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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第二章「王国侵攻編」

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第十九話「勇者到着」

 五月二日。

 勇者ロイグはテスジャーザの町に到着した。しかし、その到着は想定よりかなり遅い。


 ロイグはロセス神兵隊が出発した二日後の四月二十三日には聖都に戻っていたため、同じように船を使えば、四月二十七日には目的地であるナイダハレルに到着していてもおかしくなかった。


 しかし、ロイグは神聖ロセス王国軍と共に進軍することを望み、ようやくテスジャーザまで辿り着いたところだった。


 彼が王国軍との行動を希望したのは注目を集めたかったからだ。

 船で移動すれば無寄港でテスジャーザに到着できるが、街道を使えば先々の町や村で歓迎される。彼は自らの自尊心を満足させるため、聖王や王国軍の指揮官であるペルノ・シーバスの反対を押し切った。


 シーバスは命懸けで戦っているウイリアム・アデルフィのことを考え、怒りに打ち震えたが、ここでロイグの機嫌を損ねれば、作戦自体を無にしかねないと我慢した。


 テスジャーザに到着後、シーバスはすぐに移動するよう、ロイグを説得する。


「部下の報告では魔帝周辺の兵を減らすことに成功したそうです。また、勇者殿のために陽動作戦も計画しており、更に魔帝が滞在する伯爵邸への地下通路も確保したとのことです。魔帝を討ち滅ぼすという歴史的な快挙の機会を逃すべきではないと思いますが、いかがか」


「移動続きで疲れている。もう一日くらい休んでから出発しても問題ないだろう」


 ロイグは大都市テスジャーザでも熱烈な歓迎を受けたいと考えており、やる気を見せない。


「よいのですかな? 現在、龍たちが魔帝から離れております。この機を逃せば、魔帝を討ったとしても龍たちに攻撃されることになりますが?」


 ロイグは剣術だけでなく魔法も使えるが、空に舞うエンシェントドラゴンを倒せるほどの攻撃方法は持っていない。また、仲間の魔術師も同様で、自分でもそこが弱点だと気づいていた。


「そこまで準備が進んでいるなら仕方ないな」


 ロイグも生きて帰れなければ意味がないと重い腰を上げる。


 二日後の五月四日の夕方、案内役の兵士に先導され、森の中にある猟師小屋でアデルフィと合流する。


「ようこそ勇者様」とアデルフィは慇懃とも取れる態度でロイグを出迎える。


 彼自身、これほど遅れたことに怒りを覚えているが、ギリギリ間に合ったのでそれを抑え込んで笑みを浮かべている。


「こんな場所しかなかったのか」とロイグは不機嫌さを隠すことなく文句を言った。


 猟師小屋はありあわせの木材を適当に組み合わせただけの壁に、ところどころ穴が開いている屋根があるだけの粗末なものだった。


「周辺の村は十軒程度の小さなものすら、魔族の兵が入っております。また、我々が使っております廃村は、この後勇者様の援護のために罠として使いますので、ご不自由をお掛けしますが、数日間ここで待機していただくよう伏してお願いいたします」


「ここで待たねばならんのか! ならばテスジャーザで待機していればよかったわ!」


「いえ、ここで敵に隙ができるのを待たねば、魔帝を倒す機会は得られません。食料などはこちらで用意しておりますが、くれぐれも目立たぬようお願いします」


 そう言った後、勇者の仲間である女たちに目を向ける。


「君たちも死にたくなかったら、見つかるような真似はするな。ナイダハレルの周辺は魔族のグリフォンやロック鳥が常に飛んでいるんだ。見つかれば、数千にも及ぶ魔族軍が襲い掛かってくるぞ」


 勇者に直接言いたかったことだが、角が立つため仲間に釘を刺した。


「では、明日の朝、勇者様が使う地下通路の入口にご案内します。それまではゆっくりと身体を休めてください」


 アデルフィはそれだけ言うと、猟師小屋から立ち去った。


 ロイグは用意されていた簡易寝台に寝転がる。


「酒を出してくれ」とエルフの女魔術師に命令した。


 勇者には時空魔法を使った“魔法鞄(マジックバッグ)”が与えられており、その中には装備や非常食などの他に、酒やつまみ、甘味などの嗜好品も入れられている。


「お前は外を見張れ」と猫獣人の女戦士へと命じると、出されたボトルから直接飲み始めた。


 その様子をエルフの女聖職者と狼獣人の槍戦士が眺めていた。


 彼女たちは望んでロイグの仲間になったわけではなく、勇者に見初められ無理やり連れてこられている。そのため、ロイグを恨んでいるが、反抗的な態度を取ると容赦なく折檻されるため、従順なふりをしていた。


