【七の扉閉】086)今回の落とし所とノリウスさんが大変そうな話
「なぁ、話があるなら教会の中で良かったんじゃないか?」
「それだとフィルさんやトッポさん、ノンノンが入れないだろ? それとも外で待ってろっての?」
「うぐ、べ、別に教会は迷い人の出入りを禁止しているわけじゃないぞ」
「3人が不快な思いをしない保証はあるのかい?」
「ぐ、、、ない。。。それなら俺だけ後で、、、」
「諦めなよ。今回の件は少なからず教会も無関係じゃないんだから」
「いやでも、ほら、俺仕事の途中だったから、、、」
「これも仕事だろ?」
割と話のわかる教会の中間管理職の人ことノリウスさんとウェザーが、私の後ろでずっとコソコソと話している。なんとかしてこの場を離れようとするノリウスさんと、意地でも同行させようとするウェザーの攻防だ。
原因は私である。と言うか私が乗っている狼である。異世界で見た個体の中では小さかったとはいえ、体躯は私の体より一回り以上大きい。こんな大きさの狼は少なくともブレンザッドの周辺にはいない。
つまり凄まじく目立っているのだ。普段から目立つフィルさんたちと行動を共にしているので、比較的他人の無遠慮な視線には慣れているつもりだったけれど、今日の注目度は比にならない。それが全て私と私の乗っている狼に注がれているのだから余計である。
ノリウスさんが逃げたい気持ちは分かる。
さらに、遠巻きに見つめる人の中からたまに知り合いが声をかけてくる。それに対してダクウェルが嬉々として「ブレンザッドの聖女が従えた異世界の狼だ」と説明してくれるので、私としてはもはや絶望的な気分で晒し者になっている。
ブレンザッドの市民と観光客にひとしきり話題を供給したところで、ようやく大通りを離れて少し落ち着く。
「名前、なんにするの?」大通りでは何気に少し離れて歩いていたレジーが近寄ってきた。
「え、でも名前なんかつけたら愛着湧いちゃうよ?」
「何言ってんの、そんなに懐いているし、異世界から連れてきちゃった以上簡単には帰せないよ。帰しても離れないだろうし。ニーアが飼うしかないじゃん」
「、、、、それもそうだけど、、、」とウェザーに視線を移す。これだけ大きな狼を勝手に飼う訳にはいかない。
「ま、仕方ないよね。その件もちょっと教会を利用、、、手伝ってもらうことにするよ」
「おいウェザー、今普通に利用するって言ったろ? 勘弁してくれよ、、、」
「ノリウス、これはあくまでオマケみたいなものだよ」とノリウスさんを脅す。
「あ、そうだ! トラン君、ごめんね。異世界からのお土産持ってこれなかったでしょ?」私がトラン君に声をかけると首を振る。この狼が私についてきたと言うことは、異世界からは他に何も持ち込めなかったはずだ。
「いや、いいよ。土産話としてはこっちのが凄いから」
「そう? それならいいけど、、、」
そんな会話をしているうちに、我がギルドが見えてきた。一週間ほどの不在だったけれど、もっと長く留守にしていた気がする。やっぱり我が家が一番だなぁ。
「お、帰ってきたか、、ぬお!?」
「トラン! ってうわぁっ!!」
ギルドを守ってくれていたロブさんや、トラン君のパーティーメンバーのチーク君、カディス君が狼に驚いて仰け反った。ロブさんの驚いた顔というのも中々にレアだ。
ハルウは狼の周りを回って、様子を探っている。狼の方はそんなハルウに興味津々で匂いを嗅いでいた。念の為「食べちゃダメだよ」と注意しておく。
「ただいま〜ロブさん」入口まできたところで、ついたから大丈夫、ありがとうと狼に伝えると、伏せをして私を下ろしてくれた。やっぱりある程度言葉の意味を理解しているっぽい。
すぐにでも休みたいところだけど、そうも言っていられない。まだポメルのこと、何も解決していないのだ。まずはノリウスさんとの話を優先。
とはいえ全員揃っている必要はないので、当事者である私とポメル。それにウェザーとノリウスさん以外はそれぞれ片付けに回る。
トラン君たちは別の部屋で、トラン君の体験した話をすると言って階段を上がっていった。しばらくギルドで寝泊まりしていたらしい。
狼はソファの後ろで寝そべって、ハルウとセルジュさんの相手をしている。
「さてと、それじゃあ早速本題に入ろう。仕事中っていうのは言い訳じゃないんだよ。なるべく早めに仕事に戻りたい。あ、でもその前に」と私の方を向く。
「この度は教会の関係者がご迷惑をおかけしました。ポメルのやったことは本来許されない行為だ。無事に帰ってきてくれて本当に良かった」と頭を下げた。それからゆっくりとポメルへ視線を向ける。その視線は厳しいものだ。
