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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第三章「聖都攻略編」

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第四話「捕虜の処遇」

 帝都上空の戦いはグラント帝国軍の大勝利に終わった。

 戦い自体は僅か三十分で終わり、まだ午前十時を過ぎたところだった。


 ラントは騎龍ローズと護衛のアークグリフォン、ロバートらと共に宮殿前の広場に帰還した。


 帝都の市民たちは着陸するラントを大歓声で出迎える。ラントはそれに手を振って応えていく。


「ご無事で何よりです」とエンシェントエルフの護樹女王エスクが涙を浮かべて出迎えた。


 戦いの最終盤に飛竜騎士団の団長マッキンレーが行った特攻に肝を冷やしたためだ。


「心配を掛けたようだが、問題はなかった」


「当然よ。私が守っているんだから問題なんて起きるはずがないわ!」


 龍形態を解いたローズが胸を張る。

 エスクは何か言いたげだったが、聖獣王ダランが先に謝罪する。


「申し訳ございません。やはり防空部隊が逸ってしまったようで、陛下をお守りするという最も重要な任務を疎かにしてしまったようです。指揮官たちは適切に処分いたします」


「それには及ばない。あの程度の状況は想定されていたし、ローズが適切に処置してくれると信じていた。それに一騎当千のロブたちもいたんだ。不安を感じることは全くなかったよ」


 そう言いながら、護衛でもあるアークグリフォンのロバートらを見た。ロバートたちは誇らしげに胸を張っている。


 宮殿の執務室に向かって歩きながら、今回の戦いの結果を聞く。


「それよりも今回の損害について教えてほしい」


「はっ」とダランは答え、説明を始める。


「まだ詳細は入ってきておりませんが、防空部隊の戦死者は十名以下と思われます。地上につきましては、損害は全くございません」


「戦死者が出てしまったか……負傷者の治療には最善を尽くしてくれ。エリクサーが必要ならためらわずに使え。戦士たちの命に代わるものなどないのだからな」


「御意。既にその旨は支援部隊に伝えております」


「頼む。では、捕虜の扱いについてだが、指揮官クラスがいれば話をしたい」


「承知いたしました。現在、捕虜の尋問を行っておりますので、午後には可能かと」


 ラントはそれに頷くと、執務室に入っていく。

 主要な者たちが集まっており、すぐに会議を始めた。


「今回は皆、よくやってくれた。礼を言わせてもらう」


 ラントはそう言って軽く頭を下げる。


「もったいないお言葉です」と宰相であるダランが代表して答える。


「今回の戦いを直に見ることができたことはよかった。帝国及び帝都の防衛体制が万全であることをこの目で見ることができたのだから。ただ今回の戦いで懸念も顕在化された」


「懸念でございますか?」とエスクが聞く。


「そうだ。今回は敵が帝都を目標とし、真っ直ぐ向かってくれたから計画通りに対応できた。だが、別の町に向かわれたら、もしくは別の町に向かうと見せかけて帝都に向かってきたら、今回のような完璧な対応はできなかっただろう。その場合、多くの民に被害が出たはずだ」


 ラントが考えた早期警戒システムは帝都を中心にしたもので、哨戒部隊のマンパワーの関係から冗長性も少ない。つまり、哨戒部隊が敵を発見し連絡を行うと、哨戒部隊が離れることになり、継続的な追跡ができなくなる。そのため、陽動作戦に対し脆弱であった。


 帝国は五千メートル級の山脈に囲まれており、大規模な地上軍が侵攻できるルートはブレア峠に限られている。しかし、飛竜騎士団のような飛翔可能な部隊や少数のゲリラ部隊であれば、山脈を越えることは難しくなく、そのための哨戒体制の必要性をラントは強く感じていた。


「しかし、これ以上飛翔可能な者を哨戒に回しますと、防空が手薄になってしまいます」


 エスクがそう言って懸念を示す。


「その通りだ。だから通信網を整備する必要があると思っている。まあ、これについては魔導王に高性能の通信機を開発してもらわなくてはならないんだが、現状の念話の魔道具で通信網を構築できないか、検討する必要がある」


 現在の通信機である念話の魔道具は通信距離が十キロメートルほどしかなく、長距離通信に向かない。また、稼働させるためには比較的魔力保有量の大きな魔術師が必要であり、適任者が少ないこともネックの一つとなっている。

 そのことがあり、転移魔法の使い手を伝令と使う方法としていた。


「とりあえず、帝都以外の地域については現状通りの哨戒体制とするが、外征軍が戻るまでは哨戒の頻度を上げるようにしてほしい。根本的な解決は私たちが戻ってから考えることにする」


