第03話 活動にあたり・フライトで飛ぶ
「わあ……!」
「素敵ね!」
「眩しいな」
「おおー!」
マルー達は、始めに景色を見た時と同じように目を見開いた。
扉の先で待っていた部屋は、四人で使うにしてはもったいないほどの広さを誇っていた。壁の半分以上を占めるガラス窓から、太陽と海とで織りなす光を一身に取り込んでいる。
「さあて皆! 早速だけど壁に手すりがあるから――って皆聞いてる!?」
ラビュラの話よりも、彼等は部屋の真新しさに夢中のようだ。
無理もないか、とラビュラは呟くと、部屋の一番奥へ足を運んだ。彼女はガラス窓の前にぽつりと置かれた上等な椅子に座ると、その目の前にある機械を操作し始めた。
「……あれ? ラビュラさん、何をしているんだろー」
そんな彼女の行動に一早く気が付いたリュウ。その後に気付いたボールが「あ」と声を漏らした。
「そういやあ、ここに入ってすぐ手すりを掴んでおけって言っていたような――ん? 傾いてきたぞ」
ボールが勘付いた通り、部屋はあからさまな機械音を立てながら徐々に傾いてゆく。この傾き様にマルーとリンゴも気付いた様子だ――二人で肩を寄せ合っている。
「あなた達準備は良い!? もうすぐ飛ぶわよ!」
「と、飛ぶんですか――!」
「発進っ! 」
ラビュラの掛け声で、部屋に向かい風のような圧がかかった!
「うわあああああああーーーーー!!」
がだん! ごろん! と、ラビュラの後ろで物音と悲鳴が巻き起こる!
「皆ー!? 大丈夫ー!?」
「目が回るよおー!」
「世界がぐるぐるだー!」
「ちょっとの間、辛抱しててね――!」
ラビュラはハンドルを思い切り引いた! それから少しずつ部屋の圧が弱まるのを肌で感じながら、ハンドルを徐々に押し戻し、斜めになってしまった部屋を水平にするべくそれを僅かに傾ける。
どうにか部屋を落ち着けたラビュラが、全身に入った力を抜くように息を吐き出した。それから振り返った彼女の目には、無造作に横転しているサイクロンズが映ったのだった。
「大丈夫じゃなさそうね」
「もう! 何なのよお!」
「気持ち悪ぃ……乗り物に酔ったみてぇな――」
「あら、察しがいいわね」
「どういうことっすか――吐きそう――」
「吐くなら外でしなさい。適当な窓を開けていいわ」
的確に看病をするラビュラにより、部屋が平穏を取り戻したところで、事の発端のラビュラが胸を張る。
「この部屋のすごいところは景色だけじゃないのよ! この部屋は――」
「うをおっ! 下! 下白いぞ!」
話の途中でボールの声がこだまする。
彼の元に集合した三人が見たものは……見渡す限りの雲海と、宇宙に届きそうな程の青空だった。
「すごいすごい! 大空だよ!」
「見晴らし最高じゃない!」
「そうでしょう? この部屋は世界中を飛び回る“飛空船”でもあるの。こんな最高の部屋を貸してもらったあなた達ならどんな街でも飛んで行けちゃうってわけ!」
「驚いちまって俺、酔いが吹き飛んじまった」
「良かったねーボール」
「――ラビュラさん! この飛空船に名前はありますか!?」
「いいえ。ないわよ?」
「それなら私、この船に“フライト”って名前をつけます!」
「……ふふっ! 良いわよ、構わないわ」
「やったあ! よろしくね、フライト!」
そう言ったマルーは笑みをこぼし、床をさすり始めた。
「本当に面白い子なんだから――それじゃあ皆、こっちに来て! ローブン一周の旅を始めるわよ!」
ラビュラは飛空船“フライト”の前方にサイクロンズを集合させると、彼女は先ほどの椅子に腰かけた。椅子の前の機械には、ハンドルやメーター、レバーなど、操縦に関する器具が取り付けられている。ラビュラはそれを慣れた手つきで動かしていき、フライトを少しずつ降下させていった。
そうして雲海を抜けたフライトは、眼下に大陸が見える位置まで降りてきた。青、緑、黄土色など、大自然の色や大陸ごとに違う街の色達を、ラビュラは丁寧に説明してゆく。
目に映る景色に圧倒されるばかりのマルー達だが、ある者はそんな光景に目をくれることなく、ハンドルさばきを延々と焼き付けていた。
「そんなに見られると集中出来ないわよ、リュウ」
「あ、ごめんなさい――」
そう口にするリュウだが、ラビュラの一手毎に、彼は熊のような声を上げる。
「……そうね。今から自動運転に切り替えるから、あなたに操縦方法を教えるわ」
言われて頷いたリュウの背筋が、ぴん、と伸びる。
緊張しなくて良いわよ、と声をかけながら自動運転の操作を終えたラビュラは、リュウに席を明け渡した。
それからの操縦はリュウに握られた。彼の姿勢と、ラビュラの指導で着実に上達させていった彼はやがて――。
「着陸、完了です……」
フライトは、無事、ファトバルシティに着陸した。
「お疲れ様! よく頑張ったわね」
「いいなあリュウ! 私にも今度教えて!」
「いいよー。これからの操縦は、僕に任せてねー」
ローブン一周の旅が終わり、皆がそれぞれ一息ついたところで、フライトの扉が叩かれ、開けられた。
「ラビュラ、サイクロンズ、お疲れ様」
扉を開けたのはミズキ。包装紙ぐるぐる巻きの荷物を四つ、両腕いっぱいに抱えていた。