「ポメル、これから事情を聞いての話にはなるが、今回の件決して甘い裁定は出ないと思っておいてくれ。ロデオル様からはなんとか減刑をという話が出ているが、教会の信頼を失墜させかねない行為。とても看過できるものではない」
「、、、はい」俯いたまま言葉少なに返事をするポメル。
「あ、それなんだけどね」とウェザーが口を開き、ノリウスさんは視線をウェザーへと移す。
「その娘さぁ、うちのギルドで引き取るから」
ノリウスさんが固まった。
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「いやいやウェザー、話が見えないがそれはできない。教会も他の者に示しをつけなくちゃいけない」一瞬思考停止したけれど、即座に拒否するノリウスさん。
「そうかな? 教会にも悪い話じゃないけれど?」
「どういうことだい?」
「つまりね、教会からこの娘を追放してもらう。今後教会の支援は得られないような厳しい裁定でいいよ。で、破門した上でうちで引き取る」
「なぜそんなことをする?」
「うちの聖女様の希望でね。それと、そこの狼が安全であることと、聖女の従僕であることを喧伝してもらう。代わりにこの件でこれ以上ウチから何か要求することはない」
「ちょっと待って、私としてはこれ以上、その聖女っていうの広めてほしくないんだけど、、、」
私が抗議するも、2人とも微妙な顔をする。
「それが一番わかりやすい落とし所だから諦めなよ」
「ウェザーのいう通り。使えるものは使った方がいいです。あれだけ目立っておいて何を今更、、、」とノリウスさんからは呆れられた。うう、それでも嫌なんだけど、、、でもこの子(狼)の話が通りやすいのなら、、、けどなぁ。
私が葛藤している間に、ウェザーが今回の経緯を話し始める。戻ってくる道中で私たちが話した内容を分かりやすく整頓してくれていた。
それに、ポメルが迷い人であることは隠して説明してくれる。ポメルの動機はロデオルへの忠誠と、自分の出世を私に妨げられた逆恨みということになった。
あながち嘘ではないので、ノリウスさんも疑うことはない。
同じく道中でウェザーから聞いたのだけど、ポメルが私を突き飛ばしたのは他の監視係も見ていたし、トランたち第三者の目もあったので、揉み消すようなことはできなかった。
そうなると教会としては非常にまずい立場になる。金をとった上管理している教会の関係者が、冒険者に対して危険行為を行ったのだ。仮に私たちが帰ってこれず、ウェザーたちが騒げば世間も黙っていない。
そこで教会はウェザーに泣きついた「費用も出すから救出してほしい」と。被害者が出なければ風当たりも大分違う。
こうして教会はウェザーに大きな借りを作ったのである。それをポメルの追放(形だけ)と、連れてきた狼が安全だと広める役割を担えばチャラにするというのである。
一通りここまでの経緯を聞いたノリウスさんは、深く、深くため息をついた。
「正直にいえばもうニーアさんには無限回廊に挑んでほしくないですよ〜、こんな短期間によくもまぁ次から次へと、、、」
そこは私にも言い分はある。そもそもいずれも私は巻き込まれた側であって、こちらから望んでやらかしているわけではない。
そのように抗議すると「分かってます、、、分かってはいます」と、肩を落としながらつぶやく。まぁ、多少は迷惑をかけている認識はあるので、申し訳なくは思っています。
それからしばらく腕を組んで天を仰いでいたノリウスさん。
「はあ、受けるしかないよなぁ、、、」
ポメルには悪いけど、教会にとってはそれほど重要な人材ではない。教会としても騒ぎになって幹部連中が責任を取るケースが一番困るので、落とし所としては歓迎したいところなのだろう。
「ただ、ポメルは辛いことになるぞ。追放となれば今後は教会の支援を得にくくなる。教会に残れば当面は辛い立場にはなるけれど、医療などの最低限の支援はされる。いいのか、ポメル?」
ノリウスさんがポメルに聞くも、ポメルの返答は決まっている。彼女はこの世界の者ではない。どのみちこの世界で生きるつもりはないのだから、支援など望んではないない。
彼女の望みはーーーーー
彼女の意思を確認したノリウスさんは今度こそ覚悟を決めた顔で
「分かった。手配しよう」と言った。
このノリウスさんの一言で、私の七つ目の扉の冒険は幕を下ろしたのだった。




