第14話 あたしに眠る力/2
声がした方へ振り返ると、おさげを揺らすマルーが向かってくるのが見えた。
「ちょっとマルー……!」
リンゴは駆け足でマルーの方へと向かう。
「良かった! 無事だったんだね!」
「ダメよ! あんまり大きな声を出さないで!」
「ええっ!?」
「おいおい。再会して早々、その言い草はねぇだろ?」
「どうしたのー?」
叱られたマルーの後ろから、ボールやリュウが姿をみせる。
「大きな音とか声が苦手な人がいるの。だからなるべく声量を落として、ね?」
「リンゴ、誰かと一緒なの?」
「ええ。ここに詳しい女王様とね」
リンゴはマルー達を女王の元へ案内した。
こちらに、とリンゴが女王を指し示す。しかし、マルーは首を傾げるばかりだ――女王を凝視しているにも関わらず。
「本当にそこにいるのー?」
「頭おかしくなったんじゃねえの?」
「そんな事ないわよ。ちゃんとここにいるんだから」
疑うリュウとボールにこう言ったものの、二人はマルーと同じように首を傾げる。
「どうやら、私の姿は彼らに見えていないようですね――」
「そんな、見えていないなんて……」
「うん。ごめん、リンゴ」
「気にしないで、マルー。でも、残念だわ。誰もが見惚れる美人さんなのに」
「ふっふっふっ――僕にはお見通しさ」
そこに現れたのは、マルー達に遅れてこの広間に入ったエンだった。
「えっ? 師匠、見えるんですか!」
「もちろんさマルーちゃん! ――女王様、お会い出来て光栄です」
片膝をついたエンは手を差し出した。それを見たリンゴがため息混じりにああ、と漏らす。
「手、突き抜けちゃってますよ。女王様の身体を」
「おっと、これは失礼……この辺りかな?」
「離れすぎです」
「じゃあ……この辺?」
「惜しいです。もう少し前に――」
「リンゴさん。無理をなさらないでほしいと、お伝えいただけませんか? この方、私の事は見えていないんですよね――?」
「良いのよ。あたしの事を散々馬鹿にした人なんだから」
「そんな、良くありませんよリンゴさ――づうっ!!」
突然だった。女王は頭を抱えてしゃがみ込んでしまったのだ!
「どうしたんですか!? しっかりして下さい!」
「――あなた方の侵入に、気が付いて……あの人が!」
「あの人って?」
問い直すリンゴだが、女王は唸ってばかりだ。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
不意に上がった声にリンゴは目を向ける。なんと、エンも、女王と同じように頭痛に見舞われていたのだ。
「あの方も、あの人の存在を感じているようです――」
女王は重そうに頭を上げるとリンゴにすがる。
「どうか、伝えて下さい! 私が愛した人を、どうか――!!」
女王が言い切る瞬間。それをかき消すような雄たけびが轟いた!
耳を突き刺すような悲鳴を上げる女王は、背中を丸め、みるみると背を縮めてゆく。
「女王様! ダメよ消えちゃあ――!」
リンゴが声をかけても、女王の縮小は止まらない。
「お願いします――どうか――よから――きはな――て――!」
苦し紛れにも顔を上げ、リンゴに言葉を投げた女王を、雄たけびが無情にも押し潰してゆく――。
「イヤあああぁーー!!」
「どうしたのリンゴ! 大丈夫!?」
リンゴの絶叫を聞いて駆け付けたマルー。顔を手で覆って肩を震わせるリンゴにさっと寄り添う。
「ねぇ何かあったの? 私に話せる?」
声をかけてもリンゴはすすり泣くままだ。会話が出来そうにない。
「おい! あの箱やばいんじゃねぇか!?」
不意に飛び込んだボールの声でマルーが顔を上げた。見ると、柱に乗った正方形の箱ががたがたと動き出しているのだ。そしてそれは大噴火のごとく暗雲に似た物体を噴き出した。
マルーはリンゴの傍を離れないまま、立ち昇る物体を見据える。その物体はやがて四肢をかたどり、広間を覆い尽くしてゆく!
「なんて邪悪な力なんだ。未練に怒り――黒い感情が、ぼうれいに成り果てたような――あ゛あ゛っ!」
両手で頭を抱えながら突っ伏したエンを、ボールとリュウがとっさに介抱した。
「すまない、二人共」
困憊したような声で呟いたエンへ、ボールとリュウは静かに頷く。
「リュウ、あの“黒いぼうれい”を何とかするぞ。まずはエンさんをぼうれいから引き離す――マルー! そっちは大丈夫か!?」
「大丈夫! とりあえずリンゴを端っこに連れてってそれから――!」
次の瞬間、黒いぼうれいの雄たけびが再び轟いた。もう猶予は無い――リンゴとエンを広間の端に避難させたマルー、ボール、リュウは、ぼうれいの前に立ちふさがった。
「よーし! 戦士の力、今こそ見せる時だよ!」
言うや否やマルーは左手を握りこぶしに変え、胸の前に構えた!
「 転身! The Soldier !! 」
左手を突き上げながらマルーが叫ぶと左手首を巻くブレスレットから一筋の光が飛び出す。光は黄金の鳥に姿を変え、マルーの周りを旋回。彼女の装備を整えてゆく――。
「黄色の戦士マルー! 転身、完了っ!」
戦士らしい装備を身にまとったマルーは、背負った剣を抜きながらぼうれいの元へ駆ける!




