【幕間6-2】088)隣の森の話
私たちのギルドは、ブレンザッドの街の隅っこにあり、ギルドの横はもう森しかない。
この森はチュグレの森という。ブレンザッドの街が興る前は、無限回廊のある山を中心にして広大なチュグレの森が広がっていた。
無限回廊が発見されてその有用性が注目を浴びると、教会ができて、村ができた。それから呆れるほどの速さで巨大化を進めて現在に至る。
元々あった広大な森の三分の一を開拓して街にしたというのだから恐れ入る。
逆に言えば三分の二はまだ森ということ。チュグレの森には色々な生き物が生息している。だからこそノンノンたちが日々獲物を獲ってきても、森にはさしたる影響はないらしい。
また、これだけの規模の森にも関わらず、森の資源を生業にする人が少ないのも大きな特徴だ。世界有数の観光街であるブレンザッドならではの理由、大半の人間の生活が、街に訪れる人々相手の商売で生活が成り立つのだ。
さらに言えばこの辺りは冬でもそれほど寒くはない。ということで薪の需要は料理屋などの限られた相手という事情もあり、かくしてチュグレの森は今日も、街の喧騒とは無縁の空間を形成していた。
とはいえ全く人がいないわけではない。少ないけれど、木こりや炭焼き職人、猟師もいる。さらには無限回廊で夢破れ、故郷に帰ることもできないような、脛に傷を持つ冒険者崩れがねぐらにしていることもあるので注意は必要だ。
冒険者崩れは街で窃盗などを行なって森へと逃げるので、年に一回、冒険者ギルドの音頭でゴロツキ狩りが行われている。毎年それなりの人数が捕まるというのに、森の中からならず者が減ることはない。
ノンノンとフラージュが狩に行くというので、お仕事がお休みの私は、見学についてゆくことにした。ポメルとトッポさんも一緒。
無事(?)に教会から追放されたポメルは、私たちと同じようにギルドで寝泊まりしている。変化の術があるので、別人に化ければ誰にも気づかれることはないはずだけど、そうすることはなく部屋に引きこもりがちだ。
実は変化の術は同じ姿の方が、そのままの状態を保ちやすいらしい。慣れぬ姿はびっくりすることがあったりすると、一部変化が解けてしまったりするそうだ。そんな危険を冒してまで街に出かけるつもりはないと言う。
それでも毎日引きこもっているのは良いことではないので、私が森へと誘ったのだ。森であれば何かあって変化の術が解けてしまっても見られる心配は少ないし、そもそも人がいないので気分が楽だと思う。
フラージュも森の方が落ち着くようで、街よりも森へと行きたがる。
正直その方が助かるのだけど。フラージュが街に行く場合は私も必ず同行するようにとノリウスさんからお願いというか、懇願されている。
フラージュは私を背に乗せたがるので、街だと大変なのだ。その点森では気軽に乗ることができる。私も楽ちんで助かる。
「ニーア、自分であるかないとなまるよ。さいきんおなかが、、、って言ってたろ?」
「ぐっ」ノンノンの的確な指摘にフラージュから落っこちそうになる。七つ目の扉から帰還してからしばらく右足を怪我していた私は、受付業務以外はソファでダラダラと、フィルさんの作ってくれるお菓子を食べる生活を送っていた。いわゆる食っちゃ寝状態だ。
足首はもう大丈夫なのだけど、少々お腹周りが、、ね。
「フラージュ。やっぱり私、歩くね」そのように伝えるとフラージュは伏せて私を下ろしてくれる。本当に賢い。
なんだかんだで結構な距離を歩いてきた。もう街の音は聞こえない。
フラージュがピクリと反応。ノンノンが手で合図すると、音もなく姿が消えた。
少ししてガサガサと音が鳴ると、獲物がこちらへ飛び出してくる。それをノンノンが弱い電撃で射抜くと、獲物は痺れて動けなくなった。これで完了。鮮やかなものだ。
「凄いね〜」私がその連携の良さに感心すると、ノンノンがふんすと自慢げに槍を掲げた。
「おお、穴兎か。単に焼いて塩で食べるものいいが、スーデルキノコをベースにしたソースをかければ絶品だ。せっかくだからスーデルキノコも取っていこう。ノンノンたちは人数分、もう何羽か狩れるか?」とはロブさん。
「まかせておけ!」と言うノンノンとフラージュはさらに森の奥へ。私たちはこの近辺でスーデルキノコと言うキノコを探すことになった。
スーデルキノコは白くて拳大の丸いキノコだとロブさんが教えてくれる。
「木の根っこあたりに連なるように生えている。見つけたら呼んでくれ。似た毒キノコはないが、キノコはきちんと確認しないと危ないからな」
異世界で自ら幻覚キノコを口にしたとは思えない人の言葉だ。
ともあれキノコを探す。「あまり遠くに行かないように」と注意を受けていたので、なるべく近くで探すつもり。
黙々と地面を眺めていると、ふと気になるものを見つけた。木の実が等間隔で点々と落ちているのだ。何かの目印だろうか?
気になってなんとなく木の実を辿ってみる。
、、、、、、、、、、
、、、、、、
あれ? 木の実を見ていたら随分と歩いてきてしまった気がする。振り返ればロブさんやポメルの姿が見えない。しまった、夢中になりすぎた。
急ぎきた道を戻ろうとしたところで、「ぎぎ〜」っと音がして私は音の方向を振り返る。向こうのほうに、少し傾いた小屋があった。反射的に頭をよぎったのは冒険者崩れの棲家だ。急いで戻った方がいいかもしれない。
そう思っていると、扉の奥から人影がちらついた。先ほどの音は扉が開く音だったのだ。
反射的に身を隠して様子を伺うと、、、、あれ? 誰も出てこない?
首を傾げながらも、そのまましばらく様子を見ていると
「何をしているの?」と後ろから声をかけられて飛び上がる。
振り返った先、私の足元には、滅多に外で見かけることのないギルドメンバーの双子の一人、モニーがニコニコしながら立っていた。




