第23話 烈火の戦士・リンゴ/後編
「うーん……」
「おっ。目が覚めたんだな、マルー」
「ん? ……眩しい――」
マルーが目を開けると。広がっていたのは、輝かしい太陽と真っ青な空であった。今までつけていたマルーの装備もいつの間に解けていた。
「ねぇボール。ここはどこ?」
「遺跡の外だぜ。ほら」
ボールが指を差した先、そこには今まで探索していた遺跡がマルー達を見下ろしていた。どうやら遺跡の外へ瞬間移動したらしい――太陽がかんかんと照りつけてくる。
「他の人はどこにいるの?」
「今マルーを見つけたばっかりだからな。他のヤツらは知らねえ」
「そっかぁ」
「あーっ、マルー達いたー」
「リュウの声だ! おーい!」
「エンさんもいるみたいだぞ」
遠くから歩み寄ってくるリュウとエンに、マルー達は手を振った。
「あれ? 君達、魔法使いの彼女と一緒ではないのかい?」
「……そういえば。リンゴのこと、あれから見かけてないや。どこに行ったんだろう?」
「まぁいいや。リーダーには会えたからね」
そう言いながら、エンさんはおもむろに何かを取り出した。
「何ですか、これ?」
取り出したのは、手の平程の大きさをした蒼い玉であった。
「これ、実は僕も初めて見た品なんだ。あのぼうれいの跡である黒い砂の中にこれが埋もれてあってね。君達に見せようとした所でリンゴちゃんが何か言っていたからさ。ついちょっかいかけちゃって」
またもや軽快に笑ったエンに、マルー達は苦笑するしかなかった。
「とにかく、これをミズキになるべく早く渡したいんだけど、僕はもう少しこの辺りを調べたいんだ。だから君達にこれを託してもいいかな?」
「もちろんです! しっかり渡してきます!」
マルーはエンから“蒼い玉”を受け取った!
「じゃあ、僕は行くよ」
「もう行くんですか?」
「ああ。あの魔法使いにもよろしく伝えてくれ。今日はどうもありがとう。また出会えるといいね」
「はい! 何かあったら、またよろしくお願いします!」
こうして、三人は依頼人のエンと別れたのだった。
彼は今の遺跡の外見を確認しようと遺跡の周りを歩く。しかし、途中である人を見かけた。
「あれは魔法使いの……」
エンが見かけたのは、何か思いつめているようなリンゴの姿であった。彼女は地面をじっと見つめているように見える。
「やっぱり君だ。こんなところにいたんだね」
「ひ! い、いつからいたんですか!」
「ついさっきだよ。どうしたんだいこんなところで考え込んじゃっ――!!」
彼女が見つめていたのは、左手首できらめくブレスレットだった。
「……もしかして君。マルーちゃんと同じ――」
「はい」
「そうかそうか! やったじゃないか! ここに来て初めて魔法を覚えられて、更には赤の戦士になれただなんて、嬉しいことじゃないか!」
「……」
「なんだよ! そんなに暗い顔をして! 世界を護る戦士として、ちゃんと認められたんだろ? 良い事じゃないのかい?」
「そうですけど――」
リンゴはしばらく黙っていた。エンはそれをじっくりと見守る。
「あたし、不安なんです。赤の戦士だって、この杖に眠るキャニスに言われた時、あたしはマルーと同じになれたんだなって、一瞬だけ思えたんです。でも……」
「でも?」
「でもあたしは、マルーみたいにすぐ行動に移せるわけじゃなくて、マルーよりはやっぱり臆病で――そう考えると、やっぱりマルーと同じように出来る自信はなくて……」
「ふーん」
「キャニスにもマルーにも、心配ない、大丈夫だ、って言われたけど。あたしいまいちそう思えなくて――ってちょっと!」
リンゴが思わず立ち上がる。彼女を見守っていたはずのエンが、いつの間に距離を置いていたからだ。
「ちゃんと話を聞きなさいよ! エンさんだからあたし、考えてたことを伝えたのに!」
「本当に?! いやあ、嬉しいことを言ってくれるねー!」
「ふざけないで! あたしは真面目に考えてるのよ! マルーに迷惑なんかかけたくないんだから!」
「迷惑なんかかけたくない? その考えは良くないよ――」
やれやれ、といった様子で、エンは少しだけリンゴの方へ歩を進めた。
「人は大抵ね、迷惑をかける生き物なんだよ。僕だって、頭が痛くなったあの時は、運んでくれたボール君にリュウ君、治るまで敵に立ち向かってくれたマルーちゃん。あと僕の傍にいた君。この四人に迷惑をかけたんだ――完璧に迷惑をかけないなんて、残念ながら出来ないんだよ」
「出来ないって――」
「それに、君は誰かと同じである必要はないよ」
「……どういうことよ」
「言ってる通りだよ。君は君らしく振る舞えばいいってこと。別にあの子みたいになる必要はない。自分を貫くんだ」
「自分を……」
「自分に出来ないこと、自分じゃどうしようもないことは、出来る人に任せちゃって良いんだ。でも逆に、相手が出来ないことの中で自分に出来ることがあるなら全力で相手を助けてやる! これが大切さ」
――私に出来ないことが出来たリンゴなら大丈夫だよ!
「あたしに出来ることは――」
リンゴの目線は、気が付くとメテオロッドに向いていた。太陽の光を受けた宝玉が、引き締まった表情のリンゴを映す。
あの! と目をエンに向けると、またもや彼はリンゴから離れていた。今度は下手をすると見失いそうだ。
「もうーっ! 話、終わってないんですけどー!」
「いや終わっただろう!? だって君、答えが見えたみたいな顔していたじゃないか!」
「そうですけど! 教えてもらったお礼はちゃんと言わなきゃいけないじゃない!」
そうしてリンゴが、エンに向かって頭を下げた。
「ありがとうございます! あたし、頑張りますから!」
言い切ったリンゴに、エンはひょいと手を上げたその瞬間、リンゴの目の前で砂混じりの風が強く吹いた。
目を開けたときには既に、依頼人のエンは何処かに消えてしまったのだった。
「おーい! リンゴーっ!」
その時、後ろでリンゴを呼ぶ声が聞こえた。
「――マルー! それにみんな!」
「わざわざ遺跡の周り一周したのによ。見つかる訳ねえじゃねえかこんな所にいたら」
「リンゴの声が聞こえなかったら、どうなってたかー」
「心配かけちゃったみたいね。ごめんなさい、三人共」
「ううん! とにかく見つかって良かった! 皆、フライトに戻ろ!」
マルーが来た道を駆けてゆく。
「そうね、戻りましょ!」
言うなりリンゴはくるり。マルーの後を追った。
「おい待てよ!」
「置いていかないでよー」
ボールもリュウも、帰路につくのだった。