第07話 遺跡を往く
階段を下りきって目にしたのは、上下左右黄土色の煉瓦で整備された路だった。たいまつの明かりに照らされたそれは粒子が瞬き、そのおかげか下り階段の時よりも皆を視認することが出来た。
「この輝き具合は建てるのにお金がかかってそうだ。状態も良好。崩落の心配はなさそうだね」
辺りを見回しつつ、独り言をぶつぶつ。一人前進する依頼人のエンにサイクロンズはただ静かについて行った。
段々と路は広くなり、エンと並んで歩ける程になった頃。ついにマルーが沈黙を破った。
「エンさん! さっき言っていた“魔法の極意”って何ですか?」
「ん? ああ、そういえばそんな話をするんだっけね……」
少し間を置いたエンが立ち止まり、サイクロンズを前に話を始める。
「簡単さ! 想像することだけ!」
「そんなあっさりで良いんすか? 信じられねえな」
「そう言わずにやってみるんだ! さあ! こんな風に、まぶたを閉じて――」
両腕を大きく広げ、さも当たり前のようにまぶたを閉じている。その様子を目の前で見ていたマルーは、瞳を輝かせていた。
「皆! とにかく師匠の言う通りにやってみようよ!」
「おいマルー師匠って――」
「やってみないと、分からないこともあるよー、ボール」
「そう言われてもなあ……」
「あたしはやるわ。リュウの言う通り、試してみなきゃ分からないこともあるもの」
「そうそう! 見かけ倒しな魔法使いの言う通り、何でもやってみないと!」
「余計なことを言わないでくれません? あたし、今から集中するんです――」
「よーし私も!」
「僕もー」
「……勝手にやってろし」
こうして、ボール以外の三人が、エンと同じようにまぶたを閉じるのだった。
「ほらほらほら! キテるだろー? 胸の中で、ふつふつと燃える何かが!」
「……そう言われると、何かがキテる気がします!」
「僕にも何かキテるかもー」
「その調子だ二人共! さらに来るぞ! ぼわあああっと!」
「ぼわああっ!」
「ぬわあーっ!」
マルーとリュウから気合を込めた一声!
「……」
「何も起きません、師匠」
「ダメでしたー……」
「だろうな。そんなことで身につくなら誰も苦労しねえだろ」
「な、何を言う! まだあの魔法使いが残っているじゃないか!」
「リンゴ、すごい集中力だねー」
「気のせいか? あいつの雰囲気が違うような」
「ん? そうかな?」
しばらく続く沈黙の時間。リンゴは目をつむったまま微動だにしない。
「全然動かねえな」
「この様子は……どこからか、強い魔力を感じているのかもしれないね」
「本当ですか!?」
「……あくまで“予想”の話だけどね」
「予想、ですか――」
「でも、もしエンさんの言う通りだったら、リンゴは素質があるってことじゃなーい?」
そのような話をしていたリュウがリンゴの顔を覗き込んだその時、彼女の目は、がっ! と開かれ杖を掲げた! 至近にいたリュウが思わず尻もちをつく。
「ああもう! 全っ然分かんない!」
盛大に叫んだリンゴは、ぺたん、と地べたに座り込んでしまった。
「残念だなあ。僕の予想は外れてしまったようだね」
「何ですか予想って?」
「俺もどうやら勘違いしていたらしい」
「何よ勘違いって!」
「うう……エンさん、そろそろ行きましょー」
「そうだそうだ。すっかり本題を忘れるところだったよ」
エンが再びサイクロンズの前を歩き出す。
「ちょっと! 一体どういうことなのか教えなさいよ! 」
リンゴの訴えもむなしく、落胆混じりの息を吐いたボールと、腰を上げたリュウが、リンゴの横を通り過ぎてゆく。
「ふふっ! 皆、リンゴのことを応援しているみたい!」
無邪気に笑いかけたマルーも、エン達の後に続いた。
「あんな態度のどこが応援なのよ……」
疲れ混じりの息を吐いたリンゴも、全員の後を追いかけるのだった。