 酒を飲んで睡魔が襲ってきたのか、ロイグは鼾を掻いて眠ってしまった。

 女たちは身体を求められなかったことに安堵するが、それも長く続かないだろうとも思っていた。


 翌朝、アデルフィはロイグたちを連れて秘密通路の入口にやってきた。

 そこは何の変哲もない森の中で、苔むした岩が転がっているだけだった。


「こんなところにあるのか?」とロイグが訝しげに確認する。


 アデルフィはその言葉に構うことなく、説明を行っていく。


「この色が変わった部分に手を当てて魔力を流してください。そうすると、この岩が左右に割れ、地下に続く階段が現れます」


 そう言いながら魔力を通すと、岩がゆっくりと動き出した。

 そして、アデルフィの言う通り、地下に続く階段が現れる。


「あとはこの地図に従って、侵入者除けの罠を解除しつつ、半マイル(約八百メートル)ほど進んでくだされば、伯爵邸の地下倉庫に入ることができます」


「分かった。だが、ここは見つかっていないんだろうな。こんな狭い通路ではまともに戦えん」


「その点はご安心ください。この場に足を踏み入れれば分かるように細工してありますが、我々以外が近づいた痕跡は一切ありません。この扉も今回と以前私が確認のために開けた以外に開いた痕跡はなく、まだ魔族に見つかっていないと断言できます」


「ならいい」と言うと、ロイグはその場から立ち去った。


 アデルフィは細工をし直すと、ロイグの後を追う。


 しかし、その姿は死霊族のシャドウアサシンたちに見られていた。

 シャドウアサシンはアンデッドの一種で、影の中に入ることで気配を断つことができ、奇襲による攻撃を得意としている。


 この入口を見つけたラントは見張りを立てるよう諜報官であるアギーに命じた。

 彼女は最も隠密性に長けたシャドウアサシンを担当とし、王国軍の関係者が現れることを想定して、三体を配置している。


 シャドウアサシンは一体が残り、一体がアギーに連絡を入れ、もう一体が勇者たちの尾行を始めた。

 ロイグたちを尾行したシャドウアサシンは隠れ家としている猟師小屋を発見する。


 そこでロイグとアデルフィは別れたが、シャドウアサシンは一体しかおらず、アデルフィを追うか、ロイグを見張るかで迷った。


 最終的にラントが最も警戒している勇者の監視を優先し、ロイグが移動しないことを確認した後、アギーの下に報告に向かった。


 報告を受けたアギーは直ちにラントの下に向かった。


「ついに勇者を見つけることに成功しましたわ!」


 ラントはその言葉に立ち上がり、「よくやった!」と褒め、更に同行していたシャドウアサシンにも労いの言葉を掛ける。


「地味な任務を実直に行ってくれたこと、感謝する。成功した暁には、君たちが勲功の第一位となるだろう」


 ほとんど表情がないシャドウアサシンだが、ラントの言葉に驚きの動きを見せる。

 そこでアギーに視線を向ける。


「もちろん、今回の指揮を執った君もよくやってくれていると思っているよ」


「ありがたきお言葉ですわ」


 そこで側近のフェンリルのキースに指示を出した。


「八神王と各兵団の主だった者たちを集めてくれ。対勇者作戦について話し合いたい」


 ラントは勇者対策に目途が立ち、上機嫌で会議室に向かった。


 会議室に全員が集まったところで、ラントは全員を見回しながら説明を始めた。


「天魔女王アギーと配下のシャドウアサシンが勇者を発見した。陽動のため数日以内に大きな騒ぎが起こるはずだ。それに冷静に対処してほしい」


「「「御意」」」と全員が答える。


「どんな手を使ってくるかは分からないが、大規模な攻撃を仕掛けてくることは間違いないだろう。敵の数は不明だが、千を超えることはないはずだ。それでも三十名では数で圧倒される可能性がある。念話の魔道具で増援を呼びつつ慎重に戦い、間違っても深追いしないよう、徹底させてほしい」


「「承知」」と鬼神王ゴインと巨神王タレットが答える。


「天翔兵団は敵が行動を開始したら、駆逐兵団と轟雷兵団の戦士を誘導してくれ」


「御意」と副団長のロック鳥、カヴァランが大きく頷く。


「オードとアギーは例の罠をいつでも発動できるよう待機してくれ。見張りのシャドウアサシンたちから連絡があると思うが、相手は勇者だ。不測の事態が起きないとも限らないからな」


「承った」とオードがいい、「お任せください。我が君」とアギーがニコリと微笑む。


「勝利は既に我らのものだ。あとはそれをより完璧なものにするだけだ。皆の活躍に期待する」


 彼の言葉に全員が満足そうに頷き、「「御意」」と声を揃えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 地下通路で埋めたり燻したりできそうな……?
[良い点] 面白かった。知らない魔物が出てくるが事前にこういう戦力があるとかわかるとより楽しいかもだけど、話を作るのは大変になりそう
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