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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第一章「帝国掌握編」
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第六話「方針説明」

タイトルを少し変更しました。

 執務室を出たラントは絨毯が敷かれた廊下をゆっくりとした足取りで歩いていく。本当はもう少し速く歩きたいのだが、頭に乗せられた豪華な王冠が重く、気を引き締めないと千鳥足のようにふらついてしまうのだ。


 廊下には一定間隔で屈強な兵士が並んでいた。

 そのほとんどが見上げるような長身で、額には角があり、口からは鋭い犬歯がのぞいている。


「ハイオーガの近衛兵たちです。宮殿の外には魔獣族の近衛兵たちが守りを固めております」


 エスクの説明を聞き流す。

 ラントはこの後の演説のことで頭がいっぱいだったのだ。


 エスクが止まった先には豪華な扉があった。エスクはその前にいる二人の兵士に小さく頷くと、扉がゆっくりと扉を開かれていく。


「この先に玉座がございます。まずはそこにお座りください」


 エスクはそれだけ言うと、素早く立ち去っていく。

 ラントは振り向くと、護衛として付き従うキースを見る。


 キースは小さく黙礼すると、「この扉は陛下のみがお使いになられるものでございます」と言って先に進むように促した。


 ラントは気合を入れ直し、前を見た。

 舞台の袖のようになっているのか、謁見の間の全体は見渡せない。ただ、玉座と言われた豪華な椅子が見えているだけだ。


 ラントはゆっくりとした歩調で進んでいく。


「第九代魔帝ラント・マツカ陛下、ご入来!」


 そんな声が不意に聞こえ、ラントはビクリと肩を動かし、思わず足を止める。しかし、すぐに気を取り直して歩き始めた。


 玉座に近づくと全体が見えるが、緊張で失敗しないように気を付けているため、周囲を見る余裕はない。


 金と銀で飾られた高い背もたれの椅子に近づく。椅子は一段高いところにあり、椅子の前に立ったところでようやく全体を見渡すことができた。


 謁見の間は小さな体育館ほどの広さがあり、きれいに八列に並んだ者たちが片膝を突いて頭を下げていた。最前列には長たちが並び、その後ろにそれぞれ二十人ほどいる。


 戦士たちは黒を基調とした軍服を、文官たちは白を基調としたチュニックのような服を身に纏っている。


(映画の謁見のシーンみたいだな……今はそんなことを考えている時じゃない……)


 ラントはゆっくりとした動作で椅子に座ると、大きく息を吸って気持ちを落ち着かせる。


(準備は万全だ。だから落ち着くんだ……それにここにいる人たちは魔帝である僕に、マイナスの感情は持っていない。強いリーダーをイメージしながら落ち着いて話をするだけでいい……)


 自分にそう言い聞かせると、自信に満ちた表情を作り、第一声を発した。


「顔を上げてくれ」


 その言葉で全員が一斉に顔を上げ、ラントに視線を向ける。

 それだけでラントは強いプレッシャーを感じ、貼り付けていた笑みがこわばる気がした。


「私が第九代魔帝、ラント・マツカだ。マツカは家名だから、ここでは不要だろう。だから、ラントと呼んでくれればいい」


 そこで一度全員を見回すように視線を動かす。


「先に言っておこう。諸君らの中には鑑定のスキルを持つ者も多い。また、鑑定を持っていなくとも相手の力量を理解できる達人ばかりだ。だから、既に気づいていると思うが、私に個人的な戦闘力はない」


 そこで言葉を切り、ニヤリと笑う。


「だが、それがどうしたというのだ?」


 挑発的な表情と言葉に居並ぶ者たちはラントが何を言いたいのか理解できず、眉をしかめる者もいた。ラントはそれに構うことなく、話を続けていく。


「諸君らは一騎当千の強者(つわもの)だ。勇者と呼ばれる人族と互角以上に戦える。ならば、私が最強である必要がどこにある?」


 エスクと魔獣族のダラン、巨人族のタレットは納得したような表情を浮かべているが、古龍族のアルビンと鬼人族のゴインは険しい表情を崩していない。


 ラントは予め視界の端に情報閲覧用ウインドウを開いており、長たちの忠誠度を表示させていた。


(二人の忠誠度に変化はないな。なら、このままでも大丈夫だ……)


 その確認で僅かな間が空いたが、再び自信に満ちた表情で話を続けていく。


「昨夜、私はこの国について調べた。そして、かつてないほど驚いた。なぜなら、これほど圧倒的な力を持った国家は私のいた世界にも存在していないからだ。そして、これほど崇高な使命を帯びた国家も存在しかなかったと断言できる……」