 その後、防空部隊の損害が報告された。


「アークグリフォン三名が戦死、負傷者は百五十二名ですが、すべて治療済みです」


「三名か……」とラントは呟く。


 報告を持ってきた防衛軍の魔獣族戦士はその理由を説明していく。


「帝都近くでの戦いであったことから、住民たちが墜落した者の救助に当たったためと思われます。瀕死の者も十名ほどいましたが、住民による応急処置と支援部隊への通報によって、エリクサーを迅速に使用でき、戦死を免れたようです」


 空中戦で二千騎以上の竜騎士を相手に戦い、僅か三名という戦死者数は完璧な勝利と言える。それでもラントは戦死者が出たことに忸怩たる思いを抱いていた。しかし、その想いを断ち切り、笑みを浮かべる。


「分かった。市民たちにも礼を言わなければならないな」


 昼食後、捕虜たちのうち、主だった者たちがラントの前に引き出された。

 その中には騎士団長であるマッキンレーもおり、ラントは総司令官を捕虜とできたことに驚くが、それを表すことなく淡々と話をしていく。


「さて、今回の戦いで諸君らは捕虜となった。捕虜は四百二十一名。撤退できた者は百名以下だ。もっとも我らが手を抜いたから四分の一も生き残れたのだが、そのことは認識しているかな、マッキンレー将軍?」


 マッキンレーはラントの問いに屈辱を感じ、顔が紅潮していくのを感じていた。しかし、部下たちの命が自分の言葉に掛かっていると思い、冷静さを保つよう努力する。


「もちろん理解しております、魔帝陛下。戦闘力で圧倒されただけではなく、作戦でも我が方は帝国に後れを取りました。しかし、どのように我らの策を看破したのか、疑問でなりません」


 マッキンレーは今回の敗戦の原因を探ろうと考えている。


「我が能力の一端とでも思っておけばよい」とラントは濁す。


「能力の一端……なるほど……」とマッキンレーは納得する。


 人族の国に伝わる伝説では、魔帝は類い稀なる戦闘力と防御力を誇る存在と言われているが、他にも天変地異を起こすことができたり、人族を魔族に変えたりできるという話も伝わっていた。

 そのため、マッキンレーはラントに未来予知や千里眼などの能力があると思い込んだ。


「そんなことより、諸君らの処遇について伝えよう……」


 そこでマッキンレーらはゴクリと息を呑む。


「諸君ら捕虜は神聖ロセス王国の王都、ストウロセスまで連れていき、そこで解放する。その後は神聖ロセス王国軍と共に我が帝国に戦いを挑んでもよいし、祖国に帰還してもよい」


「解放してくださるのですか!」とマッキンレーは驚くが、すぐに条件があると思い直す。


「解放の条件はどのようなものでしょうか?」


「解放するまで抵抗しないことだな」


「他に条件は?」とマッキンレーは重ねて尋ねる。


 通常なら捕虜交換や身代金の支払いなどが解放条件だが、ラントが言及しないためだ。


「いずれバーギ王国も我が支配下に入るのだ。自分の国になるところから賠償金を取るのもおかしな話だし、特にないな」


 マッキンレーはラントの圧倒的な自信に気圧される。


「出発は明日だ。ワイバーンの管理は我らにはよく分からないから、諸君らが行ってくれ。必要な物があれば、ある程度は用意しよう」


 あまりの待遇の良さにマッキンレーは疑問を感じる。そのことが顔に出たのか、ラントが笑いながら理由を説明した。


「正直なところ、諸君ら飛竜騎士団を脅威と思っていないのだ。二千騎の竜騎士が半数以下の八百名の我が防空隊に挑み、成すすべがなかった。百名のエンシェントドラゴンを擁する我が天翔兵団の脅威になるはずもない。これは実際に戦った将軍も感じているのではないかな?」


 マッキンレーはラントの問いに答えを窮する。


(今日の朝までなら反論しただろうが、主力のいない帝国軍の飛翔部隊に手も足も出なかったことは純然たる事実だ。これほど圧倒的な力の差があるなら、歯牙にもかけないことは理解できる。だが、口惜しい。人族最強の戦力と言われていた我らが取るに足らないと言い切られたのだから……)


 マッキンレーは何も言わなかったが、ラントも重ねて問うことをしなかった。


「脱走を試みても構わんが、その時は容赦なく殺す。せっかく拾った命なのだ。無駄にするような選択を取らないことを祈っているよ」


 ラントはそれだけ言うと、捕虜たちとの面談を打ち切った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 龍と飛竜の個体戦力比がどれくらいのキルレシオになるんだろう……まあ人族から見ると絶望的ですよね。
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