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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第一章「帝国掌握編」
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第八話「長たちへの指示」

 八つの部族の長と主要な者たちとの謁見を終えたラントは、この後の出陣に向け、長たちと会議を行うことにした。


 百五十名以上の猛者たちを前にして演説を行ったことから、精神的に疲労していた。しかし、国境にあるネヴィス砦がいつ陥落してもおかしくない状況であり、早急に手を打つ必要があった。


 執務室に戻ったところで、エンシェントエルフのメイド、エレンがハーブティーを入れる。


「疲労回復の効果があるお茶を用意いたしました」


「助かる」と言って繊細な作りのカップを手に取る。


 カモミールのような爽やかな香りが鼻腔をくすぐり、口を付けると砂糖とは違う仄かな甘みを感じた。


 ハーブティーを飲んでいると、八人の長たちが執務室に入ってきた。


 執務室には簡単な会議に使える大テーブルがあり、古龍族のアルビン、魔獣族のダラン、古森人族のエスク、鬼人族のゴイン、古小人族のモール、死霊族のオード、巨人族のタレット、妖魔族のアギーがそれぞれ決まった席があるのか、無言で席に着いていく。


 八人が座ると、ラントはすぐに話を始めた。


「増援部隊の編成は終わっているか?」と確認すると、モールとオード以外の六人が同時に頷く。


 エルダードワーフは生産に特化しており、増援部隊に選抜されていない。死霊族は高い戦闘力を持つが、基本的に夜間に移動するため、今は除外されている。


「よろしい。では、これからの予定を伝える。早急に増援を送り込むため、移動速度の速い飛行部隊を先行させる。指揮官は古龍族のアルビン。私もその部隊と共にブレア城に向かう」


 そこでエスクが「危険です!」と言ってラントの言葉を遮る。


「危険は承知の上だ。今は一刻を争う」


 それでもエスクは反対の姿勢を変えなかった。


「ですが、陛下は飛翔の魔法をお使いになることができません。陛下専用の騎獣がおり、騎乗に慣れておられれば問題ございませんが、今回初めて乗られるのです。万が一、落ちてしまったらお命を失うことになります。第一、誰に乗られるおつもりなのですか?」


「それはこれから確認するつもりだった。アルビン、ダラン、君たちの部族から選ぶつもりだったが、適任の者はいるか?」


 その問いにアルビンが首を横に振る。


「龍は生涯に一人しか背中を預けぬ。俺は既に初代グラント陛下を乗せたから無理だ。候補はいるが、今から選ぶには時間がなさすぎる」


 古龍族が騎龍となる場合、騎手となれる者は龍の長い生涯でただ一人だけというしきたりがあった。特に魔帝の騎龍になることは名誉であり、簡単には決められないと説明する。


「ダランはどうだ? 魔獣族なら翼を持つ者も多いと思うが」


「我が部族でも古龍族と同じ問題がありますな。陛下の翼となれる名誉を安易には決められぬでしょう」


 その言葉にラントは盲点だったとこめかみを押さえる。


(妖魔族の時空魔法で移動することもできるんだろうが、戦場についてからも上空から様子を見たい。そうなると、ここで選ぶ必要があるんだが、どうしたものか……)


 しかし、すぐにアルビンとダランに視線を向ける。


「緊急事態だ。正式には改めて決めるとして、誰か適任の者はいないか? 砦への移動だけではなく、その後の偵察にも協力してもらいたい。それと私が乗っても大丈夫な者がいい。非力かつ慣れていない者を乗せるという条件で候補を決めてくれ」


