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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第三章「聖都攻略編」

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第二話「帝都上空の戦い:前篇」

 五月二十一日。


 ラントは帝都フィンクランの宮殿で朝を迎えていた。

 側近であるフェンリルのキースが朝食の間に、今日の予定を説明していく。


「出発は午前十時を予定しております。それまでの時間を使いまして、匠神王モール様より開発状況についての報告がございます」


 そこまで話したところで、宰相である聖獣王ダランが足早に入ってきた。

 ラントは普段沈着冷静な彼が焦っていることを訝しむ。


「急いでいるようだが、どうしたのだ?」


「ウィヴィス山地に派遣しておりました哨戒部隊より飛竜騎士団二千騎が帝都に向かっているとの報告が入りました。距離は約百マイル(約百六十キロメートル)、あと二時間ほどでここに現れる公算が高いとのことです」


 その言葉にラントは持っていたフォークを取り落とす。


「奇襲だと……」


 それでもすぐに気を取り直し、ダランに確認する。


「帝都の防衛態勢はどうなっている?」


「マニュアル通り、戦闘準備に入っております。三十分で出撃可能です」


「よろしい。では、私も準備を始めよう。キース、護樹女王を呼んでくれないか」


「御意」といい、キースは素早く立ち去った。


「飛竜騎士団二千騎と言えば、ダフからの情報ではほぼ全数だな。ダラン、帝都防衛の航空戦力はどうなっていたかな?」


 元傭兵隊長のダフ・ジェムソンから人族の国の情報は得ており、その中に警戒すべき戦力として飛竜騎士団が入っていた。


 飛竜騎士団はバーギ王国の切り札であり、王国も積極的に宣伝していたため、ダフも比較的細かい情報まで知っていた。


「アークグリフォン隊五百名、ロック鳥隊百名、フェニックス隊百名、デーモン隊百名の計八百名が待機しております」


 ラントはその数に安堵するが、それは顔に出さずニヤリと笑う。


「明らかに過剰戦力だな」


 神龍王アルビンら天翔兵団の主だった者たちと飛竜騎士団に対する協議を行っていた。

 その協議の中で竜騎士の戦闘力についても検討がなされ、竜騎士一騎の戦闘力はアークグリフォンの五分の一以下、ロック鳥やフェニックスの十分の一以下とされている。


 これは飛竜(ワイバーン)の戦闘力が劣るというより、騎士という弱点を乗せていることによるマイナスが大きい。


 騎士がいなければ、アークグリフォンに劣らない機動も可能だが、騎士が振り落とされない程度の機動に抑える必要があり、これが戦闘力を著しく下げていた。


「結界についてはどうだ?」とラントは確認する。


「防御結界は既に起動準備に入っております。一時間後には展開可能です」


 防御結界はラントが魔導王オードに開発させたもので、大規模な魔法陣と魔術師たちによって帝都全体に展開する強固な結界だ。強度は龍のブレスを受け止められるほどで、人族の魔術師の魔法であればほぼ完全に無力化できる。


 弱点は魔力消費量が大きく、常時十名の高位の魔術師が必要なことと、展開するまでに一時間という時間が掛かることだ。


 魔術師については死霊族の魔術師を投入すれば問題はないが、展開までの時間はどうしても短縮できず、警戒体制を充実させることでその時間を稼ぐ方策とした。


 警戒体制だが、帝都を中心に半径百マイル(約百六十キロメートル)の哨戒ラインを作っている。そのラインをアークグリフォンとデーモンロードのコンビが常時哨戒し、敵を発見したら即座にデーモンロードが転移魔法によって帝都に知らせるシステムとなっていた。


