばちゃんは奥に続く廊下を歩いてゆく。やむなくマルー達は彼女に続くことにした。



「学園長から連絡が飛んできてね――大事なことをあんた達に聞き忘れちゃったって!」

「大事なことって何ですか?」

「あんた達、不思議に思わなかったかい? 同じ学園なのに、教え子によって制服が違うって」

「そういえばそうね。フロウは襟付きのブレザーで下にはセーターを着てるけど、レティのは襟がないし、下はパーカーだわ……何かが違うのかしら」


 リンゴが思考を巡らせたところで、おばちゃんがとある扉に手をかけた。


「ここで適当に座って待ってて! 書類とか色々持ってくるから。――ラック達はあたしの手伝いをしてもらうよ!」


 マルー達が案内された場所は、ソファとローテーブルのみ、というシンプルな一室だった。応接間といえそうなこの部屋で四人は思い思いにソファへ腰掛ける。


「はいはい皆! これに名前とか、チェックとかしてねー!」


 一息ついたところでノックもなしに戻ってきたおばちゃん。手際よく配られた書類に目を凝らしてみると、ある項目が真っ先に映った。


「魔導専攻と武器専攻――」

「そ! この学園はね、魔法の奥深くまで学べる魔導専攻と、武器の扱いを学べる武器専攻の二つに分かれてるんだよ。学園長はこれを聞きそびれちゃったってわけ!」

「そういうことか」


 不意に上がった声の主はボールだ。立ち上がった彼はおばちゃんに書類を渡す。


「話はこれだけですよね。俺は戻るぜ」

「ちょっと! あんたのどこに戻る場所があるっていうのよ!」


 待ちなさい! というリンゴの呼び掛けはボールが開けた扉の閉まる音に掻き消された。悪態をつくリンゴと、眉尻を下げているマルーとリュウが残された中、ほどなくして三人組が入ってくる。


「ねえ三人共! 今あいつとすれ違わなかった!?」

「会ったぜ。図書館に行くらしい」

「図書館ね……あたし行ってくる。あんな態度で出ていくなんて人として良くないわ――」

「お待ちくださいっ! せっかく皆さんの制服を用意しましたのに、これ以上出ていかれては採寸合わせができませんわ!」


 リンゴが出ていくところを塞いだフロウや、近くにいるラックもレティも、腕には多くの布を抱えていた。渋々リンゴは元の席へ。


「おっ! 全サイズあったんだね!」

「あの散らかった倉庫からなんとか探したわよ……おばちゃんったら、人使いが荒いんだから」


 レティが言いながらも、三人はマルー達が使っていたテーブルに布を広げてみせた。布の全貌を見たマルーとリンゴから、わあ、と感嘆が漏れる。


「襟付きのこちらが、魔導専攻の制服」

「で、襟なしのこれが、武器専攻の制服よ」

「きゃぁーかわいいー! 特にこのスカート!」

「ぅわあぁーかっこいー! 特にこのジャケット!」


 ほぼ同じタイミングで制服を手にし声を上げた二人だったが、ひとつ合わなかったのはそれぞれが持った制服だった。


「そっか。リンゴは魔導専攻にしたんだね! 確かにこの真っ赤なスカート、リンゴにぴったりかも!」


 そうでしょ? とリンゴはスカートをあてがい胸を張ってみせる。しかし今のスカートでは丈が短すぎるようだ――ウエストの位置調整に苦慮している。


「それで、マルーは武器専攻にしたのね。オリーブ色のジャケット、確かにかっこいいわ!」


 そうだよね! とマルーはジャケットに袖を通してみせる。しかし、手元もお尻もすっぽり隠れてしまった様子は、まるで父親のスーツを着た子どものようだ。


「ふふっ! リンゴちゃんは、もう一回り大きいサイズの。マルーちゃんは、もう二回り小さいサイズがいいかな! んでもって、君の専攻は――」

「僕は武器専攻です。槍を使いこなせるようになりたくてー」


 なるほどね! と、言ったきり。おばちゃんは書類を見つめたまま動かなくなってしまった。


「あのー、どこか変な所でも?」


 リュウが首を傾げていると、おばちゃんは先の書類を彼の前に差し出した。




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