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第11話 魔法使いと女王/後編



 それにしても、この遺跡は単調だ。緩やかな下り道に、その道を照らす灯台、壁や床の色も質感も何も変わらない。

 そんな道を歩んでいるリンゴだが、退屈さはあまり感じていなかった。おそらく、女王と一緒に談笑しながら歩いているからだろう。互いの生活についてが互いの興味をそそり、一つ話題が出れば途端に話に花が咲いてゆくのだ。

 加えて、会話を重ねる度に変わる女王の表情も面白い。幽霊のはずである彼女から生気を見てとれるからだ。幽霊全部がこんなに人間らしいなら良いのにと、話をしながらリンゴはつくづく感じるのだった。


「そういえば、女王様」


 ふと、思い立ったようにリンゴが言う。


「どうされましたか?」

「ずっと不思議に思っていたんだけど、どうやって灯台に火を点けてるんですか?」

「――何故そのような疑問を?」

「もし魔法だったら凄いなあ、って思って」

「そうですね――確かに、私が移動している今、僅かながら周りに火属性の魔力を張っていますから、魔法を使っている事にはなるかと――」

「だったらお願い! あたしに魔法の使い方を教えて!」

「うっ――!」


 リンゴに迫られた女王は、両耳を押さえながら背中を屈めてしまった。それを見たリンゴは思わず口に手を当てる。


「ごめんなさい。大声とかが苦手だったのよね」

「いえ。お気になさらずに――魔法について教えてほしい、との事でしたよね――」


 立ち上がった女王は、心なしか、始めより背が縮んでいる気がした。


「リンゴさん? どうされましたか――?」

「えっ? い、いえ! 何でも!」


 これから魔法の事を教えてもらうんだから――背丈のことは頭の隅に置き、リンゴは女王の話に耳を傾ける。


「魔法の使い方というのは、そうですね――!? リンゴさんこちらへ!」


 突然形相を変えた女王が、物陰へとリンゴを手招く。

 リンゴはやむなく、道の外れに身を隠すことになった。


「どうしたのよいきなり」

「来ます。大軍が」

「大軍?」

「耳を澄ますのです――」


 言われたリンゴは、道に耳を傾ける。そうして間もなく、押し寄せる大波の様な音が轟いてきた。

 女王と共に、その音に見つからないよう息を潜めるが、音は一向に止まない。むしろ音はだんだんと大きく聞えてくる……。


「何なのよ、この音」

「王を護衛する為、この辺りを巡回している兵士達の足音です――彼らには私が見えていない様子ですが、地を足で踏み締めている者には容赦なく襲いかかります――」

「そんな!」


 止まない音から察するに、兵士の人数は想像を遥かに超えていそうだ。


「あんなのに追いかけられたら大変じゃない……!」

「心配はいりません。この時をやり過ごせば、会う事はありませんゆえ――」

「本当? これをやり過ごせばもう会わないのね?」


 女王がしかと頷く。これを見たリンゴが胸を撫で下ろした頃、兵士達の足音はかすれ、やがて聞こえなくなっていた。


「それでは、進みましょうか――」


 女王が再び道を行く。

 リンゴも物陰から顔を出す。目に飛び込んだのは、来た道を乱雑に埋め尽くした、兵士達の足跡だった。


「あーあ。あたしが描いた道しるべ、消えちゃった……」


 せっかくの努力が水の泡だわ、と気を落とすリンゴ。


「来てください、リンゴさん――!」


 女王の呼び声が耳に入ったのはその時だった。


「どうかしましたか?」


 リンゴが女王の元へたどり着いた時、彼女は道の途中にある壁を見つめていた。


「あの。その壁に何があるんでしょうか」

「――魔法の使い方、というのは、言葉で提示できるものではありません」

「えっ?」

「魔法は、使い方に忠実であるだけではいけません。魔法を使うにあたって最も大切な事は、目に見えないものなのです」

「目に見えない、大切な事――」

「それは、この壁を破ることで得られるでしょう――それでは――」

「え、ちょっと!」


 リンゴが引き留めようとした時は既に遅かった。女王は目の前の壁をすり抜けてしまったのだ。


「……ここは一人でやるしかなさそうね」


 取り残されたリンゴは、杖を両手に、前方へ構えた。


「このパートナーの力を借りて、あの時のように集中すれば、きっと!」


 こうしてリンゴは、一人、静かに目を閉じる。



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