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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第二章「王国侵攻編」

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第二話「諜報活動計画」

 帝国暦五五〇一年一月二十五日。


 戦勝記念祭が終わった翌日、第九代魔帝ラントは昨夜の疲れも見せず、スッキリとした朝を迎えていた。

 朝食を摂った後、彼は八神王たちを集め、今後の方針について説明する。


「既に国境の要、ネヴィス砦との連絡手段は確保した……」


 ラントは帝都フィンクランに帰還後、妖魔族の長、天魔女王であるアギーに命じ、約二百七十キロメートル離れたネヴィス砦との情報伝達手段を確立していた。


 彼が採用した方法は転移魔法が使える妖魔族戦士を伝令とする方法で、転移魔法によって約二百キロメートル移動し、その後は飛行によって帝都まで移動する。

 これにより、ネヴィス砦から約一時間で情報が届くようになっていた。


「次に行うべきことは敵である神聖ロセス王国の情報を入手することだ」


 その言葉に古龍族の長、神龍王アルビンが疑問を口にする。


「新たに仲間に引き込んだ人族から情報は得ているのではないか? それに人族の軍隊から奪った書類でも情報を得られたと言っていたと思うが? 第一、今回の戦いで人族はすぐに立ち直れないほどの損害を被ったと、陛下自身が言っておったのではないか?」


 王国の侵攻軍に所属していた傭兵隊長のダフ・ジェムソンはラントの予想を上回る情報通で、神聖ロセス王国だけでなく、多くの国の情報を持っていた。また王国軍の司令部から押収した書類からも王国軍に関する情報を手に入れている。


 更に王国の主力である聖堂騎士団(テンプルナイツ)の半数に当たる五千騎を倒しており、ラント自身、聖堂騎士団が早期に立ち直る可能性は低いと断言している。

 そのため、アルビンは疑問を口にしたのだが、ラントは小さく首を横に振った。


「確かにある程度の情報は手に入ったし、敵の主力は壊滅的な打撃を受けている。だが、魔帝復活の情報は各国に伝わっているから、早期に増援が来る可能性は非常に高い。それに人族の勇者は死ねば、次の勇者がすぐに現れる。前にも言ったが、勇者を使って私を暗殺に来る可能性は充分にあり得るのだ。それに対処するためにも情報は不可欠だ」


 アルビンは「なるほど」と言って引き下がる。以前なら更に何か言ったはずだが、忠誠心が上がった今、無駄に反論することはなくなっている。


「情報を手に入れる手段だが、オードとアギーに頼みたいと思っている」


 その言葉で死霊族の長、魔導王オードとアギーが頭を下げる。


「死霊族にはヴァンパイアを二十人ほど私の直属に回してもらいたい。目的は現地の人族の傀儡(くぐつ)化による情報収集と撹乱だ」


「御意」とオードは静かに答える。


「妖魔族にはサキュバスを数名派遣してもらいたい。高級娼館に潜り込み、商人たちから情報を集めてほしいからだ」


「承りましたわ」とアギーは頷くものの、すぐに懸念を言葉にする。


「ですが、人族の中には高位の鑑定が使える者もおります。特に権力者に近い王都では厳しい取り締まりがあるかもしれません」


 その指摘にラントは笑みを浮かべる。


「指摘してくれてありがとう。だが、その点は考えてある。潜入するのは聖都ストウロセスではなく、カイラングロースという町を予定している」


「カイラングロースですか?」とアギーが首を傾げ、オードもラントを見つめている。


「カイラングロースはストウロセスの東約八十キロにある。王国東部の穀倉地帯から運ばれる食料の中継地点として栄えているらしい。街道上にあるから人の出入りも多いし、人口も七万人ほどだそうだから見つかる可能性は低い」


