第19話 vsぼうれい/3
リンゴを除いたサイクロンズの乱撃に加え、エンの火魔法。少しずつだが確実に、ぼうれいの動きを鈍らせてゆく。しかしどのような攻撃も、今までの様な決定打には至らなかった。
「んああああこいつ! 弱点とかねえのかよ!」
圧倒的な変化が見受けられない敵にしびれを切らしたのか、ボールが声を荒げる。
「なあマルー! こいつの弱点知らねえか!?」
「そんなの知らないよ! この世界の事もまだ分かってないのに――!」
「マルーちゃん! ここまでの事を思い出すんだ!」
二人の会話を断ち切るようにエンの声が飛んできた。
「えっと――」
マルーは一旦攻撃を止め、ぼうれいを見据えたまま後ろへ下がる。
「武器での攻撃に手応え無くて、吹き飛ばされちゃって、リンゴが魔法を使えるようになった――そういえばリンゴ、しきりに上に向けてホノオを放っていたような――!」
マルーは顔を上げた勢いそのまま、ぼうれいの周囲を駆ける!
「ボール! リュウ! 上だよ! 上を狙って!」
こう叫びながらリュウの傍を通り過ぎ、ボールに近付いてゆく。
「そうそう! あのぼうれいは間違いなく顔が弱点だ!」
「はい! リンゴとエンさんの魔法、顔か頭に当たった時が一番効いているみたいだったから、そうかなって!」
「そうだとしても、俺達でどうやって狙っていくんだ?」
尋ねるボールの声で、マルーは来た道を戻る。彼女がボールに姿をみせた頃、リュウもこちらに走り寄って来た。
「ひっくり返せば良いんだよ! さっきみたいに!」
「さっきってなあ。あれは弱点を叩いたからだろ? そういう決定打が打てるのは今ん所リンゴだけだ。俺達にそういう力はねぇ」
「じゃあどうすれば良いの?」
「俺に聞くなし」
「はーい。僕達から近付けばどお? ジャンプするとかで」
「ジャンプで届くか?」
「踏み台があれば届くよー」
「どこにあるんだ?」
「……二人に踏み台作ってもらってー、僕が跳んで、槍を急所にどーん、みたいな?」
「それだーっ!」
「は? マルー正気か?」
「やってみなきゃ分からないよ! やろう!」
意見を採用され、意気揚々と武器を揚げるリュウを背に、ボールがマルーに耳打ちする。
「あいつ、この中で一番体重あるぞ。俺達で支えるなんて出来んのか?」
「この中で一番力持ちなのはリュウだよ。だからここは気合で!」
「まじかよ……」
威勢よく語ったマルーに難色を示すボール。だが、他にも案が思い付くかというと、そうではない。
「……ここはあいつの作戦に乗るか。仕方ねぇ」
こうして、リュウの案を採用したマルーがボールと共に作り上げた踏み台の広さは、僅か手の平四枚分だった。
「リュウ! ちゃんとこの――私達の手の平に乗っかってね!」
「ほーい」
「ミスったら承知しねえぞ! 来い! リュウ!」
「いきまーす!」
槍を中段に構えたリュウが、二人に向かって駆け出す。
「とう!」
「来たぞ!」
跳んだリュウの足裏を、「せーの!」で受け止めた二人が放り上げた。
ぐんぐんとぼうれいに迫るリュウは遂に頭上を捉える!
「やあーーーっ!」
リュウの一喝。彼が投げた槍はぐさりと音を立てた。脳天を突かれたぼうれいは悲鳴を上げながら上体を揺らしている。
「いいぞ! 上手くいった!」
「やったね、リュウ!」
踏み台役を終えてへたり込む二人に、攻撃を当てたリュウが戻って来た。
「二人共ありがとー。当ててこれたよー」
「ああ見たぜ。ばっちりだったな」
「さすがだねリュウ! ――あれ?」
ねえ見て! とマルーが指を差す。指し示す方向には体勢を戻したぼうれいがいた。それはリュウが突き刺した槍を抜き取ると、そのままどこかへ放り投げてしまった!
「あっ、僕の槍! 待ってー!」
「おいリュウ離れるな!」
槍を追いかけるリュウをボールが追おうとした瞬間、地面が鈍い音を立てた。ぼうれいが、一歩一歩踏み締めるように二人へ近付いてくる。
「さっきまで痛がっていたじゃねえかよ!」
「ここは逃げ――!」
言いかけたマルーの近くに影が落ちる。見上げた先のぼうれいは、二人に向けて腕を振り上げている――!
「いけえっ!」
そこに突如声と熱気が二人の間を縫った。熱気を放ったのはホノオ。ぼうれいに直撃し攻撃を止めさせた!
「何してるのよ! 最後まで油断しない!」
「リンゴ――!」
「言う通りだな。ぺしゃんこだったぜ今頃」
「ほらよそ見しない! あっち向きなさいよあっち!」
言いながらリンゴがホノオを宿した杖を振り上げる! ホノオはぼうれいへ二人の視線を導くように飛んでゆく。
「あたしがあいつをひっくり返すわ。だから二人はとどめをお願い!」
「おっけい!」
「了解」
マルーとボールが散る一方、リンゴはその場で再び杖に手をかざした。




