【一の扉⑧】008)開始で突然終わり!?
そこは、白くてまっすぐな場所だった。
無限回廊へと足を踏み入れた私。最初は薄暗くて少し細い通路をフィルさんの服の裾をつまんで進んだ。
5分も歩いただろうか。突然、明るくて広い場所に出て、私は明るさのギャップに目を細める。
ようやく目が慣れて来た私の視界に飛び込んで来たのが、白くて真っ直ぐな通路。いや、もはや道と言った方が正確な気がする。
横幅は私たちのパーティが、横に並んで手を広げて歩いても余裕があるほど。高さは普通の人より少し背が高いフィルさんが縦に3人くらいは収まりそうだ。
白く明るく光る壁の両側には、等間隔に無数に扉が並んでいる。扉自体は簡素な作りで、到底異世界に繋がっているとは思えない。
けれど、異様な扉の数がここは普通ではないと主張している。パッと見える範囲で20や30なんて数ではない。物語や人づてに聞いた通り、この扉の数こそが、ここが『無限回廊』と呼ばれる所以。
私が異様な風景に圧倒されているうちに、私たち以外のパーティは思い思いに扉を物色し始める。それを見て私は少し、焦る。
「ねえ、急がないと目的の場所の扉、取られちゃうんじゃ、、、」確か、一つの扉は1日1組しか使用できないと聞いた。焦る私に対して、ウェザーはのんびりしたものだ。
「うん、今日の星回りなら目当ての世界につながる扉はいくつかあるはずさ。焦らなくても大丈夫」そのように言いながら、右往左往する他のパーティを眺めている。私は半信半疑ではあるけれど、この場所ではウェザーを信じるしかないのだ。
「ついでに言えば僕らは肩身が狭いからね。同行者がよほどの実力者か、権力者じゃない限り最後に行った方がいいんだ」
「なんで?」
「後から”俺たちの入ろうとした扉を横取りした”なんて難癖つけて来る奴もいるからね」そういうウェザーの視線の先には、入り口で挨拶して来たカインという人がいるパーティの姿もあった。
こちらの視線に気づいたか、カインがちらりとこちらをみるも、それほど注意を払うこともなく奥の方へと歩いてゆく。
逆に私たちの近くでは「ここに挑みましょう。決して無理はしないこと、私たち案内人のいう事をよく聞くこと」などの説明を神妙な顔で聞き入っている、若いパーティもいる。
今回が初めての無限回廊なのかもしれない。一概には言えないが、無限回廊にはいくつかの法則性がある。その代表的な一つが「入り口に近いほど難易度は低く、その分レアな物が手に入る可能性も低い」というもの。
一般的には手前の方の扉で経験を積んで、かつ生き残ることができたパーティは徐々に奥の扉へ歩を進めるそうだ。
「では、扉を開けます」
若いパーティの緊張が移ったのか、私も生唾を飲み込んで扉を注視する。しかし、開いた扉の先は真っ暗だった。拍子抜けしたように口を開ける私。
すると若いパーティも同じ顔をしていたのだろう、案内人が少し笑って
「扉の先の風景は入ってみないと見ることができませんよ。また、小指の先でも”向こうの世界”に入ったら、必ずそのまま進んでください。途中で戻ることはできません。以前、首だけ突っ込んでジタバタとしていた冒険者がいましたが、戻ることは絶対できないので怪我するだけです。こんな場所に一生固まったままいるのは嫌でしょ?」
と、面白い事を言ったという風にクスクス笑うが、聞いてる方は全く笑えない。
「どうします? やめるならここが最後ですが」
案内人の問いに、リーダーらしき剣を背負った青年が「行く、、、行くぞ!」と気合を入れて飛び込み、それを見ていた案内人が「あ! まず私たち案内人から入ると先ほど行ったではないですか! 全く! ジオ、すまないが残りの客を連れて来てくれ、私は先に行く!」と言うなり扉の先へと消えて行った。
そのやり取りをハラハラしながら見ていた私は、「おい、そろそろ行くみたいだぞ?」と言うシグルの声で、慌ててウェザー達のあとをついてゆく。私たちの目指す扉も、通路の比較的手前の方だった。
全く同じような扉が並んでいるように見えていたが、扉に前に立ってよく見ると、ぼんやりといくつかの光が模様のようなものを作り、弱々しいがゆっくりと瞬いている。
「さてと、そこの新人パーティ君の案内人がいい感じで説明してくれていたから説明の手間が省けたけれど、ここから先は戻れない。やめるなら今の内だけど、どうする?」
私とシグルは顔を見合わせて力強く頷く。それを見たウェザーはニコリと笑って。
「それじゃあ、まずは僕とノンノン。そのあとにニーアとシグル、最後にフィルとハルウの順番で入るよ。どんな所に出るかわからないから、気だけは抜かないように」
それだけ言うと本人はまるで警戒せずに扉の向こうへ吸い込まれてゆく。続いてノンノン。そしてシグルと消えたあとは、いよいよ私の番だ。一瞬だけ躊躇して、目をつぶって思い切ってえいっと飛び込んだ!
