【八の扉②】091)ニーア、路頭に迷う
「え? どう言う意味ですか?」
「聞いた通りさ。アンタ、今日でギルドをやめな。アンタがギルドに入った経緯は詳しく聞いた。借金は私が代わりに払っておいてやる。これでアンタがギルドにいる必要はないはずだ」
シャロさんは、私がここにいる盾にしようとした理由を簡単に覆してしまう。
「でも、、、」
「いいかい、ニーア。これはアンタのためでもあるし、ギルドみんなのためでもある」
「、、、どう言う事ですか?」
「アンタはこのギルドに来るまでただの素人だった、特別な訓練を受けたわけでもない。そして、ギフトも随分と不安定だと聞く」
「それはシャロさんの言う通りですが、それでも最近はそれなりに役に立てているんです!」
「それなりに、ね。普通の案内ギルドならそれでもいい。気長に頑張りゃ将来はそれなりの案内人になるかもね」
「それなら!」
「普通の案内ギルドなら、だ。これからウェザーは上級通行証を使って紋章の先の扉に挑む事になる。そこにアンタがついていったら、アンタか仲間が死ぬ」
「なんでそんなこと決めつけるんですか!? っていうか、なんでシャロさんが私の雇用について口を出すんですか!?」
「それは私がこのギルドのギルド長だからね」とシャロさんが言う。
「ギルド長はウェザーですよ?」
「昨日の夜、一度返してもらった。このギルドは元々はアタシの旦那が作ったもんだ。聞いていると思うが、アタシの旦那は今は行方不明。生きているか死んでいるかも解りゃしない。だから私が引き継いだ。それからあの子に預けたが、今は、私がギルド長さ」
「そんな横暴な! でも、それなら私は受付でもやりますから!」
「ダメだね、アンタは無限回廊から帰ってきた仲間が足りなくなっていても、笑顔で出迎えることはできるかい? まず、無理だね」
つまりそれは、仲間の誰かが無限回廊で死ぬ、と言うことか。
「みんなそんな簡単に死にません!」
私の反論は鼻であしらわれる。
「ま、他のやつは首にしない程度の腕と覚悟はあったが、それでもまだまだ未熟さ。今のままなら全員生きて帰って来れるのは五分五分ってところか?」
なんだか一方的に私の仲間を低く見積もられた気がして、私は少し腹が立ってきた。私のことは自分でも未熟だと思っているが、私の仲間は凄いのだ。
「シャロさんがどれだけ凄い案内人か知りませんが、私の仲間のことを何にも知らないのに、それは言い過ぎじゃないですか?」
「分かるね。何せ私は、この世界で最強と謳われたメンバーを知っている。そいつらは無限回廊の一番最深部に挑んだ。それだけの実力と、名声を持った精鋭だった。ウェザーもその一人さ」
「ウェザーが!?」あの見た目の若さで? 一体いつの話をしているのか。
「時にニーア、アンタ、今無限回廊の中で帰還記録が残る、一番深い場所はどこだか知っているかい? ちなみに言っておくと、紋章の先には左右に5つの扉がある」
確か、10年前の騒動の時、紋章の先に挑んだ何も知らないパーティーはすべて全滅したと言った。でも世界最強のパーティーなら、、、
「一番奥か、その1つか2つ手前、、、ですか?」
シャロさんは静かに首を振る。
「1つ目」
「1つ手前ですか?」
「いや、紋章の先、1つ目の扉に挑んで半分死んだ。残った奴らも満身創痍さ」
世界最強のパーティーでも1つ目で半壊。。。。言葉を失う私。
「これで分かってもらえたかい? さ、話は終わりだ。今日出て行けとは言わない。しばらく街にいたのなら、挨拶しておきたい顔見知りもいるだろう。一週間は部屋を自由に使っていい。それまでに準備しておくれ」
それだけ言うと、用は終わったとばかり部屋から放り出される。私はしばらく、部屋の前で呆然と立ち尽くした。
足取り重く1回へ降りると、フィルさんがひょっこり顔を出す。
「あら、どうしたの? そんな世界が終わったような顔をして。あ、そうだ、今日から一週間お休みをもらったんでしょ? シャロさんから聞いたわよ」
どうやらシャロさんは私の件をまだみんなに伝えていないみたいだ。首になったとわかればギルドにい辛いだろうから配慮してくれたのかもしれない。
「あ、、、、うん。。。ちょっと私、出かけてくるね、、、」
なんと言って良いか分からず、かといってその場にいるのも居た堪れず、私はあてもなくギルドを出た。
外はポツリポツリと雨が降り始めている。私の気持ちと同じ。
「挨拶しておく人たち、、、かぁ」思い返すと私の顔見知りというのはそれほど多くない。もちろん買い物でやり取りするような人たちはいるけれど、改めて別れの挨拶をするような間柄といえば数えるほどだ。
「別れの、挨拶って、、、」
突然のことで気持ちの整理が追いつかない。下を向くとちょっと泣きそうになる。だめだ。今泣いたら道で蹲ってしまいそうだ。
何も考えずに歩いていたら、飲み屋街に迷い込んだ。そうだ、万屋のザックさんには挨拶しておきたい。今生の別れかは分からないけれど、お世話になった人の一人だ。
もたもたとザックさんの店に辿り着くと、中には先客がいた。こちらに気づいて振り向いたその人には見覚えがある。カジノのオーナー、ジュニオールさんだ。
「おや、聖女のニーアさんではないですか? どうされたのですか?」カジノという怪しげな店を運営しているとは思えないほど、ジュニオールさんの物腰は柔らかい。いけないまた泣きそうになる。
「、、、実はですね、、、私、ギルドを辞めることになりまして、、それで、その、ザックさんに挨拶に、、、」
「なんと? 何かご事情が?」
「元のギルド長のシャロさんが、改めてギルド長に復職したんです。それで、私はもともと実力が足りないので、、、ので、、、」
そこまで言ったところで涙が溢れて止まらなくなった。
悔しい。悔しい。悔しい。
「シャロ? あの方が帰ってきたのですか? それにそんな事を?」訝しげにしながらも、私にそっと触れるジュニオールさん。
「とにかく、一度落ち着きましょう。ザックさん、先ほどの話はまた後ほど。さ、少し雨に濡れて体が冷えてらっしゃる。お茶を入れてあげるから私の店へ」
促されるままに泣きじゃくりながらジュニオールさんについてゆく私。するとジュニオールさんのカジノの前でまた顔見知りと出会った。
「ジュニオ、アンタのカジノは全然勝てないじゃないか! って、お? 珍しい組み合わせだね? なんだ、ニーア泣いてんのかい? 何があった?」
溢れる涙にぼやけた視界でも分かる。ジーノさんの姿だった。