 ラントは多くの者が頷くのを確認し、僅かに間を置いた。


「だが、残念なこともあった。これほどの力を持ちながら、人族の野望を打ち砕くことができず、逆に押されていることだ」


 押されているという言葉にアルビンとゴインが肩をピクリと動かす。

 ラントはそれに構わず話を続けていく。


「帝国は建国以来、五千五百年の年月を経ているが、その間、人口は五分の一にまで減少している。このままでは遠くない将来、この国は消滅するだろう」


 帝国の建国時には百万の人口があったが、現在では二十万人にまで減っている。この事実を聞いた長たちは驚きを隠せなかった。統計的なデータがなく、半分くらいになったという印象しかなかったためだ。


「今もブレア峠では鬼人族の戦士たちが人族を食い止めようと死闘を繰り広げている。今のところ戦死者は五名に過ぎないが、多くの者が傷ついているのだ」


 この情報はラントが情報閲覧で確認して知ったことで、長たちを含め、正確な情報は誰も持っていなかった。そのため、更に驚きに満ちた表情になる。


「この謁見後、私はブレア峠のネヴィス砦に向かうつもりだ。そして、人族を撃退する」


 アルビンがどうやってやるのだとでも言うように挑発的な視線を向ける。


「野良のゴブリンの子にすら劣る私に何ができると考える者も多いだろう。先ほども言ったが、ここには勇者に匹敵する強者が百人以上いるのだ。私の命令に従ってくれれば、勇者と数万の人族の兵といえども、殲滅することは容易い!」


 その言葉に僅かにざわめきが起きる。


「大言壮語と思う者もいるだろう。今はそれもよかろう。結果を見るまで信じられないのも無理はない。だが、戦いが終わった時、ここで言ったことが真実であると分かる。だからこの戦いでは私の命令に従ってくれ」


 そこでエスクが「御意」と答えて頭を下げる。

 それに釣られる形で他の長たちも「御意」と言いながら頭を下げていった。


 アルビンとゴインはお手並み拝見とでも言うように挑発的な視線は消していないが、それでも他の者と同じように頭を下げていた。


 それに満足したラントは「顔を上げてほしい」と言ってから、再び話し始めた。


「戦についてだが、既に勝利は確定している。だから話はこの程度でいいだろう。では、今からこの国の今後の方針について話をする」


 今後の方針という言葉に多くの者が疑問を持つが、ラントはそれを無視して話を続けていく。


「まず我が国、グラント帝国について整理したい。我が国は崇高な使命を持っている。それはこの世界の秩序と平和を守るというものだ。具体的には世界の調和を司る世界樹を人族から守ること。それも永続的に守り続ける必要がある」


 長たちは頷いているものの、話の展開が見えず、困惑の表情を浮かべている。


「だが、守るだけでは駄目だ。それは歴史を見れば分かる。では、永続的な平和のために、人族をこの世界から駆逐するのか?」


 そこでラントはゆっくりと視線を動かしていった。肯定的な者もいるが、その問いに困惑している者が大多数だ。


「私はそうは思わない。情報が不足しているが、人族を完全に滅ぼしたとしても、彼らの信じる神は別の方法で平和を乱そうとするだろう。では、その神、邪神を討ち滅ぼせばよいのか?」


 神を滅ぼすと聞き、居並ぶ者たちの困惑が更に大きくなる。


「それについても否だ。そもそも神を滅ぼすことができるのかという問題もあるが、我らの信じる神は争いを好まない。人族を含め、この世界に生きる者すべてに愛を与える存在であるためだ……」


 この話は祭祀を司るエスクから聞いていた。


「ならば、神に召喚された私がその意思に反することはできない。神の意志に背けば、私の存在意義が失われるためだ。実際、歴代の魔帝で人族を皆殺しにしようとした者もいたが、神の意志に背いたため、命を落としている」


 ラントはデータだけでなく、歴史についても情報閲覧で分かる範囲で詳しく調べていた。


 その情報の中に、第五代魔帝ブラッドの話があり、彼は人族の国に攻め込み、主要な都市を破壊したとあった。


 降伏する者すら皆殺しにしたことから、ブラッドは“鮮血帝”という名で呼ばれていることも知った。


 その鮮血帝も勇者による奇襲によって暗殺されていた。その事実を多くの者が思い出し、悔しげな表情を浮かべている。


「ではどうするのか? これについては情報が少なすぎて今ここで具体的な話をすることはできない。一つだけ言えることは、人族を殲滅することなく、世界樹を奪うという野望を打ち砕く」


 ラントの言葉を聞き、謁見の間に居並ぶ者たちは困惑の表情を浮かべる。具体的にどうしていいのか想像もできなかったためだ。


 ラントはそれでも自信に満ちた表情を崩さず、彼らを見下ろし続ける。

 しかし、古龍族のアルビンが立ち上がった。


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[気になる点] 五分の1に減ってその分の領土を取られたもしくは人口が減って生活圏が増えたのか、いずれにせよそれを体感できないくらい古の者は頭が使えないのか何か制限がかかってるのか ここらへんの設定が雑…
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