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思い切って飛び込んだ扉の先で、私は不思議な浮遊感に包まれ、、、、いや、これ。落っこちてない? と恐る恐る目を開くと案の定、空の上!! 絶賛落下中!! 終わった、私!
いや、落ち着け。特殊能力を使わないと、ああでも他のみんなはどうなったの!? 自分だけ助かってもどうにもならないんじゃ!? 思考がまとまらずうまく集中ができない。ワタワタしているうちにぐんぐんと落下速度は早くなり、黄色い大地が徐々に迫って来る!
「もうだめ!!」
思わず叫んで目をぎゅっとつぶった瞬間、私の体は何か柔らかいものに当たって、ボヨンと跳ねる
「!?」
何が起きているかわからないうちに、ボヨン、ポヨン、と跳ねながらクルクルと回転。最終的に柔らかい砂の上にベシャッと着地? した。
「いたたた、、、、何だったの、、、、今の?」
空を眺めるも何もない。けれどハルウを連れたフィルさんが同じようにポヨンポヨンと跳ねながら降りて来るのが見え、跳ねたところに目を凝らす。よくよく見れば、空には半透明な生き物? が、ふよふよと漂っている。
「なにあれ…」私が口をあんぐりと開いたまま、ゆらゆらしている半透明なものを見つめていると「おい、かなり間抜けな顔しているが、大丈夫か?」後ろから心配してシグルが声をかけてくれるた。間抜けな顔は余計だ。
「う、、うん。シグルも大丈夫?」
「ああ、でも何だったんだ、あれ?」シグルも並んで、跳ねながらゆっくり降りて来るフィルさんを呆れたように見つめている。
私たちに見守られながら最後は綺麗に着地したフィルさんを待って、ウェザーが口を開いた。
「うん。ニーア、確かに君たちは割と運がいいかもしれないね。一回で当たりを引いたみたいだ」
「ここが、当たり、、、、って、周り、砂しかないけれど?」
先ほど上空から嫌という程見せつけられた大地は、砂に覆われた砂漠地帯。とても草木が繁る環境ではないように見える。せいぜい目につくのは、視線の少し先に、扉がポツンと立っているくらい。
「ああ、大当たりさ。時にニーア、異世界の植物が僕らの街であまり出回らない理由は聞いたかい?」
「うん。フィルさんから。枯れてしまうものや、なくなってしまうものは、余程でないと商品価値が低いから、持って帰って来る人がが少ないって、、、、」
「その通りだよ。では、なぜ、君の住む教会にはセレイアの木があったのだと思う、、、」
「なぜって、、、、あ、そうか。もしかして、他に持って帰って来れるものが無かったから、、、、?」
「ご名答」
ウェザーが嬉しそうに手に持った本を指差す。
そこには砂漠と、水辺と、光る木が描かれていた。
「危険な夜の砂漠で旅人に救いの手を差し伸べる、陸上の灯台。それが本来のセレイアの木なんだ」




