第02話 活動にあたり・郷に従う
ローブン向けの名前三人分を考えるべく、マルーは腕を組むと顔をへの字にし始めた。
「まずは凛! 赤色が好きだし、凛が作る美味しいアップルパイにちなんで、“リンゴ”って名前はどう?」
「リンゴ――いいわね!」
「次はタッツー! タッツーの名前は竜也って書くでしょう? そこからとって、“リュウ”はどうかな?」
「かっこいいー! 僕、それがいいなー」
「それで健は――」と言いかけたマルーは、健に指を差したまま動かない。名前が決まった凛――リンゴと、竜也――リュウも、マルーに注目する。
「――健はやっぱりケンだよ! それしか思いつかない!」
「無理して変えなくてもいいぞ、マルー」
「それはあたしが許さないわ」
「ならお前が決めろよ」
「そうね……あんたの得意なことは?」
「バスケ。ドッジ」
「そういえばそうね。あんたの特技、球技ばっかりだったわ」
「悪いかよ」
「悪くないよリンゴ! その発想、良い!」
マルーがにこやかに言うと、ラビュラとミズキの方へ向いた。
「左から名前が、リュウ、リンゴ、“ボール”です!」
「は? ちょっと待――」
「そして私はマルーです! よろしくお願いします!」
言い切ったマルーにウインクをされ、健――ボールは肩をがっくりと落とした。
「“ボール”って名前も、かっこいいと思うよー」
「そうね。悪くないと思うわ」
「――まあいい。あくまでローブンでの名前だからな。……で? 班の名前はどうするんだ?」
「それなら私、もう決めてあるんだ!」
マルーがおもむろに席を立ち、伏し目がちに呟いた。
「私達は、風の森からやって来た、アースもローブンも巻き込んでいく戦士達。その名も!」
皆が見守る中、マルーが目をかっと見開き、人差し指を高く掲げた!
「ずばり! “サイクロンズ”っ!」
言い放ったマルーの表情は得意気である。拍手するリュウを除き、皆が一歩引く様子をみせた。
「……ずいぶんと面白い子を連れてきたな、ラビュラ」
「面白いでしょあの子。ふふっ!」
「ポーズまで決めるか……」
「でも、良いセンスね!」
「かっこいいー!」
なら決まり! とマルーは胸を張り、鼻高々だ。
「サイクロンズか。――なるほど、そこまで決まったなら。ラビュラ、サイクロンズにこの部屋を案内してやってくれ」
そうしてミズキが手渡したものを見たラビュラがとっさに口を手で覆った。
「こんな部屋をサイクロンズ専用にしちゃうの!?」
「これくらいの優遇が当然だろう。案内するんだ」
「分かったわ。……皆! ミズキがあなた達の部屋の鍵をくれたわよ!」
ラビュラがもらった物は、ペンほどの長さをした鍵だった。黄金色のそれは窓から射す光できらりと輝く。
「早速部屋に向かうから、ついて来て!」
こう言ったラビュラが鍵を握り締めると、ミズキに軽く挨拶を済ませたのちに、その場を後にした。サイクロンズもミズキに別れの挨拶をし、ラビュラの後を付いてゆく――彼女は既にエレベーターに乗り込んでいた。
エレベーターを使って下りた場所は、最初にやって来た階だった。どうやらエレベーターとはお別れらしい。
「ラビュラさん、ミズキさんが言っていた部屋はどこにあるんですか?」
「ここから行ける地下にあるのよ」
「ここから、ですか?」
辺りを見回してみるも――この一帯は壁に囲まれている――地下へ続く道があるとは到底思えなかった。
その間のラビュラは、エレベーターを降りてすぐ横の壁に手をかざしていた。これに四人が気付いた頃、かざした壁がなんと、入口を示すかのように光で長方形を描き、音もなく消してしまった。
「すごい! 魔法みたい!」
「この先が地下への階段よ。足元が悪いから、気を付けて下りるのよ」
一行は消えた壁の先に続く階段を下りてゆく。
「……おいあの先、行き止まりじゃねえか?」
「ふふっ。そう思うでしょ?」
下りた先に現れた行き止まりを前に、今度のラビュラは大きく何かを描くように腕を動かす。すると壁は素早く両側に開き、マルー達に光を射した!
「なんだか高級ホテルに来たみたいだわ!」
「上とは全然違いますねー」
「あなた達のようなチームに使ってもらう為の部屋が、ここから下の階にずうっと続いているの。ちなみにあなた達の部屋は一番下の階。このフロアを通った先の階段を使うのよ」
「また階段か」
「皆、早く行こう!」
五人は温かい雰囲気の廊下を通り過ぎ、階段を下りる。途中、廊下へ抜ける出入口を何度か見かけたが、ラビュラはそれを通り過ぎ、更に下へと進んでゆく。
しばらくして五人は最下フロアにたどり着いた。ラビュラはその中腹に立つ扉の前で、ミズキからもらった鍵を出し、マルーに手渡した。
「さあ、開けてみなさい」
ラビュラに開錠を促されたマルーが鍵を開け、扉を引くと、その先には鋳鋼でできた扉が立っていた。
「この扉も開けていいんですか?」
「ええ、どうぞ」
マルーは、鋳鋼の重々しい扉に手をかけた。そっと引いてみるほどに、光がさんさんと五人に射し込む……!