 ダランは即座に頷き、アルビンは少し考えた後に頷いた。しかし、エスクはまだ反対だった。


「偵察ということは神聖ロセス王国の領土に入るということでしょうか? 王国には飛行可能な天馬騎士(ペガサスナイト)がおります。危険すぎます」


 それに対し、アルビンが傲慢な口調で反論する。


「ペガサスナイトなど雑魚に過ぎん。我が古龍族なら千騎いようが、傷を負うことなく叩きのめすことができる」


 それに対し、更にエスクが反対しそうだったので、ラントが先に口を挟む。


「私のことを心配してくれるのは嬉しいが、今は非常時だ。もちろん、現地に行って危険そうなら諦める。今は移動と偵察を行うことだけ理解してくれればいい」


 まだ不満そうだが、エスクもラントに言い切られると口を噤んだ。


「では、話を進める。地上部隊はタレットとゴインがそれぞれの部族を、ダランは魔獣族と長が同行しない他の部族をまとめてブレア城に向かってくれ。ここからブレア城までは二百七十キロほどあったはずだが、何日で到着できる?」


 ラントの問いに巨体に見合った太い声でタレットが端的に答える。


「巨人族だけならば、明日の昼にも」


「一日で到着できるのか!」と驚くが、身長十五メートルを超える巨人族の歩幅を考え、納得する。


「ゴイン、ダラン、エスク。君たちの部隊はどれほど掛かる?」


「ここにいるのは精鋭のみ。我らも明日の昼には着いてみせる」とゴインが胸を張って宣言する。


 ラントはゴインがタレットにライバル意識を持って発言したと思ったが、それを否定することなく認めた。


「その後の戦闘に支障がない範囲で移動させてくれ」


「了解だ」


 ゴインは傲慢にそう答えるが、ラントが否定することなく認めたことに満足げな表情を浮かべていた。


「魔獣族も足の速い者だけで編成しております。明日の昼には到着可能ですな」


 ダランがそう言うと、エスクがそれに続く。


「私たちエンシェントエルフは一角獣(ユニコーン)を使いますので、明日の夕刻頃に到着いたします。もちろん、すぐに治療に取り掛かれます」


 エスクの指揮する部隊は神聖魔法の使い手で構成されており、主に治療師として働く。

 また、ユニコーンは耐久力に優れ、更に世界樹の葉を与えることで、一日当たり百五十キロメートルほど移動が可能だ。ちなみにこの世界のユニコーンは処女でなくても乗れる。


「分かった。では、そのように手配してくれ。だが、エスク。君はここに残ってくれ。帝都を任せられるのは君しかいないからな」


「承知いたしました……ご一緒できないことは口惜しいですが、陛下のご信頼に応えるためには致し方ありません」


 悔し気な表情を浮かべてエスクは頷いた。


「では、次だ。アギーの妖魔部隊は私と一緒に来てくれ」


「承りましたわ」と言って、エスクをチラリと見る。その目には勝ち誇ったような光があった。


 エスクは唇を少し噛むが、何も言わなかった。

 ラントはその様子を見ていたが、どのような意味があるのかいまいち分からなかった。しかし、今はそれを考える時ではないと思い、意識から外した。


 そして、ノーライフキングのオードに視線を向ける。


「死霊族からはヴァンパイアを選抜して向かわせてほしい」


「承知。だが、なぜヴァンパイア限定なのだろうか?」


 オードは表情を変えずに質問する。


「敵兵の一部を傀儡(くぐつ)としてもらいたい。情報収集と撹乱を行わせるためだ」


「なるほど。理解した」


 それから魔獣族の地上部隊にも指示を与え、出陣する戦力が確定する。


「総勢約四千か。敵は数万とはいえ、ブレア城にも五千の兵力があるから過剰かもしれないな」


 ラントは満足げにそう言うと、全員を見回した。


「これより出陣する!」


「「オオ!!」」という声が響き、長たちが立ち上がった。


「モールには頼みたいことがあるから少しだけ残ってくれ」


「儂に頼みじゃと?」とモールは首を傾げるが、ラントはそれに構わずある依頼を行った。


「どのような意味があるのかよく分からんが、やってやろう。五日後には必要な数を完成させておく」


「よろしく頼む」


 それだけ言うと、ラントは執務室を出ていった。


 執務室を出たところで、執事服姿から鎧姿に変えたキースが待っていた。


「宮殿の外で兵たちが陛下の命令を待っております」


 これは予めラントが頼んでいたことだった。

 ラントは気合を入れて歩き始めた。


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