「さすがは陛下です。既にそこまで調べてあるとは思いませんでしたわ!」


 そう言ってアギーは熱い視線を送りながら大げさに賞賛する。

 ラントはその視線に気を取られないように注意しながら、話を続けていく。


「調べてあるといっても地図とダフからの情報だけだ。実際に派遣してみないと本当のところは分からん」


 そこでオードが静かに口を開いた。


「傀儡を作るのはよいが、どうやって連絡したらよいのだろうか? ヴァンパイアといえども頻繁に町に入れば見つかる可能性が高くなると思うのだが」


「いい質問だ」とラントは満足げな表情で頷き、その問いに答えていく。


「一応その点についても考えている。鳥や小動物を使い魔とし、妖魔に情報を書いた紙を渡す。情報を受け取った妖魔は前線基地であるネヴィス砦にその情報を運び、あとは伝令と同じ要領で帝都に送る。これならばリスクは小さくなるはずだ。もっともやってみないと、どの程度危険なのかは分からないがな」


 オードは小さく頷いた。


「他にも商人の国カダム連合にも諜報網を広げたい。これについては商人が自ら協力するように仕向けるつもりだ」


「協力するのでしょうか? 彼らは利に敏いと聞きますが、人族を裏切るとなると二の足を踏むのではありますまいか」


 魔獣族の長、聖獣王ダランがラントに疑問をぶつける。


「さすがはダランだ。人族のことをよく理解している」とラントは褒めた後、自らの考えを伝える。


「商人が人族を裏切ったと思わないように仕向ける必要がある」


「暗黒魔法で操るのですかな」


「それも一つの手だが、鑑定で見破られたり、解呪で無効化されたりする危険がある」


「ではどのように?」


 ダランはよく分からないという表情を浮かべている。


「先ほどの君の話にもあったが、商人たちは利に敏い。つまり、利益に見合うリスクであれば、彼らはそれを負うということだ」


「儲けられるなら、祖国が不利になる情報を流すということでしょうか?」


「そうなるな。まあ、最初は誰でも知っているような情報を出させて信頼関係を築き、こちらからの利益を増やすことを条件に更に情報を引き出すということになると思う」


 ダランは納得したように頷くが、鬼人族の長、鬼神王ゴインが小さく頭を振っている。


「まどろっこしい。そのようなことをしなくても陛下が我らを率いて攻め込めば勝てるんじゃないか」


 ゴインの言葉にアルビンが同意するように頷く。


「確かに単純に力押しでも勝利は得られるだろう。以前の魔帝ならこのような面倒なことはしなかったはずだ」


「なら何でやるんだ?」とゴインが疑問を口にする。


「私が最弱の魔帝であり、帝国の弱点だからだ。勢いで攻め込み、勝利したとしても、いずれ人族は帝国に挑んでくるだろう。その時、思いもよらない方法で私に攻撃を仕掛けてくるはずだ。今までも暗殺という手段は同じでも、やり方自体は毎回異なっていた。それに対処するためには敵のことを知らなければならないんだ」


 歴代の魔帝はすべて勇者に暗殺されている。そのことを理由にされ、ゴインも口を噤まざるを得なかった。

 ラントはアギーに視線を向けた。


「諜報活動は当面の間、私の直属とするが、将来的にはアギーに任せたいと思っている。アギーは引き継がれるまで私の傍でやり方を覚えてほしい」


「陛下のお傍で……」とアギーは一瞬恍惚とした表情を浮かべるが、すぐにいつもの妖艶な表情に変える。


「承りましたわ。陛下のご期待に沿えるよう努めさせていただきます」


 そして、エンシェントエルフの長、護樹女王エスクに勝ち誇ったような視線を送る。

 エスクはその視線に気づくが、表情を変えることなくラントを見つめていた。


「諜報活動については以上だ。もちろん、今後計画の変更は必要だろうが、それは都度修正していく」


 ラントはそう言うと、エスクに視線を向けた。


「次は国内の体制強化についてだ。護樹女王エスク、君から説明してくれないか」


 その言葉に他の七人が驚きの表情を見せた。事前に彼女とだけ打ち合わせをしていたためだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 中継ポイントを作り、妖魔族複数人で転移リレーしたらもっと早く情報伝達できるのでは。
[一言] 操ったり魅了したり眷属に変えたり……便利だなあ。ただ、どの情報が大事なのか理解するための研修が必要な気がします。 まあ、諜報部は内側のスパイ対策が当面いらないのでまだ楽という……。
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