「防御態勢は万全だな」


「御意にございます」とダランは笑みを浮かべて頷く。


 当初、ダランは奇襲攻撃という事実に焦っていた。しかし、ラントが冷静に戦力を分析し、防衛体制が万全であると確認していったことで余裕を取り戻している。


 護樹女王エスクが慌てた様子で部屋に入ってきた。

 簡単に説明した後、今後の方針について話を始める。


「聖獣王から聞いたが、敵は人族の国でも有数の戦闘力を誇る飛竜騎士団。我が帝国の力を見せつけるよい機会と言える」


「おっしゃる通りですね」とエスクが頷き、ダランも無言で頷いている。


「魔帝が指揮した部隊に飛竜騎士団が惨敗すれば、バーギ王国軍の士気は確実に落ちる。今回はそれを狙う」


「陛下が直接指揮を執られるということでしょうか? 危険ではありませんか」


 エスクがそう言って反対の姿勢を示すが、ラントは余裕の笑みを浮かべて答えていく。


「飛竜騎士団の戦い方はワイバーンのブレスと竜騎士の魔法攻撃と聞く。ローズに乗れば、そのいずれも防ぐことは容易だ。そうだな、ローズ?」


 後ろに控えているエンシェントドラゴンのローズに話を振る。


「私にワイバーン(飛びトカゲ)の攻撃なんて効かないわ」とローズは鼻で笑う。


 エンシェントドラゴンは高い防御力を誇り、ワイバーンのブレスや人族の単体魔法であれば確実に無効化できる。ラントに向けて攻撃されたとしても、ローズが庇うことで問題はない。


「それに匠神王モールが作ってくれた私の防具もある。私に傷一つ付くことはないだろう」


「確かにそうでございますが……御身に何かあったらと思うと……」


 エスクの不安は消えていない。


「私が指揮すると言っても攻撃には加わらないし、防空部隊に直接指示は出さない。あくまでそこにいたという事実が重要だからだ」


「なるほど。御自ら敵を迎え撃ち、殲滅したという事実が重要ということですな。ということは、敵は全滅させず、ある一定数は逃がしてやると」


 ダランはラントの意図を見抜く。


「その通りだ。二割程度にまで減らした後、一部は逃がし、他は降伏させる。降伏した竜騎士は神聖ロセス王国に連れていき、人族の前で解放する。飛竜騎士団が敗戦した事実を知れば増援が期待できず、戦意は大きく下がるはずだ」


「では戦士たちによく言い聞かせておかねばなりませんな。陛下の御前ということで張り切り過ぎて殲滅しかねませんから」


 ダランがそう言うと、不安げな表情だったエスクも余裕が見えるようになる。


「防空部隊の指揮は現状の指揮官に任せるが、作戦開始の指示と降伏勧告については私の方から行う。地上軍の指揮は聖獣王が執ってくれ。護樹女王は民たちの対応を頼む」


 二人は同時に「「御意」」と答えた。


 その後、指揮官たちを呼び、指示を伝えた。

 一時間半後、ラントは龍形態になったローズに騎乗し、ロバートらアークグリフォンの護衛と共に帝都の空に上がった。


「本格的な空中戦は初めてだな。頼んだぞ、ローズ」


 ラントはローズに話しかける。


『任せておきなさい。といっても私の出番はなさそうだけど』


 ローズの言う通り、防空部隊の士気は高い。

 アークグリフォン隊はラントたちに敵を近づけまいと、鋭い機動で旋回しながら警戒している。


 上空にはロック鳥とフェニックスの部隊が待機し、デーモン部隊はラントたちの下方で円を立てたような陣形を組んでいる。


 上空に上がってから十分ほど経ったところで、アークグリフォンのロバートがラントに念話を送ってきた。


『南東方向に敵影です。真っ直ぐこちらに向かってきます』


「どこなんだ……」


 言われた方向を目を凝らして見るが、ウィヴィス山地の山肌しか見えない。望遠鏡を使って確認すると、ゴマ粒のような大きさのワイバーンの群れが微かに見えた。


「戦闘態勢に入れ!」


 ラントの命令をローズが念話で伝える。

 アークグリフォン隊はラント中心に左右に広がっていく。上空のロック鳥とフェニックスの部隊は更に高度を取っていった。


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