【八の扉⑧】098)初めてのダンジョン
「、、、無限回廊? 違うか、、、でもここは?」
私が飛び込んだ扉の先。そこは簡素な通路だった。苔むしているけれど、随分と整っている。
だけど無限回廊よりもずっと狭いし、壁も白くない汚れた灰色。通路は左右と正面の三方向に伸びていて、私が出てきた場所は少し広くなって部屋のような場所だった。
私に続いて入ってきたロビーさんが「これはこれは、、」と感心したような声を出す。
「知っている場所ですか?」
「ええ、知っているといえば知っているわ。随分と面白い場所を引いたものね」
次々と扉を潜ってくるみんなも、少し困惑気味に周囲を見渡していた。なんというか、今までの無限回廊の異世界に比べて、違和感がある。
その違和感の原因を探る前に、レジーが「帰還の扉、どこ?」と周囲を見渡した。その言葉に私もざっと目を走らせたけれど、見える範囲に帰還の扉は見つからない。
そんな様子を楽しそうに見ているロビーさん。
私は少し考えてから
「ロビーさん。知っているなら教えてください」と素直に聞く。
「私が試験官なのに、そんなこと聞いたら評価が下がると思わない?」
そう言われても私は動じない。シャロさんに取引を待ちかける前から私はずっと考えていた。私はシャロさんに足りないと思われていたもの。
それは、単に技術の問題ではないのだと思う。
「全く思わないです。ロビーさんは私たちの案内人で、この異世界のことを知っている。なら教えてもらうのが一番効率がいいです。その分冒険に回せますし。シャロさんは私の冒険者として実力が足りないと言っていました。それって、別になんでも自分でできるってことではないと思うんですよね。私は私の持ち味を生かすべきだし、生き残るためになんでも使うような心構えだと思ったんです。違いますか?」
そう、言い換えれば覚悟だ。私には決定的に足りなかったもの。これが正解でなければ、多分シャロさんだってテストしてくれはしなかったのではないかと思う。だって、技術は数日じゃどうしようもないから。
私の言葉を聞いたロビーさんはちょっとだけ目を見開いて
「なるほど、少しは考えてきたみたいね。いいわ。教えてあげる。ここは通称、レクタの迷宮と呼ばれていて、ずっと地下まで伸びているわ。確認されているのは全部で5階だけど、これはあくまで冒険者が踏れた場所という意味ね」
迷宮というのは初めてだ。というか、最初に感じた違和感の意味が分かった。今までの異世界に無かった物がここにあるからだ。すなわち、人工物である。
この迷宮は明らかに、少なくとも文化を持つ者の手で作られている。それが何者かはわからないけれど。
「ぼうっとしているけれど、話を続けてもいいかしら?」ロビーさんが私の顔を覗き込む。
「あ、すみません。続きをお願いします」
「帰還の扉は、このフロアの真下にあるわ。何階かは分からないけれど」
「すぐ下の階じゃないんですか?」
「少なくとも1度は地下5階で見つかった記録があるわね」
だから確認された最下層が5階なのか。
「各フロアは広いんですか?」
「1フロアの迷宮そのものは大きくないけれど、モンスターが出現するから、簡単ではないわね。私も過去に一度だけ来たけど、、、スライム系のモンスターに襲われて大変な目にあった思えがあるわね」
「モンスター、、、」
「別に珍しい事じゃないでしょ? あなたが連れているその狼も、私から見たら立派なモンスターよ?」
「それもそうですね」
私が納得していると、フラージュが私の前に歩み出た。レジーとジュニオールさん、それにダクウェルも戦闘体制をとり始めた。
「何かくるね」レジーが短く言った直後、通路の奥の方からうぞりと蠢くものが。
緑色のプルプルしたものが3方向から通路一杯に迫ってきていた。ロビーさんの言っていたスライムだ。
速度は遅いものの、通路に目一杯、もはやスライムっていうか壁じゃない!? って位みっしりとした状態で、避けて通れるレベルじゃない。
「あら、前に見た時よりも多いわね。触れると溶けるから気をつけてね」と、のんびり観察しながらアドバイスをくれるロビーさん。
「面倒だな〜、どうする、ニーアちゃん」レジーが顔を顰めるも、横から手を上げる人物が。
「ここは私の出番でしょう」と嬉しそうに前に出たのは放火魔、、、もとい、ダクウェルだ。
ダクウェルは嬉しそうに、本当に嬉しそうに指先から炎を生み出す。生み出された炎の球は丸く円を描いてゆき、完全に繋がったところで正面の通路からやってくるスライムに向かって放たれた!
ジュウウウウウウウウ
すこぶる嫌な音と、ほんの少し不快な香りが漂ってくるけれど、かなり効果的だったみたい。氷が溶けるみたいに、スライムはみるみる減って行く。
「すごいすごい!」私が素直に感心すると、ダクウェルは嬉しそうに次々と炎の輪を作り出しては正面左右に撃ち出し、その度に消滅してゆくスライム。
「これは、楽ですね」ジュニオールさんは完全にダクウェルに任せることに決めたらしく、持ってきた自前のカップにお茶を注いで休憩モードだ。ロビーさんといいやっぱり、歴戦の猛者は余裕があるなぁ。
それでもスライムの量は相当だったようで、ダクウェルが燃やし尽くすにはそれなりの時間がかかった。ダクウェルがいなければ、スライムの対応だけで一日、いや、数日かかかっていたかもしれない。
「全部片付いたみたいですね。さ、先に進みましょうか」
涼しげな表情で私たちを振り向いたダクウェルに、私は素直に感謝を伝えるのだった。




