【八の扉⑦】097)運がないと言われた娘。
シャロさんとの取引が成立した2日後、私たちは無限回廊前の広場にいた。
案内人はロビーさん。それに荷物持ちはラザ君にお願いした。
「ラザ君は少し久しぶりだね! ポルク君は元気?」
「うん。今日は留守番になったからがっかりしてた」ラザ君はどちらかといえば寡黙なタイプだ。ポルク君とカインの案内をしていた時も、ほとんど喋っていた記憶がない。なのでこれだけ喋ってくれただけでも、だいぶ心を許してくれた感がある。
「仕方ないでしょう? 本来はラザ君もあまり連れて行きたくないわ。全く、シャロも、それにあなたも、余計な面倒に巻き込んでくれたものね」
そのように言うのはロビーさんだ。
「すみません、、、」私は素直に頭を下げる。正直、ロビーさんはとばっちりもいいところだ。久しぶりに帰ってきてゆっくりしようとした矢先に、私のテストをするから手伝えと呼び出されたのだから。
「ま、いいわ。シャロが言い負かされるなんて久しぶりに見たもの。それだけでもお釣りが来るわね」
長い足にピチッとした黒いパンツと動きやすそうなジャケットを羽織ったロビーさん。かなりかっこいい。無限回廊よりもどこかのバーにでも出かけそうなほど、冒険者としては相当違和感があるけれど。
「ただし、依頼された以上は私は手を抜かない。正直、あなた達で攻略できるかは五分五分より低いと思うけれど、それでも本当にやるのかしら」
「はい。無理だと思ったら置いていかれても文句は言いません」
「一応言っとくけど、死にに行く人間を連れていく趣味はないわよ?」
「言葉が足りませんでした。自力で帰ってくるので、置いていってもらっても構いません。それでいいですか?」鼻息荒く詰め寄る私に、「はあ〜まあいいわ」と額に手を当てた。
「あ、よかった。間に合った」
意気込む私の前に現れたのはノリウスさんだ。
「あれ? 今日はノリウスさんが監視役ですか?」私が聞くと「そんなわけないでしょう」と呆れられる。
「あなた達を見送りに来たんですよ。今回の件、私も知らない話ではありませんから」
「それは、ありがとうございます」
「いえいえ、特に何かできるわけではありませんが、、、、これだけ目立っているので、できれば無事に帰ってきてくださいね」と言いながら周囲を見渡す。
そう、私たちは目立っている。今回はフィルさんも、ノンノンもトッポさんも参加しないし、シャロさんに「無理についていくやつが出ても困る」と言われて、この広場にもいないのにも関わらずだ。
ここにいるのは、ロビーさんとラザ君。そしてレジー。ダクウェルに私。そしてジュニオールさんと、、フラージュだ。そしてフラージュは私を背に乗せて楽しそうに尻尾を振っている。
周辺から漏れ聞こえるのは「あれが噂の、、、」とか、「聖女って、本当に?」とか「なんでもギルドと揉めて大暴れしたらしい、、、」とか、、、
最後のはなんだ? やっぱり既に変な噂が出回り始めているみたい。しかも好き勝手な感じで。これは確かにノリウスさんからちゃんとした話を回してもらった方が良さそうだ。
それはともかく、目立っているのは私のせいだ。ちなみにフラージュが帰ってきた時は、流石のシャロさんの表情も引き攣っていた。
「追い立てるようですみませんが、あまり騒ぎになると後が面倒なのでさっさと行っちゃってください」見送りに来たとは思えない、ノリウスさん発言に送り出されて、私の八度目の扉の挑戦は始まったのだった。
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「さて、無限回廊も久しぶりね」言いながらのんびりと通路を進んでゆくロビーさん。
ズンズンと奥へと進んでゆく。いつもなら私たちが一番最後に扉を選ぶのだけど、一緒に無限回廊へきた他のパーティーは、なにかと目立っている私達の様子に注目して動く様子がない。
いつもと違う流れになんとなく落ち着かない気持ちと、背後からの好奇心の視線を浴びながら、今まで入った事のあるあたりの扉はあっさりと通り過ぎる。
それからも立ち止まる様子もなく進むロビーさん。任せた手前口を挟むつもりはないけれど、どこまでゆくのだろう。
それにしても、無限回廊とはよく言ったものだ。後ろを振り返れば他のパーティの姿が小さくなってきた。それだけ歩いてもまだ先がある。
「せっかくだから、一番奥を見てからにしましょう」と、散歩にでも出かける足取りでズンズンと奥へ。
そんな私たちの後ろを慌てて付いてくる教会の職員が「紋章より先には立ち入らないでくださいね!」と言葉を投げてくる。
「大丈夫よ。分かっているから」振り向きもせずに答えるロビーさん。
どのくらい経っただろう。ずっと同じ風景なので、時間感覚がおかしくなる。10分ほどの気もするし、30分以上歩いた気もする。
「あ、見えてきたわね」ロビーさんの言葉に先を見れば、そこには異様な光景が広がっていた。
あるラインを境に、大理石のような艶のある白い通路が突然、真っ黒に変わっているのだ。そして黒く塗りつぶされた部分には、淡く光る扉が幾つか並んでいる。
「ここが無限回廊の最奥」
こんな場所に来るのは私だけではなかったようで、皆、息を呑んで黙っている。
「ちなみに、超一流、SS級なんて呼ばれるパーティーはその辺りの扉に挑戦するわ」と指差したのは、漆黒の場所から10ほど手前の扉。
「あなた達の知り合いだと、ゲオルゲガーなら国の依頼を受けてたまにこの辺まで来ていたわね」
「ロビーさんもこの辺りの扉に挑戦したことが?」私の質問に
「ま、その時のゲオルゲガーを案内したのは私だから。ジュニオールだって一応経験があるでしょ?」と返ってきた。私がジュニオールさんを見ると、穏やかに微笑みながら何も答えなかった。
「さて、じゃあ。ニーアさん。大体この辺から、扉、選んでもらえるかしら?」
「え?」
「え? じゃないわよ。そうね。SS級が挑む場所のあたり、10手前までの扉だったらどこでもいいわよ」
「ロビーさんが星読みで選ぶんじゃないんですか?」
「一応読んできたけどね、時間が足りなすぎるし、私としてはあなたがどの世界を選ぶかもテストの一環だと思うのよね」
「扉を選ぶことが?」
「ええ。あなたに冒険者としての”運”があるのかどうか」
「運ですか? 冒険に、そんな不確定なものを?」
「不確定かもしれないけれど、とても大切な素養よ。ここから先は冗談抜きで命を賭ける場所になるわ。運があるかないかは、同行する冒険者としてはとても重要なことよ。冒険者がカジノに出入りするのだって、運のいい奴と組みたいからよ」
、、、トラン、チーク、カディス君達の必勝法はあながち間違いではなかったのか。
「多少時間は掛かっても構わないわ。好きに選んでちょうだい」
ロビーさんが「さあ」と手を差し出すと、私は躊躇なく一つの扉の前に進む。
「あら? 随分とあっさりと決めるのね? そこでいいの?」
実は、この扉の前を通りかかったときに、なんだか妙に気になったのだ。前回選ぼうとした扉の雰囲気によく似ている。その時はポメルによって違う扉に挑むことになったけど。似たような感じだけど、その扉よりも気配が強い気がする。
「ここにします」
思い返せば、ウェザーからは一番最初に「運がない」と言われた。そんな私が運の良さで運命を決める事になるとは。
私は息を吐いて、祈りながら扉をくぐった。




