【八の扉⑤】094)取引その1
「おや、ジーノは帰ったのですか? せっかく昼食も用意したと言うのに」
ジーノさんが帰ってからしばらく時間を空けて、ジュニオールさんが戻ってきた。扉を開けてワゴンを引っ張ると、部屋の中に美味しそうな香りが充満する。
「ジュニオールさん、これ以上甘えるわけには、、、」
恐縮して断ろうとする私に、「もうここまで用意しているのに、食べないのでしたら無駄になってしまいますよ? ただでさえジーノもいたので多めに用意したのですが、遠慮するくらいならジーノの分も召し上がってください」とテキパキと支度を始める。
ジュニオールさんの言うことももっともなので、ここはしっかりご馳走になることにする。
私がジュニオールさんを手伝い始めると、「少し調子が出てきましたね」と言われた。それから2人でテーブルを囲んでお昼ご飯だ。たくさん食べよう。そして元気になったらシャロさんの説得に向かうのだ。
遠慮しないと決めた以上、パンをむしって、スープを飲んで、肉にかじりついた。そんな私を見ながらスープを飲んでいたジュニオールさんが口を開く。
「先ほどの話ですか、、、」
「はひ?」
もぐもぐしながらジュニオールさんを見た。なんの話だったっけ?
首を傾げる私にジュニオールさんは続ける。
「ニーアさんが持っているお金の話です」
「ああ!」
そういえばジュニオールさんが出て行く前にそんな事を言っていた。ジーノさんの独り言の印象が強過ぎて、頭からすっ飛んでいた。
「えーっと、先ほどお伝えしたようにお金は全く手をつけていませんが、それでどうするんですか? シャロさんてお金が好きなのでしょうか?」
そんなふうには見えなかったし、ジーノさんの話でもそんな感じではなかった。むしろお金には頓着するタイプではないと思う。
「いえ、ものは相談ですが、そのお金で私を雇いませんか?」
「はい?」
突然の申し出に、私はパンを持ったまま固まった。
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雨が上がるのを待ってギルドに戻ると、受付には誰もいなかった。ただ、奥の方で誰かが、というか、レジーが怒っている声が聞こえる。
私がジュニオールさんと奥へと進むと、事務所にはシャロさんとレジー、それにロブさん。フィルさん、ノンノン、ダクウェルがいた。ウェザーとトッポさんの姿がない。それにハルウにフラージュ、セルジュさんの姿も見当たらない。
と、ここでふと、そういえばフラージュやセルジュさんって昨晩から見た記憶がないなぁという思いが頭をよぎったけれど、すぐに、
「元ギルド長だかなんだか知らないけど、あんたじゃ話になんないよ! さっきから言ってるように、ウェザーを出しなよ!」と激昂するレジーの言葉が考えを吹き飛ばす。
「威勢のいい啖呵をはく女は嫌いじゃないが、アンタの言い分を聞いてやる義務はないね。ウェザーには会わせない。今は本人も会いたくないだろうね。アタシが気に入らないならギルドを辞めるなりなんなり好きにすればいい」
「、、、、っこのっ!」ダガーに手をかけようとするレジーをノンノンが止める。
「レジー、、、、どうしたの?」
私の言葉にハッと振り向くレジーの目は赤い。泣いたのだろうか。
「ニーア! どうしたもこうしたも無いでしょうが! こっちはニーアちゃんのことで怒っているって言うのに!」
「もしかして、、、私の事を聞いたの?」
「さっき、カジノ仲間からね。っていうかジュニオールが一緒なの? じゃあジュニオールが知らせたんじゃないの?」
私は後ろに立っているジュニオールさんを振り返ったけれど、ジュニオールさんは黙って微笑んでいるだけだ。
レジーもジュニオールが答えないとわかると、すぐに切り替える。
「問題はそこじゃ無いから、今はいいや。それよりもこの女だよ。ニーアちゃんの事、どう言うことか問い詰めたら役立たないから首にしたなんて、勝手なこと抜かしやがって! どんだけ偉いか知らないけど、ニーアちゃんの何を知ってるって言うんだ! しかも肝心な時にウェザーは自室に引きこもっているし。なんなんだよ!」
「レジー、、、、ありがとう。私のために。。。」
そう言いながら、私はレジーの肩に触れながら、シャロさんを見つめる。
「レジー、でももう大丈夫」
「何!? ニーアちゃん、言われっぱなしで諦めるつもり!?」
私は小さく首を振る。その間もシャロさんから視線を外さない。そんな私をシャロさんも黙って見つめていた。
「シャロさん。テストをしてください」私は言う。
「テスト? アンタの実力を見てくれってことか? 必要ないね」
「では、取引をしましょう」
「取引?」
「賭けるものは、私と、ギルドそのもの」
私の言葉を聞いたシャロさんは鼻であしらう
「はっ、何を言うかと思えば。アンタ一人の存在が、このギルドと同価値だとでも? 増長するもの大概にしな」
「それがそうとも言えないんですよ。多分、もうそろそろきてくれると思うんですが」
「何がだい? そう言えばアンタ、元はジーノに声をかけられたんだってね。ジーノに泣きついたかい? だが、残念だけどギルドを潰す権利はないよ」
睨み合う私とシャロさん。緊迫を破ったのはこの場にいた人間ではなかった。
「こんにちは〜、おーい? 誰かいないの?」
状況にそぐわぬ声を上げながら、恐る恐る事務所へ顔を出したのは教会の苦労人ことノリウスさん。
私の切り札の登場である。
ちょっと長くなり過ぎたので